神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
11 / 139
第一章『ハンター・ルナル』

ギルド会議

しおりを挟む
 入口の扉が開いて、たくさんのハンターが入ってくる。
 鎧兜で全身を包んだ者、筋骨隆々な者、ローブを身にまとった魔術師、目も眩むほどに妖麗な者など、その姿は多種多様で、アルファガドの人材の豊富さを物語っている。
「よっ、久しぶりだな、お前ら」
 そのハンターたちにマスターが気さくに声を掛けると、
「お久しぶりでございますな。マスターも相変わらずお変わりがないようで」
 その中の一人がマスターに挨拶を返してきた。
「お久しぶりですね、スードさん、みなさん」
 マスターに挨拶を返してきた人物に、ルナルは名前を呼んで挨拶をする。
「おお、ルナルじゃないか。久しぶりだな。いろんな噂が聞こえてくるが、大活躍らしいじゃないか」
「いやはや、どんな噂が出ているのですかね……」
 スードからの返しに、ルナルは苦笑いをしている。そして、拠点に入って来た面々を見回している。
「それにしても、アルファガドのほぼ全員がこうやって揃うなんて、まずありえないんじゃないですか?」
 そう、拠点で酒を煽っている者も今しがた入ってきた者も、この場に居るほとんどがアルファガド所属のハンターである。こうやって見てみると、かなりの大所帯だという事が分かる。一応酒場として一般開放しているので、場に居るほとんどがというわけである。
「がーっはっはっはっはっ! ルナルが依頼を終えて戻ってくる頃だと思って、俺が招集をかけておいたんだ。どうだ見事なタイミングだろう?」
 自慢げに大声で笑うマスターの姿に、ルナルは本気で引いて黙り込んでいる。
 それもそうだろう。ベティスからペンタホーンの出没場所までは徒歩で4日ほどの距離だ。歩いて往復すればそれだけで8日間掛かる。だというのに、今日はまだ5日目だ。まさかこの男、ペンタホーンに乗って戻ってくる事を読んでいたのだろうか。その怪しさだからこそ、ルナルはドン引きしているのである。
 その横でスードがアカーシャに声を掛けている。
「アカーシャが居るとは珍しいな。今日ははどうしたんだ?」
「失礼な。あたしはルナル様の補佐なんだ。一緒に居て何か問題でも?」
 アカーシャは睨むよう冷めた視線を向けながら、スードへ言葉を返す。
 実はこのアカーシャ、こういう態度と容姿が相まって、一部の男性陣から人気らしく、今もまさに数名の男性ハンターたちがハートを射抜かれていた。
「はあ……、とりあえず座って話をしませんかね。一応ここにはギルド以外の人間も出入りするわけですし、立っていたら邪魔になります」
「まぁそうだな。適当に席に着くとしようか」
 状況をスルーしてため息を吐きながら着席を促してくるルナルの言葉に、アルファガドのハンターたちは素直に従っていた。それに伴って、カウンターとその辺りのテーブル席は、アルファガドのメンバーによって占拠された。
 やがて、酒や料理を囲みながら、ハンターたちは盛り上がり始めた。
「それにしても、最近は魔物とかの討伐依頼が増えたよな」
「ああ、魔王の言葉の影響で、魔族どもが勢いづいているからな」
「そうね。あれ以降、活動範囲や規模が以前とまったく比べ物にならないくらい広くなったわ」
 話で出てくるのは、やはり魔族に関する事ばかりである。
「しかしよう、肝心の魔王の情報はまったくねえよなぁ。お前らはどうだ?」
 その中で、一人が口にしたこの言葉。これに対するみんなの反応は同じ。ただただ首を横に振るだけだった。
 これだけ魔族が活発に動いているというのに、そこには一切魔王の関与が認められない。それがゆえに、皆が違和感を持っているのである。魔族というのは魔王の手下じゃなかったのかと。
「本当に、魔王の事に限って言えば、一切何も聞こえてこないな」
 スードがこう言うと、
「ルナルはどう思うよ?
 マスターがどういうわけか、ルナルに対して話題を振ってきた。急に話を振られて、ルナルは慌てている。
「ささ、さあ? 本格的な侵攻に備えて、準備でもしてるんじゃないですかね?」
 ルナル自身も情報を持っていないようで、適当に答えている。
「そういや、魔物といえば、外にペンタホーンが居たな。噂で聞いた通りめちゃくちゃおとなしいんだけど、あれ、誰が連れてきたんだ?」
 そんな最中、突如としてペンタホーンの話題が出る。
「あっ、それは私たちですね」
「えっ、ルナルたちのだったのか、あれって」
「おう、そうだぞ。ルナルたちはガンヌ街道に出ていたペンタホーンたちを見事落ち着かせる事に成功したんだよ」
 ペンタホーンの話題で話をしている最中、マスターが要らない口を挟み込んできた。ルナルが余計な事をしないでと言わんばかりに額を手で押さえている。
「ほう、あのみんなが諦めた依頼を……か」
 スードが顎を触りながらルナルを見ている。
「はい。今回の事で分かった事なのですが、どうやら魔眼石が使われていたようなのです。外に居るペンタホーンは魔眼石によって凶暴に変えられていたようなのです」
「魔眼石とな? また厄介なものを持ち出してきたものだな……。実物は?」
「ソルトに持たせて、現在分析中です。何にしても、この一件に関しては強力な魔族が背後に居る事は間違いなさそうです」
 あまりの事態に、さっきまでのお祭り騒ぎのような状況が一気に静まり返る。そのくらいに魔眼石というのは厄介な代物なのだ。
 今普通に存在している魔物でも、一介のハンターからしてみれば厄介な相手だ。それだというのに魔眼石のような魔法石まで持ち出されたとなると、厳しい戦いを強いられる事が想像に難くないのだ。
 空気が重くなって沈黙が続く中、一人のハンターがある事に気が付いて空気を変えようとする。
「ねえ、ルナル。あなたの隣の坊やは一体何者なんだい?」
 そう、ルナルの横で突っ伏したままのセインだった。
「そういや、なんか居るなとは思ったんだが、確かに誰なんだ、そいつは?」
 釣られるようにして話題がセインへと向いていく。
「ああ、この彼ですか? 彼は今回の依頼に出向く最中にたまたま出会った青年で、セインといいます。なんでもハンターを志しているそうで、資質無しなのですが、心意気を買って私が面倒を見る事にしたんですよ。ちなみに今回ペンタホーンを無事に捕獲できたのは、彼のおかげなんですよ」
「へえ。そいつはすごいね」
 ハンターたちから一斉に視線を浴びせられるセインだが、いまだに疲労で動けないでいる。
「ふーむ、ルナルが面倒を見るなら、資質無しだとしてもそこそこ鍛えられそうだな」
「しかし、肝心のマスターがどう見るやら……」
 どうやらルナルの行動を咎める者は居ないようで、すべてはギルドのマスターたるマスターに委ねられる。
「おう、ルナルが面倒見るっていう奴だ。俺は興味があるから入隊は認めるぞ」
「そうか、マスターがそう言うなら、あたいらに反対する理由はないね」
「まあ、そうだな」
 というわけで、マスターの一声でセインのアルファガドへの所属が決まったのだった。ただ、本人は疲れと眠気でそれどころではなかった。
「って事だ。新しい仲間の歓迎をしようじゃないか。俺のおごりだ、じゃんじゃん飲んでくれ!」
「おおーっ!」
 そんな事はどこ吹く風。マスターの一声で宴会が開かれてしまうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

落第錬金術師の工房経営~とりあえず、邪魔するものは爆破します~

みなかみしょう
ファンタジー
錬金術師イルマは最上級の階級である特級錬金術師の試験に落第した。 それも、誰もが受かるはずの『属性判定の試験』に落ちるという形で。 失意の彼女は師匠からすすめられ、地方都市で工房経営をすることに。 目標としていた特級錬金術師への道を断たれ、失意のイルマ。 そんな彼女はふと気づく「もう開き直って好き放題しちゃっていいんじゃない?」 できることに制限があると言っても一級錬金術師の彼女はかなりの腕前。 悪くない生活ができるはず。 むしろ、肩身の狭い研究員生活よりいいかもしれない。 なにより、父も言っていた。 「筋肉と、健康と、錬金術があれば無敵だ」と。 志新たに、生活環境を整えるため、錬金術の仕事を始めるイルマ。 その最中で発覚する彼女の隠れた才能「全属性」。 希少な才能を有していたことを知り、俄然意気込んで仕事を始める。 採取に町からの依頼、魔獣退治。 そして出会う、魔法使いやちょっとアレな人々。 イルマは持ち前の錬金術と新たな力を組み合わせ、着実に評判と実力を高めていく。 これは、一人の少女が錬金術師として、居場所を見つけるまでの物語。

書道が『神級』に昇格!?女神の失敗で異世界転移して竜皇女と商売してたら勇者!聖女!魔王!「次々と現れるので対応してたら世界を救ってました」

銀塊 メウ
ファンタジー
書道が大好き(強制)なごくごく普通の 一般高校生真田蒼字、しかし実際は家の 関係で、幽霊や妖怪を倒す陰陽師的な仕事 を裏でしていた。ある日のこと学校を 出たら目の前は薄暗い檻の中なんじゃ こりゃーと思っていると、女神(駄)が 現れ異世界に転移されていた。魔王を 倒してほしんですか?いえ違います。 失敗しちゃった。テヘ!ふざけんな! さっさと元の世界に帰せ‼ これは運悪く異世界に飛ばされた青年が 仲間のリル、レイチェルと楽しくほのぼの と商売をして暮らしているところで、 様々な事件に巻き込まれながらも、この 世界に来て手に入れたスキル『書道神級』 の力で無双し敵をバッタバッタと倒し 解決していく中で、魔王と勇者達の戦いに 巻き込まれ時にはカッコよく(モテる)、 時には面白く敵を倒して(笑える)いつの 間にか世界を救う話です。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

嫌味なエリート治癒師は森の中で追放を宣言されて仲間に殺されかけるがギフト【痛いの痛いの飛んでいけぇ〜】には意外な使い方があり

竹井ゴールド
ファンタジー
 森の中で突然、仲間に追放だと言われた治癒師は更に、 「追放出来ないなら死んだと報告するまでだ、へっへっへっ」  と殺されそうになる。  だが、【痛いの痛いの飛んでけぇ〜】には【無詠唱】、【怪我移植(移植後は自然回復のみ)】、【発動予約】等々の能力があり······· 【2023/1/3、出版申請、2023/2/3、慰めメール】

私、異世界で魔族になりました!〜恋愛嫌いなのに、どうしろと?〜

星宮歌
恋愛
 男なんて、ロクなものじゃない。  いや、そもそも、恋愛なんてお断り。  そんなことにうつつを抜かして、生活が脅かされるなんて、もう御免よ!  そう、思っていたのに……魔族?  愛に生きる種族?  片翼至上主義って、何よっ!!  恋愛なんて、絶対に嫌だと主張してきた異世界転生を遂げた彼女は、この地で、ようやく愛されることを知る……。 新片翼シリーズ、第二弾! 今回は、サブタイトルもつけてみました(笑) それでは、どうぞ!

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...