神槍のルナル

未羊

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第一章『ハンター・ルナル』

魔眼石

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 バリバリバリ……ッ!!

 ペンタホーンから放たれた電撃が、轟音とともに地面に着弾する。土煙が晴れると、そこに大きく抉れた地面の惨状が広がっていた。
 ルナルは間一髪その電撃を躱していたが、まともに食らっていればおそらく消し炭となっていただろう。とても特殊能力を持たない魔物とは思えないほどの破壊力である。この破壊力には、さすがのルナルも肝を冷やしたのか冷や汗をかいていた。
「な、なんなんだよ、あれ……。あれが本当にペンタホーンなのか?」
 ルナルたちが戦う場所から離れた街道近くの森の木陰から、セインは戦いの様子を見守っていた。一緒に戦いと思っていたセインだが、あの攻撃を見た瞬間に顔が青ざめた。ルナルに危険だからと隠れているように言われたのだが、その判断は間違っていなかったのだ。おそらくセインなら、最初にやられた用心棒のように、一瞬で血を流して地べたに這いつくばる事になっていただろう。
 ところが、その戦いの様子を見ていたセインは、とある違和感を感じた。
「なんだろう。あのペンタホーン、なんだか苦しそうにしてないか?」
 確かに、電撃を放った後のペンタホーンの様子がおかしかった。頭を下げて激しく左右に振っている。その行動は明らかに異常だし、遠目から見ているセインですらひと目で分かるくらいだった。
(電撃を放った直後のあの動きは、まぎれもなく苦しんでいる様子。……やはり、何者かに過剰な力を与えられた上に無理やり動かされているようですね。このままではまずいですし、早く原因を突き止めないと……)
 ペンタホーンの明らかな異常に、ルナルは焦りを覚える。
 首を振っていたペンタホーンだったが、やがて体が痙攣を起こしてふらつき始めていた。体が限界を迎えつつあるのだろう。
 このままペンタホーンが死ねば街道の安全は確保される。だが、この状態では別の危険性があったのだ。
 ただ死ぬだけならいい。だが、過剰な魔力が暴走していた場合は話が別だ。体からあふれ出る魔力が死んだ体からあふれ出し、やがて大爆発を起こす。魔力爆発という現象だ。あふれ出た魔力によって周囲に及ぶ影響は変わってくるし、そもそもその場所の魔力濃度が跳ね上がる。こうなってしまっては、ガンヌ街道には別の危険性が残り続けてしまう事になってしまうのだ。
(まったく、これを仕掛けた奴は、ずいぶんと悪趣味なようですね!)
 ルナルは最悪の事態を回避するために、どうするか必死に考える。
 だが、ルナルが無防備になったその瞬間だった。
 バリバリバリっと、思わぬ方向から棒立ちになっているルナルに対して電撃が飛んできたのだ。
 しかし、ルナルはこれに素早く反応して華麗に躱す。そして、電撃の飛んできた方を見れば、そこにはペンタホーンの別固体が立っていた。
「ああ、そういえば全部で三体居るんでっしたっけね」
 ルナルは目の前の異常のせいで、すっかり数の事を失念していたのである。
 ところがだ。ルナルが失念していたのはこれだけではなかった。問題は新手のペンタホーンの電撃が飛んでいった方向だ。電撃は森の木々に命中して、大きな音を立てながら木をなぎ倒していく。
「うわぁっ、危ねえっ!」
 セインが声を上げる。
 そう、電撃の飛んでいった先、そこにはセインが居たのである。セインもなんとかその場を離れて電撃は回避したのだが、その姿が露わとなってしまった。
「セイン?!」
 突然の事態に、慌ててセインに駆け寄ろうとするルナルだったが、その前に痙攣から回復したペンタホーンが立ちふさがる。その間にも、セインの事に気が付いた別のペンタホーンがそちらへと突進を仕掛けた。さすがにこの状況では、ルナルは間に合わないと、最悪の事態も覚悟した。
 ところが、セインはなんとペンタホーンの突進を躱し、首に手を回してそのまま飛び乗ってしまった。予想もしなかった光景にルナルはつい目が点になってしまう。
「ヒヒーン!」
 思わず棒立ちになってしまうルナルだが、それを目の前のペンタホーンが見逃すわけがなかった。だが、そうはいっても二つ名を持つルナルはさすがだった。不意打ちになろうともきちんと対処できてしまうのだ。
 ルナルがペンタホーンと激しくやり合う中、背中に乗られてしまったペンタホーンは、セインを振り落とそうと上げしく暴れる。だが、セインは首にしっかりとしがみついて必死に耐えていた。
「おい、おとなしくしろってば。お前は別に暴れたいわけじゃないんだろ?」
 必死にしがみつきながら、ペンタホーンを落ち着かせようとしているセイン。
「なっ、もう暴れなくていいんだ。どうどう」
 しがみつく手の片方を首から離し、優しく首筋を撫で始めるセイン。するとどうした事か、しばらくするとセインがしがみつくペンタホーンに異変が起きる。
 バチンッ!
 何かが弾けるような大きな音が響き渡ったかと思うと、ペンタホーンの腹部から何かが地面へと転がったのだ。
(あれは、魔眼石?!)
 ペンタホーンの攻撃を凌ぎながらセインの方を見ていたルナルは、その転がった物体に激しく動揺する。そして、さらにもう一つ驚くべき事態が起きていた。
 魔眼石が剥がれ落ちたペンタホーンの姿が、みるみるうちに変化していったのだ。筋肉は不自然に盛り上がり、どす黒くなっていた体は、一般的な馬の体へと変化していき、色も白っぽい色へと変化していったのだ。そして、あれだけ激しく暴れ回っていたのが嘘のように、おとなしくなってゆっくりと立ち止まったのだ。
「なるほど、魔眼石の力で魔物を強化して操っていたってわけですね。だから、魔眼石を剥がす事で元に戻るというわけですか」
 ペンタホーンが狂暴になった仕組みが分かったところで、
「烈華閃!」
 ルナルは素早く槍を連続で突いて、ペンタホーンを牽制する。
「魔眼石が取り付けられた場所は分かっています。ちょっと痛いかも知れませんが、我慢して下さいね!」
 すうっとひと呼吸おいたルナルは、槍を持つ手に力を込める。そこへ、牽制で一時的に動きの止まったペンタホーンが再び突進を仕掛けてきた。
「苦しみから解放してあげます! 食らいなさい、天閃破てんせんは!!」
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