メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

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第三章

第109話 鞄の実験を終えて

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「いやあ、役得役得」

 南の街に戻ってきた冒険者たちは、ものすごく満足そうな様子である。
 それもそうだろう。往復付き添っていただけでおいしいごはんと報酬がもらえたのだから。魔物や賊が出てきてもほとんどミルフィの攻撃で一撃である。11歳の少女にすべての手柄を取られるのは冒険者としてどうかとは思うのだが……。
 とはいえ、そういったこともあってかこの冒険者たちはミルフィの商会の顧客となっているのでWIN-WINといったところだろう。

「でも、あんな小さな女のにおんぶにだっこは、さすがに気が引けるわね」

「まぁ、そうだな。楽させてもらってる分どっかで貢献してあげないとな」

 ミルフィの往復に付きあった冒険者たちは、くるりと冒険者組合へと戻っていった。

 一方、北の街から戻ったミルフィたちは、厨房の中で息を飲んで押し黙っている。
 それというのも、北の街から収納鞄に詰め込んで持ってきたものの確認をするためだ。
 一応、鞄ひとつにつき馬車一台分の容量がある上に、時間停止機能も持ち合わせているのは間違いない。だが、作ったばかりの不安定な技術ゆえに、本当に大丈夫なのか半信半疑なのである。
 ミルフィはトンカとナンカ、それとロイセや厨房スタッフの前に数個の収納鞄を並べていく。

「これは、北の街から魔界鳥の卵やチョコレートなどの料理を詰め込んで持ってきた収納鞄です。一応南の街から同じようにして持っていったチョコレートが大丈夫でしたので、これも同じ結果が得られるとは思います」

 真剣な表情のミルフィだ。自信はあるとはいえど、結果を見てみるまでは不安がどうしても拭えないのである。

”主よ、そこまで不安になることもあるまい。我の認めた主なのだ、もっと胸を張っておればよい”

 不安そうなミルフィを励ますピレシー。だが、緊張のしすぎか、ピレシーの言葉はミルフィに届いていなかった。

”やれやれ……”

 すぐに分かったピレシーは、静かに見守る事に態度を切り替えた。
 こほんと咳払いをひとつすると、ミルフィは鞄の中から順番に取り出していく。
 魔界鳥の卵は孵化していない。有精卵とはいえ温めていないから当然かもしれないが、割ってみても新鮮そのものだった。
 それにしても、孵っていない卵はもの扱いらしい。なにせ収納魔法は、生きているものは入れられない仕様となっているからだ。
 卵を確認したミルフィは、他の鞄の中身も確認していく。すると、どの鞄も作りたての状態が維持された状態で出てきたのだった。

「ミルフィ様、成功のようですね」

「ええ、そうみたいですね」

 ロイセが思わず口に出してしまうと、ミルフィはようやく安心した表情を見せていた。

「まったく、さすがはわしらの姫様じゃ」

「わしらにもできん事をやってのける。素晴らしいお方じゃよ」

「きっとべっぴんになるから、相手は大変じゃろうなぁ」

 トンカとナンカがなにやら騒いでいる。相手とは一体どういう事なのかミルフィはつい目を細めて見てしまう。

「おおう、ナンカ。姫様に睨まれておるぞ」

「トンカ、気が早すぎたようだぞ」

「そのようだな。だが、姫様がどのような相手を連れてくるのかは楽しみだからな」

「それは確かにそうだ」

 ミルフィに睨まれているというのに、まったく話をやめようとしないトンカとナンカである。
 顔が忙しそうになっているミルフィだが、ロイセたちもついつい笑ってしまう。

「私はまだそういう年じゃないでしょうがっ!」

「いやいや、分からんぞ。なあ、みんな」

 ミルフィが両手を上げて怒っていると、トンカの呼び掛けにみんなが揃いも揃って頷いていた。

「ぬぅ……、もう何なのですかーっ!」

 ミルフィの叫び声の後には、みんなの笑い声が響き渡っていたのだった。
 ちなみに、ここで出した料理はみんなでおいしく頂きましたとさ。

 翌日、ミルフィは商業組合へと足を運ぶ。収納鞄の性能が確認できたためだ。
 わざわざ収納鞄の扱いを止めていたのだから、早めに報告するためにやって来たというわけである。

「レンダさん、お待たせしました」

「いや、本当に待ちましたよ。それで、鞄の性能はどうだったのですか」

 困ったような表情をするレンダに、ミルフィは満面の笑みで親指を立てて突き出す。満足いく仕上がりとだということを分かりやすく示すためだ。
 そのミルフィの仕草を見て、状況を理解するレンダ。

「では、組合長とのお話をしましょうか。かなり首を長くして待っておられますからね」

「分かりました。では、お待たせした分、早めに話を済ませてしまいましょう」

 レンダの申し出に、ミルフィは快く応じるのだった。
 そして、話し合いを行った結果。ミルフィが作った収納鞄はひとまず1個ずつ商会に信用できる商会配られて、その後売りに出す事が決定した。当然ながら価格はとんでもないものだ。
 馬車一台分の容量とはいえど、収納魔法の使い手がそもそも少ない。希少なものであるがために高値がつくのは当然なのである。
 こうして、ミルフィのおいしいによる世界征服は、意外なところからも一気に加速していったのである。
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