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第三章
第104話 おいしいを広げる解決策
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料理のことでずいぶんとへこまされたミルフィだったが、すぐに気を取り直して何やら商会長室で作業をしている。
「ミルフィ様、何をなさってらっしゃるのですか?」
南の商会におけるティアのような役割を担うことになったロイセが、紅茶を持って商会長室にやってきた。
その声に反応してミルフィは顔を上げると、にっこりとした表情を向けていた。
「私やピレシーの持つ収納魔法を、鞄とかに付けられないかなって試行錯誤しているところなんです。鞄自体は街で売っている一般的なものですけれどね」
「収納魔法を付与した鞄ですか?」
「ええ、そうです。調べてみた限り、収納魔法の中だと物の時間が停止するみたいで傷まないんですよ。それを利用して、北の街の食材を南へ、南の街の食材を北へ持ち運ぶことができたらいいなと考えたんです」
ミルフィの説明に、思わず言葉を失うロイセである。
そもそも、収納魔法自体がかなりのレア能力。そして、それをものに付与できるとなればさらにレアである。それはもう虚無顔になるのも無理はない。
「ただ、鞄に直接付与するのは無理なようですね。私も身に付けたばかりで慣れていないというのもありますけれど、魔石を通してであれば可能なようです」
どうやら試行錯誤で付与自体は成功したようである。
方法としては、魔石に収納魔法を付与して、それを鞄に取りつけて効果範囲を鞄の内部に適応するというものだった。外見を見た限り、鞄の留め具部分に魔石を取り付けてあるようだ。
驚くロイセに証拠を見せようとして、鞄の中に手を突っ込むミルフィ。そして、中から取り出したのは、南の街で先程作ったばかりのチョコレートだった。
「まあ、チョコレートですね。しかも溶けていません」
「ええ、さっき試しに厨房に行って入れてきました。これだけ暑いとこの通りですが、収納魔法を付与した鞄の中ならこの通りなんです」
説明しながら、外に出しっぱなしにしていたチョコレートを並べるミルフィ。その状態の差は一目瞭然である。鞄に入っていなかった方は、暑さで形が崩れ始めていたのだ。
この状態の差は、収納魔法の効果を説明する上でも実に効果的な差だった。
「やはり、おいしいの基本は食材が新鮮な事も重要ですからね。傷んだものはどうしてもその分味も食感も劣化してしまいます」
「はぁ~……」
ミルフィのドヤ顔の説明に、思わずため息しか出ないロイセである。
「なんですか、その顔は」
なんともいえない淡白すぎる反応に、つい困ったように怒鳴ってしまうミルフィなのである。
「あ、いえ。なんかすごすぎてなんともいえなかったのです。申し訳ございません」
我に返ったロイセは深く頭を下げて謝っている。その姿に思わず驚いてしまうミルフィなのだった。
どうやら、ミルフィの中との認識の差にまだまだ差があったようである。
「そういえば、ロイセも魔族でしたね……。人間は傷んだものと食べるとお腹を壊しちゃいますからね。物は新鮮な方がいいのですよ」
そう、魔族は毒耐性の強い者が多いので、多少傷んでいても平気で食べてしまう。今さらながらにそのことを改めて認識させられてしまうミルフィだった。
「うーん、やっぱり魔族の中でも私は異端だったようですね……。ティアにも最初のうちは驚かれてましたし」
頭が痛くなるミルフィである。
ミルフィがおいしいを志すようになったきっかけは、こういったメシマズ習慣に気を失うほどの衝撃を受けた事だった。
周りもずいぶんとおいしいに付き合わせて巻き込んできたはずだが、まだまだこういう魔族は存在していたようである。
とはいえ、おいしいを目指すとなれば、この考えは危険。ミルフィはロイセの肩をがっちりと掴んでいる。
「うふふ、ロイセ。私の下につくのでしたら、その認識は捨ててもらいますからね。人間も魔族も、みーんなおいしいのとりこにするんですから」
「み、ミルフィ様? こ、怖いですよ……」
にこやかな笑顔だというのに、肩を持つ手に力が入っているためにものすごく怖く感じる。
その圧力に、とうとうロイセは耐え切れなくなってしまう。
「分かりました、分かりましたからぁっ! その手を離して下さい、ミルフィ様!」
泣き叫んで懇願すると、ミルフィはにっこりと笑って手を離していた。これが11歳の魔族である。さすが魔王女、圧が強かった。
ロイセから手を離したミルフィは、再び自分の席に着いて収納魔法を付与した鞄を作り始めた。
「街で取引するには、私の収納魔法では容量不足ですからね。ピレシーの魔法は便利ですけれど、彼のは食材限定ですから万能な私の収納魔法でなければいけないのです」
”我の魔法を模して手を加えるなど、主は十分規格外ぞ……”
突然姿を現して愚痴をこぼすピレシーである。その愚痴にドヤ顔で応じるミルフィである。
でき上がった収納魔法を付与した鞄を並べ、ミルフィは両肘をついてロイセを見る。
「明日はこのかばんを持って、商業組合とビュフェさんの元を訪れます。これで流通革命が起きますよ。うふふふふ……」
不敵に笑い始めるミルフィである。
はたしてミルフィの目論見通りに行くのか、決戦は明日なのである。
「ミルフィ様、何をなさってらっしゃるのですか?」
南の商会におけるティアのような役割を担うことになったロイセが、紅茶を持って商会長室にやってきた。
その声に反応してミルフィは顔を上げると、にっこりとした表情を向けていた。
「私やピレシーの持つ収納魔法を、鞄とかに付けられないかなって試行錯誤しているところなんです。鞄自体は街で売っている一般的なものですけれどね」
「収納魔法を付与した鞄ですか?」
「ええ、そうです。調べてみた限り、収納魔法の中だと物の時間が停止するみたいで傷まないんですよ。それを利用して、北の街の食材を南へ、南の街の食材を北へ持ち運ぶことができたらいいなと考えたんです」
ミルフィの説明に、思わず言葉を失うロイセである。
そもそも、収納魔法自体がかなりのレア能力。そして、それをものに付与できるとなればさらにレアである。それはもう虚無顔になるのも無理はない。
「ただ、鞄に直接付与するのは無理なようですね。私も身に付けたばかりで慣れていないというのもありますけれど、魔石を通してであれば可能なようです」
どうやら試行錯誤で付与自体は成功したようである。
方法としては、魔石に収納魔法を付与して、それを鞄に取りつけて効果範囲を鞄の内部に適応するというものだった。外見を見た限り、鞄の留め具部分に魔石を取り付けてあるようだ。
驚くロイセに証拠を見せようとして、鞄の中に手を突っ込むミルフィ。そして、中から取り出したのは、南の街で先程作ったばかりのチョコレートだった。
「まあ、チョコレートですね。しかも溶けていません」
「ええ、さっき試しに厨房に行って入れてきました。これだけ暑いとこの通りですが、収納魔法を付与した鞄の中ならこの通りなんです」
説明しながら、外に出しっぱなしにしていたチョコレートを並べるミルフィ。その状態の差は一目瞭然である。鞄に入っていなかった方は、暑さで形が崩れ始めていたのだ。
この状態の差は、収納魔法の効果を説明する上でも実に効果的な差だった。
「やはり、おいしいの基本は食材が新鮮な事も重要ですからね。傷んだものはどうしてもその分味も食感も劣化してしまいます」
「はぁ~……」
ミルフィのドヤ顔の説明に、思わずため息しか出ないロイセである。
「なんですか、その顔は」
なんともいえない淡白すぎる反応に、つい困ったように怒鳴ってしまうミルフィなのである。
「あ、いえ。なんかすごすぎてなんともいえなかったのです。申し訳ございません」
我に返ったロイセは深く頭を下げて謝っている。その姿に思わず驚いてしまうミルフィなのだった。
どうやら、ミルフィの中との認識の差にまだまだ差があったようである。
「そういえば、ロイセも魔族でしたね……。人間は傷んだものと食べるとお腹を壊しちゃいますからね。物は新鮮な方がいいのですよ」
そう、魔族は毒耐性の強い者が多いので、多少傷んでいても平気で食べてしまう。今さらながらにそのことを改めて認識させられてしまうミルフィだった。
「うーん、やっぱり魔族の中でも私は異端だったようですね……。ティアにも最初のうちは驚かれてましたし」
頭が痛くなるミルフィである。
ミルフィがおいしいを志すようになったきっかけは、こういったメシマズ習慣に気を失うほどの衝撃を受けた事だった。
周りもずいぶんとおいしいに付き合わせて巻き込んできたはずだが、まだまだこういう魔族は存在していたようである。
とはいえ、おいしいを目指すとなれば、この考えは危険。ミルフィはロイセの肩をがっちりと掴んでいる。
「うふふ、ロイセ。私の下につくのでしたら、その認識は捨ててもらいますからね。人間も魔族も、みーんなおいしいのとりこにするんですから」
「み、ミルフィ様? こ、怖いですよ……」
にこやかな笑顔だというのに、肩を持つ手に力が入っているためにものすごく怖く感じる。
その圧力に、とうとうロイセは耐え切れなくなってしまう。
「分かりました、分かりましたからぁっ! その手を離して下さい、ミルフィ様!」
泣き叫んで懇願すると、ミルフィはにっこりと笑って手を離していた。これが11歳の魔族である。さすが魔王女、圧が強かった。
ロイセから手を離したミルフィは、再び自分の席に着いて収納魔法を付与した鞄を作り始めた。
「街で取引するには、私の収納魔法では容量不足ですからね。ピレシーの魔法は便利ですけれど、彼のは食材限定ですから万能な私の収納魔法でなければいけないのです」
”我の魔法を模して手を加えるなど、主は十分規格外ぞ……”
突然姿を現して愚痴をこぼすピレシーである。その愚痴にドヤ顔で応じるミルフィである。
でき上がった収納魔法を付与した鞄を並べ、ミルフィは両肘をついてロイセを見る。
「明日はこのかばんを持って、商業組合とビュフェさんの元を訪れます。これで流通革命が起きますよ。うふふふふ……」
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