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第三章
第101話 プレゼンター・ミルフィ
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「動作確認、ヨシ。これなら一般に出しても問題はなさそうですかしらね」
ミルフィはこの日もエレベーターの動作確認をしていた。
南の街を再訪問してから3日間、組織づくりの基礎を固めつつエレベーターの最終確認をしていた。
今日はエレベーターの実物をお披露目するために、ビュフェと商業組合のレンダを商会に呼んである。
「まったく、今日は何なのでしょうかね。ミルフィさんの頼みだからやって来ましたが、何を見せてくれるのでしょうか」
「多分、私が依頼していたものだと思いますよ」
「ああ、カフェにあった『えれべえたあ』とかいうやつですか」
その呼ばれた二人がそれぞれ話をしながら商会にやって来た。
北の街から来てもらった従業員が二人を出迎える。当時もミルフィ商会で働いていたので、従業員はしっかりと二人の顔を覚えていた。
「あれ、確か君は魔界に最も近い街にいた……」
「はい、フラウと申します。本日は私がお二人のお相手を仰せつかっております」
大きく頭を下げて応対するフラウである。ちなみにフラウはどういうわけか侍女服を着ている。彼女の心構えからだそうだが、それを知らない二人は首を捻っていた。
二人が首を捻る理由をなんとなく察しながらも、気にせずに応対を続けるフラウ。
「ミルフィ様からお二人が到着しましたら奥まで案内するようにとのご命令を承っております。ご案内致しますので、ついて来て下さい」
「分かりました」
フラウに連れられて、ビュフェとレンダは建物の中を進んでいく。
そうやって連れてこられた場所は、商会の建物の本当に一番奥だった。そこは、外から一段と高く見えていた場所だった。
「ここは?」
「よくいらっしゃって下さいました。ビュフェさん、レンダさん」
淑女らしい挨拶をして、にっこりと微笑むミルフィ。すっかりそこら辺の令嬢らしい姿である。人間を装った白い肌がなければ、本当にただの令嬢である。
「お久しぶりですね、ミルフィさん。今日はここで一体何をなさるご予定で」
レンダがミルフィに問い掛けている。魔界に最も近い北の街でいろいろとミルフィのあれこれを見せられたレンダだ。次は何が出てくるのか警戒しているのである。
それに対して、ミルフィはただ笑顔を返す。そして、おもむろに口を開いた。
「本日はこちらのエレベーターを試して頂こうと思います」
「え、えれべえたあ?」
思わず構えてしまうレンダである。
「はい。今回はカフェにあった物を運搬するだけではなく、人を乗せたまま移動できるタイプのものでございます」
レンダたちに背中を向けて顔だけを向けるミルフィ。
「論より証拠、実際に体験頂きましょう」
ミルフィは、エレベーターの前に立つとくるりと振り向いた。
「まず、エレベーターの箱がない時はこうやって向こう側が見えていますが……」
ミルフィはそう言って、エレベーターの入口の空間に拳を振るう。コンコンという音が響いて、エレベーターの中へ入れることはできなかった。
「このように、防壁魔法が働いて、中に人が立ち入れないようになっています」
「ほう……」
ビュフェが興味深く見ている。
次に壁に付けられた魔石に手を触れて魔力を流すミルフィ。すると、ゴゴゴ……という音が響いて箱が降りてきて目の前で止まった。
「さあ、乗り込みましょうか」
ミルフィが乗り、フラウも乗る。そして、躊躇するビュフェとレンダをトンカとナンカの二人が押し込んで乗せる。
「箱が到着すると防護魔法が解けて乗れるようになります。そして、降りたい階の魔石に触れてエレベーターを稼働させると……」
ミルフィがそう言いながら魔石を操作すると、目の前に再び防護壁が現れた。
「こうやって外に出れなくなるんですよ。そうしないと空いた空間に飛び出そうとして危ないですからね」
「なるほどね」
しばらくの間、エレベーターのプレゼンを受けたビュフェはかなり満足したようだった。
「とまあ、こういうわけです。いかがでしたでしょうか」
説明をすべて終えたミルフィは、ビュフェにエレベーターの感想を尋ねる。
「なかなか面白い構造物だが、仕組みがまったく分からないな。果たしてどれだけの人間が扱えるだろうか……」
ビュフェとしての懸念もそこにあるようだった。同じ事を思っていたミルフィは、ビュフェたちにこう提案する。
「ですので、まずは従業員の方々だけで使うようにするんです。料理やシーツなどの移動に使えると思いますのでね。現状ではエレベーターの操作に魔力が必要なことを考えますと、一般の方に広めるには操作を専門に行う方がどうしても必要になるでしょうからね」
「驚いた。そこまで考えていたのか」
話を半分程度しか理解できなかったレンダだが、ミルフィの提案に驚いている。
そのミルフィはにこにこと満面の笑みである。
「そうね。とりあえずうちのメインとなる宿には取り入れてみましょうか。工賃などの相談はできるかしら」
「もちろんでございますよ。ね、トンカさん、ナンカさん」
「おうともよ」
こちらも白い歯をむき出しにして笑うトンカとナンカである。
こうして、ビュフェの経営する宿にエレベーターの商品第一号が設置される事となったのだった。
ミルフィはこの日もエレベーターの動作確認をしていた。
南の街を再訪問してから3日間、組織づくりの基礎を固めつつエレベーターの最終確認をしていた。
今日はエレベーターの実物をお披露目するために、ビュフェと商業組合のレンダを商会に呼んである。
「まったく、今日は何なのでしょうかね。ミルフィさんの頼みだからやって来ましたが、何を見せてくれるのでしょうか」
「多分、私が依頼していたものだと思いますよ」
「ああ、カフェにあった『えれべえたあ』とかいうやつですか」
その呼ばれた二人がそれぞれ話をしながら商会にやって来た。
北の街から来てもらった従業員が二人を出迎える。当時もミルフィ商会で働いていたので、従業員はしっかりと二人の顔を覚えていた。
「あれ、確か君は魔界に最も近い街にいた……」
「はい、フラウと申します。本日は私がお二人のお相手を仰せつかっております」
大きく頭を下げて応対するフラウである。ちなみにフラウはどういうわけか侍女服を着ている。彼女の心構えからだそうだが、それを知らない二人は首を捻っていた。
二人が首を捻る理由をなんとなく察しながらも、気にせずに応対を続けるフラウ。
「ミルフィ様からお二人が到着しましたら奥まで案内するようにとのご命令を承っております。ご案内致しますので、ついて来て下さい」
「分かりました」
フラウに連れられて、ビュフェとレンダは建物の中を進んでいく。
そうやって連れてこられた場所は、商会の建物の本当に一番奥だった。そこは、外から一段と高く見えていた場所だった。
「ここは?」
「よくいらっしゃって下さいました。ビュフェさん、レンダさん」
淑女らしい挨拶をして、にっこりと微笑むミルフィ。すっかりそこら辺の令嬢らしい姿である。人間を装った白い肌がなければ、本当にただの令嬢である。
「お久しぶりですね、ミルフィさん。今日はここで一体何をなさるご予定で」
レンダがミルフィに問い掛けている。魔界に最も近い北の街でいろいろとミルフィのあれこれを見せられたレンダだ。次は何が出てくるのか警戒しているのである。
それに対して、ミルフィはただ笑顔を返す。そして、おもむろに口を開いた。
「本日はこちらのエレベーターを試して頂こうと思います」
「え、えれべえたあ?」
思わず構えてしまうレンダである。
「はい。今回はカフェにあった物を運搬するだけではなく、人を乗せたまま移動できるタイプのものでございます」
レンダたちに背中を向けて顔だけを向けるミルフィ。
「論より証拠、実際に体験頂きましょう」
ミルフィは、エレベーターの前に立つとくるりと振り向いた。
「まず、エレベーターの箱がない時はこうやって向こう側が見えていますが……」
ミルフィはそう言って、エレベーターの入口の空間に拳を振るう。コンコンという音が響いて、エレベーターの中へ入れることはできなかった。
「このように、防壁魔法が働いて、中に人が立ち入れないようになっています」
「ほう……」
ビュフェが興味深く見ている。
次に壁に付けられた魔石に手を触れて魔力を流すミルフィ。すると、ゴゴゴ……という音が響いて箱が降りてきて目の前で止まった。
「さあ、乗り込みましょうか」
ミルフィが乗り、フラウも乗る。そして、躊躇するビュフェとレンダをトンカとナンカの二人が押し込んで乗せる。
「箱が到着すると防護魔法が解けて乗れるようになります。そして、降りたい階の魔石に触れてエレベーターを稼働させると……」
ミルフィがそう言いながら魔石を操作すると、目の前に再び防護壁が現れた。
「こうやって外に出れなくなるんですよ。そうしないと空いた空間に飛び出そうとして危ないですからね」
「なるほどね」
しばらくの間、エレベーターのプレゼンを受けたビュフェはかなり満足したようだった。
「とまあ、こういうわけです。いかがでしたでしょうか」
説明をすべて終えたミルフィは、ビュフェにエレベーターの感想を尋ねる。
「なかなか面白い構造物だが、仕組みがまったく分からないな。果たしてどれだけの人間が扱えるだろうか……」
ビュフェとしての懸念もそこにあるようだった。同じ事を思っていたミルフィは、ビュフェたちにこう提案する。
「ですので、まずは従業員の方々だけで使うようにするんです。料理やシーツなどの移動に使えると思いますのでね。現状ではエレベーターの操作に魔力が必要なことを考えますと、一般の方に広めるには操作を専門に行う方がどうしても必要になるでしょうからね」
「驚いた。そこまで考えていたのか」
話を半分程度しか理解できなかったレンダだが、ミルフィの提案に驚いている。
そのミルフィはにこにこと満面の笑みである。
「そうね。とりあえずうちのメインとなる宿には取り入れてみましょうか。工賃などの相談はできるかしら」
「もちろんでございますよ。ね、トンカさん、ナンカさん」
「おうともよ」
こちらも白い歯をむき出しにして笑うトンカとナンカである。
こうして、ビュフェの経営する宿にエレベーターの商品第一号が設置される事となったのだった。
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