メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

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第三章

第100話 南のミルフィ商会、本格稼働前段階

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 北の街ではオーソン、南の街ではビュフェという協力者が得られた事は大きいが、無事に南の街でもミルフィ商会の拠点となる建物が完成した。ただ、主力となるエレベーターはまだ最終調整が必要らしく、発足と同時に発表とはいかなかった。
 建物中の調整はミルフィが自ら指揮を執り、トンカとナンカにはエレベーターの完成を急がせる。それに関して、ミルフィ自身が安全性を確かめる実験にも協力するとの事らしい。
 魔族の姫様であるミルフィに危険な事をさせたくはないが、魔法のエキスパートであり防御魔法も完璧なミルフィが検証に参加するのは最も望ましいのだ。ミルフィなら4階から急速落下しても魔法で恐らく無傷だろう。……そんな事態は考えたくないと思ったトンカとナンカである。
 屋敷の中は連れてきた職員たちに片付けてもらって、ミルフィはトンカとナンカと一緒にエレベーターの状況を確認しに行く。
 エレベーターの試作機は、屋敷の隅っこにひっそりとしている。外から見るとそこだけが塔のように突き出ている。屋敷自体は北の街の商会を真似たとはいえ、どういうわけか3階建てになっているのだが、その状態でも十分目立っている。

「エレベーターの挙動は問題ないでしょうか」

「それは問題ないでさ」

「人や物を乗せた時にちゃんと動くかどうかっていうのが問題かな。今は空の状態でしか動かしてないからよ」

「なるほど、そういうわけですね」

 そう言いながら、ミルフィはエレベーターに乗り込んでいた。

「ちょっと、姫様?!」

「やめて下さいよ。姫様に何かあったら、魔王様に殺されます」

 慌てて本気で止めに来るトンカとナンカである。
 だが、ミルフィはにっこりと笑っていた。

「大丈夫ですよ。私の魔法であればけがはしませんから」

「いや、ですが……」

「私の命令でやっている事なのです。私が協力しなくてどうするのですか」

 ででんとでかい態度で言い切るミルフィである。こんなに強気に言われてしまえば、もう何も言い返せないトンカとナンカなのであった。
 さすがにミルフィが自ら乗ると言い出した事で、トンカとナンカは慎重にエレベーターの最終段階の調整に入る。
 調整を終えて、ミルフィに声を掛けるトンカとナンカ。
 すると、ミルフィはワゴンを持った従業員を一人連れてきた。その職員はオーソンに紹介してもらった職員で、ものすごく混乱した様子でミルフィに背中を押されている。

「お嬢様、その人は?!」

「私以外にも誰かに体験してもらわないといけないじゃないですか。そうじゃないと売り込めませんよ」

 正論である。これには二人は何も言い返せなかった。
 ワゴンに紅茶を乗せた状態の女性は、わけも分からずにエレベーターに押し込められてしまう。

「それじゃ、試験運転を始めますよ。外からの操作は二人に任せますね」

「わ、分かりました」

 そんなわけで、エレベーターの最終試験が始まる。
 中にはミルフィと職員、紅茶の乗せられたワゴンが乗り込み、早速運転が行われる。
 まずは中でミルフィが操作して各階へ移動。次に中に乗った状態で、外からトンカとナンカが操作して移動。最後は、外と中で操作して、どういう順番で動作するのかを確認した。

「ふむ、外と中と同時というのもやってみましたが、中からの操作を優先するという形になりましたね」

「まあそりゃな。中を空にする方を優先させてるからだよ」

「それにしても魔法でこの制御ってかなり難しかったな。職人としてはやりがいがあったがな」

 トンカとナンカの説明が続く。
 各階には扉が設置されていないが、箱がない場合は防壁が発動して足が踏み入れられないようにしてある。ただ、エレベーターの箱があればそれが解除される。こうすることで乗り降りが可能になるようになっている。
 ついでに、エレベーターの箱には重量を感知する魔法石も設置されており、ワゴン以上の重さがあれば動かないようになっているそうだ。人が乗り込む前提なので、魔力の波動も感知するようになっているそうな。
 さすがは職人であるトンカとナンカである。安全性にもいろいろと配慮して作られているのである。

「つまりは、重量があって魔力の波動がそれなりに備わっているものがあれば、このエレベーターは動作しないというわけですね」

「そういうことですな。最悪赤ん坊が乗り込んで事故を起こす事すら考えられますからな」

「そこまで考えているなんて、さすがですね」

「姫さ……ごほっごほっ、お嬢ちゃんの言うおいしいを広めたいっていう考えに、わしらは賛同しているからな。そのためには安全にも配慮するさ」

 ナンカは「姫様」と言いかけてごまかしておいた。なにせミルフィの隣には何も知らない新人職員がいるのだから。

「試運転は成功ということですかね。これなら、ビュフェさんの宿に導入はすぐに可能でしょうかね」

「まっ、その宿の形状を見てからだな。基本的に増設という形にはなるし、最初の間は従業員のみが利用できるようにする必要はあるだろうて」

「ふむふむ。確かに新しいものですからね。人が乗れるともなれば、大々的に売り出すにはそれなりに存在を広めてからの方がいいのは確かですね」

 そんなこんなで、最初はひとまず慎重に知る人ぞ知るという形で時間を稼いでいる間に、さらなる研究を進めるという話で落ち着いたのだった。
 エレベーターも試作機が完成して、南の街のミルフィ商会の本格的な稼働のための準備が整ったのだった。
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