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第三章
第82話 ところ違えば……
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ビュフェの商会の中で昼食を食べるミルフィたちだが、さすが宿や食堂を経営する商会の出す食事には満足しているようだった。
ただ、やっぱり宿の食事同様に、今一つ何かが足りないように感じていた。
「どうだったかな、私の商会の食事は」
ビュフェはにこやかな表情をしながらミルフィに問い掛けている。
すると、ミルフィはどういうわけか唸り始めた。
「どうしたのかな。そんな難しい顔をして」
「あのですね。満足はできているのですが、何かが足りない気がするんですよね。そして、それがなんなのか分からなくて唸っているというわけなんです」
ミルフィの回答に、思わず考え込んでしまうビュフェである。
以前、冒険者ギルドの職員から聞いた話を思い出しているのだ。
(そういえば、魔界に近い街に行くようになった冒険者たちが、苦言を呈するようになってきたとかいう報告があったな……)
そう、北の街に向かうようになった冒険者たちが、南の街の料理に対して満足しなくなっていたという現象の話である。
その北の料理というのがよく分からなかったために、今回わざわざ北の街まで出かけたビュフェたち。ところが、その話の中心がまだ年端も行かぬ少女だと知って、結局何をしに行ったのか忘れて帰ってきてしまっていた。
しかし、その原因たる少女が今目の前にいる。これはチャンスなのだ。ビュフェはここぞとばかりに問い詰めようとする。
その時だった。
ミルフィの近くで予想外な展開が起きる。
”やめるのだ。そこな女”
ぼふんという音を立てながら、変な本が目の前に現れたのである。
「ピレシー?」
思わず声を出してしまうミルフィである。
「なっ……。こいつは魔導書か」
”いかにも。我は食の魔導書。今はこの少女を主とし、ピレシーと呼ばれておる”
身構えるビュフェに対し、ピレシーは実に堂々と名乗っている。
「そうか……。どうりでおかしいと思ったのですよ。こんな幼い少女が料理を作っていると聞いて、ずっと引っ掛かっていましたからね」
ビュフェはピレシーを睨んでいる。
すると、呆れたようにくるりと旋回するピレシーである。
”何かを勘違いしておる。我は料理の知識を与えただけで、実際に行動に移したのは他ならぬ主だ。主を貶める発言をするというのなら……、我は手加減はせぬぞ?”
凄んでいるらしく、ピレシーの周りの空気が何やら怪しい魔力を含んでいる。
一触即発のような雰囲気を漂わせる中、ピレシーに対してミルフィがチョップを叩き込んだ。
”主、何をするのだ”
当然のように抗議するピレシー。ところが、ミルフィはすごい剣幕でピレシーを叱り始めたのだ。
これにはピレシーもたじたじである。
「話がややこしくなるから、トンカさんとナンカさんの二人と一緒にエレベーターの改良の話でもしていて下さい。さっきからずっと悩んでいたようですからね」
”主……。それもいいのだが、主が感じている違和感、我ならば説明できるのですぞ”
「聞かせてもらいましょう」
ピレシーが必死に訴えると、ミルフィはそれに食いついた。食に関する違和感は、ミルフィにとっては我慢できない問題なのだ。
キリリとした表情でピレシーを見るミルフィ。その姿に唖然とするビュフェなのである。
”単純に北部と南部の味付けの違いだな。使われている調味料が違うというのが一番の理由だろう。それに、この商会の料理はそもそもほとんど味付けを行っておらんからな”
「ふむふむ……」
”チェチェカの実にしろ魔界鳥の卵も肉も、そもそも味が濃厚だ。それではこちらの淡白な素材では物足りなく感じるというのも無理はなかろうて”
ピレシーは表紙をビュフェに向ける。
”おぬしは、北の料理は重いと感じたであろう?”
「ええ、まあ、確かに……」
ピレシーの圧力に、ビュフェは腰が引けながらも頷いている。
”まあ、そういうことだ。では、続きは二人で話をされよ。我は職人どもとエレベーターの改良について話をするからな”
ふよふよと浮きながら、ピレシーはトンカとナンカのところへと移動していった。
ピレシーが去った後のミルフィとビュフェは、なんとも言えない雰囲気の中で黙り込んでしまっていた。
しばらく黙り込んだ後、ミルフィはビュフェへと話しかける。
「あの、この南の街の代表的な料理とか教えて頂けますかね」
まさかの料理を教えてほしいというお願いに、ビュフェは驚いてしまった。
「もちろん、ただでとは言いません。滞在している間にお返しの料理のレシピを提供させて頂きますので。……よろしいでしょうか」
年相応の可愛い表情で上目遣いをされてしまえば、ビュフェには効果は抜群というものだった。
ちらりとピレシーたちに視線を向けるビュフェ。そして、大きく深呼吸をしてミルフィを見る。
「いいでしょう。お互いのレシピを交換ということでよろしいですね」
「はい、先程申しました通りです」
ミルフィの表情は真剣そのものだった。
「分かりました。それではこれから厨房へと参りましょうか」
「はい」
ビュフェはミルフィの話を飲むことにしたのである。
「それでは三人とも、私は厨房に参りますので、エレベーターの件、頼みましたよ」
「おう、任せておけ」
トンカたちの了承を得たミルフィは、ビュフェと一緒に商会の厨房へと足を運んだのだった。
ただ、やっぱり宿の食事同様に、今一つ何かが足りないように感じていた。
「どうだったかな、私の商会の食事は」
ビュフェはにこやかな表情をしながらミルフィに問い掛けている。
すると、ミルフィはどういうわけか唸り始めた。
「どうしたのかな。そんな難しい顔をして」
「あのですね。満足はできているのですが、何かが足りない気がするんですよね。そして、それがなんなのか分からなくて唸っているというわけなんです」
ミルフィの回答に、思わず考え込んでしまうビュフェである。
以前、冒険者ギルドの職員から聞いた話を思い出しているのだ。
(そういえば、魔界に近い街に行くようになった冒険者たちが、苦言を呈するようになってきたとかいう報告があったな……)
そう、北の街に向かうようになった冒険者たちが、南の街の料理に対して満足しなくなっていたという現象の話である。
その北の料理というのがよく分からなかったために、今回わざわざ北の街まで出かけたビュフェたち。ところが、その話の中心がまだ年端も行かぬ少女だと知って、結局何をしに行ったのか忘れて帰ってきてしまっていた。
しかし、その原因たる少女が今目の前にいる。これはチャンスなのだ。ビュフェはここぞとばかりに問い詰めようとする。
その時だった。
ミルフィの近くで予想外な展開が起きる。
”やめるのだ。そこな女”
ぼふんという音を立てながら、変な本が目の前に現れたのである。
「ピレシー?」
思わず声を出してしまうミルフィである。
「なっ……。こいつは魔導書か」
”いかにも。我は食の魔導書。今はこの少女を主とし、ピレシーと呼ばれておる”
身構えるビュフェに対し、ピレシーは実に堂々と名乗っている。
「そうか……。どうりでおかしいと思ったのですよ。こんな幼い少女が料理を作っていると聞いて、ずっと引っ掛かっていましたからね」
ビュフェはピレシーを睨んでいる。
すると、呆れたようにくるりと旋回するピレシーである。
”何かを勘違いしておる。我は料理の知識を与えただけで、実際に行動に移したのは他ならぬ主だ。主を貶める発言をするというのなら……、我は手加減はせぬぞ?”
凄んでいるらしく、ピレシーの周りの空気が何やら怪しい魔力を含んでいる。
一触即発のような雰囲気を漂わせる中、ピレシーに対してミルフィがチョップを叩き込んだ。
”主、何をするのだ”
当然のように抗議するピレシー。ところが、ミルフィはすごい剣幕でピレシーを叱り始めたのだ。
これにはピレシーもたじたじである。
「話がややこしくなるから、トンカさんとナンカさんの二人と一緒にエレベーターの改良の話でもしていて下さい。さっきからずっと悩んでいたようですからね」
”主……。それもいいのだが、主が感じている違和感、我ならば説明できるのですぞ”
「聞かせてもらいましょう」
ピレシーが必死に訴えると、ミルフィはそれに食いついた。食に関する違和感は、ミルフィにとっては我慢できない問題なのだ。
キリリとした表情でピレシーを見るミルフィ。その姿に唖然とするビュフェなのである。
”単純に北部と南部の味付けの違いだな。使われている調味料が違うというのが一番の理由だろう。それに、この商会の料理はそもそもほとんど味付けを行っておらんからな”
「ふむふむ……」
”チェチェカの実にしろ魔界鳥の卵も肉も、そもそも味が濃厚だ。それではこちらの淡白な素材では物足りなく感じるというのも無理はなかろうて”
ピレシーは表紙をビュフェに向ける。
”おぬしは、北の料理は重いと感じたであろう?”
「ええ、まあ、確かに……」
ピレシーの圧力に、ビュフェは腰が引けながらも頷いている。
”まあ、そういうことだ。では、続きは二人で話をされよ。我は職人どもとエレベーターの改良について話をするからな”
ふよふよと浮きながら、ピレシーはトンカとナンカのところへと移動していった。
ピレシーが去った後のミルフィとビュフェは、なんとも言えない雰囲気の中で黙り込んでしまっていた。
しばらく黙り込んだ後、ミルフィはビュフェへと話しかける。
「あの、この南の街の代表的な料理とか教えて頂けますかね」
まさかの料理を教えてほしいというお願いに、ビュフェは驚いてしまった。
「もちろん、ただでとは言いません。滞在している間にお返しの料理のレシピを提供させて頂きますので。……よろしいでしょうか」
年相応の可愛い表情で上目遣いをされてしまえば、ビュフェには効果は抜群というものだった。
ちらりとピレシーたちに視線を向けるビュフェ。そして、大きく深呼吸をしてミルフィを見る。
「いいでしょう。お互いのレシピを交換ということでよろしいですね」
「はい、先程申しました通りです」
ミルフィの表情は真剣そのものだった。
「分かりました。それではこれから厨房へと参りましょうか」
「はい」
ビュフェはミルフィの話を飲むことにしたのである。
「それでは三人とも、私は厨房に参りますので、エレベーターの件、頼みましたよ」
「おう、任せておけ」
トンカたちの了承を得たミルフィは、ビュフェと一緒に商会の厨房へと足を運んだのだった。
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