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第三章
第80話 休んでいるようで休んでない
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初日はおとなしく宿の中でじっとしていたミルフィだが、じっとおとなしくしているわけもなかった。
市場の中で見た食材を使ったレシピを、ピレシーと相談しながら新規に書き起こしていたのだ。さすがは常においしいを意識しているミルフィである。
その合間を見て、トンカとナンカを呼んで魔道具の相談をしている。なんといってもメインはカフェで使用しているエレベーターだ。かなり興味を持たれていたので、どうしても売り込みたいのである。
そんなこんなで、初日の夜だけで南の街における行動指針をほぼ決めてしまったミルフィ。
今回は自分の力を試すために、あえて一人で出向いて来たミルフィ。はたして彼女はどこまでできるというのだろうか。
ミルフィの実力が今試されるのである。
翌日、ミルフィが起きて顔を洗っていると、部屋の扉が叩かれる。
「ミルフィ様、お目覚めでございますでしょうか」
声の主はミルフィ担当の従業員であるシリンだった。
「シリンさん、おはようございます。ちょうど今朝の支度をしているところですよ」
「そうでございましたか。では、お食事はいかがなさいますか?」
シリンに尋ねられて、少し考え込むミルフィ。
「宿の方針としては、部屋まで運んできそうですよね。宿としての品位を傷付けたくないですから、部屋で取りますね」
「畏まりました。それでは、準備ができましたらお持ち致しますね」
扉越しの会話を済ませると、階段を降りていく音が聞こえてくる。シリンが朝食を取りに行ったようである。
それを聞いたミルフィは残りの着替えを済ませると、トンカとナンカを起こす。
「お二人に頼みがあります」
寝起きの二人に頼みをするミルフィ。はてさて、一体何を頼んだというのだろうか。二人は少し訝しみはしたが、魔王女たるミルフィの頼みなので聞き入れることにした。
しばらくすると、シリンが従業員数名を連れて戻ってくる。
「お待たせ致しました。朝食をお持ち致しました」
「待ってて下さい。今、開けますね」
ミルフィが扉に近付いて扉を開ける。すると、シリン以外にも三名ほどの従業員がいて、両手に料理を持って立っていた。
「申し訳ございません。お手数をお掛け致しました」
頭を下げ、シリンたちは料理を運び入れている。料理からはいい香りが漂い、ミルフィはちょっと笑顔になっていた。
料理を配膳し終えると、シリンたちが部屋を出ていこうとする。なので、ミルフィはシリンだけを呼び止めていた。
「なんでございますでしょうか、ミルフィ様」
呼び止められて疑問を感じているシリン。
「ちょっとお見せしたいものがあるのです。少しだけよろしいでしょうか」
「は、はい」
にこやかな表情のミルフィに、ついそのように返事をしてしまうシリンである。
ミルフィが合図をすると、トンカとナンカの二人が小さな模型のようなものを出してきた。先程ミルフィが頼んでいたものである。
「エレベーターなるものの模型を作ってみました。ビュフェさんから少しは伺っているかと思います」
「まあ、確かに聞かせて頂きました。風魔法を使った昇降機という風に伺っております」
シリンから返ってきた答えに、にこやかに頷くミルフィである。
「その通りですね。この宿屋は複数階建てです。料理を持って階段の昇り降りは厳しいかと思われます。それを解消するための大型の魔道具なんですよ」
「は、はあ……」
反応が薄いシリンである。想像できないのだから、それも無理はない話なのだ。
そこでミルフィは、トンカとナンカに模型を作らせたというわけだ。二人は手慣れた感じでこのミニチュア模型を作り上げたのである。
模型を使って説明を手短にするミルフィ。その仕組みを聞いたシリンは、驚きのあまり声が出なかった。
「今日はビュフェさんたちとこのエレベーターについてお話をさせて頂く予定です。暇がありましたら、どうでしょう、ご同席なさいますか?」
ミルフィの質問に、シリンはいまだに言葉を失っていた。
「し、しばらく考えさせて頂きたく存じます」
ふらふらとした様子で部屋の外へ出ていくシリンだった。
あまりにもショックの大きい様子だったので、ミルフィはちょっと気がかりになってしまう。
しかし、あまり気にしているとせっかく運ばれてきた料理が冷めてしまうので、気になるけれどもひとまずは朝食を食べることにしたのだった。
「うん、悪くはないわね」
「嬢ちゃんの料理には負けるがな」
「トンカ、正直すぎんだよ。さっきのやつが外に立ってるんだ。少しは気を遣え」
「ナンカ、嘘はよくないぞ、嘘は」
「ほらほら、ケンカしないで下さい。おいしい料理もまずくなってしまいますよ」
暴れそうになったトンカとナンカを窘めるミルフィ。その言葉に二人はしゅんとおとなしくなっていた。
さすが高級宿と謳っているだけあって、味は悪くない。ただ、ミルフィの舌からすると、まだおいしくできそうな感じに思えた。
「それではお待たせしました。ビュフェさんの商会まで向かうこととしましょう」
食事を終えてすっかり準備のできたミルフィは、シリンに声を掛ける。
そして、外出ついでに食器を一緒に運んで降りようとすると、シリンから必死に止められていた。
「この階のお客様にお手伝いさせたとなると宿の信用に関わります。わ、私で片づけますので、どうかご容赦下さい」
「ああ、そういうことなんですね。でしたら仕方ありませんね」
ミルフィも納得したようだった。
入口となる扉に鍵を掛けると、1階のロビーまで移動するミルフィたち。
空の食器を厨房まで運んだシリンと合流して、いざビュフェの商会へと移動を開始したのだった。
市場の中で見た食材を使ったレシピを、ピレシーと相談しながら新規に書き起こしていたのだ。さすがは常においしいを意識しているミルフィである。
その合間を見て、トンカとナンカを呼んで魔道具の相談をしている。なんといってもメインはカフェで使用しているエレベーターだ。かなり興味を持たれていたので、どうしても売り込みたいのである。
そんなこんなで、初日の夜だけで南の街における行動指針をほぼ決めてしまったミルフィ。
今回は自分の力を試すために、あえて一人で出向いて来たミルフィ。はたして彼女はどこまでできるというのだろうか。
ミルフィの実力が今試されるのである。
翌日、ミルフィが起きて顔を洗っていると、部屋の扉が叩かれる。
「ミルフィ様、お目覚めでございますでしょうか」
声の主はミルフィ担当の従業員であるシリンだった。
「シリンさん、おはようございます。ちょうど今朝の支度をしているところですよ」
「そうでございましたか。では、お食事はいかがなさいますか?」
シリンに尋ねられて、少し考え込むミルフィ。
「宿の方針としては、部屋まで運んできそうですよね。宿としての品位を傷付けたくないですから、部屋で取りますね」
「畏まりました。それでは、準備ができましたらお持ち致しますね」
扉越しの会話を済ませると、階段を降りていく音が聞こえてくる。シリンが朝食を取りに行ったようである。
それを聞いたミルフィは残りの着替えを済ませると、トンカとナンカを起こす。
「お二人に頼みがあります」
寝起きの二人に頼みをするミルフィ。はてさて、一体何を頼んだというのだろうか。二人は少し訝しみはしたが、魔王女たるミルフィの頼みなので聞き入れることにした。
しばらくすると、シリンが従業員数名を連れて戻ってくる。
「お待たせ致しました。朝食をお持ち致しました」
「待ってて下さい。今、開けますね」
ミルフィが扉に近付いて扉を開ける。すると、シリン以外にも三名ほどの従業員がいて、両手に料理を持って立っていた。
「申し訳ございません。お手数をお掛け致しました」
頭を下げ、シリンたちは料理を運び入れている。料理からはいい香りが漂い、ミルフィはちょっと笑顔になっていた。
料理を配膳し終えると、シリンたちが部屋を出ていこうとする。なので、ミルフィはシリンだけを呼び止めていた。
「なんでございますでしょうか、ミルフィ様」
呼び止められて疑問を感じているシリン。
「ちょっとお見せしたいものがあるのです。少しだけよろしいでしょうか」
「は、はい」
にこやかな表情のミルフィに、ついそのように返事をしてしまうシリンである。
ミルフィが合図をすると、トンカとナンカの二人が小さな模型のようなものを出してきた。先程ミルフィが頼んでいたものである。
「エレベーターなるものの模型を作ってみました。ビュフェさんから少しは伺っているかと思います」
「まあ、確かに聞かせて頂きました。風魔法を使った昇降機という風に伺っております」
シリンから返ってきた答えに、にこやかに頷くミルフィである。
「その通りですね。この宿屋は複数階建てです。料理を持って階段の昇り降りは厳しいかと思われます。それを解消するための大型の魔道具なんですよ」
「は、はあ……」
反応が薄いシリンである。想像できないのだから、それも無理はない話なのだ。
そこでミルフィは、トンカとナンカに模型を作らせたというわけだ。二人は手慣れた感じでこのミニチュア模型を作り上げたのである。
模型を使って説明を手短にするミルフィ。その仕組みを聞いたシリンは、驚きのあまり声が出なかった。
「今日はビュフェさんたちとこのエレベーターについてお話をさせて頂く予定です。暇がありましたら、どうでしょう、ご同席なさいますか?」
ミルフィの質問に、シリンはいまだに言葉を失っていた。
「し、しばらく考えさせて頂きたく存じます」
ふらふらとした様子で部屋の外へ出ていくシリンだった。
あまりにもショックの大きい様子だったので、ミルフィはちょっと気がかりになってしまう。
しかし、あまり気にしているとせっかく運ばれてきた料理が冷めてしまうので、気になるけれどもひとまずは朝食を食べることにしたのだった。
「うん、悪くはないわね」
「嬢ちゃんの料理には負けるがな」
「トンカ、正直すぎんだよ。さっきのやつが外に立ってるんだ。少しは気を遣え」
「ナンカ、嘘はよくないぞ、嘘は」
「ほらほら、ケンカしないで下さい。おいしい料理もまずくなってしまいますよ」
暴れそうになったトンカとナンカを窘めるミルフィ。その言葉に二人はしゅんとおとなしくなっていた。
さすが高級宿と謳っているだけあって、味は悪くない。ただ、ミルフィの舌からすると、まだおいしくできそうな感じに思えた。
「それではお待たせしました。ビュフェさんの商会まで向かうこととしましょう」
食事を終えてすっかり準備のできたミルフィは、シリンに声を掛ける。
そして、外出ついでに食器を一緒に運んで降りようとすると、シリンから必死に止められていた。
「この階のお客様にお手伝いさせたとなると宿の信用に関わります。わ、私で片づけますので、どうかご容赦下さい」
「ああ、そういうことなんですね。でしたら仕方ありませんね」
ミルフィも納得したようだった。
入口となる扉に鍵を掛けると、1階のロビーまで移動するミルフィたち。
空の食器を厨房まで運んだシリンと合流して、いざビュフェの商会へと移動を開始したのだった。
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