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第三章
第65話 薬師の無茶な提案
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「ミルフィよ、この薬草を使ってみる気はないか?」
あれからというもの、すっかりメディはミルフィの事を気に入っているようである。ミルフィの作る料理に自分の薬学知識が役に立たないかと、いろいろ提案しにやって来るのである。
最初はゲテモノ食材をそのまま使うような提案をしてきたのだが、乾燥させて粉末にしておくなどの、目立たない方法に切り替えてきていた。薬効が変わらないのであるなら、大した問題にならないからだ。
これにはミルフィもピレシーを呼んで応対している。記憶力や再現する技量は持ち合わせているものの、知識自体はすべて食の魔導書たるピレシーからもたらされているからだ。ミルフィではまったく対処ができないのである。
”やれやれ、よくも飽きずに来るものよな”
「薬は苦いものが多いからな。飲んでもらう工夫というのもするものだよ」
”確かにそうだが。薬頼りというのもよくはあるまい?”
ピレシーの言葉に、メディは舌打ちしながら指を左右に揺らす。
「そうとも限らんのだ。例えば毒だな。食らってから解毒というという方法が一般的だが、食らう前に影響を無効化、もしくは軽減させる耐毒という方法もあるのだ」
”ほう、それは興味深い話だな”
メディのたとえ話に、ピレシーが反応している。もちろん、ミルフィもだ。
「なるほど、事前に耐性をつけておくというわけですか」
ミルフィが顎に手を当てながら、ピレシーと顔を合わせながら唸っている。
「そういう事だな。永続的に軽減できればいいのだが、そう都合のいいものでもあるまい。一時的であるにしろ、そういう効果のある料理があれば、それは人気になるとは思わぬかね?」
メディの提案に、さらに唸るミルフィである。
ミルフィとしてはおいしいだけが伝播できればいいだけだが、それでいて人の助けになるという話は正直考えてもみなかった話なのだ。
”実に面白そうな話だな。つまりは、料理にも魔法のような効果を持たせようというわけか”
「イメージ的にはその方が分かりやすいか。それに、食事であるなら人である以上必ず取らねばならない。そこに魔法や道具を節約できる効果を織り込む事ができるのであるなら、夢のようではないか?」
メディがにやけながら得意げに話している。
ミルフィからすれば、なんて事を思いついてくれたんだという話だ。
とはいえ、これが実現すれば、食による世界征服がまた一歩前進すると思ったようだった。
「……私も面白いとは思いますね。あらゆる場面を食事が支配するわけですから」
「だろう?」
ミルフィが軽く数度頷きながら言うと、メディはとても得意げに胸を張る。しかし、ミルフィは慎重だった。
「ですが、私の目的は世界においしいをあふれさせる事ですからね。人の支配までは目的に入っていませんよ」
「なかなかに無欲よなぁ」
ミルフィが返してきた言葉に、メディも思わず感心してしまう。
ミルフィの目的は、あくまでも『おいしい料理で世界を満たす事』なのである。世界征服とはいってはいるものの、人の行動や心までを支配するつもりはまったくないのである。
「まぁそういうところが私も気に入ったんだがな」
メディは笑っている。
”主よ、今回の事は薬膳というものだ。それはそれと割り切ってみてはいいのではないか?”
「まぁピレシーがそこまで言うのでしたらね……」
難色を示していたミルフィだが、ピレシーに説得される形でメディの提案に乗っかる事にした。
「ふふん、そうこなくてはな」
勝ったとばかりに得意げな顔をするメディである。その表情になんとなく嫌な気分になるミルフィだった。
「まぁしょうがないですね。私の料理で人が救えるのなら、その方がいいわけだし。で、さっきの薬草とやらの効果は何なのでしょうか」
「たとえ話に出した毒消し草だ。普通はこれの搾り汁をポーションに混ぜ合わせて毒消しポーションを作るのだ。味はとにかく苦い。苦しいから味が分からんだけだろうな」
「なるほどですね……」
確かに微妙に漂ってくるにおいは、鼻を妙についてくる。
「でも、いいんですか。薬草の類ってそんなに数が手に入るものでもないでしょうに」
「なに、薬師をしておると需要の高い薬草はついつい自家栽培してしまうものだよ。数ならそんなに気にしなくてもよい」
「あっ、そうですか……」
何気に断ろうとしていたミルフィである。しかし、あっさりその企みは打ち砕かれてしまった。
「毒を受けた後は液体の方がいいでしょうから、耐毒効果のあるお手軽な料理を考えてみますか……」
大きなため息を吐くミルフィである。やっぱり気乗りではなさそうだった。
「何をいうか。冒険の中でもおいしいを確保できるのだぞ。何も目的はぶれてはおるまい」
「……まあそうですね」
結局、ミルフィは薬草を使った料理を考えることになってしまったようだ。
しかも、治療ではなく予防目的というのは、薬師であるメディも未体験の領域である。
まったくの未知への挑戦に、悪戦苦闘の日々が長く続くのは想像に難くなかったのである。
はたして、ミルフィたちは未知への挑戦を無事に達成する事ができるのであろうか。
あれからというもの、すっかりメディはミルフィの事を気に入っているようである。ミルフィの作る料理に自分の薬学知識が役に立たないかと、いろいろ提案しにやって来るのである。
最初はゲテモノ食材をそのまま使うような提案をしてきたのだが、乾燥させて粉末にしておくなどの、目立たない方法に切り替えてきていた。薬効が変わらないのであるなら、大した問題にならないからだ。
これにはミルフィもピレシーを呼んで応対している。記憶力や再現する技量は持ち合わせているものの、知識自体はすべて食の魔導書たるピレシーからもたらされているからだ。ミルフィではまったく対処ができないのである。
”やれやれ、よくも飽きずに来るものよな”
「薬は苦いものが多いからな。飲んでもらう工夫というのもするものだよ」
”確かにそうだが。薬頼りというのもよくはあるまい?”
ピレシーの言葉に、メディは舌打ちしながら指を左右に揺らす。
「そうとも限らんのだ。例えば毒だな。食らってから解毒というという方法が一般的だが、食らう前に影響を無効化、もしくは軽減させる耐毒という方法もあるのだ」
”ほう、それは興味深い話だな”
メディのたとえ話に、ピレシーが反応している。もちろん、ミルフィもだ。
「なるほど、事前に耐性をつけておくというわけですか」
ミルフィが顎に手を当てながら、ピレシーと顔を合わせながら唸っている。
「そういう事だな。永続的に軽減できればいいのだが、そう都合のいいものでもあるまい。一時的であるにしろ、そういう効果のある料理があれば、それは人気になるとは思わぬかね?」
メディの提案に、さらに唸るミルフィである。
ミルフィとしてはおいしいだけが伝播できればいいだけだが、それでいて人の助けになるという話は正直考えてもみなかった話なのだ。
”実に面白そうな話だな。つまりは、料理にも魔法のような効果を持たせようというわけか”
「イメージ的にはその方が分かりやすいか。それに、食事であるなら人である以上必ず取らねばならない。そこに魔法や道具を節約できる効果を織り込む事ができるのであるなら、夢のようではないか?」
メディがにやけながら得意げに話している。
ミルフィからすれば、なんて事を思いついてくれたんだという話だ。
とはいえ、これが実現すれば、食による世界征服がまた一歩前進すると思ったようだった。
「……私も面白いとは思いますね。あらゆる場面を食事が支配するわけですから」
「だろう?」
ミルフィが軽く数度頷きながら言うと、メディはとても得意げに胸を張る。しかし、ミルフィは慎重だった。
「ですが、私の目的は世界においしいをあふれさせる事ですからね。人の支配までは目的に入っていませんよ」
「なかなかに無欲よなぁ」
ミルフィが返してきた言葉に、メディも思わず感心してしまう。
ミルフィの目的は、あくまでも『おいしい料理で世界を満たす事』なのである。世界征服とはいってはいるものの、人の行動や心までを支配するつもりはまったくないのである。
「まぁそういうところが私も気に入ったんだがな」
メディは笑っている。
”主よ、今回の事は薬膳というものだ。それはそれと割り切ってみてはいいのではないか?”
「まぁピレシーがそこまで言うのでしたらね……」
難色を示していたミルフィだが、ピレシーに説得される形でメディの提案に乗っかる事にした。
「ふふん、そうこなくてはな」
勝ったとばかりに得意げな顔をするメディである。その表情になんとなく嫌な気分になるミルフィだった。
「まぁしょうがないですね。私の料理で人が救えるのなら、その方がいいわけだし。で、さっきの薬草とやらの効果は何なのでしょうか」
「たとえ話に出した毒消し草だ。普通はこれの搾り汁をポーションに混ぜ合わせて毒消しポーションを作るのだ。味はとにかく苦い。苦しいから味が分からんだけだろうな」
「なるほどですね……」
確かに微妙に漂ってくるにおいは、鼻を妙についてくる。
「でも、いいんですか。薬草の類ってそんなに数が手に入るものでもないでしょうに」
「なに、薬師をしておると需要の高い薬草はついつい自家栽培してしまうものだよ。数ならそんなに気にしなくてもよい」
「あっ、そうですか……」
何気に断ろうとしていたミルフィである。しかし、あっさりその企みは打ち砕かれてしまった。
「毒を受けた後は液体の方がいいでしょうから、耐毒効果のあるお手軽な料理を考えてみますか……」
大きなため息を吐くミルフィである。やっぱり気乗りではなさそうだった。
「何をいうか。冒険の中でもおいしいを確保できるのだぞ。何も目的はぶれてはおるまい」
「……まあそうですね」
結局、ミルフィは薬草を使った料理を考えることになってしまったようだ。
しかも、治療ではなく予防目的というのは、薬師であるメディも未体験の領域である。
まったくの未知への挑戦に、悪戦苦闘の日々が長く続くのは想像に難くなかったのである。
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