53 / 113
第三章
第53話 交渉は胃袋から
しおりを挟む
”ここら辺は魔界に近い影響か寒冷な地域だ。当然ながら、気温によって育つ植物というのは変わる”
「そうなのですね」
”しかしだ。チェチェカやスェトーのようなものは、本来は温暖でなければ育たん。おそらくは土壌の性質のおかげで育つのだろう”
「ふむふむ……」
ミルフィに対していろいろと説明をしていくピレシーである。
実際、該当するカカオやサトウキビは暖かい地方の作物なのだ。そんなものが普通に育つあたり、魔界に近いゆえの特殊な環境があるのだろう。
しかし、これから料理を行う上では関係ないので、ピレシーもここでぴしゃりと話題を変える。
”あの二人は南方の暖かい地域の出身のようだな。なれば……しばし待たれよ”
ピレシーが黙り込み、光ったかと思うとパラパラとページがめくれていく。どうやら該当する料理を探しているようだった。
食の魔導書を名乗るピレシーにはあらゆる世界のあらゆるレシピが記憶されている。もちろん、ミルフィたちの世界だって例外じゃない。
その中で、レンダとアドンの出身地の料理でありながら、今居る場所で作れるものを検索しているのである。
やがて、はらりとページが止まる。ようやく見つかったようだ。
”うむ、これなら今商会で抱える食材でも作れるな。主よ、準備はよいか?”
「もちのろんですよ」
ピレシーの問い掛けに、にやりと自信たっぷりに返事をするミルフィ。
今までたくさんの料理を作ってきただけに、かなり自信を身につけているようである。
早速、ピレシーの指導の下、ミルフィは調理を開始したのだった。
その頃、レンダとアドンはおもてなしを受けている真っ最中だった。
途中でグリッテからカフェでの仕事を終えて戻ってきたティアに交代したものの、二人は大方満足しているようだ。
「ここは変わったものが多いのですね」
「はい、なんといっても魔界から最も近い街ですから。他の地域では手に入らない、珍しいものがとてもよく手に入るのですよ」
二人の質問に、淡々と答えるティア。さすがに自分たちが魔族だという事はうまく伏せている。
「それはそれとして、私たちはいつまでこうしてればよいのですか?」
「グリッテの話ではミルフィ様は料理に向かわれたようです。ですので、もうしばらくはお待ち頂く事になるでしょう。その間、ミルフィ様付きのメイドである私が、精一杯おもてなしをさせて頂きます」
文句がありそうな二人にも、まったくティアは引かない。なにせ、こんな連中よりも怖い魔王を相手にする事だってあるのだから、肝の据わり方が違うのである。さすがは魔王女付きのメイドである。
(うっかりすれば命も危うい魔界ですからね。このような方々の相手は気が楽です)
そんな中、コンコンと扉が叩かれる。
「お待たせしました。料理が完成したのでお持ちしました」
ミルフィの声である。なので、ティアが慌てて扉を開けに行く。
扉を開けると、ワゴンの上に料理を乗せて運ぶミルフィが現れた。
「こちらで食べられている料理をお二人の住まわれている地域風にアレンジしてみました。それと、お帰りなさい、ティア」
自分のメイドにも挨拶を忘れないミルフィである。
「ただ、食材はこちらで手に入るもので作っておりますので、そちらで作る時には置き換える必要がございますね。あとでお近づきのしるしに、この料理のレシピを差し上げます」
「なっ、レシピをタダで?!」
「はい。その代わり、私の商会の宣伝を頼みますね」
驚く二人に、にっこりと笑うミルフィである。こういうところはちゃっかりとしているのだ。
さて、目の前に置かれたのはシチューのようである。ただ、いつものシチューとは香りが違う。ティアもかなり味覚と嗅覚が肥えているのですぐに分かったようだ。
「煮込み料理は基本的にどこでも行われていますからね。お二人の住む街の味付けである『ちょっと辛い』を頑張ってみました」
にこにことしているミルフィを驚いた顔で眺めるレンダとアドン。とりあえず、ミルフィが自信たっぷりに差し出してきた料理を賞味する事にした。
一口食べて固まる二人。
「むむむっ、これは!」
「なんてうまさだ。確かに私たちの街の味だというのに、うまさが違う」
シチューを食べる手が止まらない。その状況にミルフィは笑みが崩れなかった。
「多分、下処理と煮込み方が悪いんだと思いますよ。具材の処理をうまくしていないので、硬かったり食感が悪かったりしているのだと思われます」
「ふむぅ……」
スプーンですくった肉の塊を見ながら、レンダが唸っている。
「それで、その肉はこの辺りで手に入るボアや魔界鳥の肉を使っています。筋を切ったり叩いて柔らかくしておくと、味が染みやすいですよ。あっ、干し肉なんかもいいですよね」
少し早口になるミルフィ。
「私は世の中をおいしいで埋め尽くすために頑張っています。よろしければ、お二方もお手伝い願えませんか?」
その時のミルフィの表情に、レンダとアドンの手がぴたりと止まる。その時のミルフィに底知れぬ何かを感じたのだ。
とはいえ、これだけのものを連発されてしまっては、二人はこくりと頷くしかなかったのだった。
「そうなのですね」
”しかしだ。チェチェカやスェトーのようなものは、本来は温暖でなければ育たん。おそらくは土壌の性質のおかげで育つのだろう”
「ふむふむ……」
ミルフィに対していろいろと説明をしていくピレシーである。
実際、該当するカカオやサトウキビは暖かい地方の作物なのだ。そんなものが普通に育つあたり、魔界に近いゆえの特殊な環境があるのだろう。
しかし、これから料理を行う上では関係ないので、ピレシーもここでぴしゃりと話題を変える。
”あの二人は南方の暖かい地域の出身のようだな。なれば……しばし待たれよ”
ピレシーが黙り込み、光ったかと思うとパラパラとページがめくれていく。どうやら該当する料理を探しているようだった。
食の魔導書を名乗るピレシーにはあらゆる世界のあらゆるレシピが記憶されている。もちろん、ミルフィたちの世界だって例外じゃない。
その中で、レンダとアドンの出身地の料理でありながら、今居る場所で作れるものを検索しているのである。
やがて、はらりとページが止まる。ようやく見つかったようだ。
”うむ、これなら今商会で抱える食材でも作れるな。主よ、準備はよいか?”
「もちのろんですよ」
ピレシーの問い掛けに、にやりと自信たっぷりに返事をするミルフィ。
今までたくさんの料理を作ってきただけに、かなり自信を身につけているようである。
早速、ピレシーの指導の下、ミルフィは調理を開始したのだった。
その頃、レンダとアドンはおもてなしを受けている真っ最中だった。
途中でグリッテからカフェでの仕事を終えて戻ってきたティアに交代したものの、二人は大方満足しているようだ。
「ここは変わったものが多いのですね」
「はい、なんといっても魔界から最も近い街ですから。他の地域では手に入らない、珍しいものがとてもよく手に入るのですよ」
二人の質問に、淡々と答えるティア。さすがに自分たちが魔族だという事はうまく伏せている。
「それはそれとして、私たちはいつまでこうしてればよいのですか?」
「グリッテの話ではミルフィ様は料理に向かわれたようです。ですので、もうしばらくはお待ち頂く事になるでしょう。その間、ミルフィ様付きのメイドである私が、精一杯おもてなしをさせて頂きます」
文句がありそうな二人にも、まったくティアは引かない。なにせ、こんな連中よりも怖い魔王を相手にする事だってあるのだから、肝の据わり方が違うのである。さすがは魔王女付きのメイドである。
(うっかりすれば命も危うい魔界ですからね。このような方々の相手は気が楽です)
そんな中、コンコンと扉が叩かれる。
「お待たせしました。料理が完成したのでお持ちしました」
ミルフィの声である。なので、ティアが慌てて扉を開けに行く。
扉を開けると、ワゴンの上に料理を乗せて運ぶミルフィが現れた。
「こちらで食べられている料理をお二人の住まわれている地域風にアレンジしてみました。それと、お帰りなさい、ティア」
自分のメイドにも挨拶を忘れないミルフィである。
「ただ、食材はこちらで手に入るもので作っておりますので、そちらで作る時には置き換える必要がございますね。あとでお近づきのしるしに、この料理のレシピを差し上げます」
「なっ、レシピをタダで?!」
「はい。その代わり、私の商会の宣伝を頼みますね」
驚く二人に、にっこりと笑うミルフィである。こういうところはちゃっかりとしているのだ。
さて、目の前に置かれたのはシチューのようである。ただ、いつものシチューとは香りが違う。ティアもかなり味覚と嗅覚が肥えているのですぐに分かったようだ。
「煮込み料理は基本的にどこでも行われていますからね。お二人の住む街の味付けである『ちょっと辛い』を頑張ってみました」
にこにことしているミルフィを驚いた顔で眺めるレンダとアドン。とりあえず、ミルフィが自信たっぷりに差し出してきた料理を賞味する事にした。
一口食べて固まる二人。
「むむむっ、これは!」
「なんてうまさだ。確かに私たちの街の味だというのに、うまさが違う」
シチューを食べる手が止まらない。その状況にミルフィは笑みが崩れなかった。
「多分、下処理と煮込み方が悪いんだと思いますよ。具材の処理をうまくしていないので、硬かったり食感が悪かったりしているのだと思われます」
「ふむぅ……」
スプーンですくった肉の塊を見ながら、レンダが唸っている。
「それで、その肉はこの辺りで手に入るボアや魔界鳥の肉を使っています。筋を切ったり叩いて柔らかくしておくと、味が染みやすいですよ。あっ、干し肉なんかもいいですよね」
少し早口になるミルフィ。
「私は世の中をおいしいで埋め尽くすために頑張っています。よろしければ、お二方もお手伝い願えませんか?」
その時のミルフィの表情に、レンダとアドンの手がぴたりと止まる。その時のミルフィに底知れぬ何かを感じたのだ。
とはいえ、これだけのものを連発されてしまっては、二人はこくりと頷くしかなかったのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる