メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

文字の大きさ
上 下
34 / 113
第二章

第34話 初めての定期休業日明け

しおりを挟む
 休業日が明けて、また3日間の営業日が始まる。
 1日設けた休業日がどう影響するのか心配なミルフィは、接客用の制服に着替えて従業員として紛れていた。

「ミルフィ様、結局その制服着られておられるんですね」

 開店準備中の従業員から突っ込まれるミルフィ。よく見ると顔が真っ赤である。どうやら相当に恥ずかしいらしい。

「休み挟みましたし、昨日の休業を利用して開いた料理教室の影響を確認したいんですよ」

 ミルフィはすごく恥ずかしがりながらも、制服を着てやって来た理由を話していた。

「さすが会長ですね。ミルフィ様自ら現場の確認だなんて、素晴らしいと思います」

「ああ、私この商会で働けて幸せですよ」

 従業員たちはミルフィにめろめろのようだった。さすがは魔王の娘である魔王女だ。カリスマは一級品なのである。
 何とも言えないような表情をしながらも、ミルフィは従業員たちに声を掛ける。

「む、無駄話はそのくらいにして準備を始めて下さい。もうそろそろ開店の時間ですよ」

「はい!」

 ミルフィの呼び掛けに従業員たちは元気よく返事をする。そして、それぞれの持ち場に散って開店準備を再開していた。

(まったく、人の事をからかってきて、しょうがない人たちですね……。でも、楽しそうでなによりですよ)

 ミルフィは両手を腰に当てながら、ふぅっと息を吐きながら呆れていた。
 ちなみにだが、ミルフィの制服だけは他の従業員たちとは違う。それというのもピレシーが魔力でよその世界の服を再現しているためだ。服の材質や細かい意匠も違っている。靴下の履き口がリボンではなくゴムになっているのも、ミルフィの制服限定である。
 他の従業員たちも似合ってはいるのだが、さすがミルフィというべきか、その制服が一番似合っている上に元々の可愛らしさが引きたっている。

”くくく、今日は忙しくなりそうだな、主”

 邪悪な笑いを浮かべながら、ピレシーが突然現れる。

「まったく、何を言っているんですかね、この魔導書は……」

”主はもう少し自分の魅力というものを自覚した方がいいぞ。過小評価はもったいないぞ”

「こんなちんちくりんのどこに魅力があるというんですか……。みなさん、そんなに物好きなんですかね」

 ピレシーの言い分をまったくもって聞き入れないミルフィである。その言い分を聞いて、ピレシーは開いたページを下にしてくるくると回っている。どうやらうんざりしているようである。

”やれやれ、食にかける情熱は本物と思っていたが、自覚が足りないようだな。我の言っていた事はすぐに分かる、覚悟しておく事だな”

「はいはい。準備の邪魔になるから、とりあえず今はどいておいて下さいね」

”うむ、必要があればいつでも呼ぶのだぞ”

 ピレシーはそう言いながら姿を消した。
 ピレシーにいろいろからかわれたものだから、ミルフィはため息を吐きながら準備へと戻ったのだった。

 そして、休業日明けの営業が始まろうとしていた。
 だが、この時点で既に事件は起きていた。

「み、ミルフィ様!」

「どうしたのですか。何か問題でも起きましたか?」

「そ、外を見て下さい」

「外?」

 慌てる従業員の様子に、ゆっくりと窓から外へと視線を落とすミルフィ。
 だが、そこに広がっていた光景を見て、思い切り見開いてしまう。

「えっ、何これ……」

 ミルフィが見たのは、開店を今かと待つお客の群れだった。

「ちょっと、なんでこんなに人が来ているのよ」

「こっちが聞きたいですよ……」

 思わぬ来客数に驚いてしまうミルフィ。

「参ったわね、今の仕込みの数じゃ対応できないわ。ピレシー」

”どうされたかな、主”

「今すぐティアを呼んできて。厨房の応援よ」

”心得た”

 ピレシーはふっと姿を消した。

「ミルフィ様、今のは……?」

「説明は後です。私も厨房に入りますので、もう少しだけお客さんたちを押さえておいて下さい」

「わ、分かりました」

 店員たちに対応を指示して、ミルフィは厨房へと降りていく。

「みなさん、仕込みの量を増やしますよ。材料はどうにかしますから」

「ど、どうされたんですか、ミルフィ様」

「外にお客さんが押し寄せているんですよ。この分だと、朝だけで昼の分まで消耗しそうです」

「なんてこった!」

 困ったような声を出しながらも、顔はとても嬉しそうにしている。その様子に思わず顔が歪んでしまうミルフィである。

「え……っと……」

「たくさん料理ができるっていうんなら、料理人冥利に尽きるってもんよ。やるぞ、みんな!」

「おおーっ!」

 料理人たちはみんな燃えていた。あまりにやる気に満ちているものだから、ミルフィもついつい感心した顔になってしまう。

「……まったくですね。せっかく来て下さっているんですから、がっかりさせないために私も腕を振るいますか」

「ミルフィ様自らですか。こいつぁ、しっかりやらねえとな」

 料理人たちはますます気合いが入っていたようだった。
 こうして、いつもの倍くらいの仕込みの見通しが立ったところで、店内の準備をしていた従業員に声を掛ける。

「店を開けて下さい。まだちょっと早いですけれど、これ以上待たせるわけにはいけませんからね!」

「分かりました」

 ミルフィの声で店が開けられると、待っていた客がなだれ……込まなかった。
 みんな順番に待って、落ち着いて注文をしていく。
 こうして、休業日明けの営業日の朝は始まったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜
ファンタジー
桜木愛、二十五歳。王道のトラック事故により転生した先は、剣と魔法のこれまた王道の異世界だった。 アレキサンドライト帝国の公爵令嬢ミア・モルガナイトとして生まれたわたしは、五歳にして自身の属性が限りなく悪役令嬢に近いことを悟ってしまう。 どうせ生まれ変わったなら、悪役令嬢にありがちな処刑や追放バッドエンドは回避したい! 更正生活を送る中、ただひとつ、王道から異なるのが……『悪役令嬢』のライバルポジション『光の聖女』は、わたしの前世のお母さんだった……!? これは双子の皇子や聖女と共に、皇帝陛下の憂鬱を晴らすべく、各地の異変を解決しに向かうことになったわたしたちの、いろんな形の家族や愛の物語。 ★表紙イラスト……rin.rin様より。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。  これが全ての始まりだった。 声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。  なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。 加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。  平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。 果たして、芳乃の運命は如何に?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

処理中です...