メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

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第一章

第23話 こねこね

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 新しく来た従業員に仕事を覚えさせて少し余裕のできたミルフィ。
 ようやく事務の仕事もプレツェに任せられるようになったので、久々に料理に手をつけてみようとするミルフィである。
 しかし、肝心の食材が少ない。オーソンの伝手で冒険者組合からも食材を仕入れられるようにしたものの、思ったより種類がないのだ。それこそ、魔界から仕入れるボアやブルがメインになってしまう。さすがにこれ以上魔界のものを増やすと、自分たちが魔族だとバレてしまう。さすがにそれは避けたいと、ミルフィは頭を悩ませた。
 とはいえ、自分の目標は食による世界征服だ。こんなところで足踏みをするわけにもいかなかった。

(よし、新しい料理を作りましょう!)

 うだうだ考え込むよりもまずは行動。ミルフィはそう思い立って厨房へと赴いた。

”主よ、今日は何を作るつもりだ?”

 ピレシーが勝手に出てきた。

「肉料理ですね。パンも定着してきましたから、何かいろいろと変えてみたいのです」

 ピレシーの質問に答えつつ、首を捻って悩むミルフィである。あまりに考え込むミルフィだったので、ピレシーは見かねていた。

”主、ソースを作ったのだから、以前のボアカツとパンを組み合わせてボアカツサンドを作ろうではないか”

「サンド?」

”そうだ。パンで食べ物を挟み込んだ料理を、サンドウィッチと呼ぶ。以前に焼いたウルフ肉で作ったであろう? あれに種類を持たせようというわけだ”

「なるほど……」

 サンドウィッチを作ろうという流れになったはずが、ピレシーが用意させた食材にパンがなかった。一体何を作るというのだろう。

”サンドウィッチの前に肉料理に幅を持たせるという主の意思を尊重しようと考えた。これから作るのは『ハンバーグ』なるものだ”

 目の前に並ぶのは、ボアの肉、ウルフの肉、魔界鳥の卵だ。それに塩と胡椒もある。

”では、作り方を教えていくぞ。まずはボアの肉とウルフの肉を細かい塊に切って、それを包丁で叩きながら切っていくのだ”

「こ、こう?」

 肉を薄くスライスにして、それをさらに細く切る。それを寄せ集めて今度は包丁で叩き切りにする。しばらくすると粘り気が出てきた。

”うむ、いい感じだな。ただ、ここに居る従業員の人数分には足りぬ。その20倍の量は作らねばな”

「ええ?!」

 この分量でも結構大変だったのに、その20倍とは……。ミルフィは仕方なく肉を刻んでいった。

”ひき肉はこのくらいで十分だ。主ならば次からは魔法で再現できるようになるだろう”

「……はっ、そうだった!」

 今さらながらに魔法の存在を思い出したミルフィだった。魔王女なのにとんだ失態である。

”次は塩と胡椒、魔界鳥の卵を割り入れて捏ねていくのだ”

 大きな塊となっているひき肉に、塩と胡椒、魔界鳥の卵を5個ほど割入れて、混ぜながら捏ね上げていく。

「うひゃあ、ねばねばして気持ち悪い……」

”我慢ですぞ、主”

 本当に嫌そうな顔をしているミルフィ。お姫様なら普通は経験するようなものではないから、単純に慣れの問題だろう。パンを作る時も捏ねてはいたのだが、その時と今回はそれだけ感触が違うのだろう。
 どうにかピレシーのストップがかかるくらいまで捏ね合わせたミルフィ。さすがにここまで重労働だったので、少し疲れた顔をしているようだ。

”分量が多すぎたかな。だが、まだ終わりではありませんぞ、主”

「ここまで来たら作り上げてみせるわよ」

 ピレシーに言われて、意地になるミルフィ。少し座って休んだので、再びひき肉の塊に向かう。

”そこから主の握った手の半分ほどの塊をちぎり取って平たい楕円型にするのだ。手で押さえて伸ばして、それを手に取って両手の間で投げ渡すように往復させる。そうやって中の空気を抜くのだ”

「むむ、こうね?」

 両手の間で肉がペタペタと言いながら空中を往復する。

”そうだ。空気をうまく抜いておかねば、焼いた時に膨らんで弾けてしまうからな”

「なるほどね……」

 ミルフィは1つ、またた1つとハンバーグの形を整えていく。作り終わると20個ほどのハンバーグができ上がっていた。

「ふぅ……なんとかでき上がったけど、改めて料理って大変ね」

”見た目、食感、味を調えるとなると、それは手間暇がかかるものだ。真のおいしいへ至る道というのは簡単なものではないのだぞ?”

「うん、よく分かったわ」

 ピレシーの言葉に笑顔で答えるミルフィ。これで諦めるようなミルフィではなかった。
 水魔法で手をきれいに洗ったミルフィは、いよいよ焼きの作業に入っていく。

”最後は焼きだな。油を引いて十分に熱したプライパンに、成形したハンバーグを真ん中をへこませるようにしながら敷くのだ”

「こうね?」

 フライパンを十分熱して肉を置くミルフィ。ゆっくりと片面を焼き、それをひっくり返してもう片面を焼いていく。

「もう大丈夫?」

”うむ、十分火が通っておる。それを皿に盛り付けて完成だ”

 お皿に置いたハンバーグからは湯気が上がっており、見るからにおいしそうな焼き色がついていた。あまりの出来ばえに、ミルフィはつい食べてみたくなってしまう。

”試食をするなら、ここの料理人を呼んでからの方がいいだろう。教えるついでに残りのハンバーグを焼こうではないか”

「うん、分かりました」

 こうしてミルフィは、なんと初めて自力で料理を覚えたのだった。
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