17 / 113
第一章
第17話 おいしいを伝播せよ
しおりを挟む
料理の種類を増やしたミルフィは、オーソンの経営するレストランへとやって来た。
パンとチョコレートとケーキはロンとグリッテでも十分だし、プレツェもだいぶ経営に慣れてきた。なので、任せておいても大丈夫と判断したからだ。
「ごめん下さいな」
「これはミルフィさん、どうなさったのですか?」
「私も厨房に参加しに来ました」
ミルフィが伝えてきた用件に、思わず驚いてしまうオーソンである。
仮にも商会のトップである。そんなミルフィが厨房に立つというのだから、オーソンとしては驚くしかなかったというわけである。
しかし、ミルフィの食への情熱を見る限り、納得ができてしまう。
「分かりました。とりあえず中にお入り下さい」
「お邪魔致します」
レストランの中へと入っていくミルフィは、早速支度を始める。もわもわとした髪の毛は後ろで縛って頭巾をかぶる。ドレスの上からエプロンを着けて、いざ臨戦態勢の完成だ。
ところが、突然やって来たミルフィに、以前の事があるとはいっても周りはあまりいい顔をしている感じではなかった。
「私の作る料理は、もちろんメニューとしては出しませんよ。いきなり変わっちゃったらお客さんたちもびっくりするでしょうからね」
調理の準備をしながら、ミルフィは料理人たちに言葉を掛ける。しかし、それでも料理人たちからの視線は厳しかった。
「お気遣いありがとうございます。ですが、そう思われるのならどうしてこちらに?」
料理長であるコークがミルフィに疑問をぶつける。それに対してミルフィはにこりと微笑んだ。
「このレストランのレベルを上げるためです。おいしくて唯一となれば、人は集まると思うんですよね。そりゃ、他の飲食店からは睨まれるでしょうけど」
そう言いながらミルフィは腕を組んで悩む仕草を見せる。
「最終的な私の目標は、私の料理を世界に広げる事。ここを足掛かりにまずは街全体の料理を変貌させてみせるわ」
真っすぐできれいな瞳をしながらきっぱりと言い切るミルフィ。
見た目が若いミルフィがここまできっぱり言ってしまえば、厨房に居る料理人たちはもう言葉を失った。
「ここにお邪魔するのは、商会の立ち上げとかでオーソンさんにお世話になったから。恩返しだと思って下さい」
「分かりました。ですが、うちの連中にも少し教えてあげてもらえませんか? 夕方からお試しで料理を切り替えてみたいと思いますので」
「そうですね。それでいきましょうか」
コークとの間で話がついた。それに伴って、料理人が数人ミルフィについて料理を学ぶ事となった。プライドはあるものの、料理長であるコークの判断なので従うしかないのである。
この日のために、ミルフィはここ数日間ピレシーから厳しい指導を受けてきた。その成果を今こそ発揮する時なのである。
ミルフィは空中に手を突っ込んで何かを取り出す。それを見た料理人たちはぎょっとした。
実はこれもピレシーの持つ能力の一つだ。食材限定の収納魔法だ。食材限定なあたりがさすがピレシーという感じである。
取り出したのはウルフ肉。それを薄切りにして塩コショウをまぶしておく。
それを軽く両面を焼いて、焼いて二つに切ってあったパンに野菜と一緒に挟み込む。
言わずと知れたサンドウィッチである。
「ちょっとした軽食にいいかと思うんですけれど、ちょっと味わってみますか?」
にっこりとして料理を学びに来た料理人に差し出すミルフィ。その笑顔にやられた一人の料理人が、ついついそれを手に取って口に放り込んだ。
「これは、思ったよりもおいしいぞ。こんなシンプルな作り方だというのに……」
「パンにものを挟むという考え方自体がなかったみたいなので、目新しさと手軽さで広がると思いますよ。なにせ持ち運びもできますしね」
「ふうむ……」
「それに、ウルフ肉なら手に入れやすいですからね。冒険者たちにも広がると思いますよ」
にやりと笑ったミルフィは、サンドイッチ用のパンを焼くために小麦粉と塩と酵母を取り出していた。
ボウルに放り込んだ小麦粉に塩と酵母を混ぜ合わせてから、水魔法で出した水を放り込んで捏ねていくミルフィ。すかさずパンを作り始めたのだ。
料理人たちはその作り方をじっくり見ている。
簡単な料理だったとはいえど、ミルフィの腕前というものを見せられたので認めざるを得なかったのだ。
発酵から焼き加減まで、学ぶために真剣に見入る料理人たち。そして、焼き上がったパンの仕上がりに感嘆の声を漏らしていた。
「魔法で短縮すると楽なんですけどね。みなさんが使えるとは限らないので、魔法による時間短縮なしでやってみました。試食してみて下さい」
ミルフィが笑顔で勧めてくるので、料理人たちはぱくりと口に放り込む。
「ミルフィ商会のパンの味だ……」
どういうわけか感動を覚える料理人たちだった。どうやらすっかり浸透しているようである。
「もっといろんな料理を教えて下さい」
「はい、いいですよ。おいしい料理で街を埋め尽くしましょう」
料理人たちがミルフィに対して頭を下げてくるので、ミルフィは笑顔で了承するのだった。
ミルフィの料理による世界征服は、こうして一歩前進したのである。
パンとチョコレートとケーキはロンとグリッテでも十分だし、プレツェもだいぶ経営に慣れてきた。なので、任せておいても大丈夫と判断したからだ。
「ごめん下さいな」
「これはミルフィさん、どうなさったのですか?」
「私も厨房に参加しに来ました」
ミルフィが伝えてきた用件に、思わず驚いてしまうオーソンである。
仮にも商会のトップである。そんなミルフィが厨房に立つというのだから、オーソンとしては驚くしかなかったというわけである。
しかし、ミルフィの食への情熱を見る限り、納得ができてしまう。
「分かりました。とりあえず中にお入り下さい」
「お邪魔致します」
レストランの中へと入っていくミルフィは、早速支度を始める。もわもわとした髪の毛は後ろで縛って頭巾をかぶる。ドレスの上からエプロンを着けて、いざ臨戦態勢の完成だ。
ところが、突然やって来たミルフィに、以前の事があるとはいっても周りはあまりいい顔をしている感じではなかった。
「私の作る料理は、もちろんメニューとしては出しませんよ。いきなり変わっちゃったらお客さんたちもびっくりするでしょうからね」
調理の準備をしながら、ミルフィは料理人たちに言葉を掛ける。しかし、それでも料理人たちからの視線は厳しかった。
「お気遣いありがとうございます。ですが、そう思われるのならどうしてこちらに?」
料理長であるコークがミルフィに疑問をぶつける。それに対してミルフィはにこりと微笑んだ。
「このレストランのレベルを上げるためです。おいしくて唯一となれば、人は集まると思うんですよね。そりゃ、他の飲食店からは睨まれるでしょうけど」
そう言いながらミルフィは腕を組んで悩む仕草を見せる。
「最終的な私の目標は、私の料理を世界に広げる事。ここを足掛かりにまずは街全体の料理を変貌させてみせるわ」
真っすぐできれいな瞳をしながらきっぱりと言い切るミルフィ。
見た目が若いミルフィがここまできっぱり言ってしまえば、厨房に居る料理人たちはもう言葉を失った。
「ここにお邪魔するのは、商会の立ち上げとかでオーソンさんにお世話になったから。恩返しだと思って下さい」
「分かりました。ですが、うちの連中にも少し教えてあげてもらえませんか? 夕方からお試しで料理を切り替えてみたいと思いますので」
「そうですね。それでいきましょうか」
コークとの間で話がついた。それに伴って、料理人が数人ミルフィについて料理を学ぶ事となった。プライドはあるものの、料理長であるコークの判断なので従うしかないのである。
この日のために、ミルフィはここ数日間ピレシーから厳しい指導を受けてきた。その成果を今こそ発揮する時なのである。
ミルフィは空中に手を突っ込んで何かを取り出す。それを見た料理人たちはぎょっとした。
実はこれもピレシーの持つ能力の一つだ。食材限定の収納魔法だ。食材限定なあたりがさすがピレシーという感じである。
取り出したのはウルフ肉。それを薄切りにして塩コショウをまぶしておく。
それを軽く両面を焼いて、焼いて二つに切ってあったパンに野菜と一緒に挟み込む。
言わずと知れたサンドウィッチである。
「ちょっとした軽食にいいかと思うんですけれど、ちょっと味わってみますか?」
にっこりとして料理を学びに来た料理人に差し出すミルフィ。その笑顔にやられた一人の料理人が、ついついそれを手に取って口に放り込んだ。
「これは、思ったよりもおいしいぞ。こんなシンプルな作り方だというのに……」
「パンにものを挟むという考え方自体がなかったみたいなので、目新しさと手軽さで広がると思いますよ。なにせ持ち運びもできますしね」
「ふうむ……」
「それに、ウルフ肉なら手に入れやすいですからね。冒険者たちにも広がると思いますよ」
にやりと笑ったミルフィは、サンドイッチ用のパンを焼くために小麦粉と塩と酵母を取り出していた。
ボウルに放り込んだ小麦粉に塩と酵母を混ぜ合わせてから、水魔法で出した水を放り込んで捏ねていくミルフィ。すかさずパンを作り始めたのだ。
料理人たちはその作り方をじっくり見ている。
簡単な料理だったとはいえど、ミルフィの腕前というものを見せられたので認めざるを得なかったのだ。
発酵から焼き加減まで、学ぶために真剣に見入る料理人たち。そして、焼き上がったパンの仕上がりに感嘆の声を漏らしていた。
「魔法で短縮すると楽なんですけどね。みなさんが使えるとは限らないので、魔法による時間短縮なしでやってみました。試食してみて下さい」
ミルフィが笑顔で勧めてくるので、料理人たちはぱくりと口に放り込む。
「ミルフィ商会のパンの味だ……」
どういうわけか感動を覚える料理人たちだった。どうやらすっかり浸透しているようである。
「もっといろんな料理を教えて下さい」
「はい、いいですよ。おいしい料理で街を埋め尽くしましょう」
料理人たちがミルフィに対して頭を下げてくるので、ミルフィは笑顔で了承するのだった。
ミルフィの料理による世界征服は、こうして一歩前進したのである。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
神槍のルナル
未羊
ファンタジー
人間と魔族たちが争う世界。剣と魔法のファンタジーものです。
主人公は槍使いのルナルという女性で、彼女を中心とした群像劇です。
設定も展開もよくあるものだと思います。
世界観は一番最初の話をお読み下さい。
更新は不定期ですが、予約投稿で18時固定更新です。
別の投稿サイトで執筆していましたが、どうにも終盤の展開で行き詰って放置になってしまいましたが、このたび、改稿・編集を行いつつ再び最初から執筆をして完結を目指してまいります。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件
有沢天水
ファンタジー
立花烈はある日、不思議な鏡と出会う。鏡の中には死んだはずの妹によく似た少女が写っていた。烈が鏡に手を触れると、閃光に包まれ、気を失ってしまう。烈が目を覚ますと、そこは自分の知らない世界であった。困惑する烈が辺りを散策すると、多数の屈強な男に囲まれる一人の少女と出会う。烈は助けようとするが、その少女は瞬く間に屈強な男たちを倒してしまった。唖然とする烈に少女はにやっと笑う。彼の目に真っ赤に燃える赤髪と、金色に光る瞳を灼き付けて。王国の存亡を左右する少年と少女の物語はここから始まった!
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
RiCE CAkE ODySSEy
心絵マシテ
ファンタジー
月舘萌知には、決して誰にも知られてならない秘密がある。
それは、魔術師の家系生まれであることと魔力を有する身でありながらも魔術師としての才覚がまったくないという、ちょっぴり残念な秘密。
特別な事情もあいまって学生生活という日常すらどこか危うく、周囲との交友関係を上手くきずけない。
そんな日々を悶々と過ごす彼女だが、ある事がきっかけで窮地に立たされてしまう。
間一髪のところで救ってくれたのは、現役の学生アイドルであり憧れのクラスメイト、小鳩篠。
そのことで夢見心地になる萌知に篠は自身の正体を打ち明かす。
【魔道具の天秤を使い、この世界の裏に存在する隠世に行って欲しい】
そう、仄めかす篠に萌知は首を横に振るう。
しかし、一度動きだした運命の輪は止まらず、篠を守ろうとした彼女は凶弾に倒れてしまう。
起動した天秤の力により隠世に飛ばされ、記憶の大半を失ってしまった萌知。
右も左も分からない絶望的な状況化であるも突如、魔法の開花に至る。
魔術師としてではなく魔導士としての覚醒。
記憶と帰路を探す為、少女の旅程冒険譚が今、開幕する。
エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
ポリ 外丸
ファンタジー
普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。
海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。
その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。
もう一度もらった命。
啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。
前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる