メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

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第一章

第17話 おいしいを伝播せよ

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 料理の種類を増やしたミルフィは、オーソンの経営するレストランへとやって来た。
 パンとチョコレートとケーキはロンとグリッテでも十分だし、プレツェもだいぶ経営に慣れてきた。なので、任せておいても大丈夫と判断したからだ。

「ごめん下さいな」

「これはミルフィさん、どうなさったのですか?」

「私も厨房に参加しに来ました」

 ミルフィが伝えてきた用件に、思わず驚いてしまうオーソンである。
 仮にも商会のトップである。そんなミルフィが厨房に立つというのだから、オーソンとしては驚くしかなかったというわけである。
 しかし、ミルフィの食への情熱を見る限り、納得ができてしまう。

「分かりました。とりあえず中にお入り下さい」

「お邪魔致します」

 レストランの中へと入っていくミルフィは、早速支度を始める。もわもわとした髪の毛は後ろで縛って頭巾をかぶる。ドレスの上からエプロンを着けて、いざ臨戦態勢の完成だ。
 ところが、突然やって来たミルフィに、以前の事があるとはいっても周りはあまりいい顔をしている感じではなかった。

「私の作る料理は、もちろんメニューとしては出しませんよ。いきなり変わっちゃったらお客さんたちもびっくりするでしょうからね」

 調理の準備をしながら、ミルフィは料理人たちに言葉を掛ける。しかし、それでも料理人たちからの視線は厳しかった。

「お気遣いありがとうございます。ですが、そう思われるのならどうしてこちらに?」

 料理長であるコークがミルフィに疑問をぶつける。それに対してミルフィはにこりと微笑んだ。

「このレストランのレベルを上げるためです。おいしくて唯一となれば、人は集まると思うんですよね。そりゃ、他の飲食店からは睨まれるでしょうけど」

 そう言いながらミルフィは腕を組んで悩む仕草を見せる。

「最終的な私の目標は、私の料理を世界に広げる事。ここを足掛かりにまずは街全体の料理を変貌させてみせるわ」

 真っすぐできれいな瞳をしながらきっぱりと言い切るミルフィ。
 見た目が若いミルフィがここまできっぱり言ってしまえば、厨房に居る料理人たちはもう言葉を失った。

「ここにお邪魔するのは、商会の立ち上げとかでオーソンさんにお世話になったから。恩返しだと思って下さい」

「分かりました。ですが、うちの連中にも少し教えてあげてもらえませんか? 夕方からお試しで料理を切り替えてみたいと思いますので」

「そうですね。それでいきましょうか」

 コークとの間で話がついた。それに伴って、料理人が数人ミルフィについて料理を学ぶ事となった。プライドはあるものの、料理長であるコークの判断なので従うしかないのである。

 この日のために、ミルフィはここ数日間ピレシーから厳しい指導を受けてきた。その成果を今こそ発揮する時なのである。
 ミルフィは空中に手を突っ込んで何かを取り出す。それを見た料理人たちはぎょっとした。
 実はこれもピレシーの持つ能力の一つだ。食材限定の収納魔法だ。食材限定なあたりがさすがピレシーという感じである。
 取り出したのはウルフ肉。それを薄切りにして塩コショウをまぶしておく。
 それを軽く両面を焼いて、焼いて二つに切ってあったパンに野菜と一緒に挟み込む。
 言わずと知れたサンドウィッチである。

「ちょっとした軽食にいいかと思うんですけれど、ちょっと味わってみますか?」

 にっこりとして料理を学びに来た料理人に差し出すミルフィ。その笑顔にやられた一人の料理人が、ついついそれを手に取って口に放り込んだ。

「これは、思ったよりもおいしいぞ。こんなシンプルな作り方だというのに……」

「パンにものを挟むという考え方自体がなかったみたいなので、目新しさと手軽さで広がると思いますよ。なにせ持ち運びもできますしね」

「ふうむ……」

「それに、ウルフ肉なら手に入れやすいですからね。冒険者たちにも広がると思いますよ」

 にやりと笑ったミルフィは、サンドイッチ用のパンを焼くために小麦粉と塩と酵母を取り出していた。
 ボウルに放り込んだ小麦粉に塩と酵母を混ぜ合わせてから、水魔法で出した水を放り込んで捏ねていくミルフィ。すかさずパンを作り始めたのだ。
 料理人たちはその作り方をじっくり見ている。
 簡単な料理だったとはいえど、ミルフィの腕前というものを見せられたので認めざるを得なかったのだ。
 発酵から焼き加減まで、学ぶために真剣に見入る料理人たち。そして、焼き上がったパンの仕上がりに感嘆の声を漏らしていた。

「魔法で短縮すると楽なんですけどね。みなさんが使えるとは限らないので、魔法による時間短縮なしでやってみました。試食してみて下さい」

 ミルフィが笑顔で勧めてくるので、料理人たちはぱくりと口に放り込む。

「ミルフィ商会のパンの味だ……」

 どういうわけか感動を覚える料理人たちだった。どうやらすっかり浸透しているようである。

「もっといろんな料理を教えて下さい」

「はい、いいですよ。おいしい料理で街を埋め尽くしましょう」

 料理人たちがミルフィに対して頭を下げてくるので、ミルフィは笑顔で了承するのだった。
 ミルフィの料理による世界征服は、こうして一歩前進したのである。
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