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第一章
第16話 とどまらない野望
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「いやはや、すごいものですな」
オーソンが驚きと感心の混ざった声を出している。
なにせ目の前でスェトーがすくすくと育っていっているからだ。
「私は食で世界を幸せにするつもりでいます。ですから、争いを生まないためにしばらくはスェトーを自前で用意させて頂きますね」
「それは助かりますね。先日の大量購入のせいでかなり値が上がってしまいましたから」
ミルフィの言い分に、オーソンは腕を組みながら何度となく頷いていた。
「それにしても、こんな魔法を疲れる事なく発動できるとは……。ミルフィさん、あなたは一体何者なのですか?」
「ふふっ、内緒ですよ、内緒。私たちは商業的なつながりがあるのです。秘密の一つや二つあっても、別に不思議ではないのですか?」
驚きながら尋ねてくるオーソンに、ミルフィはにこやかに答えていた。
「はっはっはっ、その通りですな。手の内はすべて明かさないというのは鉄則ですからな」
オーソンは大笑いをして納得していた。
「いやあ、気に入りましたよ。その若さでそこまで悟っておられるとは、将来が実に楽しみだ。これからもよい付き合いをさせてもらいましょう」
笑いながら商会を出て行くオーソンを、にこやかにミルフィは見送っていた。
「さて、ロンとグリッテは甘味を作っている最中かしらね」
「はい、すっかり作業にも慣れていますので、ケーキとチョコレートを安定して作れるようになっています」
「そうですか。さすがはティアが選んだメイドたちですね」
しっかり者のメイドたちに、ミルフィは満足げである。選んだのは自分じゃないのに鼻高々といった感じだった。
ひとまず満足したミルフィだったが、次なる手を考え始めていた。
「甘味はこれだけでとりあえずいいかしらね。ピレシー、次に手をつけるとしたらどこでしょうか」
”正直デザートはもう一つ欲しいところだが、そうなると次はメインの料理といったところだな”
「デザートって何を作るのです?」
”プリンだ。こういう手の話では必ずと言っていいほど出てくる、卵とスェトーを使ったデザートだ”
「へえ、面白そう」
さすがはあらゆる世界の食に通じている魔導書である。どうやらその知識は変な世界にまで及んでいるようだった。
”ただ、作ろうとすると卵の絶対量が足りぬ。ケーキだけでも卵は使うからな、今は我慢といったところか……”
ピレシーがとても残念そうにしていた。この魔導書でも悔しがるって事があるようだった。どこか人間じみた不思議な魔導書なのである。
”というわけだ。まずは今ある料理をよくする事から始めるとしよう”
「そうこなくっちゃ」
ピレシーの声に呼応するミルフィである。
”となると、単純な料理であるステーキからだな。あれは焼き方ひとつでかなり印象が変わってくる。それを主に教えこもうではないか”
「やってやろうじゃありませんか」
ピレシーが提案すると、ミルフィはめちゃくちゃやる気になっていた。さすがは食で世界を支配しようとたくらむ魔王女様である。料理を覚える事にはとてもどん欲になっていた。
そんなわけで、スェトーの世話をしばらくティアに任せて、ミルフィは厨房へと向かった。
「うーん、使用人を増やさないといけませんね。この広さに加えて料理も作るとなると、三人では全然足りませんね」
”この街の人間を雇うというのはどうだろうか。将来的な展開を考えると、街の人間も取り込んでおかねばいかぬぞ?”
「それもそうですね。いつまでも魔族だけでやっているわけにはいきませんものね。人間たちを受け入れないと、信じてもらう事も難しい……。魔族と知られたくないだけに悩ましいですね」
ミルフィはすごく頭を悩ませていた。
”それこそ、あのオーソンという男を使うのだな。あの分ではかなり主の事を評価している。頼めば人を見繕う事くらいやってくれそうだぞ?”
「ああ、確かにそうですね。でも、こちらの警戒がある以上、向こうがよくても私たちの方をどうにかしませんとね。特に護衛たちが人間に信用を置いてませんからね……」
ミルフィはティアの護衛に残してきたピアズの方を見ている。そして、再び前と向き直すとため息を吐くのだった。
”さて、用意したのは一般的な獣肉3種類だ。ブル肉、ボア肉、ウルフ肉の3種類だ。ちなみにすぐに本物を用意できなかったので、魔力で作らせてもらった。これなら焦がしてもやり直しがきくからな”
厨房に着くと、早速ピレシーによる料理教室が始まっていた。確かに厨房の作業台の上には、魔力によって形成された練習用の獣肉が置かれていた。
「お願いします、ピレシー先生」
”うむ。焼く時には油を使って焦げを防ぐ。ブルとボアはそれぞれブルの脂、ボアの脂を使う。ウルフは脂身が少ないのでブルとボアのどちらの脂を使ってもよいぞ”
「なるほどなるほど……」
”焼く肉の厚さは指一本分もあれば十分噛み応えがある。まあ、冒険者のような連中相手なら、指二本から三本分あってもいいだろう”
「ふむふむ」
”では、焼き方をじっくり教えていくからな? 覚悟めされよ”
ミルフィがある程度理解したとみると、ピレシーの鋭い声が響き渡る。一気に厨房の空気が変わったのだ。
これから何時間もの間、ピレシーによるステーキの焼き方の指導が繰り広げられるとは誰が想像しただろうか。
肉の復元による魔力消耗もあって、終わった頃のミルフィは実にボロボロになっていたのだった。
オーソンが驚きと感心の混ざった声を出している。
なにせ目の前でスェトーがすくすくと育っていっているからだ。
「私は食で世界を幸せにするつもりでいます。ですから、争いを生まないためにしばらくはスェトーを自前で用意させて頂きますね」
「それは助かりますね。先日の大量購入のせいでかなり値が上がってしまいましたから」
ミルフィの言い分に、オーソンは腕を組みながら何度となく頷いていた。
「それにしても、こんな魔法を疲れる事なく発動できるとは……。ミルフィさん、あなたは一体何者なのですか?」
「ふふっ、内緒ですよ、内緒。私たちは商業的なつながりがあるのです。秘密の一つや二つあっても、別に不思議ではないのですか?」
驚きながら尋ねてくるオーソンに、ミルフィはにこやかに答えていた。
「はっはっはっ、その通りですな。手の内はすべて明かさないというのは鉄則ですからな」
オーソンは大笑いをして納得していた。
「いやあ、気に入りましたよ。その若さでそこまで悟っておられるとは、将来が実に楽しみだ。これからもよい付き合いをさせてもらいましょう」
笑いながら商会を出て行くオーソンを、にこやかにミルフィは見送っていた。
「さて、ロンとグリッテは甘味を作っている最中かしらね」
「はい、すっかり作業にも慣れていますので、ケーキとチョコレートを安定して作れるようになっています」
「そうですか。さすがはティアが選んだメイドたちですね」
しっかり者のメイドたちに、ミルフィは満足げである。選んだのは自分じゃないのに鼻高々といった感じだった。
ひとまず満足したミルフィだったが、次なる手を考え始めていた。
「甘味はこれだけでとりあえずいいかしらね。ピレシー、次に手をつけるとしたらどこでしょうか」
”正直デザートはもう一つ欲しいところだが、そうなると次はメインの料理といったところだな”
「デザートって何を作るのです?」
”プリンだ。こういう手の話では必ずと言っていいほど出てくる、卵とスェトーを使ったデザートだ”
「へえ、面白そう」
さすがはあらゆる世界の食に通じている魔導書である。どうやらその知識は変な世界にまで及んでいるようだった。
”ただ、作ろうとすると卵の絶対量が足りぬ。ケーキだけでも卵は使うからな、今は我慢といったところか……”
ピレシーがとても残念そうにしていた。この魔導書でも悔しがるって事があるようだった。どこか人間じみた不思議な魔導書なのである。
”というわけだ。まずは今ある料理をよくする事から始めるとしよう”
「そうこなくっちゃ」
ピレシーの声に呼応するミルフィである。
”となると、単純な料理であるステーキからだな。あれは焼き方ひとつでかなり印象が変わってくる。それを主に教えこもうではないか”
「やってやろうじゃありませんか」
ピレシーが提案すると、ミルフィはめちゃくちゃやる気になっていた。さすがは食で世界を支配しようとたくらむ魔王女様である。料理を覚える事にはとてもどん欲になっていた。
そんなわけで、スェトーの世話をしばらくティアに任せて、ミルフィは厨房へと向かった。
「うーん、使用人を増やさないといけませんね。この広さに加えて料理も作るとなると、三人では全然足りませんね」
”この街の人間を雇うというのはどうだろうか。将来的な展開を考えると、街の人間も取り込んでおかねばいかぬぞ?”
「それもそうですね。いつまでも魔族だけでやっているわけにはいきませんものね。人間たちを受け入れないと、信じてもらう事も難しい……。魔族と知られたくないだけに悩ましいですね」
ミルフィはすごく頭を悩ませていた。
”それこそ、あのオーソンという男を使うのだな。あの分ではかなり主の事を評価している。頼めば人を見繕う事くらいやってくれそうだぞ?”
「ああ、確かにそうですね。でも、こちらの警戒がある以上、向こうがよくても私たちの方をどうにかしませんとね。特に護衛たちが人間に信用を置いてませんからね……」
ミルフィはティアの護衛に残してきたピアズの方を見ている。そして、再び前と向き直すとため息を吐くのだった。
”さて、用意したのは一般的な獣肉3種類だ。ブル肉、ボア肉、ウルフ肉の3種類だ。ちなみにすぐに本物を用意できなかったので、魔力で作らせてもらった。これなら焦がしてもやり直しがきくからな”
厨房に着くと、早速ピレシーによる料理教室が始まっていた。確かに厨房の作業台の上には、魔力によって形成された練習用の獣肉が置かれていた。
「お願いします、ピレシー先生」
”うむ。焼く時には油を使って焦げを防ぐ。ブルとボアはそれぞれブルの脂、ボアの脂を使う。ウルフは脂身が少ないのでブルとボアのどちらの脂を使ってもよいぞ”
「なるほどなるほど……」
”焼く肉の厚さは指一本分もあれば十分噛み応えがある。まあ、冒険者のような連中相手なら、指二本から三本分あってもいいだろう”
「ふむふむ」
”では、焼き方をじっくり教えていくからな? 覚悟めされよ”
ミルフィがある程度理解したとみると、ピレシーの鋭い声が響き渡る。一気に厨房の空気が変わったのだ。
これから何時間もの間、ピレシーによるステーキの焼き方の指導が繰り広げられるとは誰が想像しただろうか。
肉の復元による魔力消耗もあって、終わった頃のミルフィは実にボロボロになっていたのだった。
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