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Mission062
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早いものであれから1週間後、ファルーダン王国の国王にギルソンとリリアン、それと大臣他要人が数名、マスカード帝国の帝都に降り立っていた。
朝一番に王都を出て、その日の夕方になる前に帝都に着いてしまったのだから、鉄道がいかに速いのかを思い知らされる。帝都の駅に着いたところで、国王たちは先触れを出し、馬車を待っている。周りの人間たちは、豪奢な服を着たファルーダンの一行を、物珍しそうに見ている。
今回の会合にも同席させられる事になってしまったマリカは、ジャスミンにしがみつくようにして震えている。さすがに今回の同席は可哀想に思えてくるレベルである。ただでさえ前回もあれだけ怖い思いをしたのだから、正直なところ置いてきてもよかったと思うのだが、王命とあってはそうはいかなかったのである。列車で移動中、アリスとジャスミンのオートマタ二人で、マリカを慰めたくらいだった。
そういえば、久しぶりにリリアンのオートマタを目にしたアリス。名前はユーリ。純白の侍女服に、黄色いスカーフなどのアクセントが特徴的な色白なオートマタである。主人であるリリアンがお淑やかなのと同様に、このユーリもとても優雅に振舞う淑女型のオートマタだった。
アリスが前世のありすとして書いた小説では、面白いくらいにギルソンのオートマタ以外の描写はなかった。それだけにこのユーリはとても新鮮だった。こんな完璧淑女のようなオートマタが居たのかと。
(やっぱり創作物の中は、所詮狭い世界なんだわ。見たいものしか見えないみたいな……ね)
ユーリを見たアリスの率直な感想はそんな感じだった。これが現実と創作の違いなんだと。
今ここで改めてアリスがこう思うのも無理はない。さっき久しぶりといったように、ギルソンとリリアンは食事くらいしかまともに顔を合わせていなかった。特に去年までの3年間は、リリアンは学園に通っていたのだ。その間は寮暮らしをしていたので、城に居たりあちこち忙しく飛び回っていたギルソンと顔を合わせる事はほとんどなかった。だからこそ、アリスもあまりユーリの事は知らなかったのである。
駅で馬車を待つギルソンたち。一度来た事のあるギルソンとアリス、それとジャスミンはリラックスして待っていたが、さすがにリリアンは初めての国外という事もあって、ものすごく緊張しているようである。オートマタであるユーリが付き添って、どうにか落ち着かせているようだった。
しばらくすると、マスカード帝国の使いの者たちが、馬車を数台連れて駅へとやって来た。さすがに国賓を乗せるとあって、帝国の持つ馬車の中でもかなりいい馬車を用意してくれたようである。
「お待たせして申し訳ございません。マスカード帝国を代表して、皆様の無事のご到着をお喜び申し上げます」
モノクルの紳士がやって来た。それにしてもこの男性、この間使節団として出向いた時には見なかった男である。
「わたくし、マスカード帝国の外相を務めますアリアンと申します。以後お見知りおきを」
アリアンはそう言って、部下たちに指示を出す。
「それでは、王族の方々はこちらの馬車へ。それ以外の部下の方々は後ろの馬車へとお乗り下さい」
てきぱきと部下に指示を出し、アリアンは国王たちを馬車へと案内する。よく見れば、国王たちを乗せる馬車とそれ以外の馬車とでは装飾などに違いが見られた。
確かに身分制度のあるこの世界では、王族と貴族と平民とを同じ馬車に乗せるような事などまずはない。それこそ人数が少なすぎるなどの条件が揃わなければ、そういった事にはならないだろう。使節団としてやってきた時には、例外的にマリカがギルソンたちと同じ馬車に乗ったくらいだ。そのくらいにはありえない事なのである。
扱いには差があるものの、この世界では当然であるために全員黙々と馬車に乗り込んでいく。そして、マスカード帝国の城へと向けて出発した。
馬車に揺られる事数10分、馬車は城の中へと入っていく。その立派な佇まいに、国王とリリアンは息を飲んだ。
「我が国の城と比べて、かなり大きいな」
国王はそんな言葉を漏らしている。城やその城下町の規模というものは、その国の力の縮図といってもいい。その差を見せつけられた国王たちは、これから相対する者へと委縮を起こしてしまっていた。その様子を見たアリスは、正直まずい状況だと認識する。こうなると、ここに一度来ていて、なおかつバチバチにやり合ったギルソンに期待せざるを得ない。正直、アリスとしてはあまり気が進まないのだが、こうも国王が弱腰になってしまっては、ギルソンに気を吐いてもらうしかないのである。
(はあ、到着した早々から国王陛下がマスカード帝国の力に飲み込まれてしまっているわ。こんな状態で交渉がうまくいくのかしら……)
アリスの不安は募るばかりである。
そんな及び腰な国王を筆頭に、すでに負け戦状態のファルーダン王国の面々。
心配の種が尽きない中、アリスたちはいよいよ、会合の場となるマスカード帝国の会議室へと足を運んだのであった。
朝一番に王都を出て、その日の夕方になる前に帝都に着いてしまったのだから、鉄道がいかに速いのかを思い知らされる。帝都の駅に着いたところで、国王たちは先触れを出し、馬車を待っている。周りの人間たちは、豪奢な服を着たファルーダンの一行を、物珍しそうに見ている。
今回の会合にも同席させられる事になってしまったマリカは、ジャスミンにしがみつくようにして震えている。さすがに今回の同席は可哀想に思えてくるレベルである。ただでさえ前回もあれだけ怖い思いをしたのだから、正直なところ置いてきてもよかったと思うのだが、王命とあってはそうはいかなかったのである。列車で移動中、アリスとジャスミンのオートマタ二人で、マリカを慰めたくらいだった。
そういえば、久しぶりにリリアンのオートマタを目にしたアリス。名前はユーリ。純白の侍女服に、黄色いスカーフなどのアクセントが特徴的な色白なオートマタである。主人であるリリアンがお淑やかなのと同様に、このユーリもとても優雅に振舞う淑女型のオートマタだった。
アリスが前世のありすとして書いた小説では、面白いくらいにギルソンのオートマタ以外の描写はなかった。それだけにこのユーリはとても新鮮だった。こんな完璧淑女のようなオートマタが居たのかと。
(やっぱり創作物の中は、所詮狭い世界なんだわ。見たいものしか見えないみたいな……ね)
ユーリを見たアリスの率直な感想はそんな感じだった。これが現実と創作の違いなんだと。
今ここで改めてアリスがこう思うのも無理はない。さっき久しぶりといったように、ギルソンとリリアンは食事くらいしかまともに顔を合わせていなかった。特に去年までの3年間は、リリアンは学園に通っていたのだ。その間は寮暮らしをしていたので、城に居たりあちこち忙しく飛び回っていたギルソンと顔を合わせる事はほとんどなかった。だからこそ、アリスもあまりユーリの事は知らなかったのである。
駅で馬車を待つギルソンたち。一度来た事のあるギルソンとアリス、それとジャスミンはリラックスして待っていたが、さすがにリリアンは初めての国外という事もあって、ものすごく緊張しているようである。オートマタであるユーリが付き添って、どうにか落ち着かせているようだった。
しばらくすると、マスカード帝国の使いの者たちが、馬車を数台連れて駅へとやって来た。さすがに国賓を乗せるとあって、帝国の持つ馬車の中でもかなりいい馬車を用意してくれたようである。
「お待たせして申し訳ございません。マスカード帝国を代表して、皆様の無事のご到着をお喜び申し上げます」
モノクルの紳士がやって来た。それにしてもこの男性、この間使節団として出向いた時には見なかった男である。
「わたくし、マスカード帝国の外相を務めますアリアンと申します。以後お見知りおきを」
アリアンはそう言って、部下たちに指示を出す。
「それでは、王族の方々はこちらの馬車へ。それ以外の部下の方々は後ろの馬車へとお乗り下さい」
てきぱきと部下に指示を出し、アリアンは国王たちを馬車へと案内する。よく見れば、国王たちを乗せる馬車とそれ以外の馬車とでは装飾などに違いが見られた。
確かに身分制度のあるこの世界では、王族と貴族と平民とを同じ馬車に乗せるような事などまずはない。それこそ人数が少なすぎるなどの条件が揃わなければ、そういった事にはならないだろう。使節団としてやってきた時には、例外的にマリカがギルソンたちと同じ馬車に乗ったくらいだ。そのくらいにはありえない事なのである。
扱いには差があるものの、この世界では当然であるために全員黙々と馬車に乗り込んでいく。そして、マスカード帝国の城へと向けて出発した。
馬車に揺られる事数10分、馬車は城の中へと入っていく。その立派な佇まいに、国王とリリアンは息を飲んだ。
「我が国の城と比べて、かなり大きいな」
国王はそんな言葉を漏らしている。城やその城下町の規模というものは、その国の力の縮図といってもいい。その差を見せつけられた国王たちは、これから相対する者へと委縮を起こしてしまっていた。その様子を見たアリスは、正直まずい状況だと認識する。こうなると、ここに一度来ていて、なおかつバチバチにやり合ったギルソンに期待せざるを得ない。正直、アリスとしてはあまり気が進まないのだが、こうも国王が弱腰になってしまっては、ギルソンに気を吐いてもらうしかないのである。
(はあ、到着した早々から国王陛下がマスカード帝国の力に飲み込まれてしまっているわ。こんな状態で交渉がうまくいくのかしら……)
アリスの不安は募るばかりである。
そんな及び腰な国王を筆頭に、すでに負け戦状態のファルーダン王国の面々。
心配の種が尽きない中、アリスたちはいよいよ、会合の場となるマスカード帝国の会議室へと足を運んだのであった。
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