457 / 483
新章 青色の智姫
第88話 潮風に吹かれて
しおりを挟む
「んん~、ご飯がおいしい」
この上ない笑顔でもりもりとお昼を食べるプルネである。
「まったく、はしたないですよプルネ」
「えへへへ」
フューシャに口を拭われながら、プルネはにこにこと笑っている。
塩を精製することで、魔法の訓練をしたシアンたち。今はその後のお昼の真っ最中である。疲れ切ったせいなのか、とてもおいしく感じる。
アイリスたちの子どもは全部で四人居るものの、家族仲はとてもよさそうだ。プルネとフューシャたちのやり取りを見ながらそう思うシアンなのであった。
「それにしても、ずいぶんと魔法の扱いが上手になりましたわね、アイリス」
「さすがにお姉様やペシエラに遅れは取りたくありませんもの。自分自身でもここまで闇魔法に適性があるとは思ってみませんでしたけれどね」
「闇魔法が光を吸収するから、それを応用して塩を集めるだなんて、よく思いついたものよね」
「えへへへ」
チェリシアやペシエラから褒められて、嬉しそうに笑うアイリスである。アイリスの闇魔法への適性が上がったのは、間違いなく夫であるニーズヘッグのせいだろう。
ニーズヘッグは厄災の暗龍とも呼ばれる闇属性のドラゴン型の幻獣である。そして、母親であるアイリスもデーモンハートに魅了されたパープリアの一族ゆえに、闇属性に対して親和性を持っている。
そんな両親から生まれた子どもたちが闇属性の適性を持っていないわけがなく、プルネは魔力検定の結果でもしっかり闇属性の適性を示されていた。姉のフューシャも同じようにやっていたから、闇属性の適性で間違いないだろう。
塩作りの様子を見てみても器用に魔法を扱うのはいい事なのだが、シアンにはやはり合宿の時の様子が引っ掛かってしまっていた。
「シアン王女殿下、どうなさったのですか?」
突然、アイリスが声を掛けてきた。
「あ、いえ、なんでもございません」
ごまかすシアンだが、アイリスはどうも気になるのか首を傾げていた。
「ほ、本当になんでもありませんから!」
シアンが再び強く発言すると、この時はアイリスは渋々引き下がっていた。
しかし、その後も食事中は気になるのかちらちらと視線を送ってきていた。
食事を終えると、一行は港へと向かっていく。チェリシアが事前に話をつけておいた船に乗せてもらうためだ。
船着き場に向かう最中、アイリスがゆっくりとシアンへと近付いて話し掛けてきた。
「シアン王女殿下」
「なんでしょうか、アイリス様」
急に話し掛けてきたものだから、警戒しながらアイリスに反応を見せるシアンである。
「私の娘に、何か気になることでもあるのでしょうか」
「……どうしてそう思われるのですか?」
アイリスの質問に答えず、逆に質問を返すシアン。ちょっと気まずいと考えたからだ。
「先程の食事の間、やたらとプルネのことを見ていらしたので、気になったのです。よろしければ、お話をお伺いしても?」
よく見ているものだ。確かにシアンはずいぶんとプルネに視線を向けていた。友人がゆえに気になるのだ。
自分のことをまじまじと見てくるアイリスに戸惑いながらも、シアンはどう答えるか考えている。そして、出した結論。
「分かりました。船に乗ってからお答えします」
結局答えることにしたものの、出港するまで待ってもらうことにしたのだった。
ひとまずの保留。これにはアイリスも納得して、シアンの手を引きながら改めて船着き場へと向かっていった。
ざざぁ……ん。
チェリシアが話をつけておいてくれた船に乗って、港湾内の遊覧が始まる。
初めて乗る船に、みんなが興奮している。
みんなのことはキャノルたち使用人に任せて、アイリスはシアンと船室の壁に寄り添うように隣り合って立っている。
「それでですが、うちの娘を見ていた理由は何なのでしょうか」
「報告は受けているとは思いますが、合宿でデーモンハートが使われた形跡がありました」
「ええ、聞いています。王女殿下は、ライから話を聞いたのでしょう?」
アイリスの問い掛けにこくりと頷くシアン。
「私の父方の家系がデーモンハートの影響を受けていたわけですからね。私はもちろん、子どもたちもその影響を受けないと言ったら間違いだと思いますよ」
深刻な表情のアイリス。
その表情を見たシアンは複雑な感情に襲われ、どう反応していいのか困ってしまう。
実家の呪縛から解き放たれたかと思われていたアイリスも、実は未だにその呪縛に囚われていたのだ。
(デーモンハート……。なんて恐ろしい石なのですか)
ことの深刻さに、シアンも思わず息を飲んでしまう。
そのまま下を向いてしまうシアンだったが、突然アイリスが手を打ったので、その大きな音に驚いて顔を上げる。
「海だからといっても、湿っぽい事はこのくらいにしておきましょう。せっかく旅行に来ているんですから、楽しくしなくっちゃ」
にこにことした表情で話すアイリスに、シアンもはっとして無言でこくりと頷く。
シアンはアイリスに手を引かれて、チェリシアやペシエラたちと合流する。
しばらくそのまま、船の上で潮風に当たりながら、のんびりとした船の時間を過ごしたのだった。
この上ない笑顔でもりもりとお昼を食べるプルネである。
「まったく、はしたないですよプルネ」
「えへへへ」
フューシャに口を拭われながら、プルネはにこにこと笑っている。
塩を精製することで、魔法の訓練をしたシアンたち。今はその後のお昼の真っ最中である。疲れ切ったせいなのか、とてもおいしく感じる。
アイリスたちの子どもは全部で四人居るものの、家族仲はとてもよさそうだ。プルネとフューシャたちのやり取りを見ながらそう思うシアンなのであった。
「それにしても、ずいぶんと魔法の扱いが上手になりましたわね、アイリス」
「さすがにお姉様やペシエラに遅れは取りたくありませんもの。自分自身でもここまで闇魔法に適性があるとは思ってみませんでしたけれどね」
「闇魔法が光を吸収するから、それを応用して塩を集めるだなんて、よく思いついたものよね」
「えへへへ」
チェリシアやペシエラから褒められて、嬉しそうに笑うアイリスである。アイリスの闇魔法への適性が上がったのは、間違いなく夫であるニーズヘッグのせいだろう。
ニーズヘッグは厄災の暗龍とも呼ばれる闇属性のドラゴン型の幻獣である。そして、母親であるアイリスもデーモンハートに魅了されたパープリアの一族ゆえに、闇属性に対して親和性を持っている。
そんな両親から生まれた子どもたちが闇属性の適性を持っていないわけがなく、プルネは魔力検定の結果でもしっかり闇属性の適性を示されていた。姉のフューシャも同じようにやっていたから、闇属性の適性で間違いないだろう。
塩作りの様子を見てみても器用に魔法を扱うのはいい事なのだが、シアンにはやはり合宿の時の様子が引っ掛かってしまっていた。
「シアン王女殿下、どうなさったのですか?」
突然、アイリスが声を掛けてきた。
「あ、いえ、なんでもございません」
ごまかすシアンだが、アイリスはどうも気になるのか首を傾げていた。
「ほ、本当になんでもありませんから!」
シアンが再び強く発言すると、この時はアイリスは渋々引き下がっていた。
しかし、その後も食事中は気になるのかちらちらと視線を送ってきていた。
食事を終えると、一行は港へと向かっていく。チェリシアが事前に話をつけておいた船に乗せてもらうためだ。
船着き場に向かう最中、アイリスがゆっくりとシアンへと近付いて話し掛けてきた。
「シアン王女殿下」
「なんでしょうか、アイリス様」
急に話し掛けてきたものだから、警戒しながらアイリスに反応を見せるシアンである。
「私の娘に、何か気になることでもあるのでしょうか」
「……どうしてそう思われるのですか?」
アイリスの質問に答えず、逆に質問を返すシアン。ちょっと気まずいと考えたからだ。
「先程の食事の間、やたらとプルネのことを見ていらしたので、気になったのです。よろしければ、お話をお伺いしても?」
よく見ているものだ。確かにシアンはずいぶんとプルネに視線を向けていた。友人がゆえに気になるのだ。
自分のことをまじまじと見てくるアイリスに戸惑いながらも、シアンはどう答えるか考えている。そして、出した結論。
「分かりました。船に乗ってからお答えします」
結局答えることにしたものの、出港するまで待ってもらうことにしたのだった。
ひとまずの保留。これにはアイリスも納得して、シアンの手を引きながら改めて船着き場へと向かっていった。
ざざぁ……ん。
チェリシアが話をつけておいてくれた船に乗って、港湾内の遊覧が始まる。
初めて乗る船に、みんなが興奮している。
みんなのことはキャノルたち使用人に任せて、アイリスはシアンと船室の壁に寄り添うように隣り合って立っている。
「それでですが、うちの娘を見ていた理由は何なのでしょうか」
「報告は受けているとは思いますが、合宿でデーモンハートが使われた形跡がありました」
「ええ、聞いています。王女殿下は、ライから話を聞いたのでしょう?」
アイリスの問い掛けにこくりと頷くシアン。
「私の父方の家系がデーモンハートの影響を受けていたわけですからね。私はもちろん、子どもたちもその影響を受けないと言ったら間違いだと思いますよ」
深刻な表情のアイリス。
その表情を見たシアンは複雑な感情に襲われ、どう反応していいのか困ってしまう。
実家の呪縛から解き放たれたかと思われていたアイリスも、実は未だにその呪縛に囚われていたのだ。
(デーモンハート……。なんて恐ろしい石なのですか)
ことの深刻さに、シアンも思わず息を飲んでしまう。
そのまま下を向いてしまうシアンだったが、突然アイリスが手を打ったので、その大きな音に驚いて顔を上げる。
「海だからといっても、湿っぽい事はこのくらいにしておきましょう。せっかく旅行に来ているんですから、楽しくしなくっちゃ」
にこにことした表情で話すアイリスに、シアンもはっとして無言でこくりと頷く。
シアンはアイリスに手を引かれて、チェリシアやペシエラたちと合流する。
しばらくそのまま、船の上で潮風に当たりながら、のんびりとした船の時間を過ごしたのだった。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる