逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第79話 合宿最終日

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 夏合宿の最終日、シアンたちは実戦を積むためにサファイア湖の近くの森に出向いていた。この実地訓練はロゼリアたちも行ったものであり、万一の事態に慣れるために行われているのである。
 シアンたちはというと、よりにもよってクライたちの班と合同となった。クライの班には浮かない表情のココナスと知らない学生が数名一緒にいた。物理タイプの学生たちばかりで集まったようではなかったようだ。
「クライ様、ココナス様、本日はよろしくお願い致します」
 ブランチェスカとプルネが丁寧に挨拶をしている。
「いやぁ、同じ班とは奇遇だな。こっちこそよろしく頼むぞ」
 クライも気さくに挨拶をしている。
 だが、この班を見て不安に思うことはあるシアン。誰が料理をできるのかということだ。
 この実地訓練では、昼食は自分たちで調理をしなければならない。道具は何も渡されないし、食材すらも現地調達だ。
 ちなみにシアンやプルネの両親たちはというと、チェリシアやペシエラのおかげで特に何も問題がなかった。だが、自分たちにはそういった特殊な存在はいないので、シアンには不安しかなかった。
 そう思うシアンではあるものの、ロゼリア付きのメイドだった頃の経験があるので、多少の調理はできる。野宿だってできる。ただ、現在は王族であるがために、できたとしてどう事情を説明するかという悩みが同時に浮かんでくる。
 だが、シアンが悩む横で、プルネがすっと名乗りを上げた。
「料理なら任せて下さい。キャノルから教えてもらったことがありますので、そこそこできる自信があります」
「よし、なら獲物は俺たちの役目だな。しっかりやってやるぞ、ココナス、ゴーエン」
「任せておけ」
「僕まで勝手に数に入れないでくれませんかね?!」
 プルネの言葉を受けて、やる気十分のクライである。ゴーエンと呼ばれた男子学生も同調しているのかやる気十分だが、ココナスは悲鳴を上げていた。体力のなさは以前披露した通りなので、この悲鳴を上げる気持ちは分からなくはなかった。
「ま、まあ、お手柔らかに頼みますね」
 この様子にはシアンも困惑せざるを得なかった。
 さて、オリエンテーリングが始まる。学生たちが渡されたのは地図のみ。これでサファイア湖の近くの森の中に設置されたチェックポイントを巡って、出発地点へと帰ってくるのだ。
 森の中にはそれほど強くはないものの、魔物たちが生息している。戦うも逃げるも自由だが、逃げると食事は間違いなく逃すことになる。
 魔法タイプと武術タイプで班は組み合わせてあるし、魔物の解体の仕方は講義も行っている。後は学生たちのやる気次第なのだ。
「さて、魔物との実戦とは腕が鳴るな」
 クライはやる気満々でどんどんと突き進んでいく。当然ながら、そんな足についていけるのはゴーエンくらいだ。シアンたちはどんどんと置いていかれてしまう。
「クライ、速すぎます。少しは他の方にも気を配って下さいな」
「ああ、すまない。魔物との戦闘が楽しみすぎて、気が逸ってしまったな。がははははっ」
 シアンの苦言を受けて、謝罪をしながらも大口を上げて笑うクライ。まったく反省していないようである。
 しばらく進んでいると、がさがさと茂みが揺れる。
「おっ、早速お出ましか?」
 クライが剣を構える。学園の講義の最中に実戦の剣を握るのは初めてのはずだが、まったくもって躊躇がない。
「グルルルル……」
「これは、ウルフですね」
 森の魔物として定番のウルフだった。
「へっ、ウルフ程度、俺の敵じゃないぜ。おとなしく俺たちの昼飯になりなっ!」
「それには同意だな。シアン王女たちはサポートを頼みます」
「はい、分かりました」
 ゴーエンの方はかなり落ち着いていたようで、シアンたちに一声掛けてからウルフの群れへと向かっていった。
「一、二、三……、全部で六匹ですね。これならそう苦戦はしないでしょう。プルネ、念のために周りを警戒して下さい」
「しょ、承知しました」
 ブランチェスカとココナスはおそらく初めての対魔物の実戦。なので、キャノルから教えを受けたというプルネに周囲の警戒を任せるシアン。
 そのシアンはというと、クライとゴーエン、それと敵であるウルフの動きをじっくりと観察している。危なそうならば効果的に支援をするためだ。
 シアンの扱う属性は地水風の三属性。攻防ともにそれなりに役に立つ属性である。ただ、少々癖があるので扱いには慣れが必要である。
 ウルフと戦うクライとゴーエンだが、二人の攻撃タイプはかなり違っている。クライは力任せなタイプで、攻撃は比較的大振り。対するゴーエンの方は敵に合わせ、小さな動きで的確に敵をいなして反撃するタイプのようだ。
「シャットミスト!」
「おっ、ナイスタイミング」
 シアンは動きを見ながらウルフの視界を遮る霧を発生させる。うまく二人がウルフの注意を引きつけてくれているので、安心してタイミングを合わせられるというもの。
 こうして、クライとゴーエン、それとシアンの連携でウルフは着実にその数を減らしていったのだった。
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