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新章 青色の智姫
第76話 ケットシーの指摘
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ライが振り返れば、そこには猫がいた。
モスグリネ王国商業組合組合長ケットシーである。
本当にいつやって来たのだろうか、神出鬼没過ぎて心臓に悪い幻獣である。
「やぁやぁ、ボクの悪口とは聞き過ごせないね。ちょっとばかり説教をさせてもらってもいいかな、ライ」
ケットシーの閉じた目がうっすらと開く。その覗いた瞳に震え上がるライである。
「ひぃぃ、悪口なんて言ってませんよ。堂々としていて周りに影響を及ぼさないなんて、素晴らしいじゃないですか!」
ライが大慌てで言い繕う。すると、ケットシーの表情はいつもの糸目に戻っていた。
「にゃっはっはっはっ、これがボクがボクたる所以だよ。ちなみにだけど、ひとつ訂正させてもらっていいかい。ボクも周りに影響は与えているよ」
「えっ」
ケットシーが右手の人差し指を立てて、にんまりとしながら告げる。
「ボクの魔力は人を陽気にさせるんだ。だからこそ、モスグリネのヴィフレアは平和だともいえるのだよ。はっはっはっはっ」
自慢げに笑うケットシー。その姿にシアンたちはうんざりした表情を向けている。
「そんな事より、そんな事をいったらニーズヘッグくんの方が問題だ。彼は厄災の暗龍という二つ名を持つドラゴンだ。そんなのが街の中にいてみたまえ、普通ならばその街はすぐに滅ぶよ」
「それはまぁ確かに……」
シアンが考え込んでいる。
「まぁ彼の場合はアイリスくんと結婚したのが大きいだろうね。うんうん」
今さら思い出されたわけだが、プルネの父親であるニーズヘッグはそもそも幻獣だ。
「アイリスくんと一緒にいるからこそ、彼の精神は安定している。それゆえに力をうまく制御できているのだろうね」
「なるほどですね」
「まぁ、正直な事を言うと、周りに影響を及ぼすほどの魔力を垂れ流す幻獣なんてのはそういない。むしろ、オリジンくんたち精霊の方が影響は大きいだろうね」
「それはそうだな。私も人に紛れるにあたって、そこは苦労したからな」
話を振られたガレンが頷きながら答えている。
「蒼鱗魚たちは魚型の幻獣だから、精霊に近い。だから、その身に宿す魔力を垂れ流しにしてしまうんだ。サファイア湖を中心として魔力が濃いのはそのせいだね」
「つまり、人型に近いほど、影響力は小さくなる。そういうことかな」
ガレンが推測を述べると、ケットシーはこくりと頷いていた。
「それに加えて、受ける側のキャパシティ不足というのはあるね。今の当主であるマーリンもそれなりに魔力はあるが、シアンくんにはまったく及ばない」
ケットシーがまだまだ話を続ける。ガレンに話を聞きに来ただけのはずが、ライにケットシーが加わってなんとも重苦しい話になってきた。
「今までのアクアマリン子爵というのは、蒼鱗魚の生み出した魔力と相性がよかったんだ。シアンくんは考えたことがあるかね?」
「何をでしょうか」
ケットシーの問い掛けに首を傾げるシアン。
「どうしてアクアマリン子爵家が魔法に対して造詣が深いのかということさ」
「ふむ……」
シアンは考え込む。
「その答えがいわずもがな、蒼鱗魚さ。蒼鱗魚は念話という他人に干渉するスキルを持っているのは知っているだろう?」
ケットシーの確認に、シアンだけではなくライやガレンも頷く。
「これは相手の魔力に働きかけることで可能になるんだ。幻獣と近しい存在である神獣や精霊とも話ができるのは、その魔力の波長が近いということもある。人間は遠くて無理だけど、契約者であれば可能なんだ」
「なるほどですね」
「アクアマリン子爵家は契約者ではないけれど、長年この場所を治めている一族。蒼鱗魚の魔力に慣れ親しんでいるがために、魔力の仕組みをなんとなく理解できているんだ。そして、その蒼鱗魚の属性こそが」
「水、というわけですね」
「ご名答」
そう、アクアマリン子爵家が魔法について詳しく、水属性を得意とするのは、すべて蒼鱗魚が原因だったのである。
「さらには蒼鱗魚は基本的に警戒心が強い。その魔力との親和性が高いほど、その能力は人間にも伝播するんだ。シアンくんは経験があるだろう?」
はて、という感じに首を捻るシアンである。
「覚えてないかね。今回ライと一緒にこの近くで警戒に当たっているキャノル、彼女と関係するといえば分かるはずだ」
「ああっ」
ケットシーに言われて、手をポンと叩くシアンである。
そう、いつぞやの合宿の際に一緒に領地に里帰りした帰り、キャノルに襲われた時があった。その時のことをケットシーは話しているのである。
「つまり、今の領主であるお兄様が気がつけない理由って……」
「そう、蒼鱗魚との相性が悪すぎるんだ。相性のよさそうな兄弟はみんな領外に出てしまったからね。まったく困ったものだよ」
嘆かわしそうに首を横に振るケットシーである。
ケットシーから明かされたアクアマリン子爵領の問題。この事実にシアンたちは驚きを隠せなかった。
この穴が存在する限り、アクアマリン子爵領ではまだまだ問題は続きそうだった。
モスグリネ王国商業組合組合長ケットシーである。
本当にいつやって来たのだろうか、神出鬼没過ぎて心臓に悪い幻獣である。
「やぁやぁ、ボクの悪口とは聞き過ごせないね。ちょっとばかり説教をさせてもらってもいいかな、ライ」
ケットシーの閉じた目がうっすらと開く。その覗いた瞳に震え上がるライである。
「ひぃぃ、悪口なんて言ってませんよ。堂々としていて周りに影響を及ぼさないなんて、素晴らしいじゃないですか!」
ライが大慌てで言い繕う。すると、ケットシーの表情はいつもの糸目に戻っていた。
「にゃっはっはっはっ、これがボクがボクたる所以だよ。ちなみにだけど、ひとつ訂正させてもらっていいかい。ボクも周りに影響は与えているよ」
「えっ」
ケットシーが右手の人差し指を立てて、にんまりとしながら告げる。
「ボクの魔力は人を陽気にさせるんだ。だからこそ、モスグリネのヴィフレアは平和だともいえるのだよ。はっはっはっはっ」
自慢げに笑うケットシー。その姿にシアンたちはうんざりした表情を向けている。
「そんな事より、そんな事をいったらニーズヘッグくんの方が問題だ。彼は厄災の暗龍という二つ名を持つドラゴンだ。そんなのが街の中にいてみたまえ、普通ならばその街はすぐに滅ぶよ」
「それはまぁ確かに……」
シアンが考え込んでいる。
「まぁ彼の場合はアイリスくんと結婚したのが大きいだろうね。うんうん」
今さら思い出されたわけだが、プルネの父親であるニーズヘッグはそもそも幻獣だ。
「アイリスくんと一緒にいるからこそ、彼の精神は安定している。それゆえに力をうまく制御できているのだろうね」
「なるほどですね」
「まぁ、正直な事を言うと、周りに影響を及ぼすほどの魔力を垂れ流す幻獣なんてのはそういない。むしろ、オリジンくんたち精霊の方が影響は大きいだろうね」
「それはそうだな。私も人に紛れるにあたって、そこは苦労したからな」
話を振られたガレンが頷きながら答えている。
「蒼鱗魚たちは魚型の幻獣だから、精霊に近い。だから、その身に宿す魔力を垂れ流しにしてしまうんだ。サファイア湖を中心として魔力が濃いのはそのせいだね」
「つまり、人型に近いほど、影響力は小さくなる。そういうことかな」
ガレンが推測を述べると、ケットシーはこくりと頷いていた。
「それに加えて、受ける側のキャパシティ不足というのはあるね。今の当主であるマーリンもそれなりに魔力はあるが、シアンくんにはまったく及ばない」
ケットシーがまだまだ話を続ける。ガレンに話を聞きに来ただけのはずが、ライにケットシーが加わってなんとも重苦しい話になってきた。
「今までのアクアマリン子爵というのは、蒼鱗魚の生み出した魔力と相性がよかったんだ。シアンくんは考えたことがあるかね?」
「何をでしょうか」
ケットシーの問い掛けに首を傾げるシアン。
「どうしてアクアマリン子爵家が魔法に対して造詣が深いのかということさ」
「ふむ……」
シアンは考え込む。
「その答えがいわずもがな、蒼鱗魚さ。蒼鱗魚は念話という他人に干渉するスキルを持っているのは知っているだろう?」
ケットシーの確認に、シアンだけではなくライやガレンも頷く。
「これは相手の魔力に働きかけることで可能になるんだ。幻獣と近しい存在である神獣や精霊とも話ができるのは、その魔力の波長が近いということもある。人間は遠くて無理だけど、契約者であれば可能なんだ」
「なるほどですね」
「アクアマリン子爵家は契約者ではないけれど、長年この場所を治めている一族。蒼鱗魚の魔力に慣れ親しんでいるがために、魔力の仕組みをなんとなく理解できているんだ。そして、その蒼鱗魚の属性こそが」
「水、というわけですね」
「ご名答」
そう、アクアマリン子爵家が魔法について詳しく、水属性を得意とするのは、すべて蒼鱗魚が原因だったのである。
「さらには蒼鱗魚は基本的に警戒心が強い。その魔力との親和性が高いほど、その能力は人間にも伝播するんだ。シアンくんは経験があるだろう?」
はて、という感じに首を捻るシアンである。
「覚えてないかね。今回ライと一緒にこの近くで警戒に当たっているキャノル、彼女と関係するといえば分かるはずだ」
「ああっ」
ケットシーに言われて、手をポンと叩くシアンである。
そう、いつぞやの合宿の際に一緒に領地に里帰りした帰り、キャノルに襲われた時があった。その時のことをケットシーは話しているのである。
「つまり、今の領主であるお兄様が気がつけない理由って……」
「そう、蒼鱗魚との相性が悪すぎるんだ。相性のよさそうな兄弟はみんな領外に出てしまったからね。まったく困ったものだよ」
嘆かわしそうに首を横に振るケットシーである。
ケットシーから明かされたアクアマリン子爵領の問題。この事実にシアンたちは驚きを隠せなかった。
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