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新章 青色の智姫
第59話 気になるあの子
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学園生活に慣れた頃、今度はブランチェスカにお茶会に誘われるシアン。もちろんプルネも一緒である。
クロッツ子爵家は初めてとあって、シアンはちょっと楽しみにしていた。
「前世でも聞いたことのない家柄ですから、どのような家なのか楽しみでたまりませんね」
「楽しみにされるのは構いませんが、あまりはしゃがないで下さいね」
楽しそうに馬車の外へと視線を向けるシアンを、侍女であるスミレは心配そうに言い聞かせていた。
シアン・アクアマリンとして生きてきた経験のあるシアンではあるが、懐かしい学園生活の影響か、精神的に少し幼くなっているようだった。そのために、スミレが心配そうな視線を向けているのである。
シアンたちを乗せた馬車がクロッツ子爵家に到着する。
お茶会とはいえ、子爵家に直々に王族が顔を覗かせるというのは珍しい話だ。出迎えるクロッツ子爵家の面々の緊張が痛いほどひしひしと伝わってきている。
(ブランチェスカはもちろんですが、ご両親まで出てこられるとはずいぶんな状況ですね)
どことなく自分が王族という意識が抜け落ちるシアンである。
スミレに手を引かれて馬車から降りるシアン。さすがは王族とあってその姿にもどこか品格というものが漂っている。
「よ、ようこそおいで下さいました。私、ブランチェスカの父であるトランク・クロッツと申します」
「母親のリーフレア・クロッツでございます。シアン王女殿下、心より歓迎申し上げます」
ブランチェスカの両親らしい人物に仰々しくも頭を下げられるシアン。しかし、子爵位の家からすれば王族というものは雲の上の存在といったところである。ゆえにこのような反応になって当然なのだった。
「シアン様、本日は本当に歓迎致しますわ」
ブランチェスカも嬉しそうに頭を下げている。
「頭を上げて下さい。本日はお茶会に来たのですから、もっと気楽になさって下さい」
コーラル伯爵家の時とは違う反応に、シアンは少々戸惑い気味だった。
とはいえ、アクアマリン子爵家の当主である兄マーリンの反応を思い出すと、これくらいは仕方ないのかなと思い直した。
クロッツ子爵親子が揃ってシアンをお茶会の会場である屋敷の中へと案内する。今日はコーラル伯爵家の時と違って空模様が怪しい。そのために屋外を避けてお茶会が開かれることになったのだ。春先というのは天気が安定しないためにある程度やむを得ない事態である。
会場となるブランチェスカの部屋に到着すると、そこにはすでにプルネと姉のフューシャがくつろいでいる最中だった。
二人はシアンを見るなり立ち上がって淑女の挨拶をしている。
「ご機嫌麗しゅうございます、シアン王女殿下」
「フューシャもいらしてたのですね」
「はい、妹の付き添いでお邪魔させて頂いております」
丁寧に頭を下げたままシアンの言葉に答えるフューシャである。
しかし、このフューシャ・コーラルの真意というものは、なかなかうまく汲み取れないものだ。とはいえ、せっかくのお茶会なので、ひとまずは楽しむことにするシアンなのである。
「王女殿下たちは、学園には慣れましたでしょうか」
紅茶とお菓子をしばらく楽しむ中、フューシャが話を切り出してくる。
「そうですね。学園に入学してひと月が経ちましたので、それなりに慣れてはきましたね」
少し考え込みながらシアンはにこやかに返事をしている。プルネやブランチェスカも同じような気持ちなのか、シアンの言葉に同意するように頷いている。その姿に、フューシャは微笑ましく思ったのか楽しそうな笑顔を見せている。
「プルネは少し引っ込み思案なところがありますので、こうも早く友だちを作るとは意外でしたね」
「お、お姉様ったら!」
フューシャの言葉に慌てたように反応するプルネ。その様子についつい笑ってしまうシアンとブランチェスカである。
「ふふっ。ですが、ここはクロッツ子爵家ですから、私たちの話題はこのくらいにしておきましょうか」
自分で切り出しておきながら、早々に話を切り上げるフューシャである。まったく、どことなくその気持ちがつかめない女性である。
出だしからちょっとコーラル伯爵家の姉妹にペースを握られかかったお茶会だったものの、終始楽しむことができた。
気がかりだった天気もどうやら最後までもったらしく、シアンたちが家に戻るまでずっとどんよりした状態だったが雨に降られる事はなかった。
「クロッツ子爵家でのお茶会でしたけれど、フューシャ・コーラルはなかなか油断できないようで、終始そっちが気になってしまいましたね」
「確かにそうでございますね。少し探りを入れてみますか?」
スミレの言葉に首をふるふると横に振るシアンである。
「フューシャを疑うということは、両親であるアイリスとニーズヘッグも疑うことになります。あの二人の事を考えるとやめておいた方がいいでしょう」
「承知致しました」
クロッツ子爵家でのお茶会だったというのに、気になることはフューシャのことばかりである。
スミレにはそういったものの、なぜか気がかりになるシアンなのであった。
フューシャ・コーラル、彼女は一体何者なのだろうか。
クロッツ子爵家は初めてとあって、シアンはちょっと楽しみにしていた。
「前世でも聞いたことのない家柄ですから、どのような家なのか楽しみでたまりませんね」
「楽しみにされるのは構いませんが、あまりはしゃがないで下さいね」
楽しそうに馬車の外へと視線を向けるシアンを、侍女であるスミレは心配そうに言い聞かせていた。
シアン・アクアマリンとして生きてきた経験のあるシアンではあるが、懐かしい学園生活の影響か、精神的に少し幼くなっているようだった。そのために、スミレが心配そうな視線を向けているのである。
シアンたちを乗せた馬車がクロッツ子爵家に到着する。
お茶会とはいえ、子爵家に直々に王族が顔を覗かせるというのは珍しい話だ。出迎えるクロッツ子爵家の面々の緊張が痛いほどひしひしと伝わってきている。
(ブランチェスカはもちろんですが、ご両親まで出てこられるとはずいぶんな状況ですね)
どことなく自分が王族という意識が抜け落ちるシアンである。
スミレに手を引かれて馬車から降りるシアン。さすがは王族とあってその姿にもどこか品格というものが漂っている。
「よ、ようこそおいで下さいました。私、ブランチェスカの父であるトランク・クロッツと申します」
「母親のリーフレア・クロッツでございます。シアン王女殿下、心より歓迎申し上げます」
ブランチェスカの両親らしい人物に仰々しくも頭を下げられるシアン。しかし、子爵位の家からすれば王族というものは雲の上の存在といったところである。ゆえにこのような反応になって当然なのだった。
「シアン様、本日は本当に歓迎致しますわ」
ブランチェスカも嬉しそうに頭を下げている。
「頭を上げて下さい。本日はお茶会に来たのですから、もっと気楽になさって下さい」
コーラル伯爵家の時とは違う反応に、シアンは少々戸惑い気味だった。
とはいえ、アクアマリン子爵家の当主である兄マーリンの反応を思い出すと、これくらいは仕方ないのかなと思い直した。
クロッツ子爵親子が揃ってシアンをお茶会の会場である屋敷の中へと案内する。今日はコーラル伯爵家の時と違って空模様が怪しい。そのために屋外を避けてお茶会が開かれることになったのだ。春先というのは天気が安定しないためにある程度やむを得ない事態である。
会場となるブランチェスカの部屋に到着すると、そこにはすでにプルネと姉のフューシャがくつろいでいる最中だった。
二人はシアンを見るなり立ち上がって淑女の挨拶をしている。
「ご機嫌麗しゅうございます、シアン王女殿下」
「フューシャもいらしてたのですね」
「はい、妹の付き添いでお邪魔させて頂いております」
丁寧に頭を下げたままシアンの言葉に答えるフューシャである。
しかし、このフューシャ・コーラルの真意というものは、なかなかうまく汲み取れないものだ。とはいえ、せっかくのお茶会なので、ひとまずは楽しむことにするシアンなのである。
「王女殿下たちは、学園には慣れましたでしょうか」
紅茶とお菓子をしばらく楽しむ中、フューシャが話を切り出してくる。
「そうですね。学園に入学してひと月が経ちましたので、それなりに慣れてはきましたね」
少し考え込みながらシアンはにこやかに返事をしている。プルネやブランチェスカも同じような気持ちなのか、シアンの言葉に同意するように頷いている。その姿に、フューシャは微笑ましく思ったのか楽しそうな笑顔を見せている。
「プルネは少し引っ込み思案なところがありますので、こうも早く友だちを作るとは意外でしたね」
「お、お姉様ったら!」
フューシャの言葉に慌てたように反応するプルネ。その様子についつい笑ってしまうシアンとブランチェスカである。
「ふふっ。ですが、ここはクロッツ子爵家ですから、私たちの話題はこのくらいにしておきましょうか」
自分で切り出しておきながら、早々に話を切り上げるフューシャである。まったく、どことなくその気持ちがつかめない女性である。
出だしからちょっとコーラル伯爵家の姉妹にペースを握られかかったお茶会だったものの、終始楽しむことができた。
気がかりだった天気もどうやら最後までもったらしく、シアンたちが家に戻るまでずっとどんよりした状態だったが雨に降られる事はなかった。
「クロッツ子爵家でのお茶会でしたけれど、フューシャ・コーラルはなかなか油断できないようで、終始そっちが気になってしまいましたね」
「確かにそうでございますね。少し探りを入れてみますか?」
スミレの言葉に首をふるふると横に振るシアンである。
「フューシャを疑うということは、両親であるアイリスとニーズヘッグも疑うことになります。あの二人の事を考えるとやめておいた方がいいでしょう」
「承知致しました」
クロッツ子爵家でのお茶会だったというのに、気になることはフューシャのことばかりである。
スミレにはそういったものの、なぜか気がかりになるシアンなのであった。
フューシャ・コーラル、彼女は一体何者なのだろうか。
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