逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
400 / 483
新章 青色の智姫

第31話 シアンの企み

しおりを挟む
 ペイルが精霊の羽を無事に手に入れて戻ってきた事で、モスグリネの城は大騒ぎになる。
 これでいよいよ王位継承が行えると、現国王であるダルグも喜んだ。
 とはいえ、すぐに王位継承の儀式ができるかというとそうはならない。式典の準備など、おおよそ半年の準備を要することになるらしい。
「アイヴォリーの学園への留学、無事に王女という立場で行うことになりそうですね」
「そうですね。お父様が王太子のままだったら、どういう立場だったのかしら」
 ペイルの王位継承が正式に決まった日の夜、部屋の中でシアンはスミレと話をしていた。
「それにしても、転生してからというものいろいろと順調じゃないかしら」
「その方がよろしいとはお思いますよ。騒ぎなんていうのは、シアン様の魔力が強すぎたことくらいですものね」
 ちょうどいい機会なのでこれまでを思い出してみてみるものの、これといった問題のようなものは起きていない。かつての主で今の母親であるロゼリアたちの時のような事はなかったのだ。
「ロゼリア様の時は、一度経験した人生をなぞっていたからですよ。人生で初めてばかりが続く状況で、その先にある出来事が全部わかっていたら、それは神様みたいなものです。私たち幻獣ですら無理ですよ」
 急に難しい顔をして考え込むシアンに対して、スミレは苦言を呈しておいた。
 それを聞かされたシアンはどうやら納得したらしく、考え込むことをやめたのだった。
「まぁ、シアン様の場合は知っている場所に行きたがることくらいでしょうかね。前世のかかわりのある場所ですよ、アクアマリン領とか」
 流れのままにスミレが話していると、シアンはじっとスミレを凝視し始めた。
「な、何ですか。まさか、こんな時期にアクアマリン領に行きたいとか申しませんよね?」
 嫌な予感がしたスミレは、困惑した表情でシアンを見つめ返している。
 そのスミレに対してシアンは、にこりと微笑みを浮かべる。
「その通りですよ。あそこは何かとあった場所ですし、久しぶりにお兄様に会ってみたくなりましたわ。スミレが話に出したせいですよ?」
「うげぇ、私のせいにしますか」
 悪い笑顔をしているシアンに対して、スミレは距離を取っている。元幻獣とはいえ、今は力を封じられたちょっと魔力があるだけの人間なので、面倒を避けたいからだった。
「これから半年は王位継承の儀式の準備で忙しいですし、行けるとしてもその後の挨拶の時くらいですよ」
「ええ、分かっています。お父様もお母様も、ちょっと過保護ですからね」
 スミレの話に頬に手を当てながらため息を吐くシアンである。
 とにかく、アクアマリンに行きたいと口に出しても、両親を説得できるかどうかというのは分からない。シアンは口に出すタイミングを見計らうことにしたのだった。

 ところが、結局半年経って王位継承の儀式が行われる時期になっても、それに関連した話がなされる事はなかった。
 シアンは完全に言うタイミングを逸してしまっていたのだ。
 大人の話だから、子どもということで関わらせてもらえなかったのである。
 どうしたものかと困っていたシアンだったが、王位継承が一週間後に迫った日のこと、ペイルとロゼリアがシアンとモーフも呼んで話をする機会を設けたのだった。
「王位継承式の後に、アイヴォリー王国にも挨拶をする事になったが、どこか行きたいところはあるか?」
 そう、隣国アイヴォリー王国への挨拶旅行でする寄り道の話を切り出したのだ。
 シアンはチャンスとばかりに、勢い良く手を挙げていた。
「それでしたら、私、アクアマリン領とコーラル領に行きたいです」
 なぜか付け加わるコーラル領。
 その理由は簡単である。シェリアの街とカイスの村である。
 とくに後者のカイスの村は、スミレに一時期潜伏してもらっていた場所であるし、光と水の精霊であるレイニが居る。アクアマリン領同様に、シアンにとっては関係の深い場所だったのだ。
 だが、ペイルとロゼリアはちょっと考え込んでいる。
 アクアマリン領はモスグリネとの間にあるのでいいものの、カイスの村ともなればかなり遠い。なにせアイヴォリー王国の王都ハウライトから馬車で十日の位置なのだから。
 ペイルの方はずっと悩んでいるものの、ロゼリアの方は納得がいったかのように表情を和らげていた。
「分かりました。かなり予定が延びてはしまいますが、どうにかねじ込みましょう」
「本気か、ロゼリア」
 ペイルが驚いた反応をするものの、ロゼリアはこくりと頷いた。
「最悪、チェリシアに頼んで二人だけでも向かわせましょう。言い出しのは恐らくスミレでしょうけれど、下手に断って拗ねられては困りますからね」
「うーん、悪いが今すぐに決断はできないな。アクアマリン領へ向かうことは了承するが、コーラル領の方はどうなるか分からん」
 こんな感じで、ペイルにはコーラル領へ向かう話は保留にされてしまった。
 しかし、アクアマリン領だけでも了承させられたのは大きかった。
 弟のモーフが不思議そうに見つめる中、シアンは心の中でにっこりと微笑んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...