逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第30話 精霊の試練

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 何の因縁か、ペイルは王位継承のための証を手に入れるために、アイリスの眷属の一人であるライと戦うことになった。
 ライはかつては精霊の森に棲んでいた妖精の一体に過ぎなかったが、デモンズハートと呼ばれる石に触れてハイスプライトに堕ち、そこから神獣使いの眷属となって今に至るというなかなかに数奇な経歴の持ち主だ。
 それに加えて、あの自由気ままな幻獣ケットシーの知り合いでもある。なるほど、ペイルの試練にもってこいというわけだった。
「ペシエラ様には敵わなかったけれど、ペイル殿下はどうかしらね」
 キラキラとした魔法を周りに浮かべてにっこりと笑うライ。
 対するペイルは剣を構える。
「そうそう、精霊体に戻っているから、本気で斬ってもらって結構よ。精霊なら簡単には死なないからね」
「分かった、本気でいかせてもらうぞ」
 ペイルとライがじっと睨み合う。
「父上、大丈夫でしょうか」
「ええ、大丈夫よ。信じて見守りましょう」
 心配そうに見つめるモーフを、ロゼリアがなだめている。
 シアンも二人の戦いをじっと見つめている。さっきから自分に対してちょくちょくと視線を送っているのが気になっているからだ。
(ライは精霊ですから、私のことをはっきりと認識しているみたいですね。あのケットシーとも知り合いですからね……)
 シアンの手に力が入る。
「さあ、いらっしゃい、ペイル殿下。死なないようにはしてあげるから、本気でいらっしゃい」
「望むところだ!」
 ペイルがライに対して斬りかかる。
 対魔物の経験もあるし、普段から訓練を怠っていないペイルの剣筋は確かなものだ。
 ライの左肩を狙って剣が振り下ろされるが、ライは簡単にそれを躱していた。
「遅い遅い。剣筋はいいんだけど、なまじペシエラ様の剣を見てるとね」
 ライは困ったような表情を見せている。
「あいつと比べてもらっちゃ困るぞ。持久戦に持ち込めば体力の差でいい勝負に持ち込めたが、多分今なら簡単に負ける自信があるぞ」
「さすがに一国の王を目指す身として、その言葉はどうかと思うわね。すごく賛同するけど」
 ライはペイルの剣を躱し続ける。
「剣筋も速さも十分。だけど、それだけじゃ私には当てられないわよ。上位の魔物だった私をなめてもらっちゃ困るわ」
 そう言いながら、ライは魔法を使い始める。
「モスグリネ王国のものならなじみの風魔法。しっかりと防いでちょうだいね」
 ライはわざと大きく手を振って魔法の発動を認識させる。
「はあっ!」
 その魔法に対して、剣に風魔法を乗せて放ち、魔法を相殺するペイルである。
「ひゅ~、魔法の腕前じゃ勝てないからって、剣を使って魔法を強化したのね。さすがだわ」
 少し手加減はしたとはいえ、あっさりと魔法を相殺されたライは楽しそうに笑っている。
「いいわねぇ。これなら楽しめそうだわ」
 顔がさらに笑顔になる。本当に楽しそうなライなのである。
「こっちは楽しくないがな。何のために来てると思ってるんだ」
「うん、目的は知ってる。だから、ペイル殿下は全力で私を楽しませるのよ。精霊って楽しいのが好きだからね」
 空中で縦に一回転するライ。本当に余裕がありそうだった。
 なにせ自分を魔物に堕としたデモンズハートを、なんとか破壊してみせるほどの実力の持ち主なのだから。
 それからも剣を使ってライを攻撃するペイルだったが、ひたすら余裕を持って躱され続けている。
 さすがに単調な攻撃を見せつけられていると、温厚なライもほとほと飽きてきたようだ。
「うーん、もうちょと面白い事をしてくれるかと思ったんだけど……」
 人差し指を顎に当てながら話すライは、ちょっと不機嫌な表情を見せている。
「いい加減に飽きたわ。終わりにさせてもらうわね」
 そういって、両手を上げて風を集め始める。
「いい暇つぶしになったわ。残念だけど、退場してもらえるかな」
 ライはそういって少し後ろに倒れて、集めた風をペイル目がけて投げつけようとしている。
「さようなら、お帰りはあちらですよ」
 そういって、無表情で風の球を投げつけるライ。
 ところが、ペイルの表情はまだ諦めていないようだった。
「待ってたよ。お前が大技を使う時をな」
「なんですって?!」
 ペイルは剣に魔力を集めている。そして、ライの投げつけてきた風の球に向けて、思い切り剣を振り抜いた。
「いっけーっ!」
 風には風をぶつけるというペイルの渾身の一撃が炸裂する。
 なんと、放たれた風の球が炸裂することなくライへと打ち返されたのだ。
「ははーん、面白いことをするわね」
 そういって、風の球をまともに食らうライ。それを見たペイルとモーフが思わずガッツポーズを見せる。
 だが、シアンの表情は険しかった。
(さすがは精霊というべきでしょうか。得意な属性の魔法だからか、吸収していっていますね)
 そう思った次の瞬間、風の球が弾け飛んで消えてしまった。
「うんうん、最後の一撃はちょっとやばかったかな。いやぁ、わざと私に大きな一撃を放たせて、それでカウンターを狙うとはね」
 ライはそう話しながらペイルに近付く。
「はい、これは約束の精霊の羽ね。窮地に追い込まれてもなおも諦めない心、見せてもらったお礼よ」
 ライはペイルに羽を渡すと、思い切り背伸びをしている。
「んー、それじゃアイヴォリーに戻って商会の仕事を再開させますか。ああ、シアンちゃんとモーフくんが学園に通う日を楽しみにしてるわね。じゃあね~」
 こうして、ライはその場から姿を消したのだった。
 その場に残されたペイルは、ちょっとだけ誇らしげに羽を握りしめたのだった。
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