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新章 青色の智姫
第22話 戴冠式のお知らせ
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ロゼリアの元に、アイヴォリー王国からの手紙が届く。
その手紙を早速確認したロゼリアは、そういう時期が来たのかと感慨深そうに眺めていた。
「ロゼリア」
「ペイル様?」
部屋にペイルがやって来る。
「くそっ、先を越されてしまったな。悔しいがしっかりお祝いをしてやらねばいかぬな」
「ええ、そうですね」
右手を顔の前で握りしめるペイルは、本当に悔しいな表情をしながら小さく拳を震わせていた。その姿を見てついつい笑ってしまうロゼリアである。
「ふふふっ、そのお祝いはボクに任せてもらおうか」
「ケットシー、あなたいつも突然現れないの!」
急に乱入してくる猫の幻獣に、ロゼリアの冷静なツッコミが炸裂する。
「はっはっはっ、いいじゃないか、ボクたちの仲というものだよ」
相変わらずの気まぐれっぷりである。思わず殴ってやりたいという衝動が、ロゼリアの中に生まれていた。
「物騒なことは考えないでおくれ。それよりもマゼンダ商会の方は何か贈らないのかい? せっかくこっちに支店を出しているというのね」
「確かにそうですね。実質的な経営は私とペイル様となっていますしね」
マゼンダ商会ヴィフレア支店。
それは、初めてモスグリネを訪れた際に設置された商会である。主にチェリシアの暴走による、大豆を仕入れるために設置された支店である。
「俺たちからの贈り物を何かこしらせさせるか。とはいえ、この告知された時期には間に合わないだろうな」
ペイルは贈られてきた手紙をもう一度確認する。そこに書かれていたシルヴァノとペシエラの戴冠式は一か月後である。確かに今から手配してどうのこうのとなれば、運搬のための時間を含めてギリギリといったところだろう。
「はっはっはっ」
その様子を見ていたケットシーが笑っている。
「まあ、贈り物はボクに任せておいておくれよ。なにせ、ボクが関わっているんだからね。はっはっはっ」
自信たっぷりなケットシーは、ロゼリアたちの前からかき消すように姿を消したのだった。
相変わらずの自由っぷりと自信に満ちあふれた態度に、ただただ呆れる二人だった。
「……なんというか、不安になってきたな」
「私もですよ……」
しばらく沈黙する二人。
やがて、ロゼリアがペイルに話し掛ける。
「子どもたちを連れていきましょうか」
「どうしてだ?」
突然のロゼリアの言葉に、ペイルは純粋に問い掛ける。
「ペシエラは逆行前に私を処刑してしまったことを後悔しています。その私たちの幸せな姿を見せるのが、一番の贈り物になると思うのですよ」
「なるほどなぁ。だが、俺はその時にいろいろやらかしたと聞いてるが、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。ペシエラはそんなに子どもじゃありませんからね」
ペイルの疑問に、ロゼリアはついおかしなって笑いながら答えていた。
「……それもそうだな」
ちょっと驚いた表情をしたペイルだったが、納得したかのように笑い始めた。
「では、あの子たちと話をしてきますね」
「ああ、頼んだ。俺は戴冠式の事で各所に指示を出して回らなきゃいけないからな」
「承知致しました」
ぺこりと頭を下げて、ロゼリアは一足先に部屋を出ていったのだった。
暖かな日差しの下で、ロゼリアが紅茶をたしなんでいる。そこへ、呼び出しに応じたシアンとモーフの二人がやって来た。
「お呼びでございますでしょうか、お母様」
「どうなされたのでしょうか、母上」
シアンは十歳、モーフは八歳。二人ともしっかりと言葉遣いはできているようである。
「まあ、座りなさい」
ロゼリアは自分の両隣にシアンとモーフを座らせる。そして、単刀直入に話を始める。
「実は、近々アイヴォリー王国のシルヴァノ殿下が王位を継承されるそうです」
「そうなのですか?!」
驚いた反応を示すモーフに対して、シアンの反応は乏しかった。
「そうですか。そういう時期なのですね」
まるで分っていたかのような反応である。モーフとその従者はあまり気にしていないようだが、シアンの後ろに立つスミレがものすごく困った表情を浮かべているせいでロゼリアはおかしくて笑いそうになってしまう。
だが、ロゼリアアはあえてそれをスルーして、笑いを堪えながら話の続きをする。
「それでですね。二人も大きくなったわけですし、アイヴォリー王国の戴冠式に一緒に参列させようという話になりました。一応確認は取りますが、二人はどうしたいですか?」
唐突な話に面食らうシアンである。とはいえ、さすがに戴冠式ともなれば友好国であるモスグリネは全員で参列させておきたいだろう。見た目は幼いながらもシアンはあごに手を当てて考え始めた。
「僕は参列します」
一方のモーフは、ほぼ間を置かずして答えていた。
「姉上も当然参列されますよね」
間髪入れずにシアンに問い掛けてくるモーフ。まったく、本当に子どもなせいか遠慮がない。
父親であるペイルより濃い緑色の髪と瞳をキラキラさせながら、純粋な態度で問い掛けられると断るにも断れなくなるシアンである。
「ええ、もちろんでございます、お母様」
目をあちこち泳がせた後、観念したようにロゼリアに告げるシアンだった。
こうして、家族そろってアイヴォリー王国に赴くことになったロゼリアたち。
一方で、久しぶりに踏むアイヴォリー王国の地に、いろいろと不安のよぎるシアンなのであった。
その手紙を早速確認したロゼリアは、そういう時期が来たのかと感慨深そうに眺めていた。
「ロゼリア」
「ペイル様?」
部屋にペイルがやって来る。
「くそっ、先を越されてしまったな。悔しいがしっかりお祝いをしてやらねばいかぬな」
「ええ、そうですね」
右手を顔の前で握りしめるペイルは、本当に悔しいな表情をしながら小さく拳を震わせていた。その姿を見てついつい笑ってしまうロゼリアである。
「ふふふっ、そのお祝いはボクに任せてもらおうか」
「ケットシー、あなたいつも突然現れないの!」
急に乱入してくる猫の幻獣に、ロゼリアの冷静なツッコミが炸裂する。
「はっはっはっ、いいじゃないか、ボクたちの仲というものだよ」
相変わらずの気まぐれっぷりである。思わず殴ってやりたいという衝動が、ロゼリアの中に生まれていた。
「物騒なことは考えないでおくれ。それよりもマゼンダ商会の方は何か贈らないのかい? せっかくこっちに支店を出しているというのね」
「確かにそうですね。実質的な経営は私とペイル様となっていますしね」
マゼンダ商会ヴィフレア支店。
それは、初めてモスグリネを訪れた際に設置された商会である。主にチェリシアの暴走による、大豆を仕入れるために設置された支店である。
「俺たちからの贈り物を何かこしらせさせるか。とはいえ、この告知された時期には間に合わないだろうな」
ペイルは贈られてきた手紙をもう一度確認する。そこに書かれていたシルヴァノとペシエラの戴冠式は一か月後である。確かに今から手配してどうのこうのとなれば、運搬のための時間を含めてギリギリといったところだろう。
「はっはっはっ」
その様子を見ていたケットシーが笑っている。
「まあ、贈り物はボクに任せておいておくれよ。なにせ、ボクが関わっているんだからね。はっはっはっ」
自信たっぷりなケットシーは、ロゼリアたちの前からかき消すように姿を消したのだった。
相変わらずの自由っぷりと自信に満ちあふれた態度に、ただただ呆れる二人だった。
「……なんというか、不安になってきたな」
「私もですよ……」
しばらく沈黙する二人。
やがて、ロゼリアがペイルに話し掛ける。
「子どもたちを連れていきましょうか」
「どうしてだ?」
突然のロゼリアの言葉に、ペイルは純粋に問い掛ける。
「ペシエラは逆行前に私を処刑してしまったことを後悔しています。その私たちの幸せな姿を見せるのが、一番の贈り物になると思うのですよ」
「なるほどなぁ。だが、俺はその時にいろいろやらかしたと聞いてるが、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。ペシエラはそんなに子どもじゃありませんからね」
ペイルの疑問に、ロゼリアはついおかしなって笑いながら答えていた。
「……それもそうだな」
ちょっと驚いた表情をしたペイルだったが、納得したかのように笑い始めた。
「では、あの子たちと話をしてきますね」
「ああ、頼んだ。俺は戴冠式の事で各所に指示を出して回らなきゃいけないからな」
「承知致しました」
ぺこりと頭を下げて、ロゼリアは一足先に部屋を出ていったのだった。
暖かな日差しの下で、ロゼリアが紅茶をたしなんでいる。そこへ、呼び出しに応じたシアンとモーフの二人がやって来た。
「お呼びでございますでしょうか、お母様」
「どうなされたのでしょうか、母上」
シアンは十歳、モーフは八歳。二人ともしっかりと言葉遣いはできているようである。
「まあ、座りなさい」
ロゼリアは自分の両隣にシアンとモーフを座らせる。そして、単刀直入に話を始める。
「実は、近々アイヴォリー王国のシルヴァノ殿下が王位を継承されるそうです」
「そうなのですか?!」
驚いた反応を示すモーフに対して、シアンの反応は乏しかった。
「そうですか。そういう時期なのですね」
まるで分っていたかのような反応である。モーフとその従者はあまり気にしていないようだが、シアンの後ろに立つスミレがものすごく困った表情を浮かべているせいでロゼリアはおかしくて笑いそうになってしまう。
だが、ロゼリアアはあえてそれをスルーして、笑いを堪えながら話の続きをする。
「それでですね。二人も大きくなったわけですし、アイヴォリー王国の戴冠式に一緒に参列させようという話になりました。一応確認は取りますが、二人はどうしたいですか?」
唐突な話に面食らうシアンである。とはいえ、さすがに戴冠式ともなれば友好国であるモスグリネは全員で参列させておきたいだろう。見た目は幼いながらもシアンはあごに手を当てて考え始めた。
「僕は参列します」
一方のモーフは、ほぼ間を置かずして答えていた。
「姉上も当然参列されますよね」
間髪入れずにシアンに問い掛けてくるモーフ。まったく、本当に子どもなせいか遠慮がない。
父親であるペイルより濃い緑色の髪と瞳をキラキラさせながら、純粋な態度で問い掛けられると断るにも断れなくなるシアンである。
「ええ、もちろんでございます、お母様」
目をあちこち泳がせた後、観念したようにロゼリアに告げるシアンだった。
こうして、家族そろってアイヴォリー王国に赴くことになったロゼリアたち。
一方で、久しぶりに踏むアイヴォリー王国の地に、いろいろと不安のよぎるシアンなのであった。
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