逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
390 / 483
新章 青色の智姫

第21話 コーラル姉妹

しおりを挟む
 アイヴォリー王国。
 モスグリネの王国の王太子妃ロゼリアの出身国である。
 今年は、シルヴァノの妻であるペシエラ王太子妃が二十六歳になるとあって、正式に王位継承が行われることになった。
 巻き戻り前の時点とは、既にこの時点で異なっている。ペシエラがチェリシアだった時も四年も遅れたこととなる。王位継承は二十五歳以上という規定あるらしいので、ペシエラがその年を迎えるまで待ったらしい。ただ、ちょっとしたごたごたがあったために、予定からさらに一年遅れてしまった。
「モスグリネには招待状は出しましたかしら」
「はい、もちろんでございます」
 王位継承のために忙しくするシルヴァノとペシエラだが、合間を縫って招待状などのチェックも行っている。
「友好国たるモスグリネの王族と招かないとあっては、相手方に失礼ですからね。お迎えする準備は怠ってはなりませんわよ」
「はっ、畏まりました」
 使用人が返事をして出ていく。
「まったく、前回とは四年ずれましたし、モスグリネへの対応もありますから同じようにとは参りませんわね」
 部屋に残ったペシエラは、大きくため息をついている。
 すると、部屋の扉がコンコンと叩かれ、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ペシエラ、ちょっといいかしら」
「お姉様、よく入ってこられましたわね。開いてるから入っていいですわよ」
 扉が開いて中に入ってきたのは、ペシエラの姉であるチェリシアである。
 かつてのペシエラ本人ではあるものの、逆行した際に異世界人の魂が入り込んでしまった別人、それが今のチェリシアである。
 ペシエラにとっては頼れる姉であり、そして、同時に悩みのタネでもある姉、それがチェリシア・コーラル・マゼンダである。
「何しに来られたのかしら。子どもたちはよろしくて?」
 動揺した様子は見せずに、普段通りに笑顔で応対するペシエラ。
「お義父様たちに預けてきているから大丈夫よ。それはそれとして、商会から何を献上しようかと思ってね、それで相談に来たわけ」
「そんなもの、マゼンダ侯爵様にお伺いすればよろしいでしょうに……。なんでわたくしのところに来るのかしら」
「ペシエラの希望が聞きたいだけよ」
 両手を合わせながら笑顔で言うチェリシアに、思わず黙り込んでしまうペシエラである。本当に、元が異世界人なせいかちょっと感覚がずれている。
「あのねぇ、お姉様。ここはお姉様が以前いた世界とは違いますのよ? 確かに本人の希望が大事でしょうけれど、そうほいほいと王族に会うことがどれだけ異常かを学んで下さいませ……」
 頭が痛くなってきたペシエラは、ついつい手で押さえてしまう。
「妹の一世一代の晴れ舞台ですもの。私だって気合いが入ってしまうわ」
 胸に指先を当て、堂々と胸を張って言ってのけるチェリシア。先述のごたごたは、大体彼女のせいである。
「はあ、招待状はようやく出したところですのに、どこからお姉様の元に情報が漏れたのかしら……」
「私がペシエラの事を知らないとでも?!」
「怖いですわよ!」
 堂々と言い放つチェリシアに、今日もペシエラのツッコミが冴えわたっている。こういったやり取りが平然と行えるあたり、姉妹仲はとても良好なのである。
「式典中は絶対おとなしくしていて下さいませ、お姉様」
「泣く自信があるわ」
「威張ることかしら?!」
 お互い平常運転である。
「とりあえずお姉様、お祝い品であれば当たり障りのないあたりで贈って頂けれよろしいですわよ。わたくしたちには子どももいますから、あの子たち向けでもよろしいですし」
「そうなのね。じゃあ、そうさせてもらおうかしら」
「お姉様、言葉遣いにはお気を付け下さいませ」
 いくら姉妹とはいえど、王太子妃と貴族夫人。ため口は本来許されないのだ。今は二人だけだから許されているようなものである。
「分かりましたわよ。それじゃ、私はペシエラの子どもたちのためにお祝い品を用意させてもらうわね。あっ、もちろん二人の分もあるから」
「変なものは贈らないで下さいませ」
「いつも変みたいに言わないで」
「事実ですわよ」
 ペシエラに言われたチェリシアはぷうっと頬を膨らませながら、瞬間移動魔法で城から去っていった。
 ようやく嵐が去ったペシエラは、一度椅子に座って休憩を取る。チェリシアの相手はそれだけ(精神的に)疲れるのだ。
「まったく、お姉様はホントにおかしいんですから……。でも、そのおかげで少し楽になりましたかね」
 ペシエラは立ち上がって窓の近くへと歩いていく。
「今度こそ、わたくしはこの景色を守り通さねばなりませんね」
 眼前に広がるアイヴォリー王国の王都。
 逆行前の今頃は、モスグリネ王国軍の手によって瓦礫と焼けただれた荒れ地となっていた。
「あの時のわたくしは、三十歳までしか生きられませんでしたものね。時間的には、あと一年ですか」
 故郷の村で飢えに耐え忍んでいた光景が、今なお鮮明に思い出せるペシエラ。あの時の失敗は、今のペシエラの糧となっているのだ。
「ロゼリアは生きていますし、今度こそわたくしは絶対に間違えませんわよ」
 戴冠式を前に、ペシエラは再び固く決意をしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。 しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。 覚悟して下さいませ王子様! 転生者嘗めないで下さいね。 追記 すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。 モフモフも、追加させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 カクヨム様でも連載を始めました。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...