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新章 青色の智姫
第21話 コーラル姉妹
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アイヴォリー王国。
モスグリネの王国の王太子妃ロゼリアの出身国である。
今年は、シルヴァノの妻であるペシエラ王太子妃が二十六歳になるとあって、正式に王位継承が行われることになった。
巻き戻り前の時点とは、既にこの時点で異なっている。ペシエラがチェリシアだった時も四年も遅れたこととなる。王位継承は二十五歳以上という規定あるらしいので、ペシエラがその年を迎えるまで待ったらしい。ただ、ちょっとしたごたごたがあったために、予定からさらに一年遅れてしまった。
「モスグリネには招待状は出しましたかしら」
「はい、もちろんでございます」
王位継承のために忙しくするシルヴァノとペシエラだが、合間を縫って招待状などのチェックも行っている。
「友好国たるモスグリネの王族と招かないとあっては、相手方に失礼ですからね。お迎えする準備は怠ってはなりませんわよ」
「はっ、畏まりました」
使用人が返事をして出ていく。
「まったく、前回とは四年ずれましたし、モスグリネへの対応もありますから同じようにとは参りませんわね」
部屋に残ったペシエラは、大きくため息をついている。
すると、部屋の扉がコンコンと叩かれ、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ペシエラ、ちょっといいかしら」
「お姉様、よく入ってこられましたわね。開いてるから入っていいですわよ」
扉が開いて中に入ってきたのは、ペシエラの姉であるチェリシアである。
かつてのペシエラ本人ではあるものの、逆行した際に異世界人の魂が入り込んでしまった別人、それが今のチェリシアである。
ペシエラにとっては頼れる姉であり、そして、同時に悩みのタネでもある姉、それがチェリシア・コーラル・マゼンダである。
「何しに来られたのかしら。子どもたちはよろしくて?」
動揺した様子は見せずに、普段通りに笑顔で応対するペシエラ。
「お義父様たちに預けてきているから大丈夫よ。それはそれとして、商会から何を献上しようかと思ってね、それで相談に来たわけ」
「そんなもの、マゼンダ侯爵様にお伺いすればよろしいでしょうに……。なんでわたくしのところに来るのかしら」
「ペシエラの希望が聞きたいだけよ」
両手を合わせながら笑顔で言うチェリシアに、思わず黙り込んでしまうペシエラである。本当に、元が異世界人なせいかちょっと感覚がずれている。
「あのねぇ、お姉様。ここはお姉様が以前いた世界とは違いますのよ? 確かに本人の希望が大事でしょうけれど、そうほいほいと王族に会うことがどれだけ異常かを学んで下さいませ……」
頭が痛くなってきたペシエラは、ついつい手で押さえてしまう。
「妹の一世一代の晴れ舞台ですもの。私だって気合いが入ってしまうわ」
胸に指先を当て、堂々と胸を張って言ってのけるチェリシア。先述のごたごたは、大体彼女のせいである。
「はあ、招待状はようやく出したところですのに、どこからお姉様の元に情報が漏れたのかしら……」
「私がペシエラの事を知らないとでも?!」
「怖いですわよ!」
堂々と言い放つチェリシアに、今日もペシエラのツッコミが冴えわたっている。こういったやり取りが平然と行えるあたり、姉妹仲はとても良好なのである。
「式典中は絶対おとなしくしていて下さいませ、お姉様」
「泣く自信があるわ」
「威張ることかしら?!」
お互い平常運転である。
「とりあえずお姉様、お祝い品であれば当たり障りのないあたりで贈って頂けれよろしいですわよ。わたくしたちには子どももいますから、あの子たち向けでもよろしいですし」
「そうなのね。じゃあ、そうさせてもらおうかしら」
「お姉様、言葉遣いにはお気を付け下さいませ」
いくら姉妹とはいえど、王太子妃と貴族夫人。ため口は本来許されないのだ。今は二人だけだから許されているようなものである。
「分かりましたわよ。それじゃ、私はペシエラの子どもたちのためにお祝い品を用意させてもらうわね。あっ、もちろん二人の分もあるから」
「変なものは贈らないで下さいませ」
「いつも変みたいに言わないで」
「事実ですわよ」
ペシエラに言われたチェリシアはぷうっと頬を膨らませながら、瞬間移動魔法で城から去っていった。
ようやく嵐が去ったペシエラは、一度椅子に座って休憩を取る。チェリシアの相手はそれだけ(精神的に)疲れるのだ。
「まったく、お姉様はホントにおかしいんですから……。でも、そのおかげで少し楽になりましたかね」
ペシエラは立ち上がって窓の近くへと歩いていく。
「今度こそ、わたくしはこの景色を守り通さねばなりませんね」
眼前に広がるアイヴォリー王国の王都。
逆行前の今頃は、モスグリネ王国軍の手によって瓦礫と焼けただれた荒れ地となっていた。
「あの時のわたくしは、三十歳までしか生きられませんでしたものね。時間的には、あと一年ですか」
故郷の村で飢えに耐え忍んでいた光景が、今なお鮮明に思い出せるペシエラ。あの時の失敗は、今のペシエラの糧となっているのだ。
「ロゼリアは生きていますし、今度こそわたくしは絶対に間違えませんわよ」
戴冠式を前に、ペシエラは再び固く決意をしたのだった。
モスグリネの王国の王太子妃ロゼリアの出身国である。
今年は、シルヴァノの妻であるペシエラ王太子妃が二十六歳になるとあって、正式に王位継承が行われることになった。
巻き戻り前の時点とは、既にこの時点で異なっている。ペシエラがチェリシアだった時も四年も遅れたこととなる。王位継承は二十五歳以上という規定あるらしいので、ペシエラがその年を迎えるまで待ったらしい。ただ、ちょっとしたごたごたがあったために、予定からさらに一年遅れてしまった。
「モスグリネには招待状は出しましたかしら」
「はい、もちろんでございます」
王位継承のために忙しくするシルヴァノとペシエラだが、合間を縫って招待状などのチェックも行っている。
「友好国たるモスグリネの王族と招かないとあっては、相手方に失礼ですからね。お迎えする準備は怠ってはなりませんわよ」
「はっ、畏まりました」
使用人が返事をして出ていく。
「まったく、前回とは四年ずれましたし、モスグリネへの対応もありますから同じようにとは参りませんわね」
部屋に残ったペシエラは、大きくため息をついている。
すると、部屋の扉がコンコンと叩かれ、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ペシエラ、ちょっといいかしら」
「お姉様、よく入ってこられましたわね。開いてるから入っていいですわよ」
扉が開いて中に入ってきたのは、ペシエラの姉であるチェリシアである。
かつてのペシエラ本人ではあるものの、逆行した際に異世界人の魂が入り込んでしまった別人、それが今のチェリシアである。
ペシエラにとっては頼れる姉であり、そして、同時に悩みのタネでもある姉、それがチェリシア・コーラル・マゼンダである。
「何しに来られたのかしら。子どもたちはよろしくて?」
動揺した様子は見せずに、普段通りに笑顔で応対するペシエラ。
「お義父様たちに預けてきているから大丈夫よ。それはそれとして、商会から何を献上しようかと思ってね、それで相談に来たわけ」
「そんなもの、マゼンダ侯爵様にお伺いすればよろしいでしょうに……。なんでわたくしのところに来るのかしら」
「ペシエラの希望が聞きたいだけよ」
両手を合わせながら笑顔で言うチェリシアに、思わず黙り込んでしまうペシエラである。本当に、元が異世界人なせいかちょっと感覚がずれている。
「あのねぇ、お姉様。ここはお姉様が以前いた世界とは違いますのよ? 確かに本人の希望が大事でしょうけれど、そうほいほいと王族に会うことがどれだけ異常かを学んで下さいませ……」
頭が痛くなってきたペシエラは、ついつい手で押さえてしまう。
「妹の一世一代の晴れ舞台ですもの。私だって気合いが入ってしまうわ」
胸に指先を当て、堂々と胸を張って言ってのけるチェリシア。先述のごたごたは、大体彼女のせいである。
「はあ、招待状はようやく出したところですのに、どこからお姉様の元に情報が漏れたのかしら……」
「私がペシエラの事を知らないとでも?!」
「怖いですわよ!」
堂々と言い放つチェリシアに、今日もペシエラのツッコミが冴えわたっている。こういったやり取りが平然と行えるあたり、姉妹仲はとても良好なのである。
「式典中は絶対おとなしくしていて下さいませ、お姉様」
「泣く自信があるわ」
「威張ることかしら?!」
お互い平常運転である。
「とりあえずお姉様、お祝い品であれば当たり障りのないあたりで贈って頂けれよろしいですわよ。わたくしたちには子どももいますから、あの子たち向けでもよろしいですし」
「そうなのね。じゃあ、そうさせてもらおうかしら」
「お姉様、言葉遣いにはお気を付け下さいませ」
いくら姉妹とはいえど、王太子妃と貴族夫人。ため口は本来許されないのだ。今は二人だけだから許されているようなものである。
「分かりましたわよ。それじゃ、私はペシエラの子どもたちのためにお祝い品を用意させてもらうわね。あっ、もちろん二人の分もあるから」
「変なものは贈らないで下さいませ」
「いつも変みたいに言わないで」
「事実ですわよ」
ペシエラに言われたチェリシアはぷうっと頬を膨らませながら、瞬間移動魔法で城から去っていった。
ようやく嵐が去ったペシエラは、一度椅子に座って休憩を取る。チェリシアの相手はそれだけ(精神的に)疲れるのだ。
「まったく、お姉様はホントにおかしいんですから……。でも、そのおかげで少し楽になりましたかね」
ペシエラは立ち上がって窓の近くへと歩いていく。
「今度こそ、わたくしはこの景色を守り通さねばなりませんね」
眼前に広がるアイヴォリー王国の王都。
逆行前の今頃は、モスグリネ王国軍の手によって瓦礫と焼けただれた荒れ地となっていた。
「あの時のわたくしは、三十歳までしか生きられませんでしたものね。時間的には、あと一年ですか」
故郷の村で飢えに耐え忍んでいた光景が、今なお鮮明に思い出せるペシエラ。あの時の失敗は、今のペシエラの糧となっているのだ。
「ロゼリアは生きていますし、今度こそわたくしは絶対に間違えませんわよ」
戴冠式を前に、ペシエラは再び固く決意をしたのだった。
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