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新章 青色の智姫
第11話 振り回す者と振り回す者
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モスグリネ王国の商業組合。ケットシーはその日も仕事に勤しんでいた。
「で、何かな、チェリシアくん」
ぽつりとケットシーが呟くと、そこのチェリシアがテレポートで現れる。
「久しぶりね、ケットシー」
ケットシーの反応にチェリシアが驚くわけないし、突然のチェリシアの登場にケットシーが驚くわけがなかった。互いが互いをよく分かっているのだ。
部屋の中を悠然と歩き、応接用のソファーに当たり前のように座るチェリシアである。
「大豆の話かい?」
「ええ、もちろん。アイリスから聞いているはずだけど?」
「ああ、聞いているよ。モスグリネでの増産は不可能だよ。こちらでも消費の多い食材だからね」
手を動かしながら、チェリシアの話に律儀に答えるケットシーである。並行処理など当たり前にできる猫なのである。
「まぁそうでしょうね。だから、こっちで育てようと思うから人を寄こしてほしいかなって思うのよ。農大出身でそのあたりもひと通り調べたはずなんだけどね。こっちの生活が長いせいでぽろっと忘れちゃったわ」
「そうかいそうかい。そいつは困ったものだ」
チェリシアの言い分をさらりと聞き流すケットシーである。
このひょうひょうとした態度は、さすが気ままな幻獣といったところだろう。
「こちらも人を割けるわけじゃないからね。紹介できるとしても二人くらいまでだよ。契約としては栽培期間である半年、そこが限界だろうね」
書類の処理に一度区切ったケットシーは、チェリシアに条件を突きつけた。
「それは仕方ないわね。生活はちゃんと保障するから、それでもいいわ。手配してもらえると助かるわ」
「分かった、ストロアにその辺りをお願いしておこう」
ケットシーはストロアを呼んで、その辺りの指示を出す。呼ばれたストロアはチェリシアに頭を下げながら、ケットシーの指示を黙って聞いていた。
ストロアが部屋を出ていくと、ケットシーは改めてチェリシアに問い掛ける。
「ところで、本命の用事は何なんだい?」
急な話を振ってくるケットシー。さすが油断ならない幻獣である。
「それが分かってるんだったら、言わなくても十分でしょう?」
「はっはっはっ、それもそうだねぇ。だけど、ここはあえて君の口から聞かせてもらいたいものだよ」
ケットシーにジト目を向けるチェリシアだが、それを陽気に笑い飛ばすのがケットシーなのである。
人を振り回すチェリシアですらこの通りだ。ケットシーがいかに面倒な相手かよく分かるというものである。
このケットシーの反応には、頭を抱えてため息を漏らすチェリシアだが、現状では彼の伝手を頼らなくてはいけないので我慢することにする。
「シアン王女殿下にお会いしたいのよ。アイリスの話を聞いて気になったからね」
「ああ、そういうことかい。別に構わないよ。ボクに任せてもらおうか」
ケットシーの返答にほっとするチェリシアだったが、ケットシーは条件を追加してきた。
「ただ、普通に会えるわけがないだろう? 何か献上品を用意してもらわないとね」
人差し指を立てながら、ウィンクをして言うケットシー。
ところが、チェリシアは慌てることはなかった。それどころかにやりと笑って見せていたのだ。
「ふふん、それだったらご心配なく。今年五歳になられるからって事で、私だってなにも考えなかったわけじゃないのよ」
収納空間から何かをにょっきりと取り出すチェリシア。出てきたものにまったく動じないケットシーは、それを見てじっと分析している。
「ふむふむ、これはルゼくんの用意した金属だね。魔力が普通に馴染みそうないい杖ではないか」
あれだけひょうひょうとしているケットシーが、実に真剣な目を向けている。
「さすがは幻獣ケットシー。全部バレバレってわけね」
「大きさが二つあるということは、ロゼリアくんとシアンくんの二人の分というわけだね」
「まあ、そういうところね。モーフ殿下には悪いけれど、彼が五歳になった時に用意させてもらうわ」
そう言いながら、取り出した杖を包み直して収納空間へとしまい込むチェリシアである。
「うむ、謁見に関してはボクに任せてもらう。君はしばらくここで休んでいてくれ」
「分かったわ。お世話になるわね」
よっこいしょと椅子から立ち上がったケットシーは、その場から姿を消してしまう。
幻獣である彼は神出鬼没。テレポートを自由自在に使いこなす化け猫なのである。
ケットシーが謁見許可を取ってくる間、チェリシアは紅茶を飲みながらゆっくり待つのであった。
(嫁いでいってから会うことがほぼなかったけれど、直に会うとなれば結構楽しみになるものよね)
久しぶりに顔を合わせることになる友人がどんな感じになっているのか、わくわくが止まらくなってしまうチェリシアである。
あまりにも暇なので魔石を取り出しては適当に加工していると、ようやくケットシーが戻ってくる。
「いやあ待たせたね。それじゃ城に向かうとしようかい」
いきなりケットシーから放たれた言葉に、思わず顔の歪んでしまうチェリシアなのであった。
「で、何かな、チェリシアくん」
ぽつりとケットシーが呟くと、そこのチェリシアがテレポートで現れる。
「久しぶりね、ケットシー」
ケットシーの反応にチェリシアが驚くわけないし、突然のチェリシアの登場にケットシーが驚くわけがなかった。互いが互いをよく分かっているのだ。
部屋の中を悠然と歩き、応接用のソファーに当たり前のように座るチェリシアである。
「大豆の話かい?」
「ええ、もちろん。アイリスから聞いているはずだけど?」
「ああ、聞いているよ。モスグリネでの増産は不可能だよ。こちらでも消費の多い食材だからね」
手を動かしながら、チェリシアの話に律儀に答えるケットシーである。並行処理など当たり前にできる猫なのである。
「まぁそうでしょうね。だから、こっちで育てようと思うから人を寄こしてほしいかなって思うのよ。農大出身でそのあたりもひと通り調べたはずなんだけどね。こっちの生活が長いせいでぽろっと忘れちゃったわ」
「そうかいそうかい。そいつは困ったものだ」
チェリシアの言い分をさらりと聞き流すケットシーである。
このひょうひょうとした態度は、さすが気ままな幻獣といったところだろう。
「こちらも人を割けるわけじゃないからね。紹介できるとしても二人くらいまでだよ。契約としては栽培期間である半年、そこが限界だろうね」
書類の処理に一度区切ったケットシーは、チェリシアに条件を突きつけた。
「それは仕方ないわね。生活はちゃんと保障するから、それでもいいわ。手配してもらえると助かるわ」
「分かった、ストロアにその辺りをお願いしておこう」
ケットシーはストロアを呼んで、その辺りの指示を出す。呼ばれたストロアはチェリシアに頭を下げながら、ケットシーの指示を黙って聞いていた。
ストロアが部屋を出ていくと、ケットシーは改めてチェリシアに問い掛ける。
「ところで、本命の用事は何なんだい?」
急な話を振ってくるケットシー。さすが油断ならない幻獣である。
「それが分かってるんだったら、言わなくても十分でしょう?」
「はっはっはっ、それもそうだねぇ。だけど、ここはあえて君の口から聞かせてもらいたいものだよ」
ケットシーにジト目を向けるチェリシアだが、それを陽気に笑い飛ばすのがケットシーなのである。
人を振り回すチェリシアですらこの通りだ。ケットシーがいかに面倒な相手かよく分かるというものである。
このケットシーの反応には、頭を抱えてため息を漏らすチェリシアだが、現状では彼の伝手を頼らなくてはいけないので我慢することにする。
「シアン王女殿下にお会いしたいのよ。アイリスの話を聞いて気になったからね」
「ああ、そういうことかい。別に構わないよ。ボクに任せてもらおうか」
ケットシーの返答にほっとするチェリシアだったが、ケットシーは条件を追加してきた。
「ただ、普通に会えるわけがないだろう? 何か献上品を用意してもらわないとね」
人差し指を立てながら、ウィンクをして言うケットシー。
ところが、チェリシアは慌てることはなかった。それどころかにやりと笑って見せていたのだ。
「ふふん、それだったらご心配なく。今年五歳になられるからって事で、私だってなにも考えなかったわけじゃないのよ」
収納空間から何かをにょっきりと取り出すチェリシア。出てきたものにまったく動じないケットシーは、それを見てじっと分析している。
「ふむふむ、これはルゼくんの用意した金属だね。魔力が普通に馴染みそうないい杖ではないか」
あれだけひょうひょうとしているケットシーが、実に真剣な目を向けている。
「さすがは幻獣ケットシー。全部バレバレってわけね」
「大きさが二つあるということは、ロゼリアくんとシアンくんの二人の分というわけだね」
「まあ、そういうところね。モーフ殿下には悪いけれど、彼が五歳になった時に用意させてもらうわ」
そう言いながら、取り出した杖を包み直して収納空間へとしまい込むチェリシアである。
「うむ、謁見に関してはボクに任せてもらう。君はしばらくここで休んでいてくれ」
「分かったわ。お世話になるわね」
よっこいしょと椅子から立ち上がったケットシーは、その場から姿を消してしまう。
幻獣である彼は神出鬼没。テレポートを自由自在に使いこなす化け猫なのである。
ケットシーが謁見許可を取ってくる間、チェリシアは紅茶を飲みながらゆっくり待つのであった。
(嫁いでいってから会うことがほぼなかったけれど、直に会うとなれば結構楽しみになるものよね)
久しぶりに顔を合わせることになる友人がどんな感じになっているのか、わくわくが止まらくなってしまうチェリシアである。
あまりにも暇なので魔石を取り出しては適当に加工していると、ようやくケットシーが戻ってくる。
「いやあ待たせたね。それじゃ城に向かうとしようかい」
いきなりケットシーから放たれた言葉に、思わず顔の歪んでしまうチェリシアなのであった。
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