逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第8話 講師との対面

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「はあ、失敗しましたね……」
 午後はしきりに反省しっぱなしのシアンだった。
「驚きましたね。元々魔力の多い方だと思っていましたけれど、アクアマリン子爵令嬢時代よりかなり強くなっていませんか?」
 スミレもそんな感想を持つ始末である。
「確かにそうですね。五歳の私はここまでの魔法を使う事ができませんでしたかね。あれだけの大きな水球を作っておきながらなんともないあたり、相当に魔力量があるということになりますね」
 シアンは椅子に座りながら足をバタバタとさせている。口調は大人なのに、行動が子どもである。
 さすがに転生した事が分かりやすい状態だった。少なくとも五年間は前世の記憶がなかったので、その間に身に付いた癖というのはなかなか簡単に制御できないのである。
「明日にでも魔法の講師がつくそうですので、子どもっぽさを忘れないようにして下さいね、シアン様」
「ええ、分かっています。……子どものふりは、ずいぶんと恥ずかしかったですけれどね」
 何とも言えないくらい遠い目をしながら呟くシアンである。食堂でのやり取りが相当に恥ずかしかったようだ。
「何を仰っているんですか。今のシアン様は子どもですよ。とにかく転生した事を悟られないようにしませんとね」
 スミレにお説教をされてしまうシアンだった。
 自分の転生に気がついてから二日が経ったシアンだったが、なんとなくかつての自分の主であり今は母親のロゼリアの気持ちが分かった気がしたのだった。

 翌日、王家によって呼び出された魔法の講師がやってきた。
「これはペイル殿下、お久しぶりでございます」
「本当に久しいものだな、ショロク」
 国王と王妃ではなく、王太子と王太子妃を前に挨拶をする魔法の講師。かつてペイルが幼少時にも世話になったというショロクという男だった。
 あれから二十年近くが経っているので、五十歳を超えた初老を過ぎたおっさんである。もうかなり髪も白くなり、ひげももっさりのお爺さんといわれてもいい状態である。
「まさか、ペイル殿下のご息女の指導ができると思うと、このショロク、年甲斐もなく奮起してしまうものですな。ほっほっほっ」
 元気に笑うショロクである。
「して、今回の指導相手のご息女はどちらにいらっしゃいますかな?」
 辺りをきょろきょろと見回すショロク。すると、ペイルが満を持したようにシアンを呼び出した。
 扉が開き、シアンがスミレに付き添われて部屋へと入ってきた。
「シアン・モスグリネと申します。よろしくお願い致します」
 ちょこんと淑女の挨拶をするシアン。やっぱり体幹がしっかりしてないせいか少し体がぶれてしまっていた。
「ほうほう、形はできていますが、やはりまだ五歳ですな。体が安定しておりませんな」
 体がブレブレの淑女の挨拶におかしく笑うショロクである。
「まぁそう言ってやるな。まだ五歳ではあるが、魔法の才はありそうだからな」
「ほうほう、そう申されますと?」
 ペイルの言葉にショロクが興味ありげに反応する。
「実は昨日だが、大きな水球を作り出して城の一部を水浸しにしてくれたのだ。とても五歳とは思えない大きさだったので、お前を呼び出したというわけだ」
「大体の事情は分かりました。では、まずはこう致しましょうか」
 ショロクはそう言って、使用人に何かを頼み込んでいた。
 しばらく待つと、部屋の中に現れたのはショロクの弟子……ではなくケットシーだった。
「やあやあ、ボクがやって来たよ。なに、お呼びではない。まったく、みんなつれないねぇ」
 右手を上げてにこやかにぺたぺたと入ってくるケットシー。その瞬間、いつも糸目が小さく開いたように見えた。
「なにいきなり独り芝居をしてるんですか、ケットシー」
 ケットシーが訳の分からないことを言うものだから、つい苦言が口をつついて出てしまうロゼリアである。
「いやまぁ、面白そうな事がある予感がしたから、ショロクのお弟子さんと代わってもらったのだよ」
「説得したというより、縛ってでも無理やり交代したというのが正解でしょうに……」
 頭が痛そうに額を押さえるロゼリアである。
「まぁそれは後で詳しく聞くとして、ショロク、話を進めてくれ」
「あ、そうでしたね」
 ペイルの言葉で我に返るショロクである。
 そして、仕方なくケットシーにとあるものを出してもらった。それは、モスグリネの誰もが一度は体験するものである。
「こちらの水晶でシアン様の魔力を計測させて頂きます。よろしいでしょうか」
 ショロクが申し出ると、ペイルもロゼリアも静かに頷いた。
 ケットシーはどこからともなく台座を取り出すと、その上に水晶を置く。ちゃんとシアンの身長に合わせた程よい高さの台座である。
 シアンはスミレに付き添われながら、台座の前にやって来る。
 そして、ごくりと息を飲んでスミレと顔を見合わせる。こくりとスミレが頷くので、意を決して水晶に手を触れるシアン。
 部屋中の誰もが息を飲んだその瞬間、シアンが手を触れた水晶から眩いばかりの光があふれ出したのだった。
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