逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
352 / 483
最終章 乙女ゲーム後

第347話 白の結婚式

しおりを挟む
 バルコニーの上に、クリアテス国王とブランシェード女王の二人が姿を現す。ブラウニルに紹介されなかったシルヴァノの姿はそこに無かった。これには会場がざわつき始める。知らされていないロゼリアもその一人だ。
 だが、意外にも早くロゼリアは冷静になった。よく思えばペシエラが最初から居ない事もおかしいのだ。何か企んでいると察する事ができたので、ロゼリアは落ち着く事ができたのだ。
 会場が騒めく中、国王と女王の二人が階段を降り、一段高い場所までやって来た。
「皆の者、静まれいっ!」
 国王の声が響き渡る。この一声で、会場のざわつきが一瞬で静かになった。さすがは国王陛下である。
「本当に皆の者。この寒い中よくぞ集まってくれた。皆の忠義に本当に感謝するぞ」
 女王陛下からもお言葉を頂く。会場に居る全員が一斉に敬礼の姿勢をとる。
「せっかくの皆が集まってくれたのだ。今年は我々からも褒美を送ろうと思うてな、ちょっとした演出を用意したのだ」
 国王が宰相に合図を送ると、宰相はすくりと直立する。
「シルヴァノ殿下、ペシエラ・コーラル伯爵令嬢の入場でございます」
 宰相が大声で読み上げると、会場の面々が一斉にバルコニーを見上げる。そこには、純白の衣装に身を包んだシルヴァノとペシエラが現れた。国王と王妃と同じように左右から分かれて現れ、ゆっくりと中央へ歩み寄っていく。
 中央で二人が隣り合った時、その衣装が結婚衣装である事がはっきり見て取れたのである。この姿に、会場からは驚きと感動の声が上がった。
「ああ、それでチェリシアの動きが不自然だったのね」
「えっ?!」
 ロゼリアが呟いた言葉に、チェリシアの身が一瞬震えた。どうやらバレバレだったようである。
「ペシエラも言ってましたものね、チェリシアはバレバレだって」
 アイリスはその横で呆れながら笑っていた。本当にそれくらい、チェリシアの行動や表情は分かりやすいのである。ヒロインなら結構やりかねない失態である。明朗快活、隠し事のできないタイプである。
「ぐぬぬぬ……」
 チェリシアは正直悔しかったようである。だが、これから行われる事になるペシエラの結婚式に水を差したくないので、チェリシアは気持ちを切り替えた。
 次の瞬間、アイリスのチャットフォンが濃いピンク色に光る。そして、一瞬で光が消えた。どうやら何かの合図のようである。
召喚サモン、レイニ」
 小声でぼそぼそっと召喚を行うアイリス。
 実は光と水の精霊であるレイニを演出で呼ぶように、事前の打ち合わせがされていたのである。結婚衣装を身にまとったシルヴァノとペシエラが階段を降り終えたところで、アイリスの召喚に応えたレイニが現れた。
 レイニも事前に相談をされていたのだが、多くの人の前に姿を現す事にちょっと躊躇していたようである。それでも、恩人たるペシエラの晴れ舞台だからと了承してくれたのだ。
 さて、そのレイニが姿を現すと、その姿に多くの人が声を上げた。精霊の祝福を授かった聖なる結婚式だとか、何やら大げさな事を言っているのが聞こえてくる。精霊どころか幻獣や神獣まで居るのだから、ロゼリアたちには本当に大げさでしかなかった。
「しばらく見てない間に、すっかり美人になったねえ、ペシエラ」
「お久しぶりですわね、レイニ。ただ、今は結婚式ですわよ。そういう言い回しはご遠慮頂きたいですわね」
 ご挨拶なレイニを、しっかり軽くあしらうペシエラ。
「まじめだなあ、相変わらず。みんなに頼まれたから、しっかり役目は果たさせてもらうから安心してよ」
 レイニが見守る中、見届け人である神官がやって来る。
「これより、シルヴァノ・アイヴォリー王太子殿下、ペシエラ・コーラル伯爵令嬢の結婚の儀式を執り行う」
 神官の宣言によって、会場内が一気に色めき立った。だが、これは王族の結婚式である。騒がしくなったのも一瞬で、すぐにすっと静まり返った。
 厳かな空気の中、レイニの放つ光の魔法でとても幻想的な結婚式が行われる。その神秘的な空気が包み込むその様子を、見る者たちすべてが息を飲んで見守っている。
 最後はシルヴァノとペシエラがお互いの唇を重ね、会場が一斉に沸き立つ。そして、その感動が冷めやらぬうちに、会場にどでかいケーキが運び込まれてきた。そう、先日チェリシアが作っていたケーキである。
 白いケーキをお祝いの席で切るのは、白を基調とするアイヴォリーにとっては不吉なものなのだが、アイヴォリーの祝福をおすそ分けするという意味で押し通せばいいやと言って作っていたケーキなのである。実際、このケーキの材料はアイヴォリー王国内の材料だけで作られている。うん、何も間違ってはいない。
 驚くのはこれだけではない。それを切り分けているのがシルヴァノとペシエラの新郎新婦である。これはずいぶんな重労働だ。と思ったら、二人揃って風魔法できれいに切っていく。なんという夫婦初めての共同作業なのだろうか……。
 全員にケーキが行き渡ったところで、シルヴァノが音頭をとって乾杯が行われ、この年の年末パーティーが始まったのである。
 この場を盛り上げてくれたレイニにも、ちゃんとケーキは振舞われたのでご安心を。結論から言えばサプライズは大成功ではないのだろうか。年末パーティー初日は、実に和やかな空気の中で過ぎていったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...