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最終章 乙女ゲーム後
第345話 妹たちの気苦労
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卒業式が終わったばかりだというのに、王家はまたとんでもない事を画策していた。
コーラル伯爵家が王宮に呼び出されたと思ったら、年末パーティーの時にとんでもない事をすると国王と女王の双方から告げられたのである。
「無事に学園も卒業したのだからな、こういう事は早い方がいいと思うのだ」
「ええ、そうですとも。妾も早い方がいいと思っておるぞ」
何が早い方がいいかというと、シルヴァノとペシエラの結婚の事である。まぁ十八歳と十五歳なので問題はないだろう。このアイヴォリーでの結婚の規定は学園卒業後もしくは十八歳以降となっており、ペシエラは十五歳なので年齢では引っ掛かるが、学園は卒業しているので結婚ができるというのである。
そもそも通常よりも三年早く入学した事自体が初めてなので、この結婚の規定においても初のケースとなるわけだ。
さて、ペシエラの家族には告知されたわけだが、この結婚式の話は秘密裏に進められる事となった。年末パーティーのサプライズとして国王と女王主導で計画が練られていく。
チェリシアもペシエラのためだという事で、ペシエラに頼み込んで移動制限を解除してもらった。妹に泣きつき姉とか絵面としては情けなくも映るが、その大事な妹の晴れ舞台なのだから必死だったのだ。
「お姉様には自重はしてもらいたかったですが、私のためだと言われたらそれは無視できませんわね」
ペシエラは両親やアイリスにこう愚痴を漏らしていた。
あちこちから材料を仕入れてきたチェリシアは、しばらく厨房に閉じこもって何やら大掛かりな料理を始めていた。収納魔法を使うなどして、普段の料理には影響がないように少しずつ進めていき、数日がかりで何やら大きな物を作り上げていたようだ。
「お姉様、ロゼリアには秘密ですわよ?」
「も、もちろんよ。言ってないからね?」
「お姉様は態度に出るんです!」
「ひっ!」
年末パーティーまでの間に、チェリシアはこうやって何度ペシエラに釘を刺されたのか分からない。そのくらい、あからさまな態度が多かったのだ。
アイリスの方もアイリスで、神獣や幻獣たちといろいろ話をしていた。
「ほぉ、それは実にめでたい事だな。あの生意気な小娘が王太子妃とな」
「正直一度手合わせをしてみたかったものだ」
この日はチェリシアのテレポートに付き合って、スノールビーでインフェルノにタウロの二人と話をしていた。この間、チェリシアは食材の仕入れに一生懸命になっていた。これも年末パーティーのサプライズ料理の材料である。
「しかし、我々は邪魔するわけにはいかぬな。なにぶん暑苦しくてお祝いどころではなくなるだろう」
「そうだな。というわけだ主人、我々も心から祝福していると、ペシエラ殿に伝えておいてくれ」
「分かりました」
アイリスは、インフェルノとタウロの申し出を快く受け取った。
「滅多に会いに来れないけれど、元気そうで安心しました。多分そろそろチェリシアが暴走すると思うので、止めに行きますね」
「ああ、そうだな。その気になったらいつでも召喚するといいぞ」
「はい、万一の時はそうさせてもらいます。では、これで失礼しますね」
アイリスは頭を下げると、魔法を使って山を下りていった。
「主人は本当に幸せそうだったな」
「ああ、そうだな」
インフェルノとタウロは、その後姿を感慨深く見送っていた。この二体もすっかり打ち解けているようである。
「で、何をしているのでしょうか、チェリシア」
「あっ……」
「ここはマゼンダ商会の関係地ですけれど、マゼンダ侯爵様の領地ですよ。いくらトムの許可があるとはいっても慎んで下さい」
領主邸に戻ってきたアイリスが見たのは、厨房で大きなケーキを作っているチェリシアの姿だった。これから夕食の準備だというのに厨房を占拠しているので、アイリスが呆れて怒っていた。一年次の夏以降怒る事がほとんどなかったアイリスを怒らせるとは、チェリシアはなかなかな問題児である。
「ペシエラから言われているので、私も強く言わせて頂きます。……というわけで、今日の屋敷の夕食はチェリシア一人で全員分を用意して下さい。いいですね?」
アイリスの珍しい激おこである。普段怒らないアイリスの怒りに、チェリシアはたじたじとなり、おとなしく了承せざるを得なかった。いい加減に成長して下さい。
この夜の食事は、チェリシアの収納魔法に眠るストックから作り上げた、フォレストバードのシチューである。貴族が不在なので全員が同じメニューである。チェリシアの料理の腕前は貴族としてはそこらの料理人にまったく引けを取らないので、好評は好評だった。この後、屋敷の料理人からレシピをねだられたので、宿の食事に追加するという約束を付けた上で、いくつかの料理のレシピを残していった。
こうしていろいろあったものの、年末パーティーのサプライズに向けて、着々と準備が進められていったのであった。チェリシアの暴走が原因で、外部に知られないかひやひやしながら……。
本当に、ペシエラもアイリスもご苦労様である。
コーラル伯爵家が王宮に呼び出されたと思ったら、年末パーティーの時にとんでもない事をすると国王と女王の双方から告げられたのである。
「無事に学園も卒業したのだからな、こういう事は早い方がいいと思うのだ」
「ええ、そうですとも。妾も早い方がいいと思っておるぞ」
何が早い方がいいかというと、シルヴァノとペシエラの結婚の事である。まぁ十八歳と十五歳なので問題はないだろう。このアイヴォリーでの結婚の規定は学園卒業後もしくは十八歳以降となっており、ペシエラは十五歳なので年齢では引っ掛かるが、学園は卒業しているので結婚ができるというのである。
そもそも通常よりも三年早く入学した事自体が初めてなので、この結婚の規定においても初のケースとなるわけだ。
さて、ペシエラの家族には告知されたわけだが、この結婚式の話は秘密裏に進められる事となった。年末パーティーのサプライズとして国王と女王主導で計画が練られていく。
チェリシアもペシエラのためだという事で、ペシエラに頼み込んで移動制限を解除してもらった。妹に泣きつき姉とか絵面としては情けなくも映るが、その大事な妹の晴れ舞台なのだから必死だったのだ。
「お姉様には自重はしてもらいたかったですが、私のためだと言われたらそれは無視できませんわね」
ペシエラは両親やアイリスにこう愚痴を漏らしていた。
あちこちから材料を仕入れてきたチェリシアは、しばらく厨房に閉じこもって何やら大掛かりな料理を始めていた。収納魔法を使うなどして、普段の料理には影響がないように少しずつ進めていき、数日がかりで何やら大きな物を作り上げていたようだ。
「お姉様、ロゼリアには秘密ですわよ?」
「も、もちろんよ。言ってないからね?」
「お姉様は態度に出るんです!」
「ひっ!」
年末パーティーまでの間に、チェリシアはこうやって何度ペシエラに釘を刺されたのか分からない。そのくらい、あからさまな態度が多かったのだ。
アイリスの方もアイリスで、神獣や幻獣たちといろいろ話をしていた。
「ほぉ、それは実にめでたい事だな。あの生意気な小娘が王太子妃とな」
「正直一度手合わせをしてみたかったものだ」
この日はチェリシアのテレポートに付き合って、スノールビーでインフェルノにタウロの二人と話をしていた。この間、チェリシアは食材の仕入れに一生懸命になっていた。これも年末パーティーのサプライズ料理の材料である。
「しかし、我々は邪魔するわけにはいかぬな。なにぶん暑苦しくてお祝いどころではなくなるだろう」
「そうだな。というわけだ主人、我々も心から祝福していると、ペシエラ殿に伝えておいてくれ」
「分かりました」
アイリスは、インフェルノとタウロの申し出を快く受け取った。
「滅多に会いに来れないけれど、元気そうで安心しました。多分そろそろチェリシアが暴走すると思うので、止めに行きますね」
「ああ、そうだな。その気になったらいつでも召喚するといいぞ」
「はい、万一の時はそうさせてもらいます。では、これで失礼しますね」
アイリスは頭を下げると、魔法を使って山を下りていった。
「主人は本当に幸せそうだったな」
「ああ、そうだな」
インフェルノとタウロは、その後姿を感慨深く見送っていた。この二体もすっかり打ち解けているようである。
「で、何をしているのでしょうか、チェリシア」
「あっ……」
「ここはマゼンダ商会の関係地ですけれど、マゼンダ侯爵様の領地ですよ。いくらトムの許可があるとはいっても慎んで下さい」
領主邸に戻ってきたアイリスが見たのは、厨房で大きなケーキを作っているチェリシアの姿だった。これから夕食の準備だというのに厨房を占拠しているので、アイリスが呆れて怒っていた。一年次の夏以降怒る事がほとんどなかったアイリスを怒らせるとは、チェリシアはなかなかな問題児である。
「ペシエラから言われているので、私も強く言わせて頂きます。……というわけで、今日の屋敷の夕食はチェリシア一人で全員分を用意して下さい。いいですね?」
アイリスの珍しい激おこである。普段怒らないアイリスの怒りに、チェリシアはたじたじとなり、おとなしく了承せざるを得なかった。いい加減に成長して下さい。
この夜の食事は、チェリシアの収納魔法に眠るストックから作り上げた、フォレストバードのシチューである。貴族が不在なので全員が同じメニューである。チェリシアの料理の腕前は貴族としてはそこらの料理人にまったく引けを取らないので、好評は好評だった。この後、屋敷の料理人からレシピをねだられたので、宿の食事に追加するという約束を付けた上で、いくつかの料理のレシピを残していった。
こうしていろいろあったものの、年末パーティーのサプライズに向けて、着々と準備が進められていったのであった。チェリシアの暴走が原因で、外部に知られないかひやひやしながら……。
本当に、ペシエラもアイリスもご苦労様である。
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