逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
345 / 483
最終章 乙女ゲーム後

第340話 かくせいの能力

しおりを挟む
「村長様、実は、アイリスにはとんでもない能力があるのです」
「とんでもない能力ですと?!」
 チェリシアが切り出すと、村長は大げさに驚いた。そして、もう一度三人で頷き合うと、
「村長様、一度外に出ましょう。ここで行うには狭すぎます」
 アイリスがそう言って立ち上がった。村長はわけが分からなかったが、とりあえずそれを了承する。こうして、村長の家を出て少し広い場所へとやって来た。
「ここなら大丈夫ですかね」
 アイリスは周りをきょろきょろと見回して、ふうっと深呼吸を一つする。そして、叫んだ。
召喚サモン、フェンリル!」
 青白い光が放たれたと思うと、同色の魔力の煙が舞う。そして、その煙が晴れると、そこには白銀の大きな狼がでーんと座っていた。
「な、な、何ですかな、この狼は!」
 村長は驚いている。ちゃんと狼だと認識しているあたり知見はある模様。
「ふははははっ! 我は神獣フェンリル。誇り高き氷の狼よ!」
 高らかに名乗るフェンリル。村長とその護衛は腰を抜かしてその場に座り込んだ。近くの村人も何だ何だと見に来ては騒ぎ始めていた。
「安心するがよい。我が友人たるベルの末裔ならば、友人も同然。大人しくしていれば何もせん」
 フェンリルは鋭い視線を向けて、そう宣言した。
「ベル……。我らが先祖ベル・フラウアード様の事でございますか?!」
 腰を抜かした状態で問い掛ける村長。
「いかにも」
 フェンリルはこうとだけ答える。すると、村長はふるふると震え始めた。
「おおお……、伝承は本当だったのでございますか。我が一族は氷の狼の庇護の下にあると」
「うむ」
 村長の言葉に、フェンリルは頷いた。
「今の我の主人アイリスとその母アメジスタは、ベル・フラウアードの正式な血筋。数多の奇跡の一つか、アイリスには神獣使いの力が顕現した」
「な、なんですと?!」
 フェンリルが告げた衝撃の事実に、村長たちが大声で驚いている。絶えたと思われていた神獣使いの能力が、この世に再び出現したのだ。一族として驚かないわけにはいかない。
「母アメジスタには能力はない。おそらく、相手方のパープリアの一族の影響だろう。これも偶然の産物としか言えんだろうな。パープリアの一族は非道であるし、アイリスの兄ヴィオレスにも能力はないのだからな」
 フェンリルはアイリスが奇跡の存在だと結論付けた。
 まあ実際に奇跡の存在ではある。なにせロゼリアとペシエラの逆行前の時間軸では計画に失敗して死んでいるし、今回も本来なら処刑レベルの話なのにこっそり生かされているわけなのだから。生きていなければこの能力に気付く事もできなかった。これが奇跡と言わずしてなんと言おう。
 この流れを受けて、アイリスとフェンリルはライの事も紹介する。ライの正体が元妖精で魔物となったハイスプライトだと知ると、これまた村に衝撃が走っていた。魔物がおとなしい事もそうだが、アイリスの侍女をしている事がその原因のようである。
「アイリスはかなりの神獣、幻獣、精霊、魔物と契約しておるからな。よっぽどでないと手出しはできぬ。そこのペシエラなら楽に貫通してきそうだがな」
「私にはそんな度胸はありませんわよ。ふざけた事を仰らないで下さらない?」
 フェンリルの悪ふざけに、ペシエラはご立腹である。だが、それとは裏腹に笑いが起きていた。その状況に、ペシエラは更にご立腹となった。
 チェリシアとアイリスがペシエラを宥める中、神獣使いの帰還とアメジスタの帰郷を祝して宴会が催された。村の広場で火を囲んでの飲み食いというシンプルな宴である。火の周りでは誰が申し合わせたのか、よく分からない踊りが始まった。チェリシアが見る限りはなんとなく盆踊りっぽい動きである。
 さすがに宴の中心はアメジスタとアイリス母娘であり、料理や飲み物を差し入れにやって来る村人の姿が見られた。分かるがそこそこ控えて欲しいと、ライが時々遮っていた。まぁそれはそうだろう。あまりに頻繁に来られては親子の会話が弾まないのだ。親の故郷での会話なのだから、そこは気を遣ってもらいたいものである。
 チェリシアとペシエラが楽しむ横では、キャノルがお酒を飲んで酔っ払っていた。一応、学園卒業する年齢まではお酒は飲むなという法律があるが、キャノルはとっくにそんな年齢は突破している。飲むのは問題ないのだが、ウザ絡みだけはやめてほしい。チェリシアがそんな事を思っていると、ペシエラが怒ってキャノルをす巻きにしていた。文句を言ってくるキャノルに、今度は水をかぶせるペシエラ。まったく遠慮がない。それが終わると今度は説教が始まる。チェリシアはそれを苦笑いしながら眺める事しかできなかった。
 ひと晩騒いだ翌日は村を見学して、アメジスタの両親にも挨拶をしてもう一泊した。結局、神獣使いの話がいろいろ聞けるかと思ったが、伝承自体が風化気味で新しい情報はなかった。ただ、ベルの墓というものがあるらしいので、その墓参りだけはしておいた。
 帰る前にアメジスタに村に残るか問い掛けたが、アイリスに母親らしい事をあまりできなかったと言って、一緒に帰る事になった。村を出る時には、さすがに泣きそうな顔をしながら手を精一杯振っていた姿が印象的である。
 こうやって、アメジスタに帰省をさせようというペシエラの企画は、ひとまず成功に終わった。さすがにアイリスの紹介ではとてつもなく驚かれたが、これはこれで予想の範疇である。
 何にしても一度訪れておいてよかったと、チェリシアたちはそう思うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...