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第十章 乙女ゲーム最終年
第317話 火山の麓の村
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ロゼリアやペシエラが忘れていた事にはたくさんある。
「アイリス、トムさんと連絡取れるかしら」
「チェリシア、どうしたの?」
オークの件が片付いた翌日、チェリシアはアイリスに声を掛けていた。
「いやね、マゼンダ領の火山の麓の村があるじゃないの。あそこで開こうとしてた温泉と旅館がどうなったのか、確認しようと思うの。いきなり訪ねるのも迷惑かなと思ってね」
チェリシアはまたとんでもない事を画策していたようだ。確かに活火山があれば温泉が湧く可能性はあるのだが、いくらなんでもこの世界でそれはどうだろうかと思われる。
「分かったわ、ちょっと待ってて」
無下に断るのも何なので、アイリスはトムへと連絡を取る。蒼鱗魚が居れば契約外の神獣や幻獣とも連絡は取れるのだ。
「……そう、分かりました」
アイリスとトムとの念話が終わる。
「どうだったの?」
チェリシアがアイリスに顔を近付ける。圧が凄い。
「えと、温泉も宿もできてるそうなんです」
とりあえず、念話の内容を簡単に伝えるアイリス。
「そっか、じゃあ、今から行って確認するわ」
「はい?」
「明日帰ってくるから、夕飯も朝食も要らないって伝えておいて、キャノル」
「はぁ? ちょっと待ちなよ、チェリシア様」
キャノルが止めるのも聞かず、チェリシアは伝えるだけ伝えるとテレポートで火山の麓の村まで飛んでしまった。
「はぁ、お姉様って本当にこういう時は行動が早いですわね」
ペシエラも呆れていた。
「お待ちしておりました、チェリシア様」
「お出迎えご苦労様です、トムさん」
チェリシアがやって来たのは、村に新設された新しいマゼンダ侯爵の分邸である。既にこの夏に一度ヴァミリオたちが訪れている。
「あまり貴族体の対応でなくてよろしいですからね。今日はマゼンダ商会の運営の一員として来てるわけですから」
「いえいえ、そうは参りません。お嬢様の大切な親友なのですから、相応の対応をしませんと旦那様から叱られます」
トムは幻獣の割にはしっかり職業病なものが身に付いていた。長らくマゼンダ侯爵家を支えてきた自負のようなものがあるのだろう。
さて、分邸で軽く休憩をした後、件の温泉旅館を見せてもらった。
この世界では日本のような瓦屋根を期待できないのが、簡単なイメージイラストを渡しておいた。間取りも貴族向けと庶民向けの両方を用意しておいた。そうして出来上がったのが、
「おお、これはなかなかいいんじゃないかしら」
高級感あふれる宿屋だった。寒い場所に建つので、窓などには防寒対策も取られている。
内装も確認していく。そのどれ一つとってもチェリシアは満足だった。これなら後はお風呂と食事である。
「肝心のお風呂はどうかしらね」
床は近くの鉱山で掘り出されてきた鉱石を使っているようである。お湯は程よい温度に調整されており、これなら入ってもやけどはしなさそうである。
「湯船に浸かるという話でしたので、この辺りの妖精に頼んで温度を調整してもらっております」
「そっか、この温度なら大丈夫よ」
温泉と宿ができているなら、後はここへ人を呼び込む産業といったところだろう。これもチェリシアはすでに対策済み。ロゼリアたちマゼンダ家との話の中で鉱山の話は聞いていたのである。王家の持つ鉱山とは別口の鉱山だが、場所自体は近い。当面は鉱山で採れる鉱石と職人を揃えて、徐々に他の産業も増やしていく方針だ。
特にしたいのは雪山が近くにあるのでスキーである。チェリシアも尻餅をつくくらいには嗜んだ。火山があるとはいってもこの辺りは夏でも涼しいので、避暑地として売り出すのもいいかも知れない。チェリシアの頭の中にはいろいろと考えが浮かんできた。
しかし、ここはマゼンダ領である。他家が安易に口を出していいはずがない。一度マゼンダ侯爵家に様々な案を話しておくべきだろう。
「一度ロゼリアたちと話をしましょう」
「その方がよいかと思われます」
というわけで、翌日までの滞在中は、活用案をいろいろと出す事にしたのだった。なにせ、雪山と火山、近くには鉱山もあるというなかなか面白い場所だ。しかもこの場所、山に沿って西へ進むと例の王家の直轄地に至る。そう、先日オークのために提供された手つかずの場所である。
(インフェルノが居るのに、雪崩も起きないっていうのは不思議よね。そういう意味では安心な場所なんだけど)
チェリシアはこの地を売り出す文句として、インフェルノの加護を打ち出そうと考えた。まぁ、本人に確認しようとしても面倒だと言って断られそうだから、こっそり書き加えておくつもりである。
「はっはっは、それくらいだったら構わないと思いますよ。気難しい方ですが、その辺はおおらかですから」
トムに確認すれば、思い切り笑われてしまった。
「しかし、この地は元々近くの鉱山のためだけに作られた村。ただ、その過酷な環境のためにこのように寂れているのです。チェリシア様の発案のおかげでしばらく盛り上がりましたが、今はまたこの有様ですからね」
飲み物を用意しながら、トムはそのように話している。確かに、寒い時期だからという事を考慮しても、まったく活気が見られない。このままでは、鉱山がある地域とはいっても、すぐ近くの流刑地にも劣る村となってしまいそうだった。よく今までもっていたものだ。
「これは、急いだ方がいいかも知れないわね」
チェリシアは鉱山を中心とした案から取りまとめる事にしたのだった。
「アイリス、トムさんと連絡取れるかしら」
「チェリシア、どうしたの?」
オークの件が片付いた翌日、チェリシアはアイリスに声を掛けていた。
「いやね、マゼンダ領の火山の麓の村があるじゃないの。あそこで開こうとしてた温泉と旅館がどうなったのか、確認しようと思うの。いきなり訪ねるのも迷惑かなと思ってね」
チェリシアはまたとんでもない事を画策していたようだ。確かに活火山があれば温泉が湧く可能性はあるのだが、いくらなんでもこの世界でそれはどうだろうかと思われる。
「分かったわ、ちょっと待ってて」
無下に断るのも何なので、アイリスはトムへと連絡を取る。蒼鱗魚が居れば契約外の神獣や幻獣とも連絡は取れるのだ。
「……そう、分かりました」
アイリスとトムとの念話が終わる。
「どうだったの?」
チェリシアがアイリスに顔を近付ける。圧が凄い。
「えと、温泉も宿もできてるそうなんです」
とりあえず、念話の内容を簡単に伝えるアイリス。
「そっか、じゃあ、今から行って確認するわ」
「はい?」
「明日帰ってくるから、夕飯も朝食も要らないって伝えておいて、キャノル」
「はぁ? ちょっと待ちなよ、チェリシア様」
キャノルが止めるのも聞かず、チェリシアは伝えるだけ伝えるとテレポートで火山の麓の村まで飛んでしまった。
「はぁ、お姉様って本当にこういう時は行動が早いですわね」
ペシエラも呆れていた。
「お待ちしておりました、チェリシア様」
「お出迎えご苦労様です、トムさん」
チェリシアがやって来たのは、村に新設された新しいマゼンダ侯爵の分邸である。既にこの夏に一度ヴァミリオたちが訪れている。
「あまり貴族体の対応でなくてよろしいですからね。今日はマゼンダ商会の運営の一員として来てるわけですから」
「いえいえ、そうは参りません。お嬢様の大切な親友なのですから、相応の対応をしませんと旦那様から叱られます」
トムは幻獣の割にはしっかり職業病なものが身に付いていた。長らくマゼンダ侯爵家を支えてきた自負のようなものがあるのだろう。
さて、分邸で軽く休憩をした後、件の温泉旅館を見せてもらった。
この世界では日本のような瓦屋根を期待できないのが、簡単なイメージイラストを渡しておいた。間取りも貴族向けと庶民向けの両方を用意しておいた。そうして出来上がったのが、
「おお、これはなかなかいいんじゃないかしら」
高級感あふれる宿屋だった。寒い場所に建つので、窓などには防寒対策も取られている。
内装も確認していく。そのどれ一つとってもチェリシアは満足だった。これなら後はお風呂と食事である。
「肝心のお風呂はどうかしらね」
床は近くの鉱山で掘り出されてきた鉱石を使っているようである。お湯は程よい温度に調整されており、これなら入ってもやけどはしなさそうである。
「湯船に浸かるという話でしたので、この辺りの妖精に頼んで温度を調整してもらっております」
「そっか、この温度なら大丈夫よ」
温泉と宿ができているなら、後はここへ人を呼び込む産業といったところだろう。これもチェリシアはすでに対策済み。ロゼリアたちマゼンダ家との話の中で鉱山の話は聞いていたのである。王家の持つ鉱山とは別口の鉱山だが、場所自体は近い。当面は鉱山で採れる鉱石と職人を揃えて、徐々に他の産業も増やしていく方針だ。
特にしたいのは雪山が近くにあるのでスキーである。チェリシアも尻餅をつくくらいには嗜んだ。火山があるとはいってもこの辺りは夏でも涼しいので、避暑地として売り出すのもいいかも知れない。チェリシアの頭の中にはいろいろと考えが浮かんできた。
しかし、ここはマゼンダ領である。他家が安易に口を出していいはずがない。一度マゼンダ侯爵家に様々な案を話しておくべきだろう。
「一度ロゼリアたちと話をしましょう」
「その方がよいかと思われます」
というわけで、翌日までの滞在中は、活用案をいろいろと出す事にしたのだった。なにせ、雪山と火山、近くには鉱山もあるというなかなか面白い場所だ。しかもこの場所、山に沿って西へ進むと例の王家の直轄地に至る。そう、先日オークのために提供された手つかずの場所である。
(インフェルノが居るのに、雪崩も起きないっていうのは不思議よね。そういう意味では安心な場所なんだけど)
チェリシアはこの地を売り出す文句として、インフェルノの加護を打ち出そうと考えた。まぁ、本人に確認しようとしても面倒だと言って断られそうだから、こっそり書き加えておくつもりである。
「はっはっは、それくらいだったら構わないと思いますよ。気難しい方ですが、その辺はおおらかですから」
トムに確認すれば、思い切り笑われてしまった。
「しかし、この地は元々近くの鉱山のためだけに作られた村。ただ、その過酷な環境のためにこのように寂れているのです。チェリシア様の発案のおかげでしばらく盛り上がりましたが、今はまたこの有様ですからね」
飲み物を用意しながら、トムはそのように話している。確かに、寒い時期だからという事を考慮しても、まったく活気が見られない。このままでは、鉱山がある地域とはいっても、すぐ近くの流刑地にも劣る村となってしまいそうだった。よく今までもっていたものだ。
「これは、急いだ方がいいかも知れないわね」
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