逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第十章 乙女ゲーム最終年

第314話 オークとは和解以前の話

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 森の中で、オークたちは布製のテントを張って生活していた。体は筋骨隆々、顔つきは精悍せいかんと、一般的なオークのイメージとは程遠い集団だった。
 そのオークたちを見て、ラルクが震えていた。
「どうされたのです、ラルク」
 気になったペシエラが声を掛ける。
「おぉ、間違いなく私が率いていた群れです。まさか、突然消えた私を探しに来たというのでしょうか」
 ラルクの震えは、感動と驚きによるものだった。
 そういえば、ラルクは言っていた気がする。元々はオークの群れを率いていたリーダー格のオークだったと。
 普通、群れのリーダーを失えば、次のリーダーが台頭して群れを率いていくはずである。それが、元のリーダーを探してさまようなど、普通ならば考えられない話だった。
「おお、お前たち、無事だったのか」
 ラルクが懐かしさのあまり、群れに声を掛けた。その声に、オークたちは雄たけびを上げる。
 そして、そのうちの一体がラルクに攻撃してくる。が、ラルクが軽く受け止めると、そのオークは笑ってラルクと熱い抱擁を交わした。ペシエラたちは理解ができずにその様子を見ている。
「主人たちよ、すまない。あれが私たちの挨拶みたいなものです。武器を軽くぶつけ合う事で、相手の状態を確認するのです」
 ラルクが解説をしている。
「私どもはオークナイトと呼ばれる騎士系の魔物でして、その特徴は一般的なオークとかなり異なるのです。私どもは人間の騎士どもと同じように、正々堂々を好むのです」
「なるほどね。元々どういうわけか女性の個体が少ないオークには、野蛮なイメージが付きまとっていますものね」
 ラルクの説明にペシエラが理解を示す。
「そうなんですね」
「そうなんですよ」
 アイリスはよく知らなかったようだが、淡々とライにツッコミを入れられていた。
「ライは知ってるんですね」
「これでも妖精は意外と博識なんです」
 アイリスとライのやり取りはさておき、ペシエラはラルクと会話を続ける。
「それで、彼らはどう言っているのです?」
「どうやら、本当に私を探していたようです。私が居なくなっても大丈夫なように鍛えてはいたのですが、群れのボスは私以外にあり得ないと言っているのです」
 ペシエラがちらりとオークたちを見る。オークたちはラルクに対して跪いておとなしくしている。の名を持つだけあって、理性的な動きのできる魔物のようだ。群れのボスであるラルクと対等に話す人間の少女を見て、襲ってはいけないというのを理解しているようだ。
「処遇については、あなたたちの希望を聞いた上で、陛下たちに判断を仰ぐ事にしましょう。なにぶん、ラルク、あなたが王国の騎士団に所属していますから」
「では、そのように致しましょう。我々は、私を除いては王都の外で待機する形でよろしいでしょうか」
「そうですわね。例外的な魔物以外は王都には入れられませんし」
 一応オークたちの処遇について話が終わった。
「はぁ、やっとこいつらを連れてって下さるんですね。俺はどっちかいうと自由にしていたいから、規律がどうのとうるさいこいつらの相手は正直苦手なんですわ」
 小難しい話で黙っていたアックスが、ようやく口を開いた。言い方からするに、相当にストレスを溜めていたと思われる。
「アックスもご苦労でしたわね。あとは私たちにお任せ下さいませ」
「ああ、そうして下さい。アクアマリンの領地は今は平和ですからね」
「警戒ご苦労様」
 くるりと踵を返すペシエラだったが、立ち止まってアックスの方を見る。
「そうそう、妙な事を考えているようなら、今のうちにやめておくべきですわね。ええ、私は慈悲深いですもの」
「ひっ、肝に……銘じておきます」
 ペシエラが笑っていない笑顔を見せると、アックスは震え上がった。相手は十二歳の少女だというのに、その迫力は十二歳のものとは思えないものだった。多分まともにやり合ったら殺されかねない、アックスがそう思うほどのものだったのだ。上位の魔物が恐れるとは、本当にペシエラの規格外が窺い知れるというものである。
「ラルクさんの部下とあって、かなり鍛えられてますね」
「はっはっは、主人に認めて頂けるのは光栄ですな。私どもは男を殺し、女を襲うそこらのオークとは違いますからな。己の国を立ち上げて、どの国にも引けを取らない運営する事もできますよ」
 アイリスが褒めると、ラルクは得意げに笑っている。
「へぇ、あんたたちの種族って本当に特殊なのね」
「まぁそう言われるとそうですな。私たちとて、元々は他のオークとともに暮らしていた個体ばかりですがね。合わない者同士が集まった結果が、今の私たちなのです」
 ライのツッコミにラルクはまじめに答えている。どうやら、ラルクたちはいわゆる変異種の類らしい。ここアクアマリンに来るまでもトラブルは起きていなかったのだから、本当に不思議な集団だと思われる。
「とりあえず事情は分かりましたわ。ラルクの活躍もありましたし、陛下たちに説明すれば領地が与えられるかも知れませんわね」
 ペシエラがにこやかにそう言うと、ラルクの通訳を受けたオークたちが喜びの声を上げてペシエラに跪いた。
「忠誠を誓うと申しておりますよ、ペシエラ殿」
「魔物に慕われるのも……、まぁ悪くはありませんかしらね」
 というわけで、オークの集団とも戦闘になる事はなく問題は無事に解決した。
 しかしながら、アイリスの配下にある魔物に慕われているとはいえ、この状況にペシエラはちょっと複雑な気持ちになったのだった。
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