逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
308 / 483
第十章 乙女ゲーム最終年

第304話 チェリシアの扱いには慣れたもの

しおりを挟む
 三年次の学園祭三日目。この日はロゼリアとペシエラも試合が無いために、商会の出店スペースにやって来ていた。久しぶりにマゼンダとコーラルの令嬢四人が勢揃いしていた。
「お兄様、今日はお手伝いします」
「おお、ロゼリアか。正直助かるぞ」
 ロゼリアとカーマイルはバックヤードの在庫管理で話し合いを始める。
「お姉様、今日の写真は私が対応しますので、料理でも作っておとなしくしていて下さいませ」
「うっ、分かったわよ」
「私は何をすればいいかしら」
「アイリス姉様は、お姉様を手伝っていて下さい。どうせ張り切って作り過ぎるでしょうから、監視をお願い致しますわ」
「分かりました」
 チェリシアもアイリスも、ペシエラの指示に従う。実際、チェリシアだけだと歯止めが効かずに暴走してしまう傾向にある。シアンやキャノルではとても止められなかったのだ。どうしてこうなったのだろうか。
 今日のコーラル家の三人の行動は、夜のうちにペシエラが単独で練り上げていた。チェリシアは二日間の行動を見返すに、完全に暴走モード。つい張り切って頑張ってしまう性格が災いしていた。
 そこでペシエラは、チェリシアを暴走させないように何かいい案はないかと考えていた。その時に思い付いたのが、作り過ぎた物を収納魔法にしまい込むチェリシアの癖だった。まだあまり表に出していない豆腐やおからが眠っているはずなので、それを消化させようと考えたのだ。それが、この朝の指示というわけである。
「ペシエラ、料理とはいっても材料が……」
「お姉様、私知ってますのよ? 収納魔法に豆腐とかピザとか、過去に調子に乗って作った料理が押し込められている事を。それでも消化して下さいませ」
「うっ……、なんで知ってるのよぉ……」
 完全にチェリシアの敗北である。さすがは女王を一度経験したペシエラの洞察力である。チェリシアは渋々、後ろで豆腐を使った冷奴やおからハンバーグを作って試食を行う事にした。午前中だけの特別イベントである。
 豆腐の作り方は職員たちに教えているが、なにぶん力の要る作業なので作れる量はそれほど多くはない。しかも保存技術や入れる容器の問題もあり、商会の近くの料理店に卸して使ってもらっている程度である。おからも料理方法がチェリシアの教えたハンバーグと和え物くらいなので、こちらも現状の取り扱いは豆腐と同じ状態である。
 豆腐の揚げ物である薄揚げや厚揚げも、絶賛研究中。しかしながら、その定着にはまだまだ遠そうである。
 そんなわけで、今日のところは冷奴とおからハンバーグの宣伝だけになった。
 この日も記念撮影のために、朝からたくさんのお客が詰めかけていた。しかし、この日は午前午後ともに百人までと人数制限を設けておいたので、中には渋々帰っていく姿も見えた。
 記念撮影をした客には、チェリシアが試食も食べてもらうという感じで、この日もマゼンダ商会のブースは大盛況である。試食品はチェリシアが浄化魔法を掛けて、食中毒対策も万全である。それにつられるように調味料の類もそれなりに売れているようだった。
 その盛り上がりの中で、とんでもない客がやって来た。
「よお、今日も盛況みたいじゃないか」
「これは悔しいですね。写真魔法なんて特殊技能が羨ましいですよ」
 シルヴァノ、ペイルに加えてロイエールがやって来た。
「あら、殿下たちではございませんの。どうでしょう、記念に一枚撮っていかれませんか?」
 ペシエラはすかさず写真を勧める。数を絞ったおかげで余裕はあるし、シルヴァノたちがやって来た事で客が一気に周りから引いたのだ。
「そうですね。でも、私たちは今は遠慮しておきますよ。明日は決勝トーナメントで戦いますからね。終わった後にでも頼みましょう」
「ああ、そうだな。明日はお前に勝つからな、ペシエラ」
「ええ、当たる事がありましたら返り討ちにさせて頂きますわ。私も成長をしていますからね。オフライト様相手でも後れを取るつもりはございませんわよ」
「えぇ、殿下たちは写真撮られないのですか?! あっ、僕だけは撮りますからね」
 シルヴァノ、ペイル、ペシエラの三人がバチバチしている中、ロイエールだけはマイペースに写真を撮ってもらう事になった。
「この紙、羊皮紙ではないですね。何なんですか?」
「お姉様が作られた、樹皮や草を材料にした紙ですわ。詳しい製法はお姉様やモスグリネの方がご存じですわよ」
 ロイエールがちらりとペイルを見るが、すぐに紙に視線を戻した。
「写真は白い枠がありますね。これに意味はあるのですか?」
「お姉様に確認したら、『だって、額に入れるんでしょ?』と仰られてましたわ。額縁保存を前提にしたものという事ですわね」
「なるほど、確かに貴族ならそうしますね」
「まぁ、その辺の話はお姉様の出す豆腐の試食でもしながらお姉様となさって下さいませ。私はまだ写真を撮る商売をしておりますので、それほど暇ではございませんわ」
 ペシエラは話を打ち切って、写真撮影を再開していた。

 学園祭三日目もこれといった大きな事件は起きる事なく、実に平和なものだった。過去二年間の事を思えば、これだけ平和なのはありがたい事だ。
 こうして、三年次の学園祭も最終日を残すのみ。武術大会を優勝するのは一体誰なのか。すべての注目がそこに注がれる事となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...