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第十章 乙女ゲーム最終年
第293話 赤色のお兄様
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チェリシアたちがコーラル領の視察旅行に出かけた後、ロゼリアも兄カーマイルと一緒にマゼンダ商会のやりくりに明け暮れていた。なにぶん、チェリシアとペシエラが居なければ魔道具の開発や製造はまったく進まないのだ。その多くが希少な光魔法を用いているためである。せいぜい火魔法を用いて調理に使うコンロや調理窯くらいしか作る事はできなかった。
実際、王宮に勤める魔法使いたちの中で光魔法が使える人員はほぼ居ない。そういった状況の中で、チェリシアとペシエラは光魔法が使えて、なおかつ全属性に適性を持つ超希少な人物なのである。これでははっきり言ってどうにもならなかった。
なので、この間はオーカー商会も交えた上で、食材の流通についてが主な議題となった。料理や調味料などの加工品は、チェリシアがレシピを残してくれているのでどうにかなるからである。
「モスグリネからは豆関係の輸入が始まったが、国内の反応はどうだ?」
カーマイルが会議を取り仕切っている。
「はい、大豆はチェリシア様のレシピを使って豆腐やおからに加工して販売しておりますが、特に婦人方からの反応が良いようです」
栄養は少ないものの、きちんと食べた感じがあるために、体形を気にする婦人方に受けているという事らしい。豆腐は保存が効かず、その日のうちに食べてしまわなければならないのが唯一の欠点だが、見た目の白さも受けているのかも知れない。
ただこの豆腐、レシピがあるとはいえ、きちんと作り上げるにはかなり労力を有した。最初の大豆に水分を含ませる工程では、いきなり何時間も時間を取られる。夜のうちに水に浸けておかねば、翌日は豆腐が作れないのだ。最初の内はここでつまずいていた。
その後も結構力の要る工程もあったので、チェリシアの指導無くして販売までたどり着く事はできなかっただろう。流れで婚約者になった令嬢だが、なかなかに面白い令嬢である。さすがは妹の友人だなとカーマイルは感心していた。
正直言うと、この商会というものがここまでうまくいくとは、カーマイルはおろか立ち上げ人の一人であるロゼリアも思っていなかった。なにせ、ドール商会という強力な商会が既に存在していたのだから。
しかし、チェリシアの出すアイディアは既存の商会には無かったものだった。シェリアの街で海水から作り出した塩から始まり、マゼンダ侯爵領で持て余していた酸っぱくなったワインの有効活用法など、新たなアイディアでもって、マゼンダ商会の規模は大きくなっていった。
今では取り扱う商品の分野を分ける事で、ドール商会と並ぶ大商会となったマゼンダ商会。正直言って、その商会の規模はカーマイルの手に余るものだった。しかし、将来の領地運営の勉強になればと思って、カーマイルはチェリシアたちが居ない状況の会議で進行を務めている。この規模での会議で意見が取りまとめられなくて、どうして領地経営ができようか。カーマイルはそう考えているのである。
あーだこーだと意見が飛び合う中で、チェリシアとペシエラが居ない間は光魔法とは関係ない魔道具の製造だけに絞る事で決定した。とはいえ、主力の火属性の魔道具もロゼリアではどうする事も出来ない。ロゼリアは火属性の魔法が使えないからだ。ここはカーマイルが一肌脱いだ。それほどの魔法の制御ができるわけではないが、マゼンダ侯爵家の嫡男としての意地はあるからである。
実際、カーマイルの魔法の制御でも、魔石コンロを作るくらいはできた。だが、小型調理窯は魔力の制御が難しくて結局成功する事はなかった。
「この繊細な魔力の制御をやってのけるとは、本当にすごい子たちだな、ロゼリア」
小型調理窯の魔石精製に失敗したカーマイルは、紅茶を飲みながらロゼリアと息抜きをしている。その愚痴を聞きながら、ロゼリアもそれには同意していた。ロゼリア自身もあの二人には嫉妬しているのだ。
「あの才能の塊なのに、それをまったく鼻に掛けないんですもの。それどころか他人にもそれを惜しげもなく教えたりとか、以前の私ならできない事でしたわ」
ロゼリアが含みを持たせたような物言いをした事に、カーマイルはすぐに気が付いた。こういうところは兄なのである。だが、なぜそういう言い方をしたのかは分からなかった。カーマイルには逆行の事を伝えていないからである。
ロゼリアがチェリシアやペシエラに関わるようになってから変わったように、カーマイルもまた、二人と関わるようになってから変化した人間の一人である。
どこか固かった思考もすっかり柔らかくなって、結構多角的に物事を捉えられるようになっていた。おかげで父親のヴァミリオと行う領地経営の勉強もすんなり理解できていた。領主と領民という視点の違いからくる感じ方の違いも理解できるのだ。そのカーマイルの姿を見て、ヴァミリオも安心して引退ができるなと感じていた。
そんなカーマイルの婚約者は、ロゼリアの友人であるチェリシア・コーラルである。まさかこんな事になるとは思っていなかったカーマイルは、その発表の時には苦笑いをしたものである。
思えば自分の思考を根本から変えてくれた人物だ。その彼女を伴侶とできる事を密かに嬉しく思いつつも、カーマイルは今日も仕事や勉強に精を出すのだった。
実際、王宮に勤める魔法使いたちの中で光魔法が使える人員はほぼ居ない。そういった状況の中で、チェリシアとペシエラは光魔法が使えて、なおかつ全属性に適性を持つ超希少な人物なのである。これでははっきり言ってどうにもならなかった。
なので、この間はオーカー商会も交えた上で、食材の流通についてが主な議題となった。料理や調味料などの加工品は、チェリシアがレシピを残してくれているのでどうにかなるからである。
「モスグリネからは豆関係の輸入が始まったが、国内の反応はどうだ?」
カーマイルが会議を取り仕切っている。
「はい、大豆はチェリシア様のレシピを使って豆腐やおからに加工して販売しておりますが、特に婦人方からの反応が良いようです」
栄養は少ないものの、きちんと食べた感じがあるために、体形を気にする婦人方に受けているという事らしい。豆腐は保存が効かず、その日のうちに食べてしまわなければならないのが唯一の欠点だが、見た目の白さも受けているのかも知れない。
ただこの豆腐、レシピがあるとはいえ、きちんと作り上げるにはかなり労力を有した。最初の大豆に水分を含ませる工程では、いきなり何時間も時間を取られる。夜のうちに水に浸けておかねば、翌日は豆腐が作れないのだ。最初の内はここでつまずいていた。
その後も結構力の要る工程もあったので、チェリシアの指導無くして販売までたどり着く事はできなかっただろう。流れで婚約者になった令嬢だが、なかなかに面白い令嬢である。さすがは妹の友人だなとカーマイルは感心していた。
正直言うと、この商会というものがここまでうまくいくとは、カーマイルはおろか立ち上げ人の一人であるロゼリアも思っていなかった。なにせ、ドール商会という強力な商会が既に存在していたのだから。
しかし、チェリシアの出すアイディアは既存の商会には無かったものだった。シェリアの街で海水から作り出した塩から始まり、マゼンダ侯爵領で持て余していた酸っぱくなったワインの有効活用法など、新たなアイディアでもって、マゼンダ商会の規模は大きくなっていった。
今では取り扱う商品の分野を分ける事で、ドール商会と並ぶ大商会となったマゼンダ商会。正直言って、その商会の規模はカーマイルの手に余るものだった。しかし、将来の領地運営の勉強になればと思って、カーマイルはチェリシアたちが居ない状況の会議で進行を務めている。この規模での会議で意見が取りまとめられなくて、どうして領地経営ができようか。カーマイルはそう考えているのである。
あーだこーだと意見が飛び合う中で、チェリシアとペシエラが居ない間は光魔法とは関係ない魔道具の製造だけに絞る事で決定した。とはいえ、主力の火属性の魔道具もロゼリアではどうする事も出来ない。ロゼリアは火属性の魔法が使えないからだ。ここはカーマイルが一肌脱いだ。それほどの魔法の制御ができるわけではないが、マゼンダ侯爵家の嫡男としての意地はあるからである。
実際、カーマイルの魔法の制御でも、魔石コンロを作るくらいはできた。だが、小型調理窯は魔力の制御が難しくて結局成功する事はなかった。
「この繊細な魔力の制御をやってのけるとは、本当にすごい子たちだな、ロゼリア」
小型調理窯の魔石精製に失敗したカーマイルは、紅茶を飲みながらロゼリアと息抜きをしている。その愚痴を聞きながら、ロゼリアもそれには同意していた。ロゼリア自身もあの二人には嫉妬しているのだ。
「あの才能の塊なのに、それをまったく鼻に掛けないんですもの。それどころか他人にもそれを惜しげもなく教えたりとか、以前の私ならできない事でしたわ」
ロゼリアが含みを持たせたような物言いをした事に、カーマイルはすぐに気が付いた。こういうところは兄なのである。だが、なぜそういう言い方をしたのかは分からなかった。カーマイルには逆行の事を伝えていないからである。
ロゼリアがチェリシアやペシエラに関わるようになってから変わったように、カーマイルもまた、二人と関わるようになってから変化した人間の一人である。
どこか固かった思考もすっかり柔らかくなって、結構多角的に物事を捉えられるようになっていた。おかげで父親のヴァミリオと行う領地経営の勉強もすんなり理解できていた。領主と領民という視点の違いからくる感じ方の違いも理解できるのだ。そのカーマイルの姿を見て、ヴァミリオも安心して引退ができるなと感じていた。
そんなカーマイルの婚約者は、ロゼリアの友人であるチェリシア・コーラルである。まさかこんな事になるとは思っていなかったカーマイルは、その発表の時には苦笑いをしたものである。
思えば自分の思考を根本から変えてくれた人物だ。その彼女を伴侶とできる事を密かに嬉しく思いつつも、カーマイルは今日も仕事や勉強に精を出すのだった。
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