逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
294 / 465
第十章 乙女ゲーム最終年

第290話 もはや通過イベント

しおりを挟む
 三年次の夏の合宿の野営二日目が始まった。
 この日の朝ご飯も、多くの学生がチェリシアが用意したものを食べていた。まったく甘いものである。
 この日からは一日中探索である。夕方には戻って来ないといけないので、行動範囲は知れている。戻って来れなければ、森の中で夜を過ごす事になる。危険な魔物の徘徊する森に滞在するので、死活問題の状態に陥ってしまう。学生たちに緊張が走る。過去には実際に森で夜を過ごす事になって、命を落としかけた例も存在している。これを聞いて脱落する学生が毎回出てくるが、今回はみんな参加する事となった。
 ただ、この探索はただ森を歩き回るだけではない。魔物を討伐して食料を確保しなければならないのだ。そうしなければ食事を取る事ができない。夕方までに戻ってくれば、成果なしでも食事にはありつけるようになっている。どのグループにもロゼリアたちに魔法を鍛えられた学生が居るので、どうにかはなるだろうと見られている。
 こうして二日目の探索が始まった。魔法科の学生はやる気に満ちていたが、武術科の生徒はちょっと引け気味だった。ロゼリアたちに鍛えられたかどうかの差が、ここに大きく影響しているようである。
 その夕方。学生は全員無事に戻ってきた。魔法科の学生は魔法の鍛錬の成果を見せられて満足げであった。ただ、成果があったかというと別の問題。食料が確保できた班はシルヴァノとペイルの班、オフライトの班、シェイディアとアイリスの班、ロゼリアとグレイアの班、チェリシアとペシエラの班であった。五人組が十二班あるので、実に半分にも満たなかった。一番多く集めたのはチェリシアとペシエラの班である。さすがは自分の庭なだけある。
「フォレストバードの肉は美味しいんですよ」
 チェリシアはにっこにこである。
「フォレストバードってそんな簡単に倒せるものなのか?」
 学生たちはざわついていた。
 地面に普通に居るコボルトやウルフだけでも、初心者のうちはそれなりに苦戦する相手だ。宙を舞うフォレストバードなど、とても相手にできたものではない。
「あら、動きは単純ですから、倒すのは結構簡単ですわよ」
 驚く学生たちにけろっとした表情でペシエラは言う。そうしたら、また学生たちに驚かれた。そんなに大変なのかなと、チェリシアも不思議そうに首を傾げた。
 というわけで、チェリシアとペシエラが狩りまくったフォレストバードが夕食となった。フォレストバードの香草焼きは学生どころか教師陣にも好評だった。
 本来、乙女ゲームであれば好感度イベントと戦闘イベントが両方起きるはず合宿なのだが、婚約者も決まってしまって好感度イベントは起こりようがなかった。戦闘イベントも野営地に魔物がなだれ込んでくる四連戦なのだが、そのための魔物も実はもう懐柔済み。実は、去年の段階でアイリスの配下に入った魔物たちが、このイベントでの討伐対象だったのだ。
 というわけで、この合宿はだらだらと五日間の野営を過ごすイベントに成り下がっていた。まぁそもそも、魔物との戦い方や野営の行い方を学ぶ場なので、それなりの意味はある場なのであるが、その上で学生同士の親睦が深くなれば御の字である。
 翌日からは、優秀な班が後れている班の指導に当たる。特に武術科の学生へのテコ入れが行われる。特に優秀な班には剣術にも優れた学生がそれぞれに居たので、どこか魔物に対してへっぴり腰だった学生たちも、真っ直ぐ剣を構えられるくらいの度胸を手に入れた。気後れしていては、倒せるものも倒せない。生きるか死ぬかの世界では、それは致命的なものなのだから。
 しかし、意外だったのはチェリシアだった。風魔法を駆使して舞うように魔物を切り刻んだ。昔を思えば魔物を倒す事に抵抗がなくなっているのは、この世界に完全に適応していると言える。とはいえ、これは普通の学生にとって参考にならなかった。
「お姉様、もう少し普通の戦い方をして下さいまし。みなさんにはとても再現できませんわよ」
 ペシエラにしっかりツッコミを入れられるチェリシア。
「えー……。かっこいいと思うのに……」
 チェリシアは残念そうな顔をしている。
「まったく、剣術ならこうするのですわよ!」
 現れたコボルトに対して、ペシエラは華麗な剣術を繰り出す。その剣術に対して、同行していた学生は感動の声を出していた。剣を収めたペシエラはドヤ顔を決めていた。
 それにしても、サーベルを扱うペシエラは相変わらず十二歳とは思えないかっこよさだった。それこそチェリシアも見惚れるレベルである。十二歳となったペシエラは体もだいぶ成長して、体型的にもチェリシアの同時期に比べれば発育が良い。おそらく、体を取り戻した事によって成長が安定したのだろう。そこまでは思ったより小さかったので、その反発があるのだと思われる。そのバランスの良さがあって、より戦闘が映えているというものである。
「さすがペシエラ様。殿下の婚約者に選ばれるだけの事がございます」
 同行していた女学生たちは憧れの視線をペシエラに向けていた。チェリシアはどこか寂しい気もしたが、ペシエラが人気なのは姉として嬉しいので複雑な気持ちである。
 こういった事もあったが、無事に合宿の日程は消化されていったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

あの子を甘やかして幸せにスローライフする為の、はずれスキル7回の使い方

tea
ファンタジー
はずれスキル持ちなので、十八になったら田舎でスローライフしようと都落ちの日を心待ちにしていた。 しかし、何故かギルマスのゴリ押しで問答無用とばかりに女勇者のパーティーに組み込まれてしまった。 追放(解放)してもらうため、はずれスキルの無駄遣いをしながら過去に心の傷を負っていた女勇者を無責任に甘やかしていたら、女勇者から慕われ懐かれ、かえって放してもらえなくなってしまったのだが? どうなる俺の田舎でのスローライフ???

便利スキル持ちなんちゃってハンクラーが行く! 生きていける範疇でいいんです異世界転生

翁小太
ファンタジー
 無意識に前世の記憶に振り回されていたせいで魔導の森と呼ばれる禍々しい場所にドナドナされたユーラス(8歳)が、前世の記憶をハッキリ取り戻し、それまで役に立たないと思われていた自らのスキルの意味をようやく理解する。 「これって異世界で日本のものを取り寄せられる系便利スキルなのでは?」  そうしてユーラスは前世なんちゃってハンクラ―だった自分の持ち前の微妙な腕で作った加工品を細々売りながら生活しようと決意する。しかし、人里特に好きじゃない野郎のユーラスはなんとか人に会わずに人と取引できないかと画策する。 「夜のうちにお仕事かたずけてくれる系妖精は実在するというていで行こう」 ――――――――――――――――― 更新再開しました(2018.04.01)

【完結】わたくし、悪役令嬢のはずですわ……よね?〜ヒロインが猫!?本能に負けないで攻略してくださいませ!

碧桜 汐香
恋愛
ある日突然、自分の前世を思い出したナリアンヌ・ハーマート公爵令嬢。 この世界は、自分が悪役令嬢の乙女ゲームの世界!? そう思って、ヒロインの登場に備えて対策を練るナリアンヌ。 しかし、いざ登場したヒロインの挙動がおかしすぎます!? 逆ハールート狙いのはずなのに、まるで子猫のような行動ばかり。 ヒロインに振り回されるナリアンヌの運命は、国外追放?それとも? 他サイト様にも掲載しております

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。 今年で33歳の社畜でございます 俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう 汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。 すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。 そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな

処理中です...