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第十章 乙女ゲーム最終年
第287話 ラブコメなんてありまして?
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この日の魔法指導が終わって、ロゼリアとペシエラと合流しようとチェリシアが部屋で待機していると、扉がコンコンと叩かれた。
「どちら様ですか?」
令嬢モードで対応するチェリシア。外から聞こえきたのは、
「チェリシア、ちょっといいか?」
「カーマイル様?」
なんとカーマイルの声だった。
何をしに来たのか確認するために、チェリシアは扉を開けて確認する。立っていたのは確かにカーマイルだった。
「すまないな。ちょっと話をしたいんだが、今はいいかな?」
部屋の中にはチェリシアの侍女であるキャノルしか居ない。だが、このキャノルも今は信用のできる侍女なので、チェリシアはカーマイルを中へと招き入れた。
「もう少しすると、女王教育を終えたロゼリアとペシエラも来るとは思いますが、待たれますか?」
チェリシアが尋ねると、カーマイルは首を横に振った。
「いや、居た方が都合がいいかも知れないが、すぐに話を始めたい」
そっかという感じで、チェリシアはテーブルにカーマイルを案内して腰を掛けた。
「話というのは、マゼンダ商会の今後の事なんだ」
カーマイルの切り出した話題は、確かに重大なものであった。
「えっと、それでしたらなおの事二人を待った方が……」
チェリシアは少し困惑気味に提案する。
「いや、君個人に確認したい事なんだ」
カーマイルはチェリシア個人への話だと強調する。
その内容はマゼンダ商会の商会長の椅子についての話であった。
現在の商会長であるロゼリアはモスグリネ王国へ嫁ぐ。ペシエラもアイヴォリー王家に入る。カーマイルも父のマゼンダ侯爵の座を引き継いで領主を務める事になる。となると、チェリシアが商会長を務める事になるのは自然な流れなのである。
「あー、確かにそうなりますね。でも、ハイビスさんやリモスさんに色々教えて頂いてますし、学園卒業までにはなんとかしたいですね」
チェリシアは前向きのようである。ところが、カーマイルは逆に不安そうに頭を抱えた。どうしてそういう反応になるのか、チェリシアは首を傾げた。
「いや、君はどこか素直すぎる。商会長になるという事は多くの人に出会う事になる。もちろん、悪意を持った人も居る事だろう。そういった人物を、君が見極められるかという事が不安なんだ」
カーマイルは、本気でチェリシアを心配しているようだ。婚約者になったからというのもあるだろうが、妹の友人というのが大きいのだろう。
チェリシアには、カーマイルに対してこれといった恋愛感情はない。あくまでもロゼリアのお兄さんだ。婚約者となったから付き合うという、どこか冷めたような感じだ。貴族社会に染まらないくせに、こういうところだけは貴族社会染みた感情を抱くあたり、本当によく分からない令嬢である。
「正直言ってしまうと、私も君には恋愛感情のようなものは抱けない。妹の大切な友人としてしか見れない」
カーマイルもすっぱり言ってのけた。だが、チェリシアも予想していた事なので、まったく驚く様子はない。
「だが、君をぞんざいに扱えば、妹が悲しむからな。そうならないように、できる限りの援助はしよう」
そういうカーマイルの顔はどこか照れているように赤くなっていた。これは意外である。
だが、カーマイルだってマゼンダ商会の一員である。手助けをするのは当然の話なのだが、最近は卒業も近いし、父親の仕事を継ぐための勉強にも勤しんでいる。商会の仕事にまで手が回らないのは仕方のない話なのだ。
「援助をしようって、カーマイル様も商会の一員ですよ? しようだなんて、他人行儀ないい方しないで下さい」
チェリシアは、意地悪そうに唇に指を当てながら言う。
「したいと思ったらして下さっていいんですよ。私たちに拒む理由なんてありますか?」
今度は後ろ手に組んで、笑いながらくるりと回る。室内なはずなのに、その姿はどこか輝いて見えた。
その時だった。ガタンと音が響いた。
「誰だ!」
カーマイルが部屋の入口を見る。
「あっちゃあ……、見つかってしまいましたわ」
「せっかくいいところだったのに……」
部屋の扉から、ロゼリアとペシエラが覗き込んでいたのだ。女王教育を終えた二人が部屋にやって来たところ、チェリシアとカーマイルがラブシーンを始めてくれたせいで、中に入れなくて外で様子を窺っていたのである。その最中にうっかり扉のノブに手を掛けてしまって、その音が響いてしまったのだった。
「お前たち、来ていたのなら声を掛ければいいだろう?」
「いや、いいところだったみたいでお邪魔するのはどうかと思いまして……」
「ここは王宮だぞ。そんな怪しい行動を取るのはやめろ!」
結局、最終的にカーマイルから怒られてこの話は終わった。
カーマイルの気持ちが確認できたチェリシアは、しばらく顔を赤くしていたのは内緒の話である。
「どちら様ですか?」
令嬢モードで対応するチェリシア。外から聞こえきたのは、
「チェリシア、ちょっといいか?」
「カーマイル様?」
なんとカーマイルの声だった。
何をしに来たのか確認するために、チェリシアは扉を開けて確認する。立っていたのは確かにカーマイルだった。
「すまないな。ちょっと話をしたいんだが、今はいいかな?」
部屋の中にはチェリシアの侍女であるキャノルしか居ない。だが、このキャノルも今は信用のできる侍女なので、チェリシアはカーマイルを中へと招き入れた。
「もう少しすると、女王教育を終えたロゼリアとペシエラも来るとは思いますが、待たれますか?」
チェリシアが尋ねると、カーマイルは首を横に振った。
「いや、居た方が都合がいいかも知れないが、すぐに話を始めたい」
そっかという感じで、チェリシアはテーブルにカーマイルを案内して腰を掛けた。
「話というのは、マゼンダ商会の今後の事なんだ」
カーマイルの切り出した話題は、確かに重大なものであった。
「えっと、それでしたらなおの事二人を待った方が……」
チェリシアは少し困惑気味に提案する。
「いや、君個人に確認したい事なんだ」
カーマイルはチェリシア個人への話だと強調する。
その内容はマゼンダ商会の商会長の椅子についての話であった。
現在の商会長であるロゼリアはモスグリネ王国へ嫁ぐ。ペシエラもアイヴォリー王家に入る。カーマイルも父のマゼンダ侯爵の座を引き継いで領主を務める事になる。となると、チェリシアが商会長を務める事になるのは自然な流れなのである。
「あー、確かにそうなりますね。でも、ハイビスさんやリモスさんに色々教えて頂いてますし、学園卒業までにはなんとかしたいですね」
チェリシアは前向きのようである。ところが、カーマイルは逆に不安そうに頭を抱えた。どうしてそういう反応になるのか、チェリシアは首を傾げた。
「いや、君はどこか素直すぎる。商会長になるという事は多くの人に出会う事になる。もちろん、悪意を持った人も居る事だろう。そういった人物を、君が見極められるかという事が不安なんだ」
カーマイルは、本気でチェリシアを心配しているようだ。婚約者になったからというのもあるだろうが、妹の友人というのが大きいのだろう。
チェリシアには、カーマイルに対してこれといった恋愛感情はない。あくまでもロゼリアのお兄さんだ。婚約者となったから付き合うという、どこか冷めたような感じだ。貴族社会に染まらないくせに、こういうところだけは貴族社会染みた感情を抱くあたり、本当によく分からない令嬢である。
「正直言ってしまうと、私も君には恋愛感情のようなものは抱けない。妹の大切な友人としてしか見れない」
カーマイルもすっぱり言ってのけた。だが、チェリシアも予想していた事なので、まったく驚く様子はない。
「だが、君をぞんざいに扱えば、妹が悲しむからな。そうならないように、できる限りの援助はしよう」
そういうカーマイルの顔はどこか照れているように赤くなっていた。これは意外である。
だが、カーマイルだってマゼンダ商会の一員である。手助けをするのは当然の話なのだが、最近は卒業も近いし、父親の仕事を継ぐための勉強にも勤しんでいる。商会の仕事にまで手が回らないのは仕方のない話なのだ。
「援助をしようって、カーマイル様も商会の一員ですよ? しようだなんて、他人行儀ないい方しないで下さい」
チェリシアは、意地悪そうに唇に指を当てながら言う。
「したいと思ったらして下さっていいんですよ。私たちに拒む理由なんてありますか?」
今度は後ろ手に組んで、笑いながらくるりと回る。室内なはずなのに、その姿はどこか輝いて見えた。
その時だった。ガタンと音が響いた。
「誰だ!」
カーマイルが部屋の入口を見る。
「あっちゃあ……、見つかってしまいましたわ」
「せっかくいいところだったのに……」
部屋の扉から、ロゼリアとペシエラが覗き込んでいたのだ。女王教育を終えた二人が部屋にやって来たところ、チェリシアとカーマイルがラブシーンを始めてくれたせいで、中に入れなくて外で様子を窺っていたのである。その最中にうっかり扉のノブに手を掛けてしまって、その音が響いてしまったのだった。
「お前たち、来ていたのなら声を掛ければいいだろう?」
「いや、いいところだったみたいでお邪魔するのはどうかと思いまして……」
「ここは王宮だぞ。そんな怪しい行動を取るのはやめろ!」
結局、最終的にカーマイルから怒られてこの話は終わった。
カーマイルの気持ちが確認できたチェリシアは、しばらく顔を赤くしていたのは内緒の話である。
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