逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
288 / 465
第十章 乙女ゲーム最終年

第284話 講師をさせられた

しおりを挟む
 学園での魔法の講義だが、ロゼリア、チェリシア、ペシエラの三人はどういうわけか講師扱いにされていた。二年次の時は普通に生徒だったのに、どうしてこうなった。
 というのも、ペシエラは間違いなくこれまでの行動のせい。数百体にも及ぶ魔物を一瞬で消し飛ばすほどの魔法も使えるし、その一方で高度で繊細な魔法の扱いにも長けている。年齢を考えると、逆行の事を知らなければ天才と称するに値する人物なので仕方がない。
 チェリシアはペシエラとほぼ同じ魔法の使い手だが、それ以上に魔道具製作などの実績が広く知られているので、これも適任であった。またエアリアルボードの事もあるので、それも教える事になりそうである。
 ロゼリアは水・風・土の三属性が使えるし、コーラル姉妹に劣らずの魔法の使い手である。
 結局のところ、三人が魔法講師になる事に反対の声は出なかった。それくらいにはもう国でしっかり認められた存在という事である。
 これに対して、ロゼリアとペシエラの二人はやれやれといった感じで、チェリシアがちょっと戸惑ったくらいである。だが、エアリアルボードの講師を務める約束をしたので、予行演習だと思う事にしたのだった。学生が習得できれば、将来の働き先の一つにできるからであり、それこそ国への貢献となるからだ。チェリシアも少しくらいは打算的である。
 ロゼリアたち三年次生は、三人に引きずられてか能力は高い。シルヴァノやペイル、アイリスのように向上心も高い学生が揃っており、教師陣もかなりの期待を寄せている。
 さて、そんなロゼリアたちの講師デビューの日がやって来た。服装はいつものドレス風の制服だが、講師と分かるように特別講師用の帽子を被らされての登場である。
 講師用の帽子を被ったロゼリアたちが出てくると、学生たちから歓声が上がる。ただ帽子を被っただけなのに、すごい盛り上がりようである。ロゼリアとペシエラは動じていないが、チェリシアだけはすごく照れていた。場数の違いがはっきり見て取れる。
 さて、ロゼリアたちによる魔法の講義が始まった。三年次ともなれば、より高度な魔法の扱いに慣れていかなければならない。魔法弾にホーミング性能をつけたりとか、本当に応用の段階に入ってくるのだ。
 しかし、三人が使った魔法は、それをはるかに超えるレベルの魔法。無詠唱による魔法の行使である。実はチェリシアとペシエラは、学園に入る前からよく行っている。ロゼリアもだいぶ無詠唱に慣れてきたが、まだまだ性能や精度が甘い。というわけで、今日の講義はペシエラが先生である。
 今回は基礎の魔法である火の玉を生み出す魔法。これにホーミング性能を付与する事が今回の目的である。
 ペシエラが見本を見せる。ペシエラの手から無詠唱で放たれた火の玉は、右斜め上に撃ち出されたかと思えば、急激に左下へと向かって曲がって的に命中したのである。学生たちから驚きの声が上がる。しかしながら、この程度の魔法など、ペシエラにとっては朝飯前なのである。
「では、みなさんは的の足元に魔法を命中させる練習をして下さいませ」
 ペシエラから出された課題はこういう事である。
 まずは普通に的に向けて魔法を放つ。それを直前で急激に地面へと曲げて、的の足元に命中させようという事である。ただ、慣れないうちにペシエラが見本として実演したものをやろうとされては、たちまち大惨事である。そこへ釘をさす事だけは忘れなかった。
 学生によっては属性がまちまちである。それ故に、ペシエラが見本として使った火球弾と同じとはいかない。そういう学生は単純な魔力弾でもオーケーとされた。
 結局、この日の講義でそれができた学生は、アイリスただ一人だった。さすがは元暗殺者、そういう癖のあるものに関しては得意なようだった。
「はい、今日できなかったからといって、悲観する必要はありませんわ。第一こんな捻くれた攻撃なんて、使う事なんてそうありませんもの」
 ペシエラがこういえば文句を言う学生が出てきた。
「ただこういうのは、相手にこちらへの警戒を与える事ができますの。予測できない事ほど怖い物はありませんから」
 こう続けられると、文句を言う声が少し小さくなった。
「牽制として使うもよし、奥の手として使うもよし、戦略の幅を広げる事が重要なのですわ」
 ペシエラの言葉には、妙に説得力があった。不思議と納得させられた学生たちは、黙々と魔法の練習に打ち込んだ。
 こうしてしばらくの間、魔法を思うように扱うための練習が続けられる事になったのであった。エアリアルボード運輸の下地が、こうやって作られていく事になったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旧転生者はめぐりあう

佐藤醤油
ファンタジー
リニューアル版はこちら https://www.alphapolis.co.jp/novel/921246135/161178785/

あの子を甘やかして幸せにスローライフする為の、はずれスキル7回の使い方

tea
ファンタジー
はずれスキル持ちなので、十八になったら田舎でスローライフしようと都落ちの日を心待ちにしていた。 しかし、何故かギルマスのゴリ押しで問答無用とばかりに女勇者のパーティーに組み込まれてしまった。 追放(解放)してもらうため、はずれスキルの無駄遣いをしながら過去に心の傷を負っていた女勇者を無責任に甘やかしていたら、女勇者から慕われ懐かれ、かえって放してもらえなくなってしまったのだが? どうなる俺の田舎でのスローライフ???

便利スキル持ちなんちゃってハンクラーが行く! 生きていける範疇でいいんです異世界転生

翁小太
ファンタジー
 無意識に前世の記憶に振り回されていたせいで魔導の森と呼ばれる禍々しい場所にドナドナされたユーラス(8歳)が、前世の記憶をハッキリ取り戻し、それまで役に立たないと思われていた自らのスキルの意味をようやく理解する。 「これって異世界で日本のものを取り寄せられる系便利スキルなのでは?」  そうしてユーラスは前世なんちゃってハンクラ―だった自分の持ち前の微妙な腕で作った加工品を細々売りながら生活しようと決意する。しかし、人里特に好きじゃない野郎のユーラスはなんとか人に会わずに人と取引できないかと画策する。 「夜のうちにお仕事かたずけてくれる系妖精は実在するというていで行こう」 ――――――――――――――――― 更新再開しました(2018.04.01)

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【完結】わたくし、悪役令嬢のはずですわ……よね?〜ヒロインが猫!?本能に負けないで攻略してくださいませ!

碧桜 汐香
恋愛
ある日突然、自分の前世を思い出したナリアンヌ・ハーマート公爵令嬢。 この世界は、自分が悪役令嬢の乙女ゲームの世界!? そう思って、ヒロインの登場に備えて対策を練るナリアンヌ。 しかし、いざ登場したヒロインの挙動がおかしすぎます!? 逆ハールート狙いのはずなのに、まるで子猫のような行動ばかり。 ヒロインに振り回されるナリアンヌの運命は、国外追放?それとも? 他サイト様にも掲載しております

龍騎士イリス☆ユグドラシルの霊樹の下で

ウッド
ファンタジー
霊樹ユグドラシルの根っこにあるウッドエルフの集落に住む少女イリス。 入ったらダメと言われたら入り、登ったらダメと言われたら登る。 ええい!小娘!ダメだっちゅーとろーが! だからターザンごっこすんなぁーーー!! こんな破天荒娘の教育係になった私、緑の大精霊シルフェリア。 寿命を迎える前に何とかせにゃならん! 果たして暴走小娘イリスを教育する事が出来るのか?! そんな私の奮闘記です。 しかし途中からあんまし出てこなくなっちゃう・・・ おい作者よ裏で話し合おうじゃないか・・・ ・・・つーかタイトル何とかならんかったんかい!

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

処理中です...