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第九章 大いなる秘密
第257話 笑顔のケットシー
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「ここがその物件だよ」
あっという間に目的地に着いた。モスグリネの王城に続く大通りに建つ四階建てのレンガ造りの建物、それが話に出ていた物件である。
ここに来るまで、ケットシーはかなり注目を集めていた。ヴィフレアではそう珍しくはないのだろうが、やはり猫が二足歩行していれば目立つのだ。
「中も確かめてみるかい?」
ケットシーが聞いてくるので、ロゼリアたちはぜひともと返答する。なので、ケットシーがカギを開けて中を確認する。
確かに半年の時間の流れを感じるように、窓を閉め切っていた建物は埃っぽかった。一階は商店になっていたのか、ところどころに柱が立つだけの広々とした空間になっている。一階の奥も同じような構造があり、それは二階も同じであった。三階と四階は一、二階とは違い、小部屋が多かった。おそらく事務所と個別の商談スペースだろう。
「うん、ここで決まりかな」
ロゼリアは気に入ったのか、ここで決めたようである。
「私もいいと思う」
チェリシアとペシエラも問題なしと反対しなかった。
「なら、一旦組合に戻って契約ですな」
こうケットシーが言うので、鍵を掛けて組合へと戻る。購入の契約もさくっと終わって、あの建物はロゼリアたちの物となった。
「何かあればすぐに申し出て下さいな。ボクの配下の精霊や妖精たちをすぐにけしかけますので」
ケットシーがこう言うので、
「でしたら、こちらの運営が調うまで力をお貸し願ってもよろしいと?」
ロゼリアが見事にカウンターを打ち出す。
「ははは、それはさすがに遠慮させて頂きますね。組合長としては中立を貫きたいですからね。いくら神獣使いの方がいらっしゃるといっても」
だが、さすがに商人として長くもまれてきたケットシーは冷静だった。
「ただ、必要な人員を紹介する事はできますよ。雇用に関しては領分ですからね」
「ええ、お願いします」
ちゃっちゃと必要な話を進めていく。ある程度落ち着いたところで、
「ケットシー様は、私たちの事をどこまでご存じなので?」
代表してロゼリアが最初のセリフについて尋ねてみた。ケットシーはロゼリア、チェリシア、ペシエラ、それとアイリスの事を全部知っているような感じだったからだ。
「ああ、その辺りは精霊たちを通じて全部話は聞いているよ。カイスの村だっけか、あそこに居るレイニ君も知り合いだからね」
ケットシーの情報源の一つは、なんと光と水の精霊のレイニだった。ケットシーは長くなり過ぎないように、知っている事を全部話してくれた。キャノルが元暗殺者だった事も知っていたので、すごく驚いた。
「商人は情報が命ですからね。国王や大臣たちよりも知識においては長けておりますよ」
ケットシーはにかりと笑った。ただその笑みは、なんか殴りたくなるような絵面だったのは内緒だ。
「まったく、相手にするにはいろいろ厄介ですわね。人伝だけではなくて妖精や精霊からも情報を仕入れられるなんて」
「お褒め頂き光栄ですよ」
「褒めてませんわよ」
本当に、ケットシーはやりにくい相手だった。猫という事で気ままだし、精霊から昇格した幻獣とあって言語能力も高い。商人という職業は、ある意味天職だったのかも知れない。
「皆さん、しばらくはこちらにいらっしゃるのでしょう? 年末にはアイヴォリーの王城で祭りが行われると聞いておりますので、見返りと言っては何ですが、ボクも参加させて頂きましょう」
とことこと窓際まで歩いて行ったケットシーは、振り返ってとんでもない事を言い出した。だが、ロゼリアたちだけで判断できる事ではないので、
「ま、まぁ、それは構わないとは思いますが、シルヴァノ殿下にお聞きしない事には返事はできませんね」
と返すと、
「分かりました。では、明日にでもお会いしましょう」
ケットシーは即決だった。そうと決めたら行動が早い。この猫、できる!
「実に楽しみですね。他国の王族とお会いするのは、実に数十年ぶりですから」
ニヤッとするケットシーの笑顔に、ロゼリアたちは言い知れぬ恐怖を感じるのだった。
あっという間に目的地に着いた。モスグリネの王城に続く大通りに建つ四階建てのレンガ造りの建物、それが話に出ていた物件である。
ここに来るまで、ケットシーはかなり注目を集めていた。ヴィフレアではそう珍しくはないのだろうが、やはり猫が二足歩行していれば目立つのだ。
「中も確かめてみるかい?」
ケットシーが聞いてくるので、ロゼリアたちはぜひともと返答する。なので、ケットシーがカギを開けて中を確認する。
確かに半年の時間の流れを感じるように、窓を閉め切っていた建物は埃っぽかった。一階は商店になっていたのか、ところどころに柱が立つだけの広々とした空間になっている。一階の奥も同じような構造があり、それは二階も同じであった。三階と四階は一、二階とは違い、小部屋が多かった。おそらく事務所と個別の商談スペースだろう。
「うん、ここで決まりかな」
ロゼリアは気に入ったのか、ここで決めたようである。
「私もいいと思う」
チェリシアとペシエラも問題なしと反対しなかった。
「なら、一旦組合に戻って契約ですな」
こうケットシーが言うので、鍵を掛けて組合へと戻る。購入の契約もさくっと終わって、あの建物はロゼリアたちの物となった。
「何かあればすぐに申し出て下さいな。ボクの配下の精霊や妖精たちをすぐにけしかけますので」
ケットシーがこう言うので、
「でしたら、こちらの運営が調うまで力をお貸し願ってもよろしいと?」
ロゼリアが見事にカウンターを打ち出す。
「ははは、それはさすがに遠慮させて頂きますね。組合長としては中立を貫きたいですからね。いくら神獣使いの方がいらっしゃるといっても」
だが、さすがに商人として長くもまれてきたケットシーは冷静だった。
「ただ、必要な人員を紹介する事はできますよ。雇用に関しては領分ですからね」
「ええ、お願いします」
ちゃっちゃと必要な話を進めていく。ある程度落ち着いたところで、
「ケットシー様は、私たちの事をどこまでご存じなので?」
代表してロゼリアが最初のセリフについて尋ねてみた。ケットシーはロゼリア、チェリシア、ペシエラ、それとアイリスの事を全部知っているような感じだったからだ。
「ああ、その辺りは精霊たちを通じて全部話は聞いているよ。カイスの村だっけか、あそこに居るレイニ君も知り合いだからね」
ケットシーの情報源の一つは、なんと光と水の精霊のレイニだった。ケットシーは長くなり過ぎないように、知っている事を全部話してくれた。キャノルが元暗殺者だった事も知っていたので、すごく驚いた。
「商人は情報が命ですからね。国王や大臣たちよりも知識においては長けておりますよ」
ケットシーはにかりと笑った。ただその笑みは、なんか殴りたくなるような絵面だったのは内緒だ。
「まったく、相手にするにはいろいろ厄介ですわね。人伝だけではなくて妖精や精霊からも情報を仕入れられるなんて」
「お褒め頂き光栄ですよ」
「褒めてませんわよ」
本当に、ケットシーはやりにくい相手だった。猫という事で気ままだし、精霊から昇格した幻獣とあって言語能力も高い。商人という職業は、ある意味天職だったのかも知れない。
「皆さん、しばらくはこちらにいらっしゃるのでしょう? 年末にはアイヴォリーの王城で祭りが行われると聞いておりますので、見返りと言っては何ですが、ボクも参加させて頂きましょう」
とことこと窓際まで歩いて行ったケットシーは、振り返ってとんでもない事を言い出した。だが、ロゼリアたちだけで判断できる事ではないので、
「ま、まぁ、それは構わないとは思いますが、シルヴァノ殿下にお聞きしない事には返事はできませんね」
と返すと、
「分かりました。では、明日にでもお会いしましょう」
ケットシーは即決だった。そうと決めたら行動が早い。この猫、できる!
「実に楽しみですね。他国の王族とお会いするのは、実に数十年ぶりですから」
ニヤッとするケットシーの笑顔に、ロゼリアたちは言い知れぬ恐怖を感じるのだった。
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