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第八章 二年次
第227話 事件が終わって
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あれよあれよという間に、パープリア男爵邸の捜索も進んでいく。屋敷で雇われていた使用人たちはそれぞれ新たな働き口を斡旋してもらい、路頭に迷う事はなかったようだ。その際にいろいろと話を聞いたようだが、男爵の悪事の事を知っていた使用人は誰も居なかったようだった。つまり、ほぼすべてが男爵とインディの二人だけで行われていたという事である。それにたまにアイリスが加担していただけという、驚愕の事実が判明したのだった。
その日のうちに、正式にパープリア男爵家の取り潰しが決定し、屋敷と領地は没収となった。
だが、男爵たちは相変わらず時が止まったままであり、牢の中でそのまま放置されている。時が止まるなど誰も理解できるものではないので、対処のしようがない。ただ、身に付けている服がまったく汚れないという事からも、異様な状態である事が分かるくらいだった。見張っている兵士も、あまりの光景の異様さに首を傾げている状態である。
商会では、学園祭で使った魔道具の数々の点検をしながら、ロゼリアたちが集まって話をしている。
「アイリスもご苦労様。あんな男とはいえ、実の父親ですから、心苦しかったでしょう?」
「いえ、あの男とは、去年の段階で踏ん切りをつけました。今はどちらかというと安堵しています」
ロゼリアの言葉に、アイリスは淡々と返す。
(嘘ね。安堵している言いながら、表情はまったくその逆。親子という関係は、そうそう簡単に切れるものでもないものね)
アイリスの様子を見ていて、ロゼリアはそう思った。なにせ、手に持つカップが震えているし、返答をしながらもまったくロゼリアを見ていなかったのだから。
「アイリス、強がるのも大概にしなさい。あなたの持つ技術は、男爵とインディの二人から仕込まれたものでしょう?」
ペシエラは隣に座るアイリスを窘める。その言葉に、アイリスは表情を歪めて言葉を詰まらせた。
「二人のした事は許される事ではありませんわ。でも、その技術は使い方次第で人の助けにもなるものよ。少しでも汚名を晴らしたいと思うのでしたら、その技術で私たちの役に立ちなさい」
ペシエラは、アイリスにぴしゃりと言い切った。
「はぁ~、さすが女王を務めた事のある元ヒロイン、カッコいいわぁ」
チェリシアが目の前で惚けている。そのチェリシアの反応を見たペシエラの表情は、いかにも嫌そうな顔をしていた。
しかし、周りの視線に気が付いたペシエラは、コホンと咳ばらいを一つして気を取り直した。
「逆行前の私なのですけれど、おそらくパープリア男爵の術中に嵌っていたと思うのですわ。ロゼリアへの憎悪の感情が、今思えば本当に異常でしたもの」
「確かに。今と違って本当に行動が突飛で田舎者丸出しでしたので、私はよく注意をしていたわ」
「そう。私の事を心配して、諭すように優しく言っていたのよ。でも、その時の私はことごとく突っぱねていましたわ」
ロゼリアとペシエラの逆行前の話を、チェリシアたちは興味深く聞いている。特に、シアン、アイリス、キャノルの従者三人は初耳なので、それこそ聞き耳を立てている状態だ。
「その時にも私には侍女が付いていましたが、多分その侍女がパープリアの手の者だったのでしょうね。あの時はお金が無くて、なけなしに雇っていたような感じでしたから」
「そっか。その時は今みたいに領地の状況改善してなかったものね」
ペシエラが伏し目がちに説明していると、チェリシアは思い出したかのように言った。
そう、逆行前もチェリシアが前世で遊んだゲームでも、コーラル領の経営は悲惨そのものだったのだ。その荒んだ環境で育ったペシエラにパープリア男爵は目を付けたのだろう。その世界線ではマゼンダ家が重要になっていたので、没落させれば王国は潰せると目論み、実際その通りに潰して見せたのだから大したものである。
ところが、彼らがそこまで王国を潰したがる理由は、今は知る由もない状態だ。その鍵である本人たちが、時間停止の真っただ中で話をできない状態だから。そのため、屋敷の捜索が終わるまでは、この件についての進展が望めなくなっていた。
ロゼリアたちは、この件が早く片付いて、平穏な日々が送れるようになる事を切に願うのだった。
その日のうちに、正式にパープリア男爵家の取り潰しが決定し、屋敷と領地は没収となった。
だが、男爵たちは相変わらず時が止まったままであり、牢の中でそのまま放置されている。時が止まるなど誰も理解できるものではないので、対処のしようがない。ただ、身に付けている服がまったく汚れないという事からも、異様な状態である事が分かるくらいだった。見張っている兵士も、あまりの光景の異様さに首を傾げている状態である。
商会では、学園祭で使った魔道具の数々の点検をしながら、ロゼリアたちが集まって話をしている。
「アイリスもご苦労様。あんな男とはいえ、実の父親ですから、心苦しかったでしょう?」
「いえ、あの男とは、去年の段階で踏ん切りをつけました。今はどちらかというと安堵しています」
ロゼリアの言葉に、アイリスは淡々と返す。
(嘘ね。安堵している言いながら、表情はまったくその逆。親子という関係は、そうそう簡単に切れるものでもないものね)
アイリスの様子を見ていて、ロゼリアはそう思った。なにせ、手に持つカップが震えているし、返答をしながらもまったくロゼリアを見ていなかったのだから。
「アイリス、強がるのも大概にしなさい。あなたの持つ技術は、男爵とインディの二人から仕込まれたものでしょう?」
ペシエラは隣に座るアイリスを窘める。その言葉に、アイリスは表情を歪めて言葉を詰まらせた。
「二人のした事は許される事ではありませんわ。でも、その技術は使い方次第で人の助けにもなるものよ。少しでも汚名を晴らしたいと思うのでしたら、その技術で私たちの役に立ちなさい」
ペシエラは、アイリスにぴしゃりと言い切った。
「はぁ~、さすが女王を務めた事のある元ヒロイン、カッコいいわぁ」
チェリシアが目の前で惚けている。そのチェリシアの反応を見たペシエラの表情は、いかにも嫌そうな顔をしていた。
しかし、周りの視線に気が付いたペシエラは、コホンと咳ばらいを一つして気を取り直した。
「逆行前の私なのですけれど、おそらくパープリア男爵の術中に嵌っていたと思うのですわ。ロゼリアへの憎悪の感情が、今思えば本当に異常でしたもの」
「確かに。今と違って本当に行動が突飛で田舎者丸出しでしたので、私はよく注意をしていたわ」
「そう。私の事を心配して、諭すように優しく言っていたのよ。でも、その時の私はことごとく突っぱねていましたわ」
ロゼリアとペシエラの逆行前の話を、チェリシアたちは興味深く聞いている。特に、シアン、アイリス、キャノルの従者三人は初耳なので、それこそ聞き耳を立てている状態だ。
「その時にも私には侍女が付いていましたが、多分その侍女がパープリアの手の者だったのでしょうね。あの時はお金が無くて、なけなしに雇っていたような感じでしたから」
「そっか。その時は今みたいに領地の状況改善してなかったものね」
ペシエラが伏し目がちに説明していると、チェリシアは思い出したかのように言った。
そう、逆行前もチェリシアが前世で遊んだゲームでも、コーラル領の経営は悲惨そのものだったのだ。その荒んだ環境で育ったペシエラにパープリア男爵は目を付けたのだろう。その世界線ではマゼンダ家が重要になっていたので、没落させれば王国は潰せると目論み、実際その通りに潰して見せたのだから大したものである。
ところが、彼らがそこまで王国を潰したがる理由は、今は知る由もない状態だ。その鍵である本人たちが、時間停止の真っただ中で話をできない状態だから。そのため、屋敷の捜索が終わるまでは、この件についての進展が望めなくなっていた。
ロゼリアたちは、この件が早く片付いて、平穏な日々が送れるようになる事を切に願うのだった。
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