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第八章 二年次
第226話 アメジスタの処遇
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チェリシアたちは、ロゼリアを伴ってコーラル邸に戻ってきた。なぜロゼリアが居るかというと、マゼンダ商会関係の話もあるからだ。ちなみにカーマイルも居る。
「とりあえず、アイリスのお母様、アメジスタ様にお会いしましょう」
珍しくチェリシアが取り仕切っているが、これに異を唱える者など居なかった。というわけで、チェリシアたちは、アメジスタが休んでいる客間へと向かった。
「お母様、アイリスです。入っても大丈夫ですか?」
扉をノックして、アイリスが声を掛ける。
「ええ、大丈夫よ」
中から返事がしたので、扉を開けて中に入る。そこに居たアメジスタは、上体を起こして本を読んでいた。
「お母様、少し顔色が良くなりましたね」
アイリスは元気そうなアメジスタに声を掛けて駆け寄る。
「ええ。コーラル家の食事が美味しくて、つい食べ過ぎちゃってね。まだ固形物は食べられないから汁物ばかりですけれど」
アメジスタは確かに微笑んでいる。まだ助け出してから一日しか経っていないのに、ずいぶんと体調が良くなっているようだ。
それにしても、アメジスタとアイリスは、さすが親子と言わんばかりに顔立ちがよく似ている。アイリスの兄ヴィオレスもどっちかと言えばアメジスタに似ているので、兄妹そろって父親に似なかったようである。今回の一件で家名も失ったので、言わなければパープリア男爵との関係は気付けないと思われる。髪色も母親似だし。
病み上がりだからどうするかも考えたのだが、ペシエラはアメジスタにパープリア男爵家の取り潰しの件を伝える。だが、アメジスタはどうやら覚悟していたようで、あまりショックを受けた様子は見られなかった。
「あの人……、やはり祖先の道具を悪用していたのですね。召喚陣を発動するための魔道具も、祖先であるベル様から代々受け継がれてきた物。自分たちの力が衰えても、盟約を交わした神獣や幻獣との繋がりを消したくなくて作った物なのです」
アメジスタはポツポツと語り出す。
「おおよそ悪い事をしている事実には気付いていましたが、私は体が弱ってしまい、しかも部屋から出してもらえず、王国に告げられなかった事が悔しくてたまりません……」
語っているうちに、アメジスタは嗚咽を漏らし始めた。悔しさと無念が込み上げてきたのだろう。
「いろいろと気持ちを察するところはございますけれど、これからのあなた方の処遇を考えねばなりません」
感情的には同情はしたいところだが、ペシエラは冷静に話を進めていく。
「まず、ヴィオレス様ですけれど、そのままノワール家の養子になる事になりそうですわ。副団長様が腕前を認められているようですし、オフライト様の相手に欲しがっているようですから」
長兄ヴィオレスは去年の段階から既に養子化していたので、今回で正式に養子に迎えるという運びになったそうだ。
「それで、アイリスは私の侍女を希望しています。ですので、お父様とも相談する事とはなりますが、我がコーラル家に養子に迎えようと考えていますの。私もお姉様も結婚して家を出てしまう予定ですから、そうなると跡取りが居なくなってしまいますからね」
こう言ってペシエラは、チェリシアを見る。その視線にチェリシアはぎくりという擬音が聞こえるくらいに、ペシエラから思いっきり視線を逸らした。
「それに、女王付きの侍女が平民というのも体裁が悪いらしいですわ。私は気にはしませんけれど」
視線をチェリシアから戻したペシエラは、ため息をついていた。
「それで、最後にアメジスタ様ですけれど、選択肢は二つですわ」
ペシエラの提案に、アメジスタは息を飲んだ。どんな事を言われるのか、緊張をしているらしい。
「一つは、嫁ぐ前の故郷に帰る事。今なら神獣フェンリルが居ますし、以前よりは安全だと思いますわ」
一つ目はまぁ、取り潰しに伴う行動としては普通である。
「もう一つは、マゼンダ商会の従業員になる事。こちらなら、その気になれば子どもたちにいつでも会う事が可能ですわ」
もう一つの選択肢も、現実的なものである。ただこれは、故郷を取るか家族を取るかというものだった。ところが、この選択肢を聞いたアメジスタの判断は早かった。
「それでしたら、マゼンダ商会の従業員になります。子どもたちと離れる方がつらいですもの」
後者を選んだ。
しかし、この選択はペシエラの想定内だったらしく、
「では、さっそくお父様とお話してきますわ。お姉様、ロゼリア、後は頼みましたわ」
さっさと一人で部屋を出て行ってしまった。
こうして、マゼンダ商会に新たな従業員が一人増えたのだった。
「とりあえず、アイリスのお母様、アメジスタ様にお会いしましょう」
珍しくチェリシアが取り仕切っているが、これに異を唱える者など居なかった。というわけで、チェリシアたちは、アメジスタが休んでいる客間へと向かった。
「お母様、アイリスです。入っても大丈夫ですか?」
扉をノックして、アイリスが声を掛ける。
「ええ、大丈夫よ」
中から返事がしたので、扉を開けて中に入る。そこに居たアメジスタは、上体を起こして本を読んでいた。
「お母様、少し顔色が良くなりましたね」
アイリスは元気そうなアメジスタに声を掛けて駆け寄る。
「ええ。コーラル家の食事が美味しくて、つい食べ過ぎちゃってね。まだ固形物は食べられないから汁物ばかりですけれど」
アメジスタは確かに微笑んでいる。まだ助け出してから一日しか経っていないのに、ずいぶんと体調が良くなっているようだ。
それにしても、アメジスタとアイリスは、さすが親子と言わんばかりに顔立ちがよく似ている。アイリスの兄ヴィオレスもどっちかと言えばアメジスタに似ているので、兄妹そろって父親に似なかったようである。今回の一件で家名も失ったので、言わなければパープリア男爵との関係は気付けないと思われる。髪色も母親似だし。
病み上がりだからどうするかも考えたのだが、ペシエラはアメジスタにパープリア男爵家の取り潰しの件を伝える。だが、アメジスタはどうやら覚悟していたようで、あまりショックを受けた様子は見られなかった。
「あの人……、やはり祖先の道具を悪用していたのですね。召喚陣を発動するための魔道具も、祖先であるベル様から代々受け継がれてきた物。自分たちの力が衰えても、盟約を交わした神獣や幻獣との繋がりを消したくなくて作った物なのです」
アメジスタはポツポツと語り出す。
「おおよそ悪い事をしている事実には気付いていましたが、私は体が弱ってしまい、しかも部屋から出してもらえず、王国に告げられなかった事が悔しくてたまりません……」
語っているうちに、アメジスタは嗚咽を漏らし始めた。悔しさと無念が込み上げてきたのだろう。
「いろいろと気持ちを察するところはございますけれど、これからのあなた方の処遇を考えねばなりません」
感情的には同情はしたいところだが、ペシエラは冷静に話を進めていく。
「まず、ヴィオレス様ですけれど、そのままノワール家の養子になる事になりそうですわ。副団長様が腕前を認められているようですし、オフライト様の相手に欲しがっているようですから」
長兄ヴィオレスは去年の段階から既に養子化していたので、今回で正式に養子に迎えるという運びになったそうだ。
「それで、アイリスは私の侍女を希望しています。ですので、お父様とも相談する事とはなりますが、我がコーラル家に養子に迎えようと考えていますの。私もお姉様も結婚して家を出てしまう予定ですから、そうなると跡取りが居なくなってしまいますからね」
こう言ってペシエラは、チェリシアを見る。その視線にチェリシアはぎくりという擬音が聞こえるくらいに、ペシエラから思いっきり視線を逸らした。
「それに、女王付きの侍女が平民というのも体裁が悪いらしいですわ。私は気にはしませんけれど」
視線をチェリシアから戻したペシエラは、ため息をついていた。
「それで、最後にアメジスタ様ですけれど、選択肢は二つですわ」
ペシエラの提案に、アメジスタは息を飲んだ。どんな事を言われるのか、緊張をしているらしい。
「一つは、嫁ぐ前の故郷に帰る事。今なら神獣フェンリルが居ますし、以前よりは安全だと思いますわ」
一つ目はまぁ、取り潰しに伴う行動としては普通である。
「もう一つは、マゼンダ商会の従業員になる事。こちらなら、その気になれば子どもたちにいつでも会う事が可能ですわ」
もう一つの選択肢も、現実的なものである。ただこれは、故郷を取るか家族を取るかというものだった。ところが、この選択肢を聞いたアメジスタの判断は早かった。
「それでしたら、マゼンダ商会の従業員になります。子どもたちと離れる方がつらいですもの」
後者を選んだ。
しかし、この選択はペシエラの想定内だったらしく、
「では、さっそくお父様とお話してきますわ。お姉様、ロゼリア、後は頼みましたわ」
さっさと一人で部屋を出て行ってしまった。
こうして、マゼンダ商会に新たな従業員が一人増えたのだった。
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