逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第八章 二年次

第215話 見守るのですよ

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 チェリシアとペシエラが二手に分かれてすぐ、アイリスが一ヶ所目を発見する。
「ペシエラ様、あそこです」
 目立たないように視線を送るアイリス。見ている先は地面だった。
「対戦前後に仕掛けたのでしょうね」
 アイリスの説明を聞きながら、ペシエラはその場を写真に収める。遠目ながら、そこで何かが光ったような気がした。
 観客席を左右に分かれて、チェリシアとペシエラは、アイリスとキャノルが指摘する怪しい箇所を一ヶ所また一ヶ所とカメラに収めていく。武術大会が終わるのは夕方なので、それまでは何があっても余程の事でない限り武台に近づく事ができない。なので、その待ち時間に大会本部で確認する予定である。
 最初の位置からちょうど反対側に至った時、会場が割れんばかりの黄色い声援に包まれた。
 チェリシアたちが武台に目を遣ると、そこに居たのはシルヴァノとオフライトだった。なんと、今回はこの二人が予選でぶつかったのだ。
「まあ、シルヴァノ殿下とオフライト様じゃないの。ペシエラ、ちょっと観戦していきましょう」
 状況は分かっているが、チェリシアはペシエラを誘って観客席に座ろうとする。
「写真を早く確認したいですが、仕方ありませんね。殿下を見守るのも、婚約者としての務め。アイリス、あなたも座りなさい」
「はい。それではペシエラ様、お隣失礼致します」
 ペシエラは一瞬渋ったが、アイリスも誘って観客席に座る。残ったキャノルも、
「キャノルさん、あれが未来の国王と近衛騎士団長になられる方よ。しっかり観戦しましょ」
「は、はぁ。では、お言葉に甘えますか」
 チェリシアが無理やり観戦に参加させた。
 こうして、唐突にシルヴァノとオフライトの戦いの観戦が始まった。
「ペシエラはオフライト様と戦った事があったわね。二人の戦いはどうなると思う?」
 チェリシアが話題を振れば、
「オフライト様は、ああ見えて力技だけではありませんわ。しかも、持久力もあります。去年、あれだけ私が振り回したのに、最後までしっかり対応されてしまいましたもの」
 ペシエラの凄さは、ひらひらのドレスの様な制服と踵の高い靴で素早く動ける点である。しかし、オフライトはそれにしっかりと対応した上で、攻撃も捌き切ってしまったのだ。ペシエラは相当に悔しかったのか、それからも熱心に剣術の稽古をしていた。
「シルヴァノ殿下は、私にペイル殿下が負けた事に驚いて、鍛え始めたそうですわ。あそこに居るラルクともよく稽古をしているらしいですわ」
 会場の隅に盾剣を構えてどっしりと待機するオークジェネラル。ラルクとは彼の事で、騎士団だけではなく、シルヴァノやペイルもよく剣を交えているそうだ。
「去年はシルヴァノ殿下とペイル殿下の試合もありましたが、やはり騎士団副団長の子であるオフライト様の方が優勢かと」
 ペシエラは最終的にそう判断した。
 そして、そのペシエラたちが見守る中、シルヴァノとオフライトの試合が始まった。
 何も呑気に観戦しているわけではない。今までの経験からすると、今回も狙われている可能性が高いのは、今試合をしているシルヴァノとこの後に試合を控えるペイル、そして、今観戦しているペシエラの三人である。黒幕をパープリア男爵と仮定するなら、狙いは間違いなくその三人だ。
 そう、チェリシアは呑気に観戦を勧めたわけではない。シルヴァノの安全を確保をするためだったのだ。ペシエラは上位の魔物の群れでもない限りは、一人で蹴散らしてしまうだろう。
 だが、二人の王子はまだそこまでの高みにはない。仕掛けられただろう罠が発動するのは、おそらくこの試合の後だとチェリシアは睨んだ。
 横に居るペシエラは、おそらくチェリシアの意図を読み取っているが、アイリスとキャノルは呑気に観戦なんてと思っている様な表情だ。お互いの付き合いの長さが、面白いまでに反応の差となって現れていた。
 さて、チェリシアたちの思惑はさておき、目の前の武台の上では、シルヴァノとオフライトの戦いが始まろうとしていた。
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