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第八章 二年次
第211話 商会たちの顔合わせ
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翌日、学園にはオーカー商会長一家が足を運んでいた。商会長のブローゼン、妻ガイア、長女ブリューレ、長男ホイートの四人が揃っての外出は珍しい。
「ドール商会のお嬢さん方からのお誘いだ。お前たち、失礼のないようにな」
「はーい」
「へいへい」
ブローゼンが今一度念を押すが、子どもたちの返事がもうダメだ。仕事に集中し過ぎて子どもに構えなかった事を、今さらのように後悔している。妻もだいぶ甘やかしていた事がよく分かるのでなおさらだ。
今回会うのは、マゼンダ商会が出てくるまでは王国で一番だった、名門ドール商会なのだ。対してブローゼン率いるオーカー商会は、マゼンダ商会の傘下に入るまでは不安定な経営だった。それこそ吹けば飛ぶような存在だったのだ。……ブローゼンには不安しかなかった。
一行がやって来たのはドール商会の出店。そこでブローゼンは、予想外の姿を見つけて驚愕した。
「あら、ブローゼン商会長様、お久しぶりです」
「ろ、ロゼリア様。なぜここに?」
そう、ロゼリア・マゼンダが居たのである。オーカー商会にとって救世主である、マゼンダ商会の実質オーナーであるロゼリア。その姿を見つけて驚かずに済むわけがない。
「ええ。ロイエールさんから本日、オーカー商会のお子様たちがいらっしゃるとお聞きしまして、マゼンダ商会の者を代表して顔合わせに参りましたの」
マゼンダは笑顔で言っているが、ブローゼンは脂汗を滲ませている。蛇に睨まれた蛙である。そして、ブローゼンは周りを見回す。
「チェリシアはマゼンダ商会の出店、ペシエラは武術大会に出ていますので、ここに居るのは私と侍女のシアンだけです。そこまで露骨に警戒しないで下さいませ」
ロゼリアはブローゼンの態度に、事情は分かるものの少し呆れていた。
一方で、ペシエラが居ないと聞いて、ブローゼンは安心した。だが、ロゼリア一人だけでも気を揉む相手だ。ちらりと子どもたちの方を見るが、緊張はしていないようだ。それどころかロゼリアはおろかロイエールやブラッサの方も見ていない。これはいささか失礼ではなかろうか。
「二人とも、ちゃんと相手を見なさい」
母親であるガイアが小さな声で注意する。しかし、二人とも従う様子がない。この様子を見ていたロゼリアは、オーカー商会の先行きに不安を感じた。
「ブリューレ、ホイート。こちらの方々は、学園で先輩になる、マゼンダ商会のロゼリア様とドール商会のブラッサ様とロイエール様だ。ご挨拶なさい」
もう冷や汗が滝のようになりそうなブローゼンだったが、礼儀として二人に挨拶するように促す。が、
「面倒くさい」
ホイートのこの言葉で、場が一気に凍りついた。平民同士ならまだしも、ロゼリアという貴族を相手にしてこれでは、その場で斬り捨てられても文句は言えない。
「こ、これはお初にお目にかかります。オーカー商会のブリューレ・オーカーと申します。ロゼリア様、ブラッサ様、ロイエール様、来年よりお世話になります」
周りの空気を感じたのか、ブリューレは慌てて淑女の挨拶をする。ちゃんとできるあたり、一応はこういう場の挨拶は教えられていたらしい。
だが、ホイートの態度は改善していない。これはいけない事だ。
「まったく、ペシエラが居なくて助かったわね、そこの君」
ロゼリアの表情が冷たい。
「君は商会長の息子なのよね? これから社交界に出てそんな態度していたら、どうなるか分かっているの?」
蔑むような目。これではまるで悪役令嬢だ。
「私たちより四つ下、十歳だからといって、その態度はどうかしらね。普通の平民なら問題ないけれど、商会の関係者であるなら、貴族とも交流する事があるの。その中で生き延びたいのなら、相手を見て行動するべきよ」
だが、ホイートの態度は変わらなかった。その姿を見て、
「この脅しでも変わらないとはね。馬鹿なのか大物なのか、将来が楽しみだわ」
ロゼリアは笑みを浮かべていた。それを見ていたブローゼンは生きた心地がしなかった。妻のガイアも青ざめている。
「いや、ロゼリアさん、怖かったですよ」
苦笑いを浮かべながらロイエールが言う。
「さすが、齢十歳で実質的な商会長になっただけの事はありますね」
ブラッサも引き気味に笑いながら言う。だが、このブラッサの言葉に、ホイートが衝撃を受けた。
(十歳で、商会を仕切っていた? 僕と同じ歳で?)
ホイートが多大な衝撃に固まっているとは露知らず、ブリューレにあれこれ教えているロゼリアたち。
ここでのやり取りが、この後に重大な影響を及ぼす事になるとは、一体誰が想像しただろうか。
「ドール商会のお嬢さん方からのお誘いだ。お前たち、失礼のないようにな」
「はーい」
「へいへい」
ブローゼンが今一度念を押すが、子どもたちの返事がもうダメだ。仕事に集中し過ぎて子どもに構えなかった事を、今さらのように後悔している。妻もだいぶ甘やかしていた事がよく分かるのでなおさらだ。
今回会うのは、マゼンダ商会が出てくるまでは王国で一番だった、名門ドール商会なのだ。対してブローゼン率いるオーカー商会は、マゼンダ商会の傘下に入るまでは不安定な経営だった。それこそ吹けば飛ぶような存在だったのだ。……ブローゼンには不安しかなかった。
一行がやって来たのはドール商会の出店。そこでブローゼンは、予想外の姿を見つけて驚愕した。
「あら、ブローゼン商会長様、お久しぶりです」
「ろ、ロゼリア様。なぜここに?」
そう、ロゼリア・マゼンダが居たのである。オーカー商会にとって救世主である、マゼンダ商会の実質オーナーであるロゼリア。その姿を見つけて驚かずに済むわけがない。
「ええ。ロイエールさんから本日、オーカー商会のお子様たちがいらっしゃるとお聞きしまして、マゼンダ商会の者を代表して顔合わせに参りましたの」
マゼンダは笑顔で言っているが、ブローゼンは脂汗を滲ませている。蛇に睨まれた蛙である。そして、ブローゼンは周りを見回す。
「チェリシアはマゼンダ商会の出店、ペシエラは武術大会に出ていますので、ここに居るのは私と侍女のシアンだけです。そこまで露骨に警戒しないで下さいませ」
ロゼリアはブローゼンの態度に、事情は分かるものの少し呆れていた。
一方で、ペシエラが居ないと聞いて、ブローゼンは安心した。だが、ロゼリア一人だけでも気を揉む相手だ。ちらりと子どもたちの方を見るが、緊張はしていないようだ。それどころかロゼリアはおろかロイエールやブラッサの方も見ていない。これはいささか失礼ではなかろうか。
「二人とも、ちゃんと相手を見なさい」
母親であるガイアが小さな声で注意する。しかし、二人とも従う様子がない。この様子を見ていたロゼリアは、オーカー商会の先行きに不安を感じた。
「ブリューレ、ホイート。こちらの方々は、学園で先輩になる、マゼンダ商会のロゼリア様とドール商会のブラッサ様とロイエール様だ。ご挨拶なさい」
もう冷や汗が滝のようになりそうなブローゼンだったが、礼儀として二人に挨拶するように促す。が、
「面倒くさい」
ホイートのこの言葉で、場が一気に凍りついた。平民同士ならまだしも、ロゼリアという貴族を相手にしてこれでは、その場で斬り捨てられても文句は言えない。
「こ、これはお初にお目にかかります。オーカー商会のブリューレ・オーカーと申します。ロゼリア様、ブラッサ様、ロイエール様、来年よりお世話になります」
周りの空気を感じたのか、ブリューレは慌てて淑女の挨拶をする。ちゃんとできるあたり、一応はこういう場の挨拶は教えられていたらしい。
だが、ホイートの態度は改善していない。これはいけない事だ。
「まったく、ペシエラが居なくて助かったわね、そこの君」
ロゼリアの表情が冷たい。
「君は商会長の息子なのよね? これから社交界に出てそんな態度していたら、どうなるか分かっているの?」
蔑むような目。これではまるで悪役令嬢だ。
「私たちより四つ下、十歳だからといって、その態度はどうかしらね。普通の平民なら問題ないけれど、商会の関係者であるなら、貴族とも交流する事があるの。その中で生き延びたいのなら、相手を見て行動するべきよ」
だが、ホイートの態度は変わらなかった。その姿を見て、
「この脅しでも変わらないとはね。馬鹿なのか大物なのか、将来が楽しみだわ」
ロゼリアは笑みを浮かべていた。それを見ていたブローゼンは生きた心地がしなかった。妻のガイアも青ざめている。
「いや、ロゼリアさん、怖かったですよ」
苦笑いを浮かべながらロイエールが言う。
「さすが、齢十歳で実質的な商会長になっただけの事はありますね」
ブラッサも引き気味に笑いながら言う。だが、このブラッサの言葉に、ホイートが衝撃を受けた。
(十歳で、商会を仕切っていた? 僕と同じ歳で?)
ホイートが多大な衝撃に固まっているとは露知らず、ブリューレにあれこれ教えているロゼリアたち。
ここでのやり取りが、この後に重大な影響を及ぼす事になるとは、一体誰が想像しただろうか。
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