213 / 483
第八章 二年次
第210話 ピザパニックの裏で
しおりを挟む
マゼンダ商会がピザで大慌てをしている間、他の二商会も奮闘していた。
武具の持ち込みが禁止されているので、ドール商会は装飾品や食器を売りに出していた。それでも職人たちが腕によりをかけた細工の数々は、人々の目を引いていた。
ルゼのおかげで、魔法銀どころかオリハルコンやアルタンやら希少金属がごろごろと手に入ったのだ。希少な金属を扱えるとあって、職人たちの目の色が変わったのは言うまでもない。
しかし、そんな希少金属を日用品に使ったとは、来る客誰もが思ってもみなかっただろう。価格の事で少々口論も起きたようだが、金属の名前を聞いては黙り込んでいた。
この日はブラッサとロイエールも手伝いに来ており、並べられた商品の素晴らしさに目を見張っていた。
「いつもは修行中の職人さんの作品ばかりですのに、今回は熟練の方のも並んでいますから、差が目立ってしまいますね」
「そうですね」
二人はこう言っているが、素人目にはその違いがよく分からなかった。よく見れば小さな傷があったり、わずかな歪みがあったりする程度であるので、本当によく見ないと分からないものだった。
今年のドール商会も、異様な盛り上がりを見せたのは間違いなかった。
オーカー商会の方は、学園内の各所に食材の納入を終えて、一段落していた。急な追加にも対応できるようにはしているが、納入を終えた商会職員たちは、まずはマゼンダ商会の出店へ向かった。が、異様な繁盛ぶりに近付く事もできず、仕方なく学園の食堂へと向かう事にした。
その途中で、ちょうどドール商会の出店の前を通った。
「あっ、オーカー商会の方たちではないですか」
「ん?」
声を掛けられたので反応すると、そこに居たのはロイエールだった。
「食材の配達、ご苦労様です。どうですか、うちで少し休んでいかれませんか?」
ロイエールが無邪気に語り掛けてきた。しかし、分野が違うとはいえ、商売敵。その声に安易に乗るかといえば、そうではなかった。
ところがだ。次のロイエールの言葉で、その態度は一変した。
「実は、ロゼリアさんとチェリシアさんから、ピザなる物を頂きまして、今から休憩がてら食べようと思っていたのですが。量があるのでぜひにと思ったのですが、余計な事でしたか?」
「いや、そういうわけではないが……」
「でしたら、ご一緒しましょう」
結局、オーカー商会の職員たちは、渋々ドール商会の昼食に同席する事になった。
その席の最中、ロイエールが切り出す。
「そういえば、そちらの商会長様のご息女様が、来年より学園に通われるそうですね」
「はい。ただ、少々わがままゆえに、馴染めるかどうか我々一同心配しているところでございます」
職員は正直に言う。ピザに釣られたのか、思いの外素直に喋ってしまった。
「なるほど。僕たちもロゼリアさんたちから相談をお受けしまして、ブラッサ姉さんが乗り気で引き受けました」
「ええ。商会長の娘という同じ立場ですし、先輩として後輩を導くのは当然です。家業を継ぐにしても、どこかに輿入れするとしても、この学園での六年間は有意義なものとなりますから、私も手加減はしませんよ」
本当に乗り気である。顔からも態度からも気合いが感じられる。
「ですので、オーカー商会長ご一家に一度お会いしたいと思います。ぜひとも学園祭に足を運んで頂きたいのですが、お頼みできますか?」
少女の上目遣い。効果は抜群だ。
オーカー商会の職員たちは、その表情にすっかりやられてしまった。
「わ、分かりました。連絡役として二名は残りますが、それ以外は戻りましたらブローゼン様にお伝えします」
「お願いします」
ドール商会でお昼を一緒にした後、オーカー商会の職員たちは足早に学園を後にした。
「ロイエール様、よろしかったのですか?」
午後の販売を再開するにあたって準備をしていると、出店を手伝う職員の一人がロイエールに尋ねてきた。
「ん、何がかな?」
「いえ、オーカー商会の子どもの件ですよ」
先程のやり取りを気にしているようだ。
「商売というのは互いの信頼で成り立つものですし、恩というものは売れる時に売っておくものなんですよ。父上もよく言っている事です」
「な、なるほど」
ロイエールの返答に、職員は納得したようだ。
「さあ、午後も頑張りましょう」
「おーっ!」
ロイエールたちは、午後も貴族たち相手にせっせと商売をした。ドール商会の質の良い金属細工は、お手頃価格の物から飛ぶように売れていったのだった。
武具の持ち込みが禁止されているので、ドール商会は装飾品や食器を売りに出していた。それでも職人たちが腕によりをかけた細工の数々は、人々の目を引いていた。
ルゼのおかげで、魔法銀どころかオリハルコンやアルタンやら希少金属がごろごろと手に入ったのだ。希少な金属を扱えるとあって、職人たちの目の色が変わったのは言うまでもない。
しかし、そんな希少金属を日用品に使ったとは、来る客誰もが思ってもみなかっただろう。価格の事で少々口論も起きたようだが、金属の名前を聞いては黙り込んでいた。
この日はブラッサとロイエールも手伝いに来ており、並べられた商品の素晴らしさに目を見張っていた。
「いつもは修行中の職人さんの作品ばかりですのに、今回は熟練の方のも並んでいますから、差が目立ってしまいますね」
「そうですね」
二人はこう言っているが、素人目にはその違いがよく分からなかった。よく見れば小さな傷があったり、わずかな歪みがあったりする程度であるので、本当によく見ないと分からないものだった。
今年のドール商会も、異様な盛り上がりを見せたのは間違いなかった。
オーカー商会の方は、学園内の各所に食材の納入を終えて、一段落していた。急な追加にも対応できるようにはしているが、納入を終えた商会職員たちは、まずはマゼンダ商会の出店へ向かった。が、異様な繁盛ぶりに近付く事もできず、仕方なく学園の食堂へと向かう事にした。
その途中で、ちょうどドール商会の出店の前を通った。
「あっ、オーカー商会の方たちではないですか」
「ん?」
声を掛けられたので反応すると、そこに居たのはロイエールだった。
「食材の配達、ご苦労様です。どうですか、うちで少し休んでいかれませんか?」
ロイエールが無邪気に語り掛けてきた。しかし、分野が違うとはいえ、商売敵。その声に安易に乗るかといえば、そうではなかった。
ところがだ。次のロイエールの言葉で、その態度は一変した。
「実は、ロゼリアさんとチェリシアさんから、ピザなる物を頂きまして、今から休憩がてら食べようと思っていたのですが。量があるのでぜひにと思ったのですが、余計な事でしたか?」
「いや、そういうわけではないが……」
「でしたら、ご一緒しましょう」
結局、オーカー商会の職員たちは、渋々ドール商会の昼食に同席する事になった。
その席の最中、ロイエールが切り出す。
「そういえば、そちらの商会長様のご息女様が、来年より学園に通われるそうですね」
「はい。ただ、少々わがままゆえに、馴染めるかどうか我々一同心配しているところでございます」
職員は正直に言う。ピザに釣られたのか、思いの外素直に喋ってしまった。
「なるほど。僕たちもロゼリアさんたちから相談をお受けしまして、ブラッサ姉さんが乗り気で引き受けました」
「ええ。商会長の娘という同じ立場ですし、先輩として後輩を導くのは当然です。家業を継ぐにしても、どこかに輿入れするとしても、この学園での六年間は有意義なものとなりますから、私も手加減はしませんよ」
本当に乗り気である。顔からも態度からも気合いが感じられる。
「ですので、オーカー商会長ご一家に一度お会いしたいと思います。ぜひとも学園祭に足を運んで頂きたいのですが、お頼みできますか?」
少女の上目遣い。効果は抜群だ。
オーカー商会の職員たちは、その表情にすっかりやられてしまった。
「わ、分かりました。連絡役として二名は残りますが、それ以外は戻りましたらブローゼン様にお伝えします」
「お願いします」
ドール商会でお昼を一緒にした後、オーカー商会の職員たちは足早に学園を後にした。
「ロイエール様、よろしかったのですか?」
午後の販売を再開するにあたって準備をしていると、出店を手伝う職員の一人がロイエールに尋ねてきた。
「ん、何がかな?」
「いえ、オーカー商会の子どもの件ですよ」
先程のやり取りを気にしているようだ。
「商売というのは互いの信頼で成り立つものですし、恩というものは売れる時に売っておくものなんですよ。父上もよく言っている事です」
「な、なるほど」
ロイエールの返答に、職員は納得したようだ。
「さあ、午後も頑張りましょう」
「おーっ!」
ロイエールたちは、午後も貴族たち相手にせっせと商売をした。ドール商会の質の良い金属細工は、お手頃価格の物から飛ぶように売れていったのだった。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる