逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第八章 二年次

第210話 ピザパニックの裏で

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 マゼンダ商会がピザで大慌てをしている間、他の二商会も奮闘していた。
 武具の持ち込みが禁止されているので、ドール商会は装飾品や食器を売りに出していた。それでも職人たちが腕によりをかけた細工の数々は、人々の目を引いていた。
 ルゼのおかげで、魔法銀どころかオリハルコンやアルタンやら希少金属がごろごろと手に入ったのだ。希少な金属を扱えるとあって、職人たちの目の色が変わったのは言うまでもない。
 しかし、そんな希少金属を日用品に使ったとは、来る客誰もが思ってもみなかっただろう。価格の事で少々口論も起きたようだが、金属の名前を聞いては黙り込んでいた。
 この日はブラッサとロイエールも手伝いに来ており、並べられた商品の素晴らしさに目を見張っていた。
「いつもは修行中の職人さんの作品ばかりですのに、今回は熟練の方のも並んでいますから、差が目立ってしまいますね」
「そうですね」
 二人はこう言っているが、素人目にはその違いがよく分からなかった。よく見れば小さな傷があったり、わずかな歪みがあったりする程度であるので、本当によく見ないと分からないものだった。
 今年のドール商会も、異様な盛り上がりを見せたのは間違いなかった。
 オーカー商会の方は、学園内の各所に食材の納入を終えて、一段落していた。急な追加にも対応できるようにはしているが、納入を終えた商会職員たちは、まずはマゼンダ商会の出店へ向かった。が、異様な繁盛ぶりに近付く事もできず、仕方なく学園の食堂へと向かう事にした。
 その途中で、ちょうどドール商会の出店の前を通った。
「あっ、オーカー商会の方たちではないですか」
「ん?」
 声を掛けられたので反応すると、そこに居たのはロイエールだった。
「食材の配達、ご苦労様です。どうですか、うちで少し休んでいかれませんか?」
 ロイエールが無邪気に語り掛けてきた。しかし、分野が違うとはいえ、商売敵。その声に安易に乗るかといえば、そうではなかった。
 ところがだ。次のロイエールの言葉で、その態度は一変した。
「実は、ロゼリアさんとチェリシアさんから、ピザなる物を頂きまして、今から休憩がてら食べようと思っていたのですが。量があるのでぜひにと思ったのですが、余計な事でしたか?」
「いや、そういうわけではないが……」
「でしたら、ご一緒しましょう」
 結局、オーカー商会の職員たちは、渋々ドール商会の昼食に同席する事になった。
 その席の最中、ロイエールが切り出す。
「そういえば、そちらの商会長様のご息女様が、来年より学園に通われるそうですね」
「はい。ただ、少々わがままゆえに、馴染めるかどうか我々一同心配しているところでございます」
 職員は正直に言う。ピザに釣られたのか、思いの外素直に喋ってしまった。
「なるほど。僕たちもロゼリアさんたちから相談をお受けしまして、ブラッサ姉さんが乗り気で引き受けました」
「ええ。商会長の娘という同じ立場ですし、先輩として後輩を導くのは当然です。家業を継ぐにしても、どこかに輿入れするとしても、この学園での六年間は有意義なものとなりますから、私も手加減はしませんよ」
 本当に乗り気である。顔からも態度からも気合いが感じられる。
「ですので、オーカー商会長ご一家に一度お会いしたいと思います。ぜひとも学園祭に足を運んで頂きたいのですが、お頼みできますか?」
 少女の上目遣い。効果は抜群だ。
 オーカー商会の職員たちは、その表情にすっかりやられてしまった。
「わ、分かりました。連絡役として二名は残りますが、それ以外は戻りましたらブローゼン様にお伝えします」
「お願いします」
 ドール商会でお昼を一緒にした後、オーカー商会の職員たちは足早に学園を後にした。
「ロイエール様、よろしかったのですか?」
 午後の販売を再開するにあたって準備をしていると、出店を手伝う職員の一人がロイエールに尋ねてきた。
「ん、何がかな?」
「いえ、オーカー商会の子どもの件ですよ」
 先程のやり取りを気にしているようだ。
「商売というのは互いの信頼で成り立つものですし、恩というものは売れる時に売っておくものなんですよ。父上もよく言っている事です」
「な、なるほど」
 ロイエールの返答に、職員は納得したようだ。
「さあ、午後も頑張りましょう」
「おーっ!」
 ロイエールたちは、午後も貴族たち相手にせっせと商売をした。ドール商会の質の良い金属細工は、お手頃価格の物から飛ぶように売れていったのだった。
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