202 / 545
第八章 二年次
第199話 奔放な女
しおりを挟む
「いやー、これうまいねぇ。あたい、こんなの食べた事ないわ」
ピザを頬張りながら、キャノルが騒いでいる。どうやら暗殺者はろくな食事が取れない職のようだ。
「キャノル、あなたも今は使用人なのですから、少しは振る舞いを改めて下さい」
「まあそうだねえ。そういう切り替えは得意だからさ、気にしないでほしいね。現にアクアマリンのとこに居た時はちゃんと使用人してただろ?」
けらけらと笑うキャノルに、シアンは頭が痛そうだった。挟まれたチェリシアがどう反応していいのか分からずに、黙々とピザを食べている。
「しかし、キャノルって結構腕が立ちそうなのに、今回結構なドジを踏みましたね」
ピザをひと切れ食べたところで、チェリシアはキャノルに尋ねてみた。
「ああ、アクアマリンでの召喚陣の隠蔽は上手くいってたんだけどな。二年連続で実家に帰ってきたシアンが邪魔に感じたんでね。なんかこそこそ調べ回ってたし、目障りに感じて消そうとしたんだ」
内容の割には笑顔で饒舌に喋っている。
「あたいは魔道具の魔力を感知はできないから、まさか服に防護魔法が掛かってるなんて思わなかったのさ。今回の失敗は全部そこが原因だね」
いや、本当に何でそんなに楽しそうに話すのだろうか。任務が失敗したなら汚点として嫌がりそうなものなのだが、キャノルはどうも違うようだ。
「失敗の一つや二つくらい、いちいち気にしていたら失敗を重ねるだけだからね。まあ、今回は普通なら処刑もんなんだろうが、あたいを雇って味方に引き込もうとは、あんたらは変わってるよ」
キャノルはピザのおかわりを食べている。
そこへ、突然扉が叩かれる音が響く。
「お姉様、いらっしゃるかしら」
どうやらペシエラのようである。
「ええ、居るわよ。入ってもいいわよ」
「そう、では失礼致しますわ」
チェリシアが許可を出すと、ペシエラはアイリスを伴って部屋に入ってきた。そして、ピザを頬張るキャノルを見て、
「……キャノルさん、なぜここに居るのですか」
アイリスが反応した。
「おや、その声はパープリアんとこのアイリスかい? 風の噂じゃ死んだって聞いたんだが、生きてたのか」
目を丸くしてアイリスを見るキャノル。
「アイリス、知り合い?」
突然の事に訳が分からず、ペシエラはアイリスに尋ねる。
「はい。十歳の頃くらいに、とある人物の暗殺の時にご一緒した暗殺者です。その人物は少女に異様な執着を示す人物で、私が囮となって釣られたところを仕留めるというものでした」
「うっわ、こっちでもロリコンって居るんだ……」
アイリスの説明を聞いて、チェリシアがドン引きしていた。
「あのクソジジイは、若い娘を理由をつけて集めて恨み買いまくってたからな。そん時のあたいも十四って若さなのに、無視しやがってさ。そら頭に来たさ」
キャノルがけらけらと笑っている。
「それにしても、キャノルさんがここに居るって事は、暗殺に失敗した口ですか」
「ぐっ、なんでそれを……」
アイリスに言い当てられたキャノルは、驚きでピザを詰まらせそうになった。
「私もそうだからですよ。今はチェリシア様とペシエラ様の専属侍女として働いてますが、シルヴァノ殿下の婚約者となったペシエラ様付の侍女となるべく、今は猛勉強中です」
「ははっ、あんたも大変だねぇ」
アイリスの事情聞いたキャノルは、紅茶を飲んで落ち着きを取り戻しながら、楽しそうに笑っている。
「ならなんだ。このチェリシアって子は専属が居なくなるのかい? なら、あたいが就こうか?」
「勝手に何を言っているのですか。そういう事はコーラル伯爵様に話を通してからです」
キャノルがノリで言うものだから、シアンが本気で怒っている。
「はいはい。まったく、お貴族様は融通が利かないねぇ」
「融通云々よりも当然です。好き勝手やって最後に困るのは、好き勝手した本人ですからね」
首を横に振って呆れるキャノルを、シアンは再度叱る。確かに面倒臭いと言えばそうだが、手順を踏むからこそ、後々のトラブルが防げるのだ。シアンも経験あるだけに、本気で怒っているのだ。
「ああそうだ。話変わるんだが、この調理窯の軽量化について、あたいに思い当たるものがあるんだ」
「それは本当なの?」
思い出したかのように言うキャノルに、チェリシアが食いつく。
「あぁ、あたいの使う暗器のいくつかにその素材を使ってる。その窯、ほとんどが鉄とかだろう? こいつは、結構軽くて持ち運びに便利なんだ」
キャノルがスカートから取り出した暗器を見て、チェリシアは驚きの声を上げる。
「チタン、アルミニウム合金?!」
チェリシアの鑑定魔法が、衝撃的な結果を表示していたのだ。
ピザを頬張りながら、キャノルが騒いでいる。どうやら暗殺者はろくな食事が取れない職のようだ。
「キャノル、あなたも今は使用人なのですから、少しは振る舞いを改めて下さい」
「まあそうだねえ。そういう切り替えは得意だからさ、気にしないでほしいね。現にアクアマリンのとこに居た時はちゃんと使用人してただろ?」
けらけらと笑うキャノルに、シアンは頭が痛そうだった。挟まれたチェリシアがどう反応していいのか分からずに、黙々とピザを食べている。
「しかし、キャノルって結構腕が立ちそうなのに、今回結構なドジを踏みましたね」
ピザをひと切れ食べたところで、チェリシアはキャノルに尋ねてみた。
「ああ、アクアマリンでの召喚陣の隠蔽は上手くいってたんだけどな。二年連続で実家に帰ってきたシアンが邪魔に感じたんでね。なんかこそこそ調べ回ってたし、目障りに感じて消そうとしたんだ」
内容の割には笑顔で饒舌に喋っている。
「あたいは魔道具の魔力を感知はできないから、まさか服に防護魔法が掛かってるなんて思わなかったのさ。今回の失敗は全部そこが原因だね」
いや、本当に何でそんなに楽しそうに話すのだろうか。任務が失敗したなら汚点として嫌がりそうなものなのだが、キャノルはどうも違うようだ。
「失敗の一つや二つくらい、いちいち気にしていたら失敗を重ねるだけだからね。まあ、今回は普通なら処刑もんなんだろうが、あたいを雇って味方に引き込もうとは、あんたらは変わってるよ」
キャノルはピザのおかわりを食べている。
そこへ、突然扉が叩かれる音が響く。
「お姉様、いらっしゃるかしら」
どうやらペシエラのようである。
「ええ、居るわよ。入ってもいいわよ」
「そう、では失礼致しますわ」
チェリシアが許可を出すと、ペシエラはアイリスを伴って部屋に入ってきた。そして、ピザを頬張るキャノルを見て、
「……キャノルさん、なぜここに居るのですか」
アイリスが反応した。
「おや、その声はパープリアんとこのアイリスかい? 風の噂じゃ死んだって聞いたんだが、生きてたのか」
目を丸くしてアイリスを見るキャノル。
「アイリス、知り合い?」
突然の事に訳が分からず、ペシエラはアイリスに尋ねる。
「はい。十歳の頃くらいに、とある人物の暗殺の時にご一緒した暗殺者です。その人物は少女に異様な執着を示す人物で、私が囮となって釣られたところを仕留めるというものでした」
「うっわ、こっちでもロリコンって居るんだ……」
アイリスの説明を聞いて、チェリシアがドン引きしていた。
「あのクソジジイは、若い娘を理由をつけて集めて恨み買いまくってたからな。そん時のあたいも十四って若さなのに、無視しやがってさ。そら頭に来たさ」
キャノルがけらけらと笑っている。
「それにしても、キャノルさんがここに居るって事は、暗殺に失敗した口ですか」
「ぐっ、なんでそれを……」
アイリスに言い当てられたキャノルは、驚きでピザを詰まらせそうになった。
「私もそうだからですよ。今はチェリシア様とペシエラ様の専属侍女として働いてますが、シルヴァノ殿下の婚約者となったペシエラ様付の侍女となるべく、今は猛勉強中です」
「ははっ、あんたも大変だねぇ」
アイリスの事情聞いたキャノルは、紅茶を飲んで落ち着きを取り戻しながら、楽しそうに笑っている。
「ならなんだ。このチェリシアって子は専属が居なくなるのかい? なら、あたいが就こうか?」
「勝手に何を言っているのですか。そういう事はコーラル伯爵様に話を通してからです」
キャノルがノリで言うものだから、シアンが本気で怒っている。
「はいはい。まったく、お貴族様は融通が利かないねぇ」
「融通云々よりも当然です。好き勝手やって最後に困るのは、好き勝手した本人ですからね」
首を横に振って呆れるキャノルを、シアンは再度叱る。確かに面倒臭いと言えばそうだが、手順を踏むからこそ、後々のトラブルが防げるのだ。シアンも経験あるだけに、本気で怒っているのだ。
「ああそうだ。話変わるんだが、この調理窯の軽量化について、あたいに思い当たるものがあるんだ」
「それは本当なの?」
思い出したかのように言うキャノルに、チェリシアが食いつく。
「あぁ、あたいの使う暗器のいくつかにその素材を使ってる。その窯、ほとんどが鉄とかだろう? こいつは、結構軽くて持ち運びに便利なんだ」
キャノルがスカートから取り出した暗器を見て、チェリシアは驚きの声を上げる。
「チタン、アルミニウム合金?!」
チェリシアの鑑定魔法が、衝撃的な結果を表示していたのだ。
1
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…
雪見だいふく
ファンタジー
私は大学からの帰り道に突然意識を失ってしまったらしい。
目覚めると
「異世界に行って楽しんできて!」と言われ訳も分からないまま強制的に転生させられる。
ちょっと待って下さい。私重度の人見知りですよ?あだ名失神姫だったんですよ??そんな奴には無理です!!
しかし神様は人でなし…もう戻れないそうです…私これからどうなるんでしょう?
頑張って生きていこうと思ったのに…色んなことに巻き込まれるんですが…新手の呪いかなにかですか?
これは3歩進んで4歩下がりたい主人公が騒動に巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んでいく3歩進んで2歩下がる物語。
♪♪
注意!最初は主人公に対して憤りを感じられるかもしれませんが、主人公がそうなってしまっている理由も、投稿で明らかになっていきますので、是非ご覧下さいませ。
♪♪
小説初投稿です。
この小説を見つけて下さり、本当にありがとうございます。
至らないところだらけですが、楽しんで頂けると嬉しいです。
完結目指して頑張って参ります

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

元英雄 これからは命大事にでいきます
銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの
魔王との激しい死闘を
終え元の世界に帰還した英雄 八雲
多くの死闘で疲弊したことで、
これからは『命大事に』を心に決め、
落ち着いた生活をしようと思う。
こちらの世界にも妖魔と言う
化物が現れなんだかんだで
戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、
とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜
八雲は寿命を伸ばすために再び
異世界へ戻る。そして、そこでは
新たな闘いが始まっていた。
八雲は運命の時の流れに翻弄され
苦悩しながらも魔王を超えた
存在と対峙する。
この話は心優しき青年が、神からのギフト
『ライフ』を使ってお助けする話です。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる