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第八章 二年次
第188話 ヒロインの憂鬱
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「最近、私の影が薄すぎない?」
「どうしましたの、お姉様」
突然、チェリシアが叫んだ。
あまりに大声だったので、ペシエラが驚いて反応する。
「いや、私ヒロインなのに、全然活躍できてないなと思って……」
肩をすくめて、左右の人差し指をちょんちょんとくっつけながら、チェリシアはボソボソと言う。どこかメタい。
「お姉様は性格がお人好しで、しかも魔力が強いだけですものね。魔力が同じで剣術ができる私が動いてしまえば、お姉様はする事がありませんもの。ええ、仕方ありませんわね」
「うっ……」
ペシエラはトドメを刺すように言う。
「チェリシア様の持つ知識は、斬新だとは思いますけれどね。私もそれで助けられてますし」
紅茶を持ってきたアイリスがフォローを入れている。言い方からすると、先程の叫びを聞いていたようである。
「ええ、お姉様はこの世界にはない知識と斬新な発想力、そして、それを実現できてしまうだけの魔力がありますわ。戦闘がこなせる私と比べると地味ですけれど、影響力は大きいですわよ」
紅茶を受け取ったペシエラは、一口飲んでフォローを付け加えた。
実際、チェリシアが異世界から持ってきた知識は、アイヴォリー王国のあちこちで革新をもたらしている。海水から塩を精製する事や酸っぱくなったワインの利用法など、これだけでもかなり変わった。
それに加えて、数々の魔道具。カメラやビデオカメラの再現に、魔石に火の魔法を組み込んだコンロ、同じく水魔法を組み込んだ水道など、生活水準はかなり向上していた。
「そろそろお姉様がかねてから欲しがっていた、火を使わない調理窯も作れるんじゃないかしら」
「うーん、あれはパンとかだいぶ楽になるんだろうけど、魔石の数や配置とかの調整がだいぶ難航してるのよね。コンロと違って大きいし重いから、作ってしまうと移動させられないのも難点なのよね」
「照明の応用で完成するかと思いましたけど、確かに火の加減は難しいですわね」
この調理窯の製作は、意外と難しかったのである。チェリシアが居ないと魔石の調整ができないのだが、パープリア絡みでいろいろと王宮に出向く事も多く、思ったより集中できないのも原因であった。
「これだけ王宮に出向く事が多いなら、いっその事、王宮の一画に作ってしまえばよろしくなくて? 宮廷魔法使いも居ますし。……そうですわ、正式に婚約者になりましたから、私から殿下に進言しておきますわよ?」
ペシエラがいい事を思いついたと思って、目を見開いてチェリシアとアイリスに言う。
「それがよろしいと思います。冷蔵室なる物もできたのですから、可能だと思います」
アイリスがペシエラに賛同する。最近はアイリスもペシエラに肩入れする事が増えたので、チェリシアはちょっと疎外感を感じているが、この意見には賛成するしかなさそうだ。
「お姉様、魔法はイメージですわよ。おそらく窯の製作がうまくいかないのは、その熱さのイメージを掴みきれてないからではないかしら。あの温度の中に居たら、死んじゃいますから。ですので、もう一度しっかり屋敷の調理窯を見た方がよろしいのでは?」
ペシエラがチェリシアに、熱のイメージを掴むための方法を提案してみる。
「うーん、そうよね。窯の前で温度を体感して、その温度に近付くように魔石の調整をすればいいってわけよね」
「そうですわ、お姉様」
チェリシアはペシエラの言い分をすぐに理解した。
「でしたら、お菓子を焼くついでに確認されますか?」
「それはいいですわね。お姉様、参りましょう」
「え、ええ。そうね」
アイリスがお菓子を作ると言うので、ペシエラはそれに乗っかってみる事にした。
「今日のおやつは、お二人の好きなクッキーですよ」
「あら、それは楽しみですわね」
お菓子の内容を聞いたペシエラが、表情を明るくした。
というわけで、チェリシアも同行して、伯爵邸の厨房へと向かった。
「どうしましたの、お姉様」
突然、チェリシアが叫んだ。
あまりに大声だったので、ペシエラが驚いて反応する。
「いや、私ヒロインなのに、全然活躍できてないなと思って……」
肩をすくめて、左右の人差し指をちょんちょんとくっつけながら、チェリシアはボソボソと言う。どこかメタい。
「お姉様は性格がお人好しで、しかも魔力が強いだけですものね。魔力が同じで剣術ができる私が動いてしまえば、お姉様はする事がありませんもの。ええ、仕方ありませんわね」
「うっ……」
ペシエラはトドメを刺すように言う。
「チェリシア様の持つ知識は、斬新だとは思いますけれどね。私もそれで助けられてますし」
紅茶を持ってきたアイリスがフォローを入れている。言い方からすると、先程の叫びを聞いていたようである。
「ええ、お姉様はこの世界にはない知識と斬新な発想力、そして、それを実現できてしまうだけの魔力がありますわ。戦闘がこなせる私と比べると地味ですけれど、影響力は大きいですわよ」
紅茶を受け取ったペシエラは、一口飲んでフォローを付け加えた。
実際、チェリシアが異世界から持ってきた知識は、アイヴォリー王国のあちこちで革新をもたらしている。海水から塩を精製する事や酸っぱくなったワインの利用法など、これだけでもかなり変わった。
それに加えて、数々の魔道具。カメラやビデオカメラの再現に、魔石に火の魔法を組み込んだコンロ、同じく水魔法を組み込んだ水道など、生活水準はかなり向上していた。
「そろそろお姉様がかねてから欲しがっていた、火を使わない調理窯も作れるんじゃないかしら」
「うーん、あれはパンとかだいぶ楽になるんだろうけど、魔石の数や配置とかの調整がだいぶ難航してるのよね。コンロと違って大きいし重いから、作ってしまうと移動させられないのも難点なのよね」
「照明の応用で完成するかと思いましたけど、確かに火の加減は難しいですわね」
この調理窯の製作は、意外と難しかったのである。チェリシアが居ないと魔石の調整ができないのだが、パープリア絡みでいろいろと王宮に出向く事も多く、思ったより集中できないのも原因であった。
「これだけ王宮に出向く事が多いなら、いっその事、王宮の一画に作ってしまえばよろしくなくて? 宮廷魔法使いも居ますし。……そうですわ、正式に婚約者になりましたから、私から殿下に進言しておきますわよ?」
ペシエラがいい事を思いついたと思って、目を見開いてチェリシアとアイリスに言う。
「それがよろしいと思います。冷蔵室なる物もできたのですから、可能だと思います」
アイリスがペシエラに賛同する。最近はアイリスもペシエラに肩入れする事が増えたので、チェリシアはちょっと疎外感を感じているが、この意見には賛成するしかなさそうだ。
「お姉様、魔法はイメージですわよ。おそらく窯の製作がうまくいかないのは、その熱さのイメージを掴みきれてないからではないかしら。あの温度の中に居たら、死んじゃいますから。ですので、もう一度しっかり屋敷の調理窯を見た方がよろしいのでは?」
ペシエラがチェリシアに、熱のイメージを掴むための方法を提案してみる。
「うーん、そうよね。窯の前で温度を体感して、その温度に近付くように魔石の調整をすればいいってわけよね」
「そうですわ、お姉様」
チェリシアはペシエラの言い分をすぐに理解した。
「でしたら、お菓子を焼くついでに確認されますか?」
「それはいいですわね。お姉様、参りましょう」
「え、ええ。そうね」
アイリスがお菓子を作ると言うので、ペシエラはそれに乗っかってみる事にした。
「今日のおやつは、お二人の好きなクッキーですよ」
「あら、それは楽しみですわね」
お菓子の内容を聞いたペシエラが、表情を明るくした。
というわけで、チェリシアも同行して、伯爵邸の厨房へと向かった。
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