163 / 545
第八章 二年次
第160話 才能と努力
しおりを挟む
パープリア男爵の手の者を退けてからは、しばらく平和なものだった。
あの一件の後の事を聞いたが、どうやらあの男は独断行動だったようだ。結局、パープリア男爵を追い詰める事はできなかった。
さて、魔法科に進んだロゼリアたちは、今日もアイリスの魔法を見ていた。それ以外にも、ロゼリアたち三人に魔法を教えてもらおうと思っている学生が、数人ばかり同席している。
どうでもいい話だが、今年はアイリスの制服を新調しておいた。去年の夏の合宿以降は、変装のために体格の近いチェリシアの制服を流用したのだが、あれだといざという時に動きにくいからだ。アイリスは神獣使いではあるが、パープリア男爵の手解きで暗殺術を身に付けている。それに見合った制服を拵えたのだ。
新しい制服は、スカート丈が膝下の規定ギリギリまで短くなっていて、左右にポケット状のスリットが入っている。
それ以外にもチェリシアとペシエラの制服と違い、ラッパ状の袖ではなく、一般的な袖になっている。ブーツもチェリシアやペシエラと同じ物だが、かかとが低い。そう、アイリスの制服はあくまで機動性を重視したものとなっているのだ。本人も動きやすくて気に入っている模様。
普通、かかとの高い靴で激しい動きなんてできるものではない。下手に力を掛けようものならヒールは折れてしまうだろうし、足首を捻る事だってありうる。剣術もできるロゼリアだってそこまでの動きができないのだから、ペシエラが特殊としか言いようがない。
さて、話を戻そう。
アイリス含め十人にも満たない人数ではあるが、ロゼリアたちの前で魔法の特訓をしている。この面々は魔法が多少使える程度ではあるが、親からどうしても魔法科に進めと言われてやって来た貴族たちである。可哀想な事に、親には逆らえないのだ。
で、肝心の魔法の指導は困難を極めている。なにせ教え方がどうしても抽象的になるからだ。手に触れて魔力の流し方を教えても、その感覚を覚えるのも難しい。二年次に上がってから頻繁にしているものの、できたのはアイリス一人だけだった。
「みなさん、少し難しく考えすぎてませんこと?」
「そうね。そこまで力まなくでも大丈夫よ」
「うんうん、頭でイメージして、それを放出する感じでいいのよ」
ペシエラ、ロゼリア、チェリシアがそれぞれに言う。
「イメージさえできてしまえば、詠唱なんて飾りですからね」
ロゼリアはそう言って、目の前に土壁を作り出した。軽く作り出しているので、参加している全員が驚いている。
「ロゼリア、あながち飾りとは言えませんわよ。わたくしたちは魔力が膨大なだけで、他の方がそうとは限りませんわ。詠唱とは、魔力とイメージを補うものなのですから」
ロゼリアの言葉を訂正して補うペシエラ。さすがに女王として研鑽してきただけの事はある。
「杖などの補助具を使うのもそのためですわ。ですが、魔力は増やす事ができますもの。ですので、日々訓練ですわ」
ペシエラは両手を腰に当てて息巻いている。
「あっ、そうか。運動と同じね」
「ええ、お姉様、その通りですわ。ただ、無理をし過ぎますと、逆に枯渇する可能性がありますから、見極めが重要ですわ」
そう言って、ペシエラは参加している学生たちを見る。
「というわけで、みなさん、続けましょうか。自分の得意な魔法をひたすら繰り返して下さいな」
ペシエラがにっこり微笑むと、全員が息を飲んだ。そして、火の玉や水の玉など得意な属性の簡単な魔法を使っている。
「そうそう、それを少しずつ大きくしていくのですわ。無理だと思ったところで、それをしばらくそのまま維持するのですわ。あとは、それを繰り返すのです」
ペシエラが言ってるこの方法。実は逆行前に自分で実行した方法である。確かに元々魔力はとんでもなかったのだが、制御がいまいちだったのだ。そこで制御をつけるために、地道に努力したのだ。
その理由こそは、同級生に居たロゼリアに負けたくなかったから。当時のロゼリアは、ゆくゆくはシルヴァノと結婚し、女王になるのは当然と思われていた存在だ。今思えば、どうしてそこまで目の敵にしたのかは分からない。
しかし、まったくもって皮肉なもので、逆行した今では、その時の努力のおかげで王国で最高の魔法使いと陰では言われているらしい。……本人は知らないのだが。そういう事もあって、学生たちはペシエラの言った方法を、黙々と実践している。
「本当、大したものね、ペシエラ」
「ふふっ、努力の賜物ですわよ」
感心するロゼリアと不敵に笑うペシエラ。それを見ているチェリシアは、ちょっと興奮気味に写真魔法を使っていた。
平和な日々もいいものである。
あの一件の後の事を聞いたが、どうやらあの男は独断行動だったようだ。結局、パープリア男爵を追い詰める事はできなかった。
さて、魔法科に進んだロゼリアたちは、今日もアイリスの魔法を見ていた。それ以外にも、ロゼリアたち三人に魔法を教えてもらおうと思っている学生が、数人ばかり同席している。
どうでもいい話だが、今年はアイリスの制服を新調しておいた。去年の夏の合宿以降は、変装のために体格の近いチェリシアの制服を流用したのだが、あれだといざという時に動きにくいからだ。アイリスは神獣使いではあるが、パープリア男爵の手解きで暗殺術を身に付けている。それに見合った制服を拵えたのだ。
新しい制服は、スカート丈が膝下の規定ギリギリまで短くなっていて、左右にポケット状のスリットが入っている。
それ以外にもチェリシアとペシエラの制服と違い、ラッパ状の袖ではなく、一般的な袖になっている。ブーツもチェリシアやペシエラと同じ物だが、かかとが低い。そう、アイリスの制服はあくまで機動性を重視したものとなっているのだ。本人も動きやすくて気に入っている模様。
普通、かかとの高い靴で激しい動きなんてできるものではない。下手に力を掛けようものならヒールは折れてしまうだろうし、足首を捻る事だってありうる。剣術もできるロゼリアだってそこまでの動きができないのだから、ペシエラが特殊としか言いようがない。
さて、話を戻そう。
アイリス含め十人にも満たない人数ではあるが、ロゼリアたちの前で魔法の特訓をしている。この面々は魔法が多少使える程度ではあるが、親からどうしても魔法科に進めと言われてやって来た貴族たちである。可哀想な事に、親には逆らえないのだ。
で、肝心の魔法の指導は困難を極めている。なにせ教え方がどうしても抽象的になるからだ。手に触れて魔力の流し方を教えても、その感覚を覚えるのも難しい。二年次に上がってから頻繁にしているものの、できたのはアイリス一人だけだった。
「みなさん、少し難しく考えすぎてませんこと?」
「そうね。そこまで力まなくでも大丈夫よ」
「うんうん、頭でイメージして、それを放出する感じでいいのよ」
ペシエラ、ロゼリア、チェリシアがそれぞれに言う。
「イメージさえできてしまえば、詠唱なんて飾りですからね」
ロゼリアはそう言って、目の前に土壁を作り出した。軽く作り出しているので、参加している全員が驚いている。
「ロゼリア、あながち飾りとは言えませんわよ。わたくしたちは魔力が膨大なだけで、他の方がそうとは限りませんわ。詠唱とは、魔力とイメージを補うものなのですから」
ロゼリアの言葉を訂正して補うペシエラ。さすがに女王として研鑽してきただけの事はある。
「杖などの補助具を使うのもそのためですわ。ですが、魔力は増やす事ができますもの。ですので、日々訓練ですわ」
ペシエラは両手を腰に当てて息巻いている。
「あっ、そうか。運動と同じね」
「ええ、お姉様、その通りですわ。ただ、無理をし過ぎますと、逆に枯渇する可能性がありますから、見極めが重要ですわ」
そう言って、ペシエラは参加している学生たちを見る。
「というわけで、みなさん、続けましょうか。自分の得意な魔法をひたすら繰り返して下さいな」
ペシエラがにっこり微笑むと、全員が息を飲んだ。そして、火の玉や水の玉など得意な属性の簡単な魔法を使っている。
「そうそう、それを少しずつ大きくしていくのですわ。無理だと思ったところで、それをしばらくそのまま維持するのですわ。あとは、それを繰り返すのです」
ペシエラが言ってるこの方法。実は逆行前に自分で実行した方法である。確かに元々魔力はとんでもなかったのだが、制御がいまいちだったのだ。そこで制御をつけるために、地道に努力したのだ。
その理由こそは、同級生に居たロゼリアに負けたくなかったから。当時のロゼリアは、ゆくゆくはシルヴァノと結婚し、女王になるのは当然と思われていた存在だ。今思えば、どうしてそこまで目の敵にしたのかは分からない。
しかし、まったくもって皮肉なもので、逆行した今では、その時の努力のおかげで王国で最高の魔法使いと陰では言われているらしい。……本人は知らないのだが。そういう事もあって、学生たちはペシエラの言った方法を、黙々と実践している。
「本当、大したものね、ペシエラ」
「ふふっ、努力の賜物ですわよ」
感心するロゼリアと不敵に笑うペシエラ。それを見ているチェリシアは、ちょっと興奮気味に写真魔法を使っていた。
平和な日々もいいものである。
1
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

元英雄 これからは命大事にでいきます
銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの
魔王との激しい死闘を
終え元の世界に帰還した英雄 八雲
多くの死闘で疲弊したことで、
これからは『命大事に』を心に決め、
落ち着いた生活をしようと思う。
こちらの世界にも妖魔と言う
化物が現れなんだかんだで
戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、
とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜
八雲は寿命を伸ばすために再び
異世界へ戻る。そして、そこでは
新たな闘いが始まっていた。
八雲は運命の時の流れに翻弄され
苦悩しながらも魔王を超えた
存在と対峙する。
この話は心優しき青年が、神からのギフト
『ライフ』を使ってお助けする話です。
八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった
根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる