逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第七章 一年次・後半

第155話 割と深刻な話

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 氷山エリアから戻ったロゼリアたちは、その後は領内の視察巡りをした。エアリアルボードを使って快適に素早く巡り、期間を余してあらかた見終えた。
 なぜ領地巡りをしたのかというと、神獣と幻獣の件があっさり片付いてしまったからだ。なので、マゼンダ商会の今後を考えて、領地の状態を確認したかったのである。
 さすがに冬の時期ともなれば、果物や野菜の生産は行われていない。お酒や酢もまだ発酵から熟成に移ろうかという時期だ。
 ロゼリアたちは今、ジャムの生産工場に出向いていた。
 マゼンダ侯爵領のジャム工場は、領内の果物とアクアマリン子爵領の砂糖を組み合わせたジャムを作っており、砂糖の流通量からかなり高額な物ながら、特に裕福な貴族や商人からは人気の商品となっていた。
 ところが、庶民に届けるにはどうしても砂糖の増産は必須であり、これが大きな課題となっていた。
 マゼンダ領を見て回るのは、チェリシアとペシエラにとっても有意義な事である。ただ、ロゼリアも含めて領地を継ぐ予定が無いので、今後はどうなるかは分からない。跡継ぎの話もコーラル伯爵には現在も不在だからだ。最悪、養子を取る事も検討する時期になってきているらしい。そうなると前回やゲームの展開からかけ離れてしまったこの世界では、今後一体どうなるのか想像もつかない話となる。
 ペシエラがジャム工場を単独でトムに案内される中、ロゼリアとチェリシアは二人で話をしている。
「跡継ぎの話は、どこの貴族も頭の痛い話よ。私のところはお兄様がいらっしゃるから問題は無いけれど、コーラル伯爵にとっては大問題よね?」
「うん、ペシエラは女王を目指すでしょうから、問題は私の方かな」
 チェリシアも意識はしているようだ。
「ただ、前世の経験から言って、十歳代で結婚っていうのが考えられなくて。前世って二十歳過ぎても独身だったし、自分のやりたい事を優先させてしまうから。……どうにもこっちの習慣には、まだ慣れないかなって」
 チェリシアは、この世界の人間からしたら何を言っているんだと言われかねない事を言っている。この世界なら十代で結婚する事は当たり前だし、家督を継ぐのも当然の話なのだ。チェリシアは、そこがまだどこかズレているらしい。
「確かに、過去の習慣から変化するというのは、人によっては厳しかったりするでしょうね」
 チェリシアの言い分に、ロゼリアは理解を示しているようだ。しかし、
「でも、あなたこの世界に転生してから何年経つと思っているのかしら?」
 チェリシアを睨みつけたかと思えば、ロゼリアは厳しい口調でチェリシアを捲し立てる。
「いい加減、慣習とかこちらの世界に切り替えなさい。あなたは言っていたでしょう。“郷に入らば郷に従え”と」
 人差し指をチェリシアに突きつけるロゼリアの目は血走っていた。
「私の希望としては、チェリシアにはお兄様とくっついて欲しいわ」
 さらりと、とんでもない事を言ってのけるロゼリア。
「えっ、いいの?」
「いいに決まってますわ。お兄様は頑張りすぎるところがあります。チェリシアは意外と細いところに気の回るタイプですから、丁度いいと思っています」
 目を丸くするチェリシアに、ロゼリアは本気で言っているようだった。
「今すぐとは言いません。チェリシアの気持ちが大事ですから。それに……」
「それに?」
「結婚を迷うのは、私も同じですからね」
 ロゼリアはこう言って、少し表情を暗くした。
 ロゼリアも逆行前は結局結婚できずに、しかも婚約相手から処刑宣告をされたのだ。知らず知らずにトラウマになっている可能性は十分にあるのだ。
「ペシエラから聞いた、ペイル殿下が私を好いていたという事に、ちょっと考えが揺れているのよね。将来嫁ぐとして、それも選択肢としてはありなのでは……と」
 そこで見せたロゼリアの表情は、いつになく乙女っぽく見えた。それはそれは新鮮で、チェリシアはその顔に、なんとなく安心感を覚えた。
「……何を笑ってるの?」
「い、いや、珍しい顔もするなって思っただけよ」
 おっと失言。
 チェリシアはそう思ったが、口を押さえると同時に、ロゼリアの顔が至近距離に迫る。
「ち、近い……」
「あのねぇ、私の事より自分の事を考えなさい。このままだとあなた、縁談の話が舞い込む事になるわよ。あくまでまだシルヴァノ殿下のなんですから」
 ロゼリアの剣幕が凄い。
「う、うん、……真剣に考えるから、顔をどけてよ」
 チェリシアは両手でロゼリアを押し返そうとするが、勢いに押されているので添えただけの状態だった。
 とまぁ、結局はこの後ペシエラに呼ばれる形で終わったが、実際のところは結構深刻な話である。いつまでも婚約者候補ではいられない。貴族社会ともなれば、二十歳までに婚姻を結んでしまうものなのだ。
 結局、この話は後々まで響く事になるのだが、この時点ではまだそこまで重く考えていなかった。
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