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第七章 一年次・後半
第152話 幻影執事
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「アイリス?!」
ペシエラが叫ぶ。しかし、蒼鱗魚がすぐさまペシエラたちを止める。
「大丈夫じゃよ。あれがあやつの契約方法でな。あの炎に耐えられぬようなら、契約者として認められん。同じような契約方法を取る者に、フェニックスもおるぞ」
蒼鱗魚が説明する。
しかし、炎の勢いが強すぎるので、ペシエラたちは呆然と見ているしかできなかった。
やがて、火の勢いが落ちてくると、中からうっすらと防寒仕様のメイド服が見え始めてきた。
……紛れもなくアイリスだった。
あれだけの炎に巻かれたのに、服にすら焦げた跡はない。つまり、アイリスはインフェルノと無事に契約できたというわけである。
それにしても、アイリスの装飾品が増えた。
右手の甲には蒼鱗魚、首にはニーズヘッグのネックレスとフェンリルのペンダント。じゃあ、インフェルノとの契約はどこか。
「暗器のついたベルトがあったからな。その左脚に付いたベルトを契約の証とした」
どこを見てるんだろうか……。
しかし、元々父親のせいで暗殺術も身に付けているアイリスにとっては、何も問題のない事のようだ。コートの裾をつまんで、淑女の挨拶をしていた。
「アイリス、無事なのね!」
意外な事に、アイリスに最初に抱きついたのはロゼリアだった。ペシエラは出遅れて、後ろで手をわきわきしている。チェリシアに至っては、動き出す事もできなかった模様。
「しかし、複数の神獣、幻獣と契約できた人間なぞ、今も昔もベルだけだ。つまり、アイリスはそのベルに匹敵する人物だって事だ。こんな事はそうある事ではない」
インフェルノは、興奮した様子で喋っている。やはり、アイリスはベルの生まれ変わり、もしくはその再来と言えるわけである。
「しかし、いつまでつけ回しているんだ、ファントム?」
インフェルノが唐突に、誰も居ない空間を見て脅すように言う。すると、空間に歪みが生じて、どこかで見た事のある執事が現れた。そう、数日前にマゼンダ領本邸でロゼリアたちを出迎えた執事だった。
「えっ、マゼンダ侯爵様のところの執事さん?」
チェリシアが驚いて反応する。
「そっか、トムなんて珍しい名前だから、そういう事だったのね」
「えっ?! トムって珍しいの?」
ロゼリアの言葉に、チェリシアが驚く。確かに地球なら、どっちかと言えばありふれた名前だからだ。
そう、トムというのは、実はファントムのトムだったのだ。
「はい、わたくし、幻獣ファントムでございます。マゼンダ侯爵家とは長い付き合いでございますよ」
ファントムによれば、マゼンダ侯爵家が起きた頃には、既に契約状態にあったらしい。
「わたくしは、マゼンダ侯爵家に忠誠を誓っておりますからな。ロゼリア様には大変申し訳ない事をしたと、今も思っております」
ファントムの言葉に、ロゼリアとペシエラが直感する。ファントムは時間遡行の事を把握していると。チェリシアは鈍いが、アイリスはまったく分からず首を傾げている。
「残念ですが、わたくしもベル様には恩がございますが、アイリス様と契約するにはマゼンダ侯爵家との契約を解除せねばなりませぬ。どうか、ご容赦下さいませ」
ファントムは執事然とした態度と口調で、そう述べた。
仕方のない事だろう。ベルの死後はフリーとなっていたが、どういう経緯でか、この地にやって来たマゼンダ侯爵家の先祖と契約。そして今に至る。ファントムは語る事はないが、今のマゼンダ侯爵領の栄え具合からすると、これがファントムの恩恵なのかも知れない。
「わたくしは、幻影の名の通り、影からマゼンダ侯爵家を支えて参りました。それは、これからも変わりはしません」
トムことファントムは、柔らかい笑顔でそう言い切った。
「実は、私の家って、国にとって重要な立ち位置だったの?」
トムの言い分に、ロゼリアは天を仰いで呟く。さすがにチェリシアもペシエラも突っ込む気力はないし、アイリスもインフェルノの一件で放心状態。もはやツッコミ不在である。
「ところで、ロゼリア様」
「ふぁっ、はい?!」
トムに声を掛けられ、ロゼリアは間抜けた返事をする。
「今宵にでも、ロゼリア様たちの身の上に起きた事について、すべてとは参りませんが説明致しましたいと存じます」
続けてトムから告げられた言葉は、とんでもない事だった。
ペシエラが叫ぶ。しかし、蒼鱗魚がすぐさまペシエラたちを止める。
「大丈夫じゃよ。あれがあやつの契約方法でな。あの炎に耐えられぬようなら、契約者として認められん。同じような契約方法を取る者に、フェニックスもおるぞ」
蒼鱗魚が説明する。
しかし、炎の勢いが強すぎるので、ペシエラたちは呆然と見ているしかできなかった。
やがて、火の勢いが落ちてくると、中からうっすらと防寒仕様のメイド服が見え始めてきた。
……紛れもなくアイリスだった。
あれだけの炎に巻かれたのに、服にすら焦げた跡はない。つまり、アイリスはインフェルノと無事に契約できたというわけである。
それにしても、アイリスの装飾品が増えた。
右手の甲には蒼鱗魚、首にはニーズヘッグのネックレスとフェンリルのペンダント。じゃあ、インフェルノとの契約はどこか。
「暗器のついたベルトがあったからな。その左脚に付いたベルトを契約の証とした」
どこを見てるんだろうか……。
しかし、元々父親のせいで暗殺術も身に付けているアイリスにとっては、何も問題のない事のようだ。コートの裾をつまんで、淑女の挨拶をしていた。
「アイリス、無事なのね!」
意外な事に、アイリスに最初に抱きついたのはロゼリアだった。ペシエラは出遅れて、後ろで手をわきわきしている。チェリシアに至っては、動き出す事もできなかった模様。
「しかし、複数の神獣、幻獣と契約できた人間なぞ、今も昔もベルだけだ。つまり、アイリスはそのベルに匹敵する人物だって事だ。こんな事はそうある事ではない」
インフェルノは、興奮した様子で喋っている。やはり、アイリスはベルの生まれ変わり、もしくはその再来と言えるわけである。
「しかし、いつまでつけ回しているんだ、ファントム?」
インフェルノが唐突に、誰も居ない空間を見て脅すように言う。すると、空間に歪みが生じて、どこかで見た事のある執事が現れた。そう、数日前にマゼンダ領本邸でロゼリアたちを出迎えた執事だった。
「えっ、マゼンダ侯爵様のところの執事さん?」
チェリシアが驚いて反応する。
「そっか、トムなんて珍しい名前だから、そういう事だったのね」
「えっ?! トムって珍しいの?」
ロゼリアの言葉に、チェリシアが驚く。確かに地球なら、どっちかと言えばありふれた名前だからだ。
そう、トムというのは、実はファントムのトムだったのだ。
「はい、わたくし、幻獣ファントムでございます。マゼンダ侯爵家とは長い付き合いでございますよ」
ファントムによれば、マゼンダ侯爵家が起きた頃には、既に契約状態にあったらしい。
「わたくしは、マゼンダ侯爵家に忠誠を誓っておりますからな。ロゼリア様には大変申し訳ない事をしたと、今も思っております」
ファントムの言葉に、ロゼリアとペシエラが直感する。ファントムは時間遡行の事を把握していると。チェリシアは鈍いが、アイリスはまったく分からず首を傾げている。
「残念ですが、わたくしもベル様には恩がございますが、アイリス様と契約するにはマゼンダ侯爵家との契約を解除せねばなりませぬ。どうか、ご容赦下さいませ」
ファントムは執事然とした態度と口調で、そう述べた。
仕方のない事だろう。ベルの死後はフリーとなっていたが、どういう経緯でか、この地にやって来たマゼンダ侯爵家の先祖と契約。そして今に至る。ファントムは語る事はないが、今のマゼンダ侯爵領の栄え具合からすると、これがファントムの恩恵なのかも知れない。
「わたくしは、幻影の名の通り、影からマゼンダ侯爵家を支えて参りました。それは、これからも変わりはしません」
トムことファントムは、柔らかい笑顔でそう言い切った。
「実は、私の家って、国にとって重要な立ち位置だったの?」
トムの言い分に、ロゼリアは天を仰いで呟く。さすがにチェリシアもペシエラも突っ込む気力はないし、アイリスもインフェルノの一件で放心状態。もはやツッコミ不在である。
「ところで、ロゼリア様」
「ふぁっ、はい?!」
トムに声を掛けられ、ロゼリアは間抜けた返事をする。
「今宵にでも、ロゼリア様たちの身の上に起きた事について、すべてとは参りませんが説明致しましたいと存じます」
続けてトムから告げられた言葉は、とんでもない事だった。
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