逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第七章 一年次・後半

第150話 氷山エリアへ

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 翌日、まずは防寒対策からスタート。火の神獣相手なら防寒具は愚策だろうが、そこに到達するまでが恐ろしく寒いのだから仕方がない。真逆の環境が同居とは、とんでもない設定である。
 とにかく、理不尽な環境に立ち向かうには準備が必要だ。
 とりあえず、もこもこの毛皮のコートに帽子、それとブーツを購入する。ブーツの底は断熱加工で、少し分厚めになっている。帽子は耳も覆う物となっているが、聴力の邪魔をしないという優れもの。耳を覆うのに音はしっかり通すらしい。
 普段の華やかなドレスとは程遠い。防寒具に過度のおしゃれを求めてはいけないのだ。この防寒具は、アイリスも含めてお揃いのものを揃えた。なので、侍女としての生活に馴染んできたアイリスは、ちょっと遠慮しがちな態度を見せていた。
 食事に関しては、チェリシアの収納魔法にまだたくさん眠っている。なのでこれは問題ない。野営は防壁を使えば普段通りでも問題はないが、さすがに地面が一面の雪では、そこにも対策は必要だった。
 さすがに農業知識は豊富でも、雪山登山の知識は無いに等しいチェリシア。こればかりは自分たちの魔力任せである。
 時期的に考えても、吹雪いている可能性すらある。目指すのは、雪山の中でも不自然に雪が無い場所と非常分かりやすいのだが、そこに着くまでに視界が無くならないとも限らない。この日一日は、しっかりとした下準備に費やされた。
 屋敷に戻ったロゼリアたちは、まずはお風呂で疲れを癒す。そして、夕食の席で、
「お嬢様、本当に雪山に行かれるおつもりですか?」
「ええ。自分の領地を知る事は大事ですからね。誰も向かわないという場所ですから、逆に興味があるというものです」
 執事の問い掛けに、はっきりと言い切るロゼリア。執事はその決意の固さに、さっさと止める事を諦めた。
 ペシエラは、ここでも違和感を感じた。
 執事なのだから、仕える貴族に対して忠実ではあるし、時には苦言を呈する事だってある。しかし、この執事の言動のいちいちが、ペシエラには違和感を感じさせていた。
 ところが、いくら考えたところで、これに結論が出るわけではない。執事の態度としてもおかしくはないので、ペシエラは自分の胸三寸にしまう事にした。
 翌日、しっかりと準備を終えて、ロゼリアたちは執事の見守る中、北の氷山エリアを目指してエアリアルボードで進む。マゼンダ領の一番北の村まで馬車で三日、氷山エリアはそこから一番近い麓まで二日かかる距離だ。馬車で二日なので、村も冬はそれなりに寒い。しかし、であって、決して住めないわけではない。氷山エリアとは、まるで寒さが違うのだ。
 それなわけで、エアリアルボードで一気に村の近くまで進む。エアリアルボードなら、氷山エリアまでたったの二日だ。村は帰りに見てみる事にして、ロゼリアたちは氷山エリアへと直行した。
 麓に着いて分かったが、確かに氷山の一部分に不自然に茶色い部分が見える。しかも、ほのかに赤い。間違いなくあそこには何かがある。エアリアルボードなら数時間で到達できる位置だった。
 しかし、麓に着いた時は既に日暮れ時。ロゼリアたちはそこで野宿となった。
 翌日、エアリアルボードで一気に山を登る。周りはほぼ常に吹雪いているが、チェリシアの防壁の前には効果は無かった。朝の時点で、ペシエラが目的地を指し示す光のコンパスを魔法で作っていたので、どんなに視界不良だろうが意味はない。それに、アイリスもこの山に何かを感じ始めていたので、目的地に到着する事は、もはや確定的であった。
 そして、麓から飛び立って一時間もすれば、不自然な褐色の地面が眼下に広がった。この一帯だけ吹雪すらも近寄れない場所になっていた。本当に怪しいだけの場所である。
「おやおや、そこに居るんだろう?」
 召喚もしていないのに、勝手に蒼鱗魚が飛び出してきた。
 すると、この声に応えるように、あたりの空気が激しく振動する。よく見れば、地面すらも揺れている。
 しばらくすると、轟音と共に、地面の中から何かが飛び出した。そして、目の前に降り立ったのは、全身が激しく燃え盛る炎を纏う狼だった。
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