逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第七章 一年次・後半

第147話 一年次の冬

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 武術大会から更に日は過ぎ、冬の一の月を迎えていた。冬の二の月、三の月は冬季休暇となるが、その前に待ち受けているのは年次末テストであった。ロゼリアとペシエラは余裕があるのだが、チェリシアだけは焦っていた。魔法は大丈夫なのだが、問題は座学である。
 実はチェリシアは、その座学が少々苦手なのだ。夏の休暇前もチェリシアだけが座学の試験で焦っていた。浮かれて試験の事を忘れていたのが原因なのだが、今回もまるで成長していない。
「前世でも嫌いだったのかしらね」
「農業関連の座学は好きだったわよ。歴史とかは苦手だったけど」
 ロゼリアが呆れていたら、チェリシアはそう答えていた。どうやらチェリシアの苦手な教科ばかりらしい。
「お姉様。もし落第などしようものなら、お父様が怒って商会から手を引かされますわよ?」
「えっ、それは困るわ」
「だったら、頑張る事ね。貴族なら基本的な事ばかりなんですからね」
 焦るチェリシアに、ロゼリアとペシエラは冷酷だった。
「はぁい……、頑張りますよぅ……」
 チェリシアは、へなへなと机に突っ伏した。

 この日までの経緯を簡単に説明しておこう。
 学園祭以降ははっきりとした暗殺などの怪しい動きが鳴りを潜めた。代わりに、フェンリルの勘を元に、ベルの家系の保護をする事になった。これにはロゼリアとペシエラが賛成した。
 元々パープリア男爵夫人は、夫のする事に対して非協力的だ。アイリスの生きていて反抗しているとなれば、間違いなく狙われるからだ。
 そこでニーズヘッグを変装させて、パープリア男爵夫人、アイリスの母親に接触させた。そこで一族の住処を聞き出し、フェンリルが守護に向かったのだ。これによって、フェンリルを召喚する事ができなくなったが、蒼鱗魚が連絡役を買って出てくれたのでお願いする事になった。
 ちなみにパープリア男爵夫人に渡した物は、ロゼリアたちが使っている防御用魔道具を応用した物だ。あらゆる悪意を跳ね返せる優れ物なので、ちゃちな暗殺は通用しない。毒だろうが催眠だろうが平気で無効化してしまう。どれだけ万能なんだろうか、チェリシアとペシエラの魔法は……。
 ロゼリアは魔法では二人に敵わないので、シアンの伝手で、幻獣や神獣の情報がアクアマリン領内に無いか調べた。すると、子爵邸の蔵書の中にそういった書物がある事が判明し、商会の取引に紛れて入手した。読める文字だったので、学園の勉強や商会の仕事の合間に、少しずつ読み進める事にした。
 そうやって時間が過ぎて、年次末試験の時期を迎えている。年次末試験でそれどころではないが、蒼鱗魚を通じてフェンリルからの報告は定期的に来ている。それにしても、蒼鱗魚は水の中でなくても自由に泳げるのか。
 それはいいとして、報告では数回ほど怪しい人間が来たらしいが、吠えついたら腰を抜かして逃げたらしい。一度、持っていた荷物を落として逃走したらしいが、中身はポーションに見せかけた毒だったらしい。間違いなく、ベルの一族を狙ってきたのだろう。
 とにかく、気にする事が増え過ぎてしまった。さっさとパープリア男爵とその一派には、ご退場願いたいものである。

 とまぁ、ロゼリアとペシエラも、余裕とはいえ勉強に集中しきれない日々だ。なにせ、アイリスもあまり頭は良くないので、自分の事をしながらその勉強を見ている。それに加えてチェリシアの座学まで見ている。それでも余裕そうに見えるのは、ペシエラの女王たる経験が故なのだろう。
 パープリア男爵の動向は、シアンとニーズヘッグを通して、ロゼリアたちに入ってくる。その報告によれば、アイリスの母方の家系に狙いを定めて動いているのがよく分かる。これは、アイリスの事が男爵には知られている可能性が高いという事を示していた。密偵なりなんなりで、情報が流されているのだろう。これも近いうちに対処が必要になりそうだった。
 さてさてそうしているうちに、とうとう年次末試験の日を迎えるのだった。
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