149 / 483
第七章 一年次・後半
第147話 一年次の冬
しおりを挟む
武術大会から更に日は過ぎ、冬の一の月を迎えていた。冬の二の月、三の月は冬季休暇となるが、その前に待ち受けているのは年次末テストであった。ロゼリアとペシエラは余裕があるのだが、チェリシアだけは焦っていた。魔法は大丈夫なのだが、問題は座学である。
実はチェリシアは、その座学が少々苦手なのだ。夏の休暇前もチェリシアだけが座学の試験で焦っていた。浮かれて試験の事を忘れていたのが原因なのだが、今回もまるで成長していない。
「前世でも嫌いだったのかしらね」
「農業関連の座学は好きだったわよ。歴史とかは苦手だったけど」
ロゼリアが呆れていたら、チェリシアはそう答えていた。どうやらチェリシアの苦手な教科ばかりらしい。
「お姉様。もし落第などしようものなら、お父様が怒って商会から手を引かされますわよ?」
「えっ、それは困るわ」
「だったら、頑張る事ね。貴族なら基本的な事ばかりなんですからね」
焦るチェリシアに、ロゼリアとペシエラは冷酷だった。
「はぁい……、頑張りますよぅ……」
チェリシアは、へなへなと机に突っ伏した。
この日までの経緯を簡単に説明しておこう。
学園祭以降ははっきりとした暗殺などの怪しい動きが鳴りを潜めた。代わりに、フェンリルの勘を元に、ベルの家系の保護をする事になった。これにはロゼリアとペシエラが賛成した。
元々パープリア男爵夫人は、夫のする事に対して非協力的だ。アイリスの生きていて反抗しているとなれば、間違いなく狙われるからだ。
そこでニーズヘッグを変装させて、パープリア男爵夫人、アイリスの母親に接触させた。そこで一族の住処を聞き出し、フェンリルが守護に向かったのだ。これによって、フェンリルを召喚する事ができなくなったが、蒼鱗魚が連絡役を買って出てくれたのでお願いする事になった。
ちなみにパープリア男爵夫人に渡した物は、ロゼリアたちが使っている防御用魔道具を応用した物だ。あらゆる悪意を跳ね返せる優れ物なので、ちゃちな暗殺は通用しない。毒だろうが催眠だろうが平気で無効化してしまう。どれだけ万能なんだろうか、チェリシアとペシエラの魔法は……。
ロゼリアは魔法では二人に敵わないので、シアンの伝手で、幻獣や神獣の情報がアクアマリン領内に無いか調べた。すると、子爵邸の蔵書の中にそういった書物がある事が判明し、商会の取引に紛れて入手した。読める文字だったので、学園の勉強や商会の仕事の合間に、少しずつ読み進める事にした。
そうやって時間が過ぎて、年次末試験の時期を迎えている。年次末試験でそれどころではないが、蒼鱗魚を通じてフェンリルからの報告は定期的に来ている。それにしても、蒼鱗魚は水の中でなくても自由に泳げるのか。
それはいいとして、報告では数回ほど怪しい人間が来たらしいが、吠えついたら腰を抜かして逃げたらしい。一度、持っていた荷物を落として逃走したらしいが、中身はポーションに見せかけた毒だったらしい。間違いなく、ベルの一族を狙ってきたのだろう。
とにかく、気にする事が増え過ぎてしまった。さっさとパープリア男爵とその一派には、ご退場願いたいものである。
とまぁ、ロゼリアとペシエラも、余裕とはいえ勉強に集中しきれない日々だ。なにせ、アイリスもあまり頭は良くないので、自分の事をしながらその勉強を見ている。それに加えてチェリシアの座学まで見ている。それでも余裕そうに見えるのは、ペシエラの女王たる経験が故なのだろう。
パープリア男爵の動向は、シアンとニーズヘッグを通して、ロゼリアたちに入ってくる。その報告によれば、アイリスの母方の家系に狙いを定めて動いているのがよく分かる。これは、アイリスの事が男爵には知られている可能性が高いという事を示していた。密偵なりなんなりで、情報が流されているのだろう。これも近いうちに対処が必要になりそうだった。
さてさてそうしているうちに、とうとう年次末試験の日を迎えるのだった。
実はチェリシアは、その座学が少々苦手なのだ。夏の休暇前もチェリシアだけが座学の試験で焦っていた。浮かれて試験の事を忘れていたのが原因なのだが、今回もまるで成長していない。
「前世でも嫌いだったのかしらね」
「農業関連の座学は好きだったわよ。歴史とかは苦手だったけど」
ロゼリアが呆れていたら、チェリシアはそう答えていた。どうやらチェリシアの苦手な教科ばかりらしい。
「お姉様。もし落第などしようものなら、お父様が怒って商会から手を引かされますわよ?」
「えっ、それは困るわ」
「だったら、頑張る事ね。貴族なら基本的な事ばかりなんですからね」
焦るチェリシアに、ロゼリアとペシエラは冷酷だった。
「はぁい……、頑張りますよぅ……」
チェリシアは、へなへなと机に突っ伏した。
この日までの経緯を簡単に説明しておこう。
学園祭以降ははっきりとした暗殺などの怪しい動きが鳴りを潜めた。代わりに、フェンリルの勘を元に、ベルの家系の保護をする事になった。これにはロゼリアとペシエラが賛成した。
元々パープリア男爵夫人は、夫のする事に対して非協力的だ。アイリスの生きていて反抗しているとなれば、間違いなく狙われるからだ。
そこでニーズヘッグを変装させて、パープリア男爵夫人、アイリスの母親に接触させた。そこで一族の住処を聞き出し、フェンリルが守護に向かったのだ。これによって、フェンリルを召喚する事ができなくなったが、蒼鱗魚が連絡役を買って出てくれたのでお願いする事になった。
ちなみにパープリア男爵夫人に渡した物は、ロゼリアたちが使っている防御用魔道具を応用した物だ。あらゆる悪意を跳ね返せる優れ物なので、ちゃちな暗殺は通用しない。毒だろうが催眠だろうが平気で無効化してしまう。どれだけ万能なんだろうか、チェリシアとペシエラの魔法は……。
ロゼリアは魔法では二人に敵わないので、シアンの伝手で、幻獣や神獣の情報がアクアマリン領内に無いか調べた。すると、子爵邸の蔵書の中にそういった書物がある事が判明し、商会の取引に紛れて入手した。読める文字だったので、学園の勉強や商会の仕事の合間に、少しずつ読み進める事にした。
そうやって時間が過ぎて、年次末試験の時期を迎えている。年次末試験でそれどころではないが、蒼鱗魚を通じてフェンリルからの報告は定期的に来ている。それにしても、蒼鱗魚は水の中でなくても自由に泳げるのか。
それはいいとして、報告では数回ほど怪しい人間が来たらしいが、吠えついたら腰を抜かして逃げたらしい。一度、持っていた荷物を落として逃走したらしいが、中身はポーションに見せかけた毒だったらしい。間違いなく、ベルの一族を狙ってきたのだろう。
とにかく、気にする事が増え過ぎてしまった。さっさとパープリア男爵とその一派には、ご退場願いたいものである。
とまぁ、ロゼリアとペシエラも、余裕とはいえ勉強に集中しきれない日々だ。なにせ、アイリスもあまり頭は良くないので、自分の事をしながらその勉強を見ている。それに加えてチェリシアの座学まで見ている。それでも余裕そうに見えるのは、ペシエラの女王たる経験が故なのだろう。
パープリア男爵の動向は、シアンとニーズヘッグを通して、ロゼリアたちに入ってくる。その報告によれば、アイリスの母方の家系に狙いを定めて動いているのがよく分かる。これは、アイリスの事が男爵には知られている可能性が高いという事を示していた。密偵なりなんなりで、情報が流されているのだろう。これも近いうちに対処が必要になりそうだった。
さてさてそうしているうちに、とうとう年次末試験の日を迎えるのだった。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる