逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
145 / 483
第七章 一年次・後半

第143話 惹き合う者

しおりを挟む
「アイリス、なぜここに?」
 そう、出てきたのはアイリスだった。

 実はこの少し前、アイリスに接触してきた人物が居た。
「ちょっとそこの眼鏡のお嬢さん、いいかな?」
「はい?」
 アイリスの元の髪色より濃い紫の髪の女性だった。見た感じは同い年くらいっぽいのに、どこか大人びた雰囲気を持つ不思議な女性だ。
「武術大会の会場に、不穏な魔力が集まっている。だが、お嬢さんの魔力なら相性はいいはずだ。すぐに向かって欲しい」
 アイリスは驚く。
「ちょっと待って、それってどういう……」
 ところが、一瞬しか目を離さなかったのに、その女性の姿は周りに見当たらなかった。一体彼女は何者なのか……。
 しかし、いくら考えても一瞬すぎて分からない。なので、その女性が指摘した、武術大会の会場へと、アイリスは急いで移動する。

「待って!」
 武術大会の会場に着いたアイリスは、無意識にそう叫んでいた。
 息を切らせるアイリスに、フェンリルは威嚇の視線を送る。
 しかし、すぐさま、その視線は驚きへと変化する。
「ベ……ル……?」
 ベル……。フェンリルはかつての神獣使いの女性の名を呟いたのだ。
「ほう、やはりその名を口にしたか。あの少女はお前が懇意にしていたベルの子孫だ」
「な……に……?」
 フェンリルの驚く様を見たニーズヘッグは、すかさず揺さぶりを掛ける。
「懇意……、人間に惚れていたという事かしら?」
 そばで聞いていたペシエラが反応する。
「左様。誇り高き神狼が、人間に惚れてただの犬コロと化していたんだからな。それはそれは見ものだったぞ」
 ニーズヘッグが笑いながら話す。
「だ、黙れっ!」
 恥ずかしい過去を暴露されたフェンリルは、怒りのあまり吹雪を巻き起こす。観客はほとんど退避しており、一般人への被害がほぼ無いのだが、これは強力すぎる力である。
「きゃあっ!」
 あまりの吹雪にアイリスが悲鳴を上げる。
「主人っ!」
「ベル?!」
 ニーズヘッグとフェンリルが同時に声を上げる。そして、ニーズヘッグはフェンリルを睨みつける。
「お前、主人に害をもたらすというのなら、許さぬぞ。格上の神獣相手とはいえ、厄災とまで言われた我だ。ただではすまさん……」
 ニーズヘッグがお怒りモードである。
 その様子を見たペシエラは、
「公爵様、早く皆さんを避難させて下さいっ! あの二人が暴れてはただでは済みませんわ!」
 強く叫ぶ。
 ところが、スノーフィールド公爵も兵士たちも、恐怖に固まってしまって動けそうになかった。焦るペシエラが辺りを見回すと、観客席にまだ人影がある。……ロゼリアとチェリシアだった。
(なぜまだ二人はあそこに居ますの?)
 表情をよく見れば、チェリシアがフェンリルに興奮してしまい、ロゼリアが必死にこの場を離れるように怒鳴っているように感じられた。
(何をしていますの、お姉様……)
 ペシエラはさすがに呆れた。
 だが、ペシエラはすぐにフェンリルに視線を向け、剣を構える。体力は回復しきってはいないが、十分に戦える。
 ところがだ、どうにもフェンリルの様子がおかしい。
「ニーズヘッグ」
「なんだ?」
 突然話しかけられたニーズヘッグが、つっけんどんに返す。
「ここで貴公と見える気は無い。貴公が主人とするその少女と話がしたい。……どうやら、その少女から我を呼ぶ声が聞こえるのだ」
「どういう事だ?」
「……我にも分からん。だが、呼ぶ声の発生源が、ベルの子孫というのも不思議な巡り合わせなのかも知れん」
 フェンリルの言葉に、ニーズヘッグは構えを解いて直立する。分かったという意思表示だ。
 ペシエラや多くの兵が武器を構える中、フェンリルはアイリスに近付いていく。ペシエラが剣を強く握り直すが、ニーズヘッグがペシエラたちを無言で止める。
「ニーズヘッグ?」
「なに、主人なら大丈夫だ。格の違いはあれど、あやつとは長い付き合いだからな」
 ニーズヘッグはペシエラにそっと言うと、周りに居る人間にも牽制をかける。観客席に居るロゼリアとチェリシアも、それを察した。
 周りが静かに見守る中、フェンリルはアイリスの前に立つ。アイリスは大きな狼を前に震えているが、フェンリルが座った瞬間、アイリスの胸元から光が溢れるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...