逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第七章 一年次・後半

第142話 白銀の狼

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 武術大会は無事に終了した。……とはいかなかった。
 何が起きたのか。
 スノーフィールド公爵が引き分け宣言をし、オフライトの優勝を言い渡した後、満身創痍のシルヴァノとペイルが武台から降ろされた。
 まさにその時だった。
 気のせいか、武台の中央が光ったかと思えば、急に一帯が寒くなった。そして、突如として武台の中央で吹雪が巻き起こる。その吹雪が止むと現れたのは、スノーフィールド公爵と同じ銀色の毛並みを備えた、大きな犬、いや狼だった。
「あれは、フェンリル?」
「嘘っ、魔物の襲撃なら、本来は二年次で起きるイベントのはずよ」
 ロゼリアとチェリシアが大声を出す。
「むう、どこだっ! 我を呼ぶのは、どこの誰だっ!」
 観客が慌てふためく中、武台の上に居る狼が突然大声で騒ぎ始めた。言葉を話す事に、多くの観客が更に混乱している。
「出せっ、すぐに差し出せっ! 出さぬと言うなら、この場を凍てつかせるだけだっ!」
 うん、何を言っているのか分からない。
 しかし、学園側からすると学生や一般人に被害が出かねない。しばらくするとぞろぞろと兵士たちがやって来た。
「どういう事なのかしら。あのフェンリルはここに来た事を不本意のような言い方をしているわ」
「ロゼリア、落ち着いている場合ですか!」
 状況を冷静に見ようとしているロゼリアだが、ペシエラはどうにか被害を出さないようにするか考えている。
 そして、体力が回復してきたので、ペシエラはフェンリルの前へと出ていった。
「ここに何の用です」
「なんだ、小娘。我に楯突く気か?」
「話し合いで済むのなら、その方がいいですわ」
「それにしては、その手に持つ物は何だ?」
 風魔法で武台の近くに降りたペシエラは、剣を構えてフェンリルと向かい合う。そして、話をしながら周りを確認する。
 武台の周りには、呼ばれて出てきた兵士となぜか残っているスノーフィールド公爵の姿がある。見るからに戦う気でいるようだ。
 しかし、その時。
「おい、犬コロ。久しぶりだな」
 武台の前に執事姿の男、ニーズヘッグが現れた。
「その魔力、ニーズヘッグか。人の姿とは珍しいな」
「こっちもいろいろ事情があるのさ」
 フェンリルの問い掛けに、ふんぞり返って答えるニーズヘッグ。
「それより、なんでお前がここに居る。お前の住処ははるか極寒の地だろう?」
「それは我が聞きたい。急に光ったかと思えばここに居たのだからな。だが、それとは別に、誰かに呼ばれている気がするのだ」
「ほう……。お前の実力なら抗えたものを、わざわざのこのこやって来たというわけか」
 二人の会話に誰もついていけない。だが、話は分からなくとも、目の前の存在が脅威なのは分かる。それが故に、兵士たちは武器を構える姿勢を崩さなかった。
「まぁいい。お前とは久しぶりに戦ってみたかったからな。我よりも上の神獣の力、見せてもらおうか」
「ふっ、お前のようなひよっこなどに、我の相手が務まると思うてか?」
 何やら一触即発の雰囲気である。
 ところが、次の瞬間、その空気が一変する。再び、武台の中央が光ったのだ。今度は魔力の渦と共に、複数の魔物が現れた。
「くっ、どこかの馬鹿が、召喚陣を仕掛けていたようだな」
 スノーフィールド公爵たちが身構える。
「雑魚どもが! 我の邪魔をするなっ!!」
 そうかと思えば、フェンリルが怒り狂い、後発で現れた魔物たちを一蹴してしまった。スノーフィールド公爵たちは、呆気に取られる。
「まったく忌々しい。……これが召喚陣か」
 フェンリルが武台に仕込まれた陣を睨む。
「よく気付かれずに、これだけの物を仕込んだものよのう。だが、我を呼び出した事は後悔するがよい」
 こう言って、フェンリルは武台の中心部分を粉々に砕いた。
「武術大会の武台そのものが、召喚陣だと言うの?」
「いかにも」
 驚くペシエラに、フェンリルは肯定する。
 これはまったくもって予想外だった。外部からの侵入を想定していたのに、実は準備に紛れて、既に工作済みだったのだ。今すぐにでも犯人探しをしたいところだが、現状はとてもそういう状況ではない。
 神獣フェンリルとペシエラたち王国の者たちとの睨み合いが続いている。
「待って!」
 こう着状態の中、一人の女性の声が響き渡るのだった。
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